質疑応答
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皆さんのお話の中で、 イギリスのチェスターを参考にしたという例がございました。 提案された案の中には世界の都市を参考にしたり、 大阪の歴史的風景をベースにしたりといったことがあろうかと思います。 具体的にこれに刺激を受けたという話やご苦労話があれば、 披露いただきたいと思います。
江川:
私は何かを参考にしたというより、 いろんな万博やイベントの後、 ほとんどの施設が壊されてしまうことが以前から気になって、 もったいないと思ったことがベースになっています。
もうひとつはそれらの仮設の建物が、 機能優先でどうも作る行為を楽しんでいるように思えないことも私の提案のきっかけになっています。 お金のこととかいろんな事情があるのでしょうが、 私は仮設の建物の持つ良さを出してみたかったんです。 そうした以前から感じていた不満の延長線上に、 私のプランを作ってみました。
佐々木:
歴史的な都市をアナロジーしていくという観点から考えると、 私の場合は「浪速名所図絵」になるでしょう。 江戸時代に描かれた図絵を見ると、 大阪の川沿いはどこを見ても楽しい風景で、 江戸期の大阪は実に豊かな川沿いの文化を持っていたことが分かります。
川沿いの文化の持つ商いの活発化が現代でも出来ないかということが、 常日頃私の思っていることなんです。 私の提案の中で南北に太い水路を入れたのは、 水路を中心に新しい都市の中間領域を展開できればと思ったからです。 川沿いの空間をもっと骨太にして明快にすることで、 大阪の商業行為自体が景観になってくるのではないかと期待しています。 ですから、 私が刺激を受けたのは江戸時代の風景だと言えます。
三好:
先ほども言いましたが、 よくある大規模開発とは違う質のものを提案したいという気持ちがベースになっています。 ドイツ・ベルリンの再開発のように資本の論理が全面に出てくるものではなく、 全体がオアシス的になればいいと思っています。
もちろん全体がオアシス的な公園になるのは無理があるので、 現実に可能性がありそうなことを考えました。 最終的にあそこが建ち上がった時にはビジネス空間や住宅があってもいいのですが、 やはり花が咲き鳥が舞う都心があってこそ私は成功したと言えると思っています。
田端:
チェスターの例はあれでいいとして、 私の提案の場合はコラボレーションという大阪の都市的伝統をベースに考えました。
例えば、 京都のまちづくりは市域全体をカバーする条例等の制度重視、 神戸はそれぞれの場所に応じた制度手法の積み重ねによるまちづくりをすすめています。 大阪の場合は、 伝統的に官民が話し合ってまちづくりをしてきたという歴史があります。 江戸時代の橋造りのように、 民間がお金を出しあって公共のものを作るというやり方でやってきました。 まちという公共の場所に、 個人が参画してきた伝統をベースにして提案の中に取り入れた次第です。
そもそもこのコンペは、 良い案があれば、 それを採用し、 それに沿って作るという風にはなっていません。 コンセプトコンペではあらゆるものがコンセプトになるのですから、 コンペそのものが難しかったという側面があります。 なぜなら全てのコンセプトに学ぶべき点があるからです。 そうすると、 一等作のみが正しいということではなくなります。
別の言い方をすると、 提案の訴え方が上手だった作品が上位入賞を果たすという可能性が高くなるということです。 歌のコンテストと同じ事で、 歌の上手な人が入選し、 歌そのものの審査はしないというわけです。 つまり、 私の言いたいことは、 通らなかった案にもそれぞれの味があるはずで、 そこから主催者が学ぼうとしないのはかなり問題だと思うのです。
その辺について、 三好さんはどう思われますか。
三好:
コンペが終わってから半年ぐらいが経ちましたが、 私としては京都のコンペの二の舞はして欲しくないという思いが強いです。
仕事柄、 時々審査をしたりコンペ案を扱うことにもなりますが、 そのような立場から言うと、 コンペ参加作品をずっとスクーリニングしたとき、 そこに浮かび上がる時代の様相やニーズなりを審査員がどう受け、 どう使うかをメッセージした方がいいと思っています。 専門家がコンペを受けて、 言いっぱなしになるのは無責任ですので、 コンペを受ける専門家の責任も問われることだと思います。 どういう形で受けたのかを、 世間に向けて報告する義務があるんじゃないでしょうか。 案と審査員と実行部隊とのコラボレーションによって的確な応答をするシステムを目に見える形でやってこそ、 時代のお役に立ったと言えるのではないかと思うのですが。
鳴海:
