21世紀 都市デザインの課題


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都市環境を通じた韓国と日本の新たな文化交流
 
財団法人生活環境問題研究所 山本 茂

2003年の秋、大邱・都市環境デザイン会議(DUDI)の発足を記念した、DUDIとJUDI関西の合同セミナーに参加した。私にとっては、2002年冬のソウルに次ぐ2度目の韓国である。

 大邱は、道路や公園などの都市基盤がよく整備された、明るく、美しい街というのが印象である。ソウルでも感じたことだが、もっと韓国風の住宅や寺院などが残されているのではと思っていたが、意外にも少ない。近年まで、どちらかといえば新しいものを追い求めることに熱心であり、そのために伝統的なものが失われても仕方がないという考えが底流にあったのではないだろうか。

  大邱の街を出ると田園的な風景が広がり、ある意味で現在の日本以上に日本的な田園風景であった。しかし、その中にも高層のマンションが建ち並び、どう見ても周辺の風景と不釣り合いな住宅地開発が所々で見られ、開発の波が農村部にも押し寄せていることをうかがわせた。

  このような印象を持って参加した合同セミナーには、学生を含めて会場からあふれんばかりの参加者があった。セミナーの中では、「日本では都市の環境をデザインするにあたって、歴史的なものや地域の個性、あるいはコミュニティを大切にしており、計画への市民参加も盛んである。これらは今後韓国が学ぶべき点である。」との意見が多かった。しかし、そう言われる日本において、歴史的なものや地域的なものが重要であるとの認識が高まりだしたのは、高度成長の中で市街地が爆発的に拡大し、その結果として公害問題や地方の過疎が深刻になり、あるいは都市の画一化や没個性化が指摘されだした 1970年代なかば以降のことである。

  韓国は、戦後の厳しい国際関係や政治体制の中で近代化を進めてきたあと、伝統的なものや地域的なものに目を向け始めてようとしている。そのような関心の高さが今回の合同セミナーの参加者数や意見に表れていたのではないだろうか。

  日本のこの数十年間の都市計画や都市環境デザインにおける失敗と、近年の新たな取り組みを韓国に学んでいただき、日本が韓国の取り組みに学べることはきっと多いはずだ。

  大邱は、首都ソウルから南に数百キロメートル離れた韓国第三の都市。大学と学生が多く、また繊維等の産業が伝統的に盛んである。私たちがお世話になった先生方は皆おだやかで、人なつっこく、ユーモアに富んでいたが、首都ソウルに対する対抗意識も強い。これらは、大阪や関西の文化や風土に通ずる。そんな DUDIとJUDI関西が、不思議な縁を通じて交流を始めようとしている。都市環境を通じた韓国と日本の新たな文化交流に大いに期待し、力を尽くしたい。

  以下は、今後の交流を深めていく上での材料とするために、大邸や慶州の街に関する印象を日本と比較しながら、写真とともに整理したものである。

■高層マンションの風景
 釜山の空港から高速道路に入ってすぐ、山をバックに高層マンションが林立する景色が目に入ってきた。階数は 30階ぐらいの香港的風景。古都慶州ではさすがに高層マンションはあまり見なかったが、大邱に入ると20階程度の板状の高層マンションがあちこちで見られた。こちらは公団・武庫川団地風。人口の都市集中に対応するために、高層マンションが大量に必要とされたのだろうが、韓国の都市の風景はこれによって大きく変わったに違いない。しかし、私自身7階建てのマンションに住み、周りにもマンションが多い。ということは、DUDIのメンバーが大阪を訪れたなら、日本の都市の風景はマンションによって個性を失っていると、同様に言われるかもしれない。違いは、韓国では用途の集約や土地の高度利用を徹底しており、日本では自然発生的に都市が形成されているということか。このあたりの是非は今後の交流のテーマになると思う。


釜山空港周辺の高層マンション群

大邱の高層マンション群 

■韓国における自然の楽しみ方
 韓国では見晴らしのよいところに家を建て、開口部のある「亭」と呼ばれる部屋から周りの景色を眺めながら過ごす伝統があると聞いていた。慶州郊外の良洞の民俗村の高台にある旧支配層の住宅には「亭」があり、山麓に民家や田圃が点在する村の景色が俯瞰的に眺められた。良洞の民俗村の近くに両班(やんぱん:昔の貴族層)が隠遁のために建てた山家にも、渓流に面して「亭」があった。ここからは、渓流と紅葉した雑木林で構成される風情のある景色が眺められた。

  こんな自然の楽しみ方は、日本ではどうだろう。日本の景観研究の先駆者である樋口忠彦先生の「日本景観史序説」によれば、前者は「国見の景色」、後者は「四季の景色」に近いだろうか。いずれにせよこの二つは、韓国の人々の自然に対する考え方や自然の楽しみ方をよく表しており、また日本との共通点や相違点を考える上で参考になる事例ではないだろうか。


良洞の民俗村

良洞近くの山家

■やさしさの感じられる曲面のデザイン
 良洞の民俗村の中に、 きの小屋のある家がいくつかあった。空に向かって った瓦屋根の中にあるから、藁葺きの小屋は一層丸みを帯び、柔らかい印象を与えている。見ていて、何かほっとさえする。この藁葺きの民家は、韓国の伝統的な文化を象徴するものとして、近年注目されているとか。慶州の古墳公園を歩きながら、やさしさの感じられる半円球を巧みに用いたランドスケープだと思った。高速道路から見えた山の中の墓も小さな半円球であった。死者の魂をやさしく包み込むような・・・。日本にはこんな曲面のデザインは過去にあっただろうか。


良洞の民俗村の藁葺き小屋

慶州の古墳公園 

■親しまれる公共空間
  慶州駅の近くでバスから降りた私たちは急に元気づいた。野菜、魚、果物、菓子、衣料など を売る露店が道沿いに並らび、おじさん・おばさんの威勢のいい掛け声が聞こえてきたからだ。韓国の人々の生活に触れたいという思いがあったからかもしれない。2と7の日に開かれる、古都慶州ならではの伝統的な市。慶州のまちの風景と人と人のコミュニケーションを豊かにしている。

  大邱のホテルの近くの公園を朝、散歩していたら、たき火の周りに何人かが集まって話している。その近くにコンロや鍋を積んだ車。どうやら移動式喫茶店(オープンカフェ)らしい。会話の雰囲気から、客は毎朝散歩を楽しむ常連と分かる。私たちも一杯 50円のコーヒーを注文した。砂糖とミルクがよく利いた懐かしい味。とたんにまわりの人々の仲間になったような気がした。

  日本では、都市の活性化や魅力づくりのために公共空間の多目的利用を進めようとする動きが盛んであるが、韓国のこれらの例に学べる点は多いと思った。


慶州の露店

大邱の公園の中の移動喫茶店

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