大阪駅北地区国際コンペを考える
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エコ・トラスト・フロンティアOSAKA

PPI計画・設計研究所 三好庸隆

 

 私も江川さんと同様、 建築と都市設計を生業としております。 今日は天神祭りにも関わらず大勢の方が出席されていてビックリしていますが、 今日ここに大阪市や公団の方は来ておられますか? あ、 いらっしゃらないのなら、 気楽にしゃべらせてもらいます(笑)。

 締め切りの12月間際まで実は出す気はしなかったのですが、 直前にランドスケープの長谷川さんとコンペについて議論しましたところ、 なかなか面白かったものですから、 長谷川さんとディスカッションしながらコンペ作品をまとめていきました。


コンペスキームについて

 今回の応募要項を見ていただくと類推できると思うのですが、 数年前に京都の未来を考えるというコンペがありました。 その後、 京都市はコンペの結果を立派な本にして出しただけで、 コンペの内容を何も使っていないわけです。 あのようにコンペが専門家の自己満足に終わってしまうようではダメだと私は強く思っています。 今回の大阪のコンペも専門家のお勉強会で終わってしまうんじゃないかという危惧がありました。 本当に大阪を愛し、 誇れるものを作りたいなら、 従来のコンペのスキームではダメだと思っています。 専門家同士で乾杯して終わるなんて、 一体なんですかと言いたいですね。

 審査員の中で、 都市計画やまちづくりの専門家はお二人しかいません。 大阪大学の鳴海先生と立命館大学の村橋先生です。 私はこのお二人には多大なプレッシャーがかかっただろうと思います。 後世にこのコンペを振り返ったとき、 どんな専門家が関わっていたんだろうと言われるでしょうから、 このお二人には是非とも身体を張って頑張っていただきたいと思いました。

 さて、 コンセプトコンペはなかなか難しいものですが、 例えてみれば「病人に何を食べさせたいか」というようなものかなと思っています。 その料理の内容はともかく、 盛りつけの奇麗な料理が目の前に出されるとつい食べてしまう。 そんなこともありそうなので、 今後注意してみていきたいと思っています。

 では私の提案は何だったのかを見ていただこうと思います。


エコ・トラスト・フロンティアOSAKA

 私はこの地区について今でも重要だと思っていることをいくつか紹介します。

 まず北ヤードの中だけを考えていると、 テーマパークを作って終わりということになりかねないということです。 やはり関西全体を視野に入れた中で、 北ヤードの位置づけを考えるべきではないか。 ただ関西全体から考えていくと大変なんで、 御堂筋−北ヤード−湊町を結ぶ一帯を考えてみました。 ひとつの仕掛けとしてはライトレールをずっと通していく。 従来だと南が栄えると北が落ち、 あるいはその逆という関係なので、 この両方を人が循環することが大事だろうと考えました。 ですから、 全体のプランニングの基本設定をLRTが循環できるゾーンとして設定しました。

 もうひとつ、 トラストということについて説明します。 世界の諸都市を見ると欧米の再開発も日本の再開発も空間イメージが一緒だと思うことがしばしばで、 どこも似たようなまちづくりになっているのですが、 私はその最たる原因は資本の使い方が一緒だからではないかと考えています。 お金の使い方が一緒なら、 あとはどんなデザイナーがやったかという差しか出てこない。 そこで私が考えたのは、 市民が浄財を出してトラストを作ってはどうかということです。 イギリスでもコイン・ストリートのように開発にトラスト制度が取り入れられた例がありますが、 ここでもトラストを大々的に使えば企業の資本の使い方とは違う空間が出来るのではないでしょうか。 今までのお金の使い方とは違う空間が出来ることはとても大切だと、 私は今でも思っています。

 次に開発の仕方についてですが、 24haを一気に開発出来ないことは明白なので、 ここでどういう単位で土地を売っていくかが重要になってきます。 単位を重ね合わせていくといずれ50年後には良い街が出来ていく、 そんなスキームが必要だと思います。 そのため、 全体の骨格をまず作った上で、 ユニット単位で開発が増殖していける仕組みを考えた方がいいと思います。 これはそのユニットの中身自体はあまり問わず、 後でゆっくり考えたらいいぐらいのつもりです。

 そして、 一部開発した後の残りの土地をどうするかについて、 他のプランではほとんど言及されることがなかったのですが、 私はそこに関心を持ちました。 開発地域がポジ、 それ以外をネガと例えるなら、 そうしたネガの部分にも土地利用としてやることを提案しました。 そこがオン・サイト(開発地区内に設定する)の建設現場や、 エネルギープラント、 さらに暫定利用としての名所化されたオープンスペースといったところです。 いわば、 プロセス・プランニングが重要だということを考えたわけです。

 あとは具体的な部分について、 OHPを流しながら見ていただきます。

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大阪都市再生強化ゾーン
 図のような形でライトレールを通してゾーンを形成する事を考えていきます。 この一帯で地区のつながりをつくっていく必要があると思います。

