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京都の新景観施策について
2007.3.6 山崎正史
桝本市長の熱意ある姿勢のもとに、京都市が意欲的で革新的な景観施策を準備し、市民の高い関心を呼んでいる。京都新聞が実施した市民アンケート調査によれば、約八割が賛成し、約二割が反対とどちらでもないであった。この数字は、提案されている施策案への期待と危惧される側面をよく表しているように思われる。
繰り返すまでもないが、新提案の骨子は次のようなものだ。かつて市電が走っていた「旧市街地」全域で景観の継承と整備をはかる。そこでは高さ規制を厳しくするダウンゾーニングを行い、勾配屋根を義務づけ、都市全体として和風の都市景観を形成する。デザイン基準を地区ごとに設定する。眺望景観の整備という新たな概念を導入する。世界遺産等の歴史遺産周辺の景観保全を充実する。美観地区の大半はこれまで一定規模以上の建造物のみに適用されるものであったが全建造物に適用する。保全でなく創出型の美観形成地区を新たに設ける。これらの文面を見る限り結構なものに思われるし、応援したい。しかしその内容を見ると、私個人としても八割賛成、残る二割は反対と言わないまでも危惧が残る。
良いデザインは世界共通としてきた近代思想を脱し、和風の都市デザインを唱えているのは新時代を先取りするものといえよう。しかし和風の定義が「伝統的な京町家」が例示されている程度では説得力に欠ける。寺院様式は別格としても数寄屋や邸宅の伝統的意匠もある。それを広範囲の歴史的市街地で現代に継承するとはどのようなものであるべきか。深い議論と丁寧な説明が求められよう。これは根本的な課題である。
今回の条例案は詳細なデザイン基準を含むものとなっている。その基準が十分に検討された適切なものであるのかという懸念が指摘されている。「創造性」を金科玉条にして、建築物や広告物の広範な自由を許してきた結果が今日の景観の混乱であることをみれば、今や創造性最優先から一歩抜け出さなくてはならない時期であろう。とはいえ、円柱や球形の全面的禁止まで言うべきか。色彩規制も一律すぎないか。大景観・中景観・小景観という景観のスケールに応じた景観コントロールの考え方が新提案には欠けているようだ。低層部のデザインや色彩は近隣地域の景観問題であって、都市のイメージに大きな影響を与えない場合もある。地区別基準も準備が不十分な点があるようだ。建築物の道路からの後退を推進する姿勢も、都市的賑わいと魅力の観点から危惧される。
新条例で既存不適格建築が生じるという問題があるが、人口に不釣り合いな高容積を認め環境の混乱を許してきた日本の都市が、いつかは引き受けなくてはならない課題であろう。
また、この意欲的な施策を実行する体制が整うのかという危惧がある。数年で職員を移動させ専門家を育てない日本の行政組織体質を変え、景観行政の専門家を養成する必要がある。人員のかなり大幅な増加も必要だろう。これには市の上層部の理解が不可欠だ。拙速をさけ、後に回すべきは後にして、基本的な骨子が着実に実現されるよう期待したい。
ソフィア京都(京都新聞)に寄稿したものを再掲
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