そこで私の提案なんですが、 今回のコンペに当選しなかった方々に、 将来も自主的に関心をもっていただくというのはどうでしょうか。 例えば、 逆提案型の報告書を作るとか。 依頼されてやると注文通りのものしか出来ませんから、 ボランティアで言いたいことを好きなように発表してもらうというのはどうでしょうか。
三好:
前田さんのところ(学芸出版社)が企画している新しい雑誌で、 「私の北ヤード」といったタイトルで特集を組むと面白いんじゃないでしょうか。 「カー・オブ・ザ・イヤーズ」という自動車業界がその年のベストカーを選ぶというイベントがありますが、 業界の出来レースを突く形で、 読者が「私の選ぶベストカー」というプライベート企画があります。 それと似た形で、 私たちの足跡を残す機会があれば嬉しいと思います。 単に「無名戦士の墓」みたいな形じゃイヤです(笑)。
中村:
鳴海先生が言われたことの延長線上の話なんですが、 コンペの主催者が全ての案から共通項やパターンランゲージを抽出して、 都市計画の建築協定的なものやデザイン構造を生み出してもいいんじゃないでしょうか。 そういう業務もありうると思いました。 コンペからまちづくりのルールブックを作るのも立派な仕事だと思います。
長谷川:
先ほど三好さんが言われたことに大賛成です。 鳴海先生は11に分類されましたが、 良いものを生かす、 素晴らしい案を生かすということがなければ1万人が関わったエネルギーの意味がありません。 ですから、 主催者がそのプロセスに透明性を持って実現に向かっていることを何らかの形で報告していただきたい。 それこそがコンペに参加した全ての人のエネルギーが報われることであり、 また主催者にはそうする責任があると思います。 目に見える形で、 まちづくりのプロセスを公開していただければ、 私たちとしては嬉しいです。
三好:
要はコンペで何が明らかになり、 今の段階で何を目的とした事業があるのかが問われるべきだと私は思っています。 透明性や参加が重要視される時代であるなら、 なおさらそれを市民に提示すべきでしょう。
震災復興の手法のひとつに「定点観測」がありますが、 それを今回の事業にも取り入れて鳴海先生が「ずっと見ているぞ」とおっしゃってみてはいかがでしょうか。
鳴海:
「定点観測」はやるなら若い人にやってもらおうと思いますが、 ともあれ大事な視点だと思います。
今回のセミナーは本当はコンペの主催者の前でやれば面白かったですね。 私も今回のコンペにいろいろ関わっていますから、 これからも主催者にはいろいろと言っていきたいと思います。 ただ、 できないものはできない面もあることはみなさんお分かりだと思います。 その時に「ああ、 できないんだ」と言って終わるのではなく、 少しぐらいは反撃ができるということも準備しておきたいと思います。 その節はよろしくお願いします。
コンペ主催に関わったもののひとりです。 匿名希望です。 鳴海先生、 審査の際には本当にお世話になり、 ありがとうございました。
今回のコンペは多数の提案を頂きました。 私はこの1、 2年のほとんどをこのプロジェクトに携わる日々でしたが、 どの案も熱い思いがあり、 大阪を世界にアピールするという点だけから見ると成功したプロジェクトだと思います。
しかし、 次にどうすれば良いのかというと、 皆さんがおっしゃるとおり、 私たちやっている側にも分からないことが多すぎます。 移転の問題とかここでは言えないこともたくさんあります。
ただ、 良い街をつくりたいということについてはこの熱い思いに行政も巻き込んでもらって、 こういうセミナーなどでメッセージとして残していくことがコンペの報われ方ではないかと思います。 そういう意味では、 こういうセミナーなどでどんどん発信していただければ、 行政としても受け止めるつもりは若干はございます。 今後も鳴海先生達と一緒になって声を上げていくことが、 今の熱い思いに答えて行く道だと思います。
鳴海:
状況が移っていくと、 またこういう会を開いてみなさんにお力添えをいただく事にもなるかと思います。
今日議論したことは大きい内容を含んでいますので、 今後もいろんな議論が必要でしょう。 冒頭に申しましたように、 コンペに出品された900いくつの数はすごいエネルギーですので、 それこそまちづくりの教科書が出来そうな内容が含まれています。 時間はかかりますが、 一方ではそういう作業をしていかねばならないと思います。 ただ、 主催者がそれらをもうすぐゴミとして捨てる危険もありますので、 それをどうしたら阻止できるかという問題が残っています。 そういう交渉もしていかねばなりません。
今日はそんなところで、 セミナーを終わりたいと思います。
提案の背景、 あるいは参考にした都市は
玄道(歴史街道推進協議会):
コンペのあり方について
鳴海:
主催者からひとこと
匿名希望:
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