HARはる基金

阪神・淡路ルネッサンスファンドニュースレター

「HAR はる基金」1998年12月14日 第6号

■■ 転載自由 ■■

発行:財団法人 まちづくり市民財団
阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局


市民による市民のための「復興シンクタンク」立ち上げを

松本 誠(神戸新聞情報科学研究所 副所長)

 阪神・淡路大震災から、間もなく4年を迎える。震災当初の嵐のような混乱期から被災者の生活の場が一時避難所から応急仮設住宅へ移り、いま仮設住宅の解消が行政の日程にのぼる段階にきて、震災復興のリアリティーが徐々に被災地から失われようとしているのは否めない。

 もちろん、インフラや建物の復興と生活再建や産業復興との格差をはじめ問題は山積しているが、この1年近くの被災地は「緊急復興3年」を経て、一種の“踊り場”に立っている。行政のみならず被災者も支援者も“次の一手”を考えあぐねている時期といえる。

 「プロジェクト型まちづくりから居住型まちづくりへ」と題して、復興問題のこれまでと今後を議論した9月5日のHAR基金討論会も、復興の見直し時期に直面していることが浮き彫りにされた。

復興の“踊り場”に立つ生活再建支援とまちづくり

 復興が踊り場に立っているのは、2つの側面に表れている。一つは2年余に及んだ被災者の生活再建に対する公的支援拡充を求める運動が、生活再建支援法の成立でひとつのヤマを越したこと。市民=議員立法という画期的なプロセスを経て、国が実質的に災害被災者個人に対する金銭支給に踏み切ったことなどの成果があった半面、中身の拡充をどのように実現していくか、次の展開を模索している段階にある。

 もう一つは、復興まちづくり。事業地区で着手段階に入るにつれて、まちづくり運動は新たな展開を求められているが、まちの将来像やソフト面を含めた本格的なまちづくり活動に発展させていく課題に対応しきれない地域が多く、住民主体のまちづくりは試練に直面している。“火事場状態”の中でプロジェクト型まちづくりに取り組んできたまちづくり協議会が、長期的な居住型まちづくりへ移行できるかどうかが問われているからだ。

 行政が策定した震災復興計画は、ひと口に「復興10年」といわれているが、まちづくりはもともと「終わりのない旅」である。当初の3年間は本来、壊滅的な震災のダメージからの「仮復興(復旧)」期間とすれば、本来的な「復興まちづくり」はこれから本格的に始まるといってもよい。

21世紀先どりした市民の復興計画へ支援組織を拡充

 「復興バージョン」から「平常バージョン」として、まちづくりや生活再建支援施策に取り組もうという声がある。被災地での取り組みが、すでに震災復興という特殊な状況下の課題にとどまらず、普遍化しつつあるという認識からだ。阪神・淡路大震災の復興は単なる復旧ではなく、歴史的な時代の大転換期を先取りした21世紀の社会・経済システムをつくり出す先駆的な役割を担っている。仮設住宅の被災者の生活支援や高齢者に対するケアシステムが従来の福祉行政の枠を越え、高齢化社会への対応を先取りする総合的な試みが行われてきたのも、その一つだ。復興都市計画事業でも、従来の枠を越えた試みが現場から提起され、不十分ながら試行されてきた。そうした状況と新しい試みや提言が全国各地から注目されて、通常のまちづくりの中に生かそうという動きが続いていることが、何よりの証左である。

 9月5日開催の「討論会」でも、「中長期的な視点で、もう一つ上のランクの復興課題をさぐる」ことが提起された。震災前の“右肩上がり”志向から脱却し、プロジェクト型の復興計画を全面的に見直して、市民の目で見た復興計画を市民の手で立ち上げる時期がきている。そのためには、担い手になる市民の力を高め、専門家と中間支援組織とのネットワークを広げることが必要だ。HAR基金のような市民活動やまちづくりを財政的に支援するファンド、阪神・淡路まちづくり支援機構のような専門家組織の全国展開を図ることも急がれる。こうした市民活動支援組織の再構築のうえに、市民による市民のための復興シンクタンクの立ち上げを、復興5年目の課題としたい。

第6回復興まちづくり助成公開審査会開かれる

山口 一史(ラジオ関西)