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大阪駅北地区のまちづくりコンセプトの提案
 また提案の冒頭には、 これからのまちづくりにエコロジーの観点は欠かせないと考え、 「エコ」を持ってきています。 次に大事なのが「トラスト」という言葉。 大阪には「淀屋」橋とか「道頓」堀とか個人の名前が冠されたものが多く、 民が作ったまちだということがよく分かります。 大阪市民が本当に大阪のまちを愛する思いがあるなら、 民がお金を出してトラストを立ち上げて広大な緑地や川を残せばいいじゃないですか。 市民の思いとエコロジーが合体したフロンティアを作ったらどうかという提案です。 LRTを取り入れたのも、 車を町中に入れないというエコロジーの観点からです。

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都市のエコ・デザイン1

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都市のエコ・デザイン2
 立体緑化をする事で、 上から俯瞰して見ると都市全体が緑化しているようにと考えました。

 トランジットモールとレベル処理を考えると立体処理をした方がいいので、 1階のグランドフロアのほかプラス6メートルの第2のグランドフロアレベルをつくります。

 また今までの資本の顔を見ながらのまちづくりではなく、 市民が自前でやるまちづくりが必要だ思います。 例えば、 ディベロップメント・トラストの基本財源の一口の値段を決めるとか。 ひょっとしたら、 先行の6haぐらいはやりようによっては市民の浄財で買えるんじゃないかという気もしています。

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都市のエコ・デザイン3

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都市のエコ・デザイン4
 50メートル×50メートルのプランニングユニットを考えて、 土地の売却もこの単位でやっていけばどうかと提案したものです。 もちろん買う人は用途にあわせて何ユニットを買っても良いわけで、 徐々に増殖しながら交通網も崩れないシステムということを考えました。

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交通システム・コンセプト1

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交通システム・コンセプト2
 実は私、 施設よりそれが出来上がっていくプロセスに関心があります。 どんな施設が出来るかは全体のコンセプトにあわせつつ、 その時々に考えればいいんだろうと思っています。

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 50メートル×50メートルのプランニングをどうつなげていくか、 先行ユニットと後発ユニットをどうつなげていくかも大切な問題です。 最近、 マスタープラン主義は崩壊した、 むしろ関係性の中にまちの面白さがあるという議論があります。 5年で完結するプロジェクトならマスタープランも意味がありますが、 24haという長期間を要する土地なのですから、 私はユニットの増殖とその関係性の中でまちや時代の面白さを発揮できた方がいいと思っています。 日本の伝統である「連歌」のようなまちづくりというわけです。

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 以上で私の話を終わりますが、 ここで私と一緒に議論した長谷川さんを紹介します。 長谷川さんからも、 この提案についてぜひコメントをお願いします。


ランドスケープからの視点

長谷川

 三好さんと共に一生懸命取り組んだ仲間として、 一言述べさせていただきます。 何かしゃべらないと、 汗をかいた意味もないような気もしますんで(笑)。

 実は三好さんから声がかかる前に、 私は別のチームとこのコンペに取り組んでいたのですが、 どうしても波長が合わなくてコンビを解消してしまったんです。 三好さんの話の文脈で私が特に興味を持ったのは、 計画地の北ヤードから南のOCATまでをトランジットモールでつなぐ新しい都市交通と全体のまちづくりを一体化するという考え方です。

 私は計画地を森にしようという提案がいくつか出てくるだろうと思っていました。 私もランドスケープをやっている人間ですから、 24ha全部を山や森、 丘、 公園にする提案をすれば一番分かりやすいのですが、 それでは事業になりません。 では、 どのくらいの規模になるのか比較・検証すると、 大坂城、 靫(うつぼ)公園、 天王寺公園ぐらいで、 それぐらいでは大規模でも何でもないんですね。 そんなに大きくない空間とはいえ、 森にしたり公園にしたりして、 都市に杜をつくることは重要なことだけど、 事業としては成立しないだろうということで、 三好さんの提案にのる形で参加しました。

 また三好さんの話の中で50メートル×50メートルのプランニングユニットが出ましたが、 この2500mはちょうど都市計画で言う街区公園の大きさにあたります。 私はプランニングユニットを碁盤の目のように並べていく中で、 これを一つのまちの単位にしたいと思っています。 そして計画が完成するまでは、 このひとつひとつを花と緑と果実の楽園にしてみたい。 まちが完成する50年後まで緑の楽園にしておいて、 そこに何か作りたい人がユニットの中にひとつ施設を作ったり家を作ったりするプロセスにしてはどうかと思います。

 言い換えれば、 都市が完成するということは、 20世紀初頭に作った緑の楽園を一つずつ食いつぶしながら出来ていくことになるわけです。 そこで都市を完成する素晴らしさと共に都市の一等地にある緑地をなくしていく罪悪感も感じてもらうという二重の仕掛けになっています。 そういう提案を三好さんにしました。 デザインではなくまちづくりのプロセスとして、 都市の中の緑の大切さを都市計画のプロセスの中で知ってもらうことが、 ランドスケープアーキテクトとしての私のメッセージです。

 最後に言いたいこととして、 都市の中の水路についても触れておきます。 淀川から堂島まで約1.2kmあります。 わずか1.2kmですから、 淀川から計画地を通して堂島川、 そして大阪湾に水が流れるようにしてはどうかと思います。 自然を使ったダイナミックな手法をぜひこれからのまちづくりに取り入れていただきたいと思っています。 私の話は以上です。

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