都市にミュージアムは不要か?
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質疑応答

 

 

収入を増やす道がない!?

辻本

 自主企画での収入、例えばアートフリーマーケットはいくらぐらいなんですか。

角野

 この春のフリマでは売り上げの歩合制でもらっているのですが、23万ぐらいだったと思います。

辻本

 場所代は取ってないのですか。

角野

 フリマなどの企画は社会実験としてやっていることですから場所代は取りません。別の言い方をすると、市の方でもお金をもらう受け皿がないので受け取れないのです。行政の面白いところで、お金が発生しても受け口がないと受け取れないものなんです。

前田

 ミュージアムショップはないのですか。

角野

 それはあります。売り上げは当然市のものです。だって売っているのは市の財産ですから。

辻本

 では自分たちで仕入れて売る場合は?
角野

 そんなことをやりたいと思っています。古書市はそういう形になりますが、去年は古書の売り上げではなく古書籍の団体から場所の使用料をいただきました。美術館は家賃商売をした形ですが、今年はもう少し別の形を考えたいと思っているんですが。

前田

 講演会などの収入も市に行くんですか。

角野

 NPOの自主企画ならば僕らがもらいます。市との共催や美術館の事業、つまり委託契約の中に入っているものについては市の収入になるのです。

前田

 学芸員の方が、どこかよそで講演した謝礼なんかも市の収入ということになるのですか。

角野

 学芸員のそうした行為は兼業になるので禁止されています。

辻本

 NPOやのに?
角野

 委託契約業務として受けているのであれば、人事権や雇用条件もこちらで決めてもいいのではないかという意見も当然ありますが。

長町

 例えば入館者が急増して、利益が予想外に出たとしても美術館の予算には関係ないことになりますよね。

角野

 入館者収入は全て市に入ります。

長町

 それだと、やりたいことは1200万円の予算を増やさない限りできないってことですよね。

角野

 そりゃ前年度実績がこれだけあったから、次年度の予算を増やそうという話は可能性としてはありますよ。しかし、入館者収入を美術館でプールしておくというのはダメなんです。

辻本

 ミッションを共有する以前に、NPOが芦屋市にミュージアムはこうあるべきだと主張しないと! 芦屋市が何をすべきなのかをちゃんと理解して美術館で出た利益の配分をきちんと決めない限り、運営の継続は不可能でしょう。


スタッフとボランティア

辻本

 もうひとつ職員の問題について。私が手がけた春日井の緑化植物園では、運営は全てボランティアのおばさん達です。芦屋もそうしたら良いのではないかと思います。市民のコミュニティの場でもあるのですから、その現場に自由さがなかったら、NPOが何のために受けたのか分からない。NPOがもっと主張していくべきでしょう。

 基本的に日本と外国のミュージアムや公園が違うのは、外国ではファンドやお金持ちがそうした施設を支えていますよね。日本でもそうしたファンドを育てていかないとダメだとは思っています。日本でもちゃんとしたボランティアを育てること、そしてちゃんと運営できるための利益を出していかないと。

 それから、今いる6人のスタッフには悪いけど、高い人件費だなあと思ったんですよ。これからの活動をするのに、これは本当に必要な人数なのですか。ニューヨークのブルックリンにはボランティアで運営する植物園があるのですが、そこでは1週間のうち3日は職員、2日はボランティアというシステムがあるんです。日本でも退職したOBをそんな形で雇うということを考えないと、このシステムでは維持できないんじゃないですか。

 私は植物館を作り、運営まで見ていく民間の会社をやっています。指定管理者制度になる前、前の貝原知事の時にプロデューサー方式で民間でやってくれと頼まれて「奇跡の星の植物館」を引き受けました。以前、松下電気の労働組合から依頼されて「花の植物館」を3年で軌道に乗せたことがありますが、民間では3年で出来たことが兵庫県では7年経っても出来ない。

 私はこの2年間よそで稼いできたお金で植物館のみんなを食べさせていますが、なぜ私が作ったからといって私一人が支えなければならないのかと疑問を感じています。ただ角野さんの話と違うところは、私は最初から「お金儲けさせてよ」と言ってますから、パーティや結婚式もやっています。始めは300万円ぐらいの利益だったのが500万円ぐらいになっています。嬉しいことにウエスティンから511万円稼げるようになりました。それに、ウチの職員になれば、私が彼らを使ってよその仕事をさせても県からは文句を言わせません。他の仕事も認めないのなら、公務員と同じ扱いでしょう。身分も不安定で時給制なのにそれはオカシイですよ。


