後半は長谷川さんに、 これまでのお話しを踏まえて、 いくつかコメントしていただきたいと思います。
長谷川
吉村さんと辻本さんにこれまでお話しいただいたわけですが、 最初の吉村さんの話しは、 私も聞いていてこれは難しくて、 どうやって取り組んでいけばいいのかなどと考えてしまいました。
また辻本さんは女性らしい視点から、 きれいな花を使って五感を呼び起こすための様々な試みについてお話しいただきました。
以上の話しをランドスケープに関わる者として興味深く聞いていたのですが、 特に吉村さんは10年以上前から本や論文等でいろいろと刺激的な理論を展開されていて、 私達はこれまでにも勉強させてもらいました。
吉村さんの資料の中の論文を読ませていただいたのですが、 自然というものを大きく3つの視点で捉えられていると感じました。
一つは、 私流に言わせていただくと、 神様のつくった「第1の自然」を人間が「第2の自然」として、 いろいろと改変しながら自分たちの都合のいいように利用してきたわけで、 どちらかというと人間生態系的なものが「第2の自然」であるという事だったと思います。
そして、 これからの自然は都市の中でどうあるべきかということで、 「第3の自然」、 つまり人間と自然が都市においてうまく共生していくためにはどうしたらいいかというふうに話しが展開していきました。
それに関連して具体的な事例としまして、 皆さんもご存じだと思いますが、 吉村さんがランドスケープデザインされた梅田スカイビルの、 オープンスペースとしてのバードパークがあるわけです。
すなわちこのような計画は、 「第3の自然」の事例として私自身は捉えております。
次に、 「ゼロ・エミッション」という概念で、 人間が資源からつくりだしてきた様々なものを、 新たなリサイクルという形で、 地球レベルから小さな地域のレベルまで考えなければならない時代に来ているのだとおっしゃいました。
そういった都市における自然の在り方、 あるいは資源のリサイクルという視点から地球社会を考えるといったスタンスから、 吉村さんは話して下さったのだと思います。
辻本さんの方は、 人間の五感を取り戻せる装置として花を用いて植物館の計画をされたり、 あるいは園芸というものをどう生かすかといったお話しでした。
植物を明快に装置として捉え、 花を人工的に扱う際にも目的に対してそれを装置として使うといった持論を展開されました。
それではこれらの論点をこれからの秋以降のテーマである「都市に住む、 都心に住む」にどうつないでいくかですが、 私は以前、 人間個人が自然の中にいるなあと感じるような空間とはどんなものか、 というようなことを書いた本を読んだことがありまして、 それは単純に言いますと、 100m四方の1ヘクタール、 3000坪の森の中に一人ぽつんと立ったときに、 「ああ、 俺は自然の中にいるんだなあ」と感じるのだそうです。
しかしそういった広大な森を現在の都市の中に求めようとしても、 それは不可能です。
2010年頃になると日本での都市人口は全体の70数%にもなると言っている人もいます。
そうしますと、 ますます21世紀は高密度化され都市が住みにくいものになっていくわけで、 吉村先生がおっしゃったように環境共生ということを考えていかなければならないのです。
さらに人間と生物がどうやってうまく共生していくのかについても、 ますます難しくなっていくような気がしています。
そしてもう一つ、 今回の阪神・淡路大震災に関連して、 都市の緑地やオープンスペースが今問われています。
昨日も神戸で、 阪神グリーンネットワークという、 いわゆる緑とランドスケープを中心としたネットワークがあるのですが、 そこで、 松本地区というところで公園をワークショップでつくろうという話しが出ました。
私もワークショップで公園をつくった経験があるので、 そこで話しをしてきました。
これまでもまちづくり協議会を通して、 土地区画整理の中でもいろいろな視点でのまちづくりがワークショップで行われているのですが、 そこの場合は1000平米と2500平米の街区公園と17m幅の道路が計画されていまして、 その中に6.5mのせせらぎをつくろうとしています。
しかし、 ここの協議会を1年半引っ張ってこられた地元の方によると、 このような公園等の計画を地元の住民は必ずしも求めていないと。
そんな1000平米も2500平米もオープンスペースをつくったり、 あるいは6.5mも歩道を取ってせせらぎをつくるよりは、 もっと機能的な生活基盤に力点をおいた空間をつくる方が住民は求めているのだという話しがずっと前からありまして、 ここまで来るにはいろいろとあったようですが、 どうにか計画までたどり着いたようです。
また、 大阪で最近学研都市線という鉄道が引かれまして、 便利にはなったのですが、 その路線につながっている近郊都市にミニ開発が広がっているようです。
そこでは10戸とか15戸とかの住宅が民間開発されて、 その際に田んぼが埋められているのです。
便利になった一方で、 近郊都市の田園風景などの美しくて貴重な自然が失われてしまいました。
河川も破壊され汚染されています。
ではそのような近郊都市に住むための都市開発とはどうあるべきなのかと。
そういった問題点も多いと聞いています。
それから、 これは次の議論につながるかどうか分かりませんが、 4、 5年ほど前に、 交野市の星田というところで、 大阪府の住宅供給公社がコンペで住宅事業をやりました。
そこで3人の建築家が入って、 3つのまちづくりをやったことは皆さんもご存じだと思います。
一つは坂本一成さんという東京の建築家ですが、 私達から見れば、 普段あの地域では見られないような建築形態とオープンスペースで構成されていまして、 ほとんど樹木は植えられていません。
非常にハードでドライな道路がありまして、 プランターのようなものが各住戸の前にぽつんぽつんと置かれています。
また水が流れていまして、 私達ランドスケープの人間から言わせますとあれは川ではなくて水路なのですが、 非常に建築的空間手法で水を扱っています。
つまり建築と建築的オープンスペースというのがそこのアイデンティティになっていまして、 それなりに非常に魅力があります。
また、 そこでのライフスタイルも出来て来ていると聞いています。
しかしそれでいいのかという議論につなげたいと思いまして、 この話しを出しました。
またこれと道路をはさんで、 今度は建築家の宮脇檀さんが設計された積水ハウスの戸建て住宅の地区があるのですが、 こっちのほうは見事なくらいに花と緑で溢れていまして、 驚くくらい四季を帯びた花が咲いていまして、 オープンスペースもほとんど人影が隠れるくらいに緑でいっぱいです。
道路をはさんでドライな住宅とウェットな住宅とが見事に対比されています。
もう一つ山手の方に、 山下和正さんが計画された集合住宅がありまして、 その真ん中には川が流れています。
その川は坂本さんのよりは少しランドスケープ的で、 その地域に合った石や花、 緑をそれなりに使っています。
それを囲むように中層の住棟が立ち並んでいます。
以上のように都市近郊に住むということで3つの計画を見たときに、 あの場所性から考えて水や緑のないまち、 水や緑の豊かすぎるまち、 あるいは水をとり囲むまちとあるのですが、 これからの住宅計画の中で、 オープンスペースや水、 緑、 花といった自然、 そして第2の自然といったものをどういうふうに調和させながら、 都市に住むための景観をつくっていくのかなと、 感じました。
それで私の話しはこれくらいにしまして、 以上のことなども踏まえていただきながら、 それぞれ実際に仕事をやる中で、 都市に、 さらに都心に住む際のオープンスペースのあり方など、 お二人に質問をしていきたいと思います。
長谷川
それでは、 どなたでもどうぞ。