 阪神・淡路ルネッサンス・ファンド(HAR基金)は第6回復興まちづくり助成を決める公開審査会を9月5日、神戸市中央区のこうべまちづくり会館で開催し、「まち・コミュニケーション」はじめ14団体への助成を決めた。

 第6回助成は7月から公募を開始し、合わせて15団体が応募した。今回の応募団体の特色は、5回までの審査で助成対象とならなかったところを含めて初応募団体が全体の約半数にあたる7団体もあり、HAR基金の知名度がさらに高まってきたことを裏づけた。同時に活動の幅がいっそうソフト分野に広がり、被災者同士の絆づくりや、その絆を通して地域の結びつきを見いだそうとする意欲的なプロジェクトが目立った点も大きな特徴だった。

 公開審査会は広原盛明委員長はじめ9人が参加し、応募15団体の代表から、それぞれ3分ずつプレゼンテーションを聞いた。わずか3分の持ち時間で活動を説明するには、困難な環境のなかで力をふりしぼっている団体にとっては、かなり難しい注文だったが、要領よく説明をこなしこの面でも“成長”がうかがわれた。

 審査は審査員が各8点の持ち点を応募15団体を大書きした一覧表にシールを貼る形で投票。審査委員9人の過半数にあたる5点以上の得点を得た10団体を2次審査の対象とした。この方針に対し審査委員のなかから「いずれも活動に努力しているのに1次審査で落としてしまうのは忍びない」と“動議”がでて、会場の意見も聞きながら5点未満の5団体のうち会場に残っていた4団体に各10万円の奨励賞的意味合いの「次への一歩賞」助成を満場一致で決定した。

 そのあと2次審査に移り「満額助成が望ましい」ものと「減額もやむを得ない」ものに分けて投票。この投票結果をもとに会場と意見交換しながら助成額を詰めていった。助成総額は546万円となり、予定額の550万円との差額4万円は次回に繰り越した。

第6回助成対象グループ一覧 (1998年9月5日決定)

活動のテーマ 活動グループ名 活動の目的 助成金額(万円)
御万人(ウマンチュ)と共に未来を拓く「わんからの家」 わんから 垂水・須磨近辺で一人で生活する“おとしより”と、まず電話でお話相手となり友達となると共に、手芸などをやってもらい作品を「わんからの家」で販売 36
長田のまちづくりに関する経験交流、学習の研究、発表 長田のよさを生かした街づくり懇談会*2 今まで行ってきた長田のまちづくりに関する問題の調査・報告・学習研究を継続し、各分野の活動を支援する (10)
「わがまち再発見ワークショップ」によるまちづくり 日本災害救援ボランティアネットワーク 住民が実際にまちを歩き、「ちょっと気になるわがまちマップ」を作成することを通じて、まちへの愛着を喚起する 50
「ドングリ育成クラブ(仮)」被災地の緑を市民が育て植える ドングリネット神戸 *3*4*5 市民が自分たちで拾ったドングリを育て植えるプログラムを提供し、被災地での緑の復興と新生に直接的に参加できるようにして、今後街の中での緑について考える場とする 55
白地地域における住民のまちづくり活動の報告書作成 天神町3・4・5丁目自治会 白地地域における住民のまちづくり活動の報告書の作成とまちの復興基本構想の策定 45
見る、聴く、食べるが体験できるアジアタウンづくり 神戸アジアタウン推進協議会*2*4*5 外国人住民と日本人住民の協力による復興まちづくりの推進 50
専門家・地主・住民の連携によるまちづくりの支援 まち・コミュニケーション*4 住宅・生活再建が停滞している原因を調べ、住民の意向を確認するとともに、打開に向けて住民・専門家・行政との橋渡し的役割を担う 90
住吉地区における住民主体の復興まちづくり支援活動 住吉地区復興支援グループ*1*3*5 白地地区における復興まちづくりの主体となる様々な住民組織の結成促進、「住吉第一住宅復興まちづくり協議会」に対する計画調整・支援、空地・未整備道路・緑化方法の現況調査、求女・神東市場での再建組織化・案の作成・提案 (10)
被災地の課題の整理と情報発信、ネットワークづくり 「エイドの会」事務局(震災しみん情報室) 震災から見えてきた課題(日常の地域の課題と災害固有の課題)を整理し、発信するとともに、市民自らがそれぞれの課題に対処するのに必要なネットワークを形成すること 50
「お店やさん」ごっこで易しいまちづくり 須磨浦通6丁目自治会専門委員会*4 むつかしくないまちづくりを進めるため、より多くの人が楽しく参加してアクティブに活動できる場をつくる 50
高齢者と顔見しりなかよくなるボランティア活動 コレクティブタウン確認グループ 高齢者向け朝食サービスの実施や給食サービスでのボランティアイベントを実施を通じて、高齢者にも住みよいまち「コレクティブタウン」を確認する 50
ふれあい住宅コレクティブ居住者交流会の企画・運営 コレクティブハウジング事業推進応援団 *1*3*4*5 公営コレクティブ居住者の交流を通じて、各々の住宅に適応した協同居住の活性化を図る 30
白地地域における新築住宅・3年目の記録とアピール M─NET*5 3年目を迎えた白地地域での新築住宅の現況を把握し、そこに潜む都市・建築計画、まちづくりの課題を発見し、広くアピールする (10)
「灘の浜・ガーデンクラブ」発足支援 「灘の浜・ガーデンクラブ」発足支援の会 「灘の浜・ガーデンクラブ」発足支援の為の入居者とのワークショップ、会合諸活動 (10)
                              合計金額 546
注)*○(数字)は第○回助成団体をあらわす

