この秋のフォーラムでは「都心に住む」、 つまり都心居住について考えていきます。
そこではある程度立体化された中での環境デザインを考えていく事になると思います。
どのようにして立体集住の中に緑などの自然を入れていくのかと。
同時に都市には仕事があります。
仕事に貴重な時間を取られているケースが多いと思います。
そのような中で、 循環のシステム、 野生のシステムを取り戻すことはできるのでしょうか。
吉村
梅田にダイヤモンド地下街というのがようやくできましたが、 そこにはアーケードがありまして、 このように風通しを良くするデザインをやっていく事はとても重要です。
風の道とか、 つまり自然をメインにした常識的なことをやっていけば、 街は良くなっていくとは思います。
今ちょうど、 建築家の黒川紀章さんに誘われて、 大阪のロイヤルホテルの横にできる国際会議場の造園をやっているのですが、 ここでは建築を全面的に17m上げて、 その下の地上部を全部森にして風通しを良くしようとしています。
この考え方は黒川さんのオリジナルな発想ですが、 私は全面的にこの考え方に賛成しました。
共生の思想は、 この建築において実現しそうな感じがします。
ただ光が不足しますので、 光ファイバーを通して人工照明を当てて、 なんとかビルの下でも森が生育できるよう提案しましたところ了承されました。
普通考えるように敷地の中に建築があるのではなくて、 ここでもまず森があって、 そこから建築があるという考え方です。
いずれにせよ自然というものをまず一番自由な所に置いて、 それによって建築も自由であるという考え方が、 黒川さんのこの建築で息づいているような気がして、 今から完成が待ち遠しいのです。
辻本
現在、 計画中のプロジェクトですが山すそに薬草園を計画しています。
これは薬草植物館にもかかわらず一部が地下で、 ガラスの部分だけ地上に出ている部分があります。
そして周りの公園と一体化したデザインになっているのですが、 こういうときには装置や設備の面がしっかりと計画されていないと成り立ちません。
またさっき光ファイバーの話しがありましたが、 蛍光灯も使えます。
蛍光灯は白い光で結構明るいですし、 ナトリウムランプのような熱もそんなに出ません。
あとはそれを使ってどんなデザインができるかです。
あと私が腹が立っていることがありまして、 うちのマンションの玄関や廊下の所に花とかいっぱい飾っていたのですが、 それが非常口の所で、 検査のときに全部撤去されてしまいました。
これは元々のデザインが間違っていると思うのです。
玄関はその人にとって大切なところで、 人に会ったりしますし、 そんな所に花も置けないようなマンションのデザインはないと思います。
建築のデザインの中でベランダに花が置けるようになっていても、 実際は壁に囲まれていて光が当たらないこともあるわけです。
それではハンギングバスケットを掛けるぐらいしかないのです。
建築のデザインをする人には、 このような基本的な事を気付いてもらいたいですし、 もっと植物と共生できる建築デザインもあるのではないかということを、 私は植物館をつくりながら提案しているのです。
建物全体での循環型のデザインを考える時、 それができればいいのですが、 先ほど佐々木さんがおっしゃったように、 大きな設備を入れたりすると非常にお金がかかります。
むしろ屋上に芝生なんか生やして、 じょうろで水をやり、 涼しい空間として利用するほうが完全な循環型になっているのではないかと思います。
よく大企業が巨大な装置を使って循環型とかの実験をしていますが、 しかしながら設備技術者の計算というのは、 うまくいった試しがありません。
だから先程も言ったように、 研究の部分が足りないのです。
技術屋さんがいくら計算したって、 実験なしではうまくいきません。
バイオスフィアというのをやっていますが、 あれもどれだけ成功しているのか分かりませんが、 こういう実験を積むことで、 結果として何か小さなところで実現するのではないかと思います。
だから最初から大きなビルで循環型をやろうとしても、 その大きさで実現するわけがないのです。
実際に仕事をしていまして、 設備とコストの面でいつも頭を悩ましていますし、 温室一つつくるのもなかなか難しいのに、 大きなビルで循環型をやろうというのはとんでもない話しです。
いつかは成功するかも知れませんが、 現実的な方向としては細かい循環を組み合わせたり、 そこに人間の手が入ったりという仕掛けづくりをやったほうがいいのではないかと思うのです。
吉村
今大腸菌が非常に問題になっていますが、 これからもっといろんな最近や病原菌が出てくるという可能性はいくらでもあると思います。
亜熱帯系の都市では夏にはいろんな種類の菌が発生して、 世界中からやってきます。
しかしそれらと共生していかなければならないわけで、 こういうことを考えると、 社会資本として都市に森をつくっていかないと、 これで大腸菌が減るわけではないのですが、 それによって熱が吸収されたりして、 環境に対する負荷が減ることにはなります。
現在、 下流の都会では、 使った水が汚水処理場で浄化されて、 ふんだんに余っているのです。
大都市ほど水があるという皮肉な状況です。
大都市の方が、 処理水でベニスのような水の街や大きな森をつくる条件が揃っているのです。
しかし、 これがなかなかできない。
それは事業主体側にいろいろな規制があるからです。
住・都公団が都市で農地を経営できたり、 森林を造成したり、 お墓をつくったり、 寺院や協会を建設できれば、 どれだけ豊かな街づくりができることでしょうか。
そうなると、 循環型の街ができ、 それによって生態系も守られていくのです。
長谷川
時間が来てしまいましたが、 今日は吉村さんと辻本さんに来ていただいて、 貴重なお話しをいろいろ聞くことができて、 非常に良かったと思います。
ランドスケープアーキテクトである私にとっても、 とても勉強になりました。
今日はどうもありがとうございました。