指定管理者以前の問題

吉野(DAN研究所)

 私は自治体施設つまり行政財産を整備し同時に運用の枠組みを考えるという仕事をけっこうやっています。ミュージアム系では、天六の「住まいのミュージアム」を手がけました。これは博物館相当施設ではあるけれど、運営は本来の住情報提供施設と併せて住宅公社に委託、館長は大学の先生という形でした。これは指定管理者制度以前の話です。この時も客を努力して集めても、その利益が一般会計に全部取られてしまうという問題がありました。そこで現場が努力して出た利益は、そこを運営している主体に還元する枠組み(利用料金制度)を活用しようという議論もありましたが、結果的には採用できませんでした。

 角野さんのお話では、今のNPOはオペレーションの一部、しかもその補助という存在で、美術館は機能的には市の直営になっていますよね。今は指定管理の議論をされてるように見えますが、実はその議論にもなってない。市とNPOの契約を(現在は指定管理は権限の委任としての行政処分)協定では無く契約としてきっちり法的に明確にしていくべきですね。社会実験はだいたい3年が目処ですので、3年後までにはきちんと議論できるか法的又は制度的に具体化できるぐらいにしないと。ぜひ専門家を入れてやってみてはどうですか。

角野

 いろいろとご指摘ありがとうございます。辻本さんがおっしゃったことは、こちらでも1年以上議論しております。そもそものスタートとして、市は美術館をやめたかったという本音がありまして、それを市民が「やめるな」ということでこのようなNPOが誕生したわけです。さすがに2年も活動していると、市も少しは耳を傾け、自分たちの問題として議論できるようにはなっています。

 我々は指定管理団体ではありません。今の組織では受けるつもりもないし、その能力もありません。僕らNPOは指定管理団体をサポートする市民の集まりなんです。しかし、今僕らが手を引いたら、市は間違いなく休館してしまうでしょう。ですから、僕らがこうして活動している間に、どこかに「指定管理団体をやりましょう」と手をあげて欲しいのが本音です。そういうところが出てきたら、そこを支える方に回りたいと思っています。

 今は、職員の任免権を持ちたい、稼げるような団体にしてほしいと、市と交渉中です。今年度は契約が終わっていますから無理ですが、来年度はそうした権利をもらえないとNPOとしても、もう出来ませんと言っています。


現在の組織

端信行

 今日の話では組織の話が全然出ませんでした。例えば、角野さんは1週間のうち、美術館でどのくらい働いているとか、他の職員はどうなっているのかを説明して欲しいです。

角野

 NPOに雇用されている常勤の職員は6人、内訳は学芸部門が4人、管理2人です。学芸4人のうち、1人は嘱託です。ただ、毎年契約更新がありますので、全員が嘱託みたいなものですけど。

 僕らがどう関わっているかというと、正直毎日は無理で、定期的というのも難しい。NPOの事務局長が頑張ってくれていまして、市やNPO職員との仲介役みたいなことをボランティアでやってくれてます。

 それから、大阪市の教育委員会の人(それこそ指定管理を扱っている人)が休日にボランティアで来てくれていて、それですごく助かっています。でもこういう形態は長続きはしないでしょう。

 活動内容について言うと、展示企画は基本的には学芸員が考えます。僕らも「こんなんしたら」とアイデアを出すことはありますが、それを「商品」という形に仕上げていくのは学芸員なんです。それ以外のコンサートやフリーマーケット、イベントなどについては僕らが中心になって動いています。そういうときはもちろん集中的に出ていって準備しますが。

 中心になって動いている理事等は私以外には4人ぐらいですね。それ以外の会員が十数名ほどいます。

 企画とか事業運営の具体的なプログラムを決めていくのは?
角野

 それはもちろんNPOと学芸員が一緒に考えていきます。顔を合わせるのは1週間に1回もないぐらいの頻度なんで、後はメールでのやり取りが多いですね。

 運営の密度も美術館運営には大きく反映してくると思いますが。

角野

 そうですね。正直言うと、NPO側にももっと関われる人をつくりたいと思っています。辻本さんもおっしゃったように、職員もフルタイムでなくてもいいから週3回だけ来てくれるような人が欲しいです。予算枠だけもらってボランティアと専門職の仕事を使い分けたいと思っています。


NPOにとってのゴールとは?