・・・活 動 グ ル ー プ の 紹 介・・・

市民活動の発展に向けて

(震災しみん情報室)実吉 威

 わたしたちはこれまで、「グループ名鑑 兵庫・市民人」刊行やNPO法に関する情報提供などにより、市民活動の基盤整備に関わる様々な活動を行ってきました。

 今年6月に「まち・コミュニケーション」「阪神大震災を記録しつづける会」との共催で実施した『エイドの会』は、「被災者生活再建支援法」の成立を受け、それだけでは解決のつかない問題、あるいは災害対策をこえた日常の地域づくりのテーマとして何があるのか、その課題を持ち寄り共有しようという趣旨でした。80団体からアンケートのご回答をいただき、団体間の情報交換や相互理解の場づくりという役割を果たせたと思います。

 12月にNPO法が施行され、市民活動団体自身の活動の深化・発展が求められています。震災を契機に誕生・活発化した市民活動団体を、情報提供やネットワークづくりを通してサポートし、市民社会の成熟に寄与したいと思います。


課題の共有をめざし40名が意見交換した「エイドの会」フリートーク

天神町3・4・5丁目自治会

会長 堀 省一

 未曾有の阪神淡路大震災。私達は激甚からさまざまなことを学びました。自治会は以前からありました。しかし、これはコミュニティーとしては全く機能しておらず、単なる行政の下請け期間でしかありませんでした。

 私達天神町3・4・5丁目自治会は、震災を教訓として、新たなるコミュニティーの構築に取り組むべく、日夜努力しています。そのための最重要事項、それは、地域住民の「合意」形成にあると考えられます。如何に民主的・合理的にそれを作り出すか。幸い京都大学農学部造園学科の皆さまのご協力を得て、「ワークショップ」に基づく住民集会を重ねながら、少しずつではありますが、目標に向かって前進しつつあります。写真は9月上旬に行なわれた集会のスナップです。今までに、ゴミ問題・排水溝の復旧・街頭問題等を解決してきました。当地区では神戸市による「都市計画道路建設強行」という大変な問題を抱えています。

 この大問題に対処するためにも、今までの活動の成果を総括し、更なる活動の発展に向けて、今回ご助成いただいた資金をもとに、「活動記録集」発刊のため頑張っているところです。

 

第6回助成決定までの経過(98年7月〜98年10月現在)

98/7/4-5 第2回NPO全国フォーラム’98関西会議への参加
  7/15 第6回助成公募開始、申請受付
  8/15 申請締切り
  9/5 公開審査会<こうべまちづくり会館>・公開討論会
 10/30 第5回助成の活動報告と第6回助成の決意表明の会

