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小さな職住共存、大きな職住共存
2007.3.9 田端 修
図版は未完・セミナー当日配布予定
新景観政策のなかで「職住共存地区」とされている都心「田の字」の内部市街地については、高さの限度15メートルという設定の厳しさが大きな論点。都市活動の中心地としては過度に厳しすぎるという批判・議論などをふくめ、これからの「都心のあり方」を考察するチャンス。
「町家」は<入り組んだ職住空間の共存>状況をつくり出す
ここで、「小さな職住共存」とはひとつの建物のなかの職住機能共存、つまり伝統的「町家」での生活スタイル。いっぽうの「大きな職住共存」は、地域的広がりのなかでの職場と住まいの共存状況。
一般的には、デパート・オフィスビルなどの商業・業務機能とマンションなどの居住機能、つまりタイプ化した機能空間が寄り集まっている。京都の場合、これに古くからの町家を加えた<入り組んだ職住空間の共存>する都心地域が形成されている点に特徴がある。
都心部人口の推移と町家の地域維持力
都心地域の夜間人口動向をみると、55年以降の急激な低減と95年以降の微弱な回復という共通点はあるが、他の大都市に倍するオーダーの人口密度を一貫して維持している。往時の20,000人/平方キロからは低下しているが、2005年でも10,000人/平方キロは超えている。
この差は、小さな職住共存を構成する「町家」の存在がつくりだしてきたと考えるのが妥当である。
「住まいながら働く」職住空間・町家が、この間に増大してきた業務ビルなどのつくる大きな仕事と関連しながら、都心機能と夜間人口双方の維持に役割を果たしてきたと理解できる。小さな職住共存を内包することが、安定的な大きな職住共存を成立させてきた、ということである。
小さな職住共存の向かう方向−これを誘導する町家敷地
<入り組んだ職住空間の共存>を維持していくには、伝統的な町家保全のみでなく、新しい入れ物−仮に新町家と呼ぶ−の創出が必要である。町家の保存策も大事だが、これは町家敷地をどう使い切るかという新しい課題である。標準的には間口6〜7メートル、奥行30メートル、敷地面積180~200平方メートルの「うなぎの寝床」状敷地が寄り集まる街区構成は変ることなく継承され、今後も地区の基本ユニットでありつづける。それが都市の歴史である。
新町家のイメージ−「新・京(みやこ)デザイン提案募集」応募案(大芸大田端ゼミ・入選)
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小間口・大奥行の町家敷地をどのように使い切るか。間口方向では、隣接敷地との間に<無駄な隙間をつくらない>、そして奥行方向では、複数棟・複数庭への区分などにより敷地の深さ・長さを生かした配置構成を提唱する。伝統的な建て起こし工法に倣い、また表家造りの構成からするヒントを得たもので、これらにより「職住一致」から「独立した職空間や住空間」までを含む<入り組んだ職住空間の共存>を一敷地のなかに実現する。この提案では、最高棟高15メートル、容積率300〜350%となっている。利用目的等による調整は残るが、軒高で15メートルとする、地上階フロアを拡大するなど工夫を加えれば、400%は可能であろう。
15メートル制限の可能性
高さを制限しない容積率優先の計画では隣棟間に使いようのない、つまらない空地が出来てしまう。町家敷地の特性を直視し、敷地を使い切る方策・方法に意を注ぐことで、緊迫感のある通り景観をつくり出す可能性がある。
職住共存地区の景観イメージとその支援策
商業業務型の環境のなかにマンションが建設されるなど、都心空間が混合・混成タイプへと変り始めている。現代大都市に共通する変容方向である。京都では、町家のうえに、これらのプロセスが重なり、冒頭に述べたような<入り組んだ職住空間の共存>する都心地域が成立している。これに町家敷地をユニットとする「新町家」をも加えて、多種の建築物が競演・共演する格好の、賑わい空間を内包した町並み形成が想定される。
<入り組んだ職住空間の共存>は、安定的な生活空間づくりにもつながると思える。「町家」「新町家」は、生活サービス機能や文化性空間をも提供できるからである。多様な小さな仕事の創設や継続に対しての支援策が京都らしい都心地域づくりには必要である。そのような、いっそう多彩な職住空間をもつ「職住共存地区」としての都心づくりの第一歩が、この景観政策の果たす役割でありたい。
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