難波

 角野さんは最終的にどんな形であれば、高い評価を受けて終われると思いますか。逆の言い方をすると、どうすれば行政側もお金が出しやすくなるのか。

角野

 市の施設として予算を出し続けるのであれば、市民に受け入れられ評価されることが絶対必要です。今までは受け入れられていなかったので、ミュージアムがどんな役割を持つのかを活動を通して市民に伝えたいし、市民にも考えて欲しいです。

 今後、おそらく市の直営ということはなく、指定管理者に運営を任すという流れは避けて通れないでしょう。そこで僕が言いたいのは、どういう条件の契約にするのか?最後に述べた指定管理の課題の中で公私の役割・責任の明確化、自由裁量権のことを言いましたが、とにかくそういうことを決めていかないと、「やれる」という指定管理者はいないと思います。

 だから、僕にとってのゴールとは指定管理者制度を導入するための条件が明確になることです。その上で指定管理者が決まれば、僕らはもちろんお手伝いします。


本来のミュージアムのミッションとは?

前田

 今日のテーマは「都市にミュージアムは不要か」になっています。今までは当事者としてお話いただきましたが、ちょっと離れて、角野さんが考えるミュージアムの都市に対するミッションについてお聞かせください。

角野

 僕が平成15、16年頃に言っていたことを繰り返し言うと、ミュージアムは都市に不可欠な装置であると考えます。何故かと言うと、ミュージアムは都市の記憶を貯蔵しておいて、次世代に伝え、記憶を共有して次に何が出来るかを考えるために不可欠なんです。

 不可欠だからこそ、なんとか維持して運営していかねばならないのですが、維持・運営のための知恵はもっと出していく必要があるでしょう。都市の記憶を引き出してそれを組み替えていく、さらに新しい記憶を伝えていく、しかしそれだけでは維持できない場合はそれを支える仕組み、多機能化・複合化という形で維持していく必要があるのではないかと考えます。

 ただ、維持していくことだけにとらわれて、本来のミュージアムのミッションを忘れることのないよう気をつけないといけないでしょう。


アートのミッションを明確に

吉野

 先ほど複合化の話で、図書館と一体化したいと言っておられましたよね。私は図書館の調査もしていて分かったことですが、これからは自治体の図書館の予算もどんどん減っていきますので弱いモン同士が組んでもあまり展望は開けないと思います。違う作戦を考えた方がいいでしょう。

 また、土木施設と組むという話ですが、土木系の情報発信施設で市民に喜ばれているものはあまりないです。土木系は予算もあって指定管理者制度もうまく使っていますが、文化的な施設には向いていません。違う枠組みを考えることをおすすめします。

辻本

 多分アートのミッションは何かをもっと明確にしていかないといけないのでは?
 今、東京ではアート・トライアングルなんてのをやっていて、私も「ダ・ヴィンチの庭」をやっています。角野さんはさっき「自然系と組みたい」と言っておられたけど、アートの人たちは美術をやるより自然のものを使うという感じですから、美術だって料理の仕方はいくらでもあると思います。

 私は自然を相手にするのが本業ですから、美術はそのために利用するという立場になりますが、ウチの植物園はかなりアートが多いです。そんな視点で必要だと思うことはもっと積極的にどんどんやっていかないと、中途半端なことをしていても結果にはつながらないと思います。


学芸員がこれからやりたいこと

後藤

 実際に現場で頑張っている学芸員の夢ってどんなものなのでしょうか。

角野

 学芸員一般としては僕は答えられないのですが、ある歴史系の人は「とにかくいろんなことをやりたい。古書市もやりたいし、個人のコレクションの企画もしたい」と多方面にチャレンジされています。しかし、彼らの夢を実現するためには、やはり生活が保障されないと力もはいりません。ところが、今は一年契約という雇用条件ですから、本当に気の毒です。少なくとも3〜5年のスパンで物事を考えられるようにしていかないと、夢もへったくれもないという気がします。