HAR基金助成活動のヒアリングを実施中

 HAR基金では、2頁掲載の第6回までに合計81団体へ活動助成を行ってきました。その活動の実状を把握し、成果や課題を見いだすことが今後の市民まちづくり活動、あるいは民間による基金支援の活動に役立つと考え、運営委員によって各地区のヒアリングを実施しています。夏の間に、下記の3回が行われました。これからも活動現場を訪問し、いろいろと伺いたいと思いますのでよろしくお願いします。

第1回 (980609)

築地→淡路島→芦屋
参加委員:
 広原盛明(京都府大)
 林泰義(計画技術研)
 小林郁雄・天川佳美(コー・プラン)
説明者:
 山口憲二(尼崎・築地)
 倉本佳世子(淡路・富島)
 藤原千秋(芦屋・中央)
訪問地:
 尼崎市築地地区土地区画整理事業+地区改良事業 →阪神高速・明石大橋→淡路島

第2回(980719)

野田北部・鷹取東→真野
参加委員:
 鳴海邦碩(大阪大学)
 土田旭(都市環境研)
 小林郁雄・天川佳美(コー・プラン)
説明者:
 浅山三郎(野田北部)
 森崎輝行(コムスティ)
 マスダマキコ(ドングリネット神戸)
 宮西悠司(真野・立江)
訪問地:
1。鷹取駅前住宅2階・老人いこいの家
  (野田北部まち協)にて/ドングリネット神戸、神戸アジアタウン推進協議会のヒアリング
  野田北部地区(街なみ環境整備事業)→鷹取東地区(震災復興土地区画整理事業)→鷹取教会ペーパー
  ドーム→共同化住宅(森崎設計)

2。真野/真野地区復興まちづくり事務所にて、ヒアリング
  真野地区(密集事業・地区計画)→東尻池町7丁目立江地区共同建替 →コレクティブハウジング     →地域福祉センターなど(解散)

第3回(980904)

新長田周辺
参加委員:
 土井幸平(大阪市立大)
 小林郁雄・天川佳美(コー・プラン)
説明者:
 上田耕蔵(神戸協同病院長)
 小野幸一郎
 (まち・コミュニケーション)
 田中保三(兵庫商会)
 金田真須美(すたあと長田)
訪問地:
 新長田駅前再開発事業(ピフレ)→ 神戸の壁 →神戸協同病院 →まち・コミュ>
ニケーション →御蔵通 → すたあと長田 →菅原地区 →菅原市場 →兵庫駅(解散)

1999年2000年の活動計画

 震災から4年が経ち、やがて5年目を迎えようとしています。1995年9月にHAR基金を設立したとき「5年間は支援しよう」との目標を立てました。幹事で相談したところ、次のような予定ではどうか、となりました。

 つまり、今年と同じ時期に助成募集と審査を行い、これ(第7回)を最終助成とすること、2000年の春に会計(募金)上での収束を図ること、さらに第7回助成の成果が概ね見えてきた頃、東京で全体を総括し、今後の民間による計画支援問題を考えるシンポジウムを開くこと、等です。なおそれにあわせてHAR基金の全記録を読みやすい本にして刊行したらどうか、との話題も出ています。

 支援者の皆さんからも、今後の運営について是非ご意見をお寄せ下さい。次号(第7号)のニュースレターでは、より詳細な活動予定をお伝えできると思います。

お問い合わせ先

〈事務局〉
財団法人 まちづくり市民財団
〒102東京都千代田区平河町2-14-8 青年会議所会館内
TEL.03-3234-2607   FAX.03-3234-5770
〈現地運営事務局〉
阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局
〒657 神戸市灘区楠丘町2-5-20 まちづくり(株)コー・プラン内
TEL.078-842-3563  FAX.078-842-2203
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/mokuroku/tosi/fukkou/chosya.htm

〈今号の編集〉
大阪市立大学生活科学部
藤田 忍・福島 麗実子
 〒558 大阪市住吉区杉本3-3-138
 TEL.&FAX. 06-605-2821

東京都立大学建築学科 都市計画研究室
高見澤邦郎・岡崎篤行・関 真弓
 〒192-03 東京都八王子市南大沢1-1
TEL.0426-77-1111 ex.4786  FAX.0426-77-2793
http://www.arch.metro-u.ac.jp/~msuzuki/


HAR第7回ニュース(未)
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