 また別のある方は、美術系の学芸員として本当に優秀な人ですが、専門だけでなく少しずつその枠を広げようとしています。それは我々も応援していこうと思います。

 残りの二人は今年入ったまだ新人で、ここでトレーニングを積んだら大抵のミュージアムでやっていけるでしょう。むしろ、どんどん外で活躍できるようになればいいと思っています。


今年の企画について

角野

 最後にこれからの美術館の活動についてお知らせしたいと思います。夏からの企画展ですが、動物画や植物画を描いていた牧野米吉のコレクションのコレクターが須磨におられまして、そのコレクションをお借りして展示会をいたします。それをメインとして、その他に芦屋川で水性植物の保存・研究をしているNPOと組んで、子供向けの環境学習会を催します。

 また、ひと博にもミニキャラバンに来てもらいます。それと、芦屋市の水道局にも協力してもらって、芦屋の水というものを紹介しながら、アートと環境についての企画展をやろうと思っています。こういうやり方が、今我々が一番やりたいことに近いものです。

 もうひとつの企画としては、芦屋の旦那衆が所蔵している日本画の展示です。もともと芦屋は、大阪・船場などの商人とのつながりが深い土地柄です。そこに着目して、大阪画壇でまだ評価されてないけど大阪の旦那衆が所有している絵を発掘していきながら、芦屋の歴史と組み合わせた展示会を開きます。

 このように、美術・歴史・サイエンスをひとつのテーマでつなぐ仕掛けを考えること、もうひとつは芦屋の地域性に徹底的にこだわった企画をやりたいと思っています。今年はこういう方向性で続けていきますので、みなさんぜひとも足をお運びください。


コメント「文化施設だけの問題ではない」

鳴海(セミナー委員長)

 今日の話は、実は我々大学にいる者にとっても同じ問題をはらんでいるのです。つまり、これからは大学も金儲けを考えていかないといけない。大学も生き残りを考える時代になってきました。

 一昨日、島根に出来た島根県芸術文化センター・グラントワというホールと美術館が一緒になった施設の審査に行ってきました。島根県は人口も少なくなっていているのですが、グラントワは人口5万の益田市という所に広大な土地を使って建てられました。

 こういう施設が必要なことは分かるのですが、あまり赤字を出さずに経営しろと言われてもツライと思うんです。

 本来は作った責任者が、その後もちゃんと運営する覚悟が必要なのですが、最初はともかく段々と予算が出なくなってしまうものなんです。そうすると、辻本さんみたいに優秀なコーディネーターを呼んできて「何とかしてくれ」と頼んだりするのですが、優秀なスタッフに何も武器も渡さず(かつ立地も悪い所がほとんどです)「何とかしろ」と言うのは無茶としか言いようがありません。もともとちゃんとした仕組みがないのに、指定管理者制度を導入すれば、うまくやってくれる人がいるかもしれないと考える姿勢が間違っています。

 角野さんがおっしゃった通り、文化施設は体育館やプールと違うのだから、けが人を出さずに運営できればそれで足りるというものではありません。文化施設は志と社会的価値で成り立っているもので、低レベルな管理で運営されてしまったらとても困るのです。文化施設は高いミッションがありますから、それをシステムでうまく乗り越えて欲しいと考える姿勢そのものが間違っていると私には思えます。何とか戦略を考えていかないと、いつまでもこの問題から抜けられません。

 文化施設と同じような問題を抱えている施設に公園があります。今、私は公園の指定管理者制度を調べているところですが、いい公園にしようと努力するほどハードルがいっぱいあります。金をかけずいい加減に管理するだけの方が簡単に出来るんです。市民に親しまれて市民がいろんな活動が出来るようにしたいと考えても、いろんなハードルが立ちはだかって、お役所はそれを頑固にはずそうとしません。そんな状況で指定管理者制度を導入するのは無謀だと思います。

 公園でさえこうですから、文化施設ともなるともっとすごいハードルがいっぱいあるでしょう。大事な施設なのに、安上がりにすまそうとする根性がそもそもいけません。いいかげんな指定管理が文化施設の常態になったら意味がありません。角野さんには、これからもしばらく頑張っていただきたいと思います。

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