集中討議・神戸宣言

まちづくりとすまいづくりの
連携を目指した提案

* * *

われわれの問題認識

われわれのスタンス

 まちづくりは、 住民と共にしかあり得ない。 住民に学び住民に理解されるまちづくりを目指す。 多様な人々が生きることができ、 一人一人の力を発揮できる開放されたまちの再生、 創出のため必要なことを行う。 これは生活全般を支えるまちづくりであり、 いわゆるハード・ソフトの区別には拘泥すべきではない。 このようなスタンスに立つために、 全体を重視し部分をそれに沿わせるトップダウン型の復興システムでなく、 部分を重視しその集合としての全体を調整するボトムアップ型の復興を支えるシステムの構築に貢献したい

われわれの提案

連続復興システムを確立する

 震災後一年半の経過からわかるように、 復旧・復興の過程においてはまちやすまい、 生活を巡る人々の要望は刻々と変化するものである。 そうした現実をふまえ、「地域」における「生活」を継続させながら連続的に人々の要望やまちの状況をフィードバックし徐々に復興していくシステム、 すなわち「連続復興システム」を確立する必要がある。

単一目的から多目的

 まちが連続的に復興するためには、 仮設でありながら本設の機能を持つといった「機能の弾力性」、 平時から多目的に使いうる用地を確保しておくといった「まちそのものの弾力性」が必要である。 既存の事業制度は、 道路・公園・学校・住宅などそれぞれ単一の目的を持ち、 単独で運用されるが「まち」の観点から包括化することが求められる。

選択肢を増やす

 今回の震災では画一的に仮設住宅が大量に用意されたが、 被災の状況、 被災者の属性に応じて、 短期の避難所、 半恒久的仮設、 自宅の修繕など多様な方法が求められた。 住民が生活の再建方法を自らの意志で自由に選べるよう法体系の枠を乗り越えた多様な選択肢が用意されなくてはならない。

まちづくりを広げる戦略として専門家を育成する

 長期に渡る復興過程の各局面においては、 個々人の意見の調整や目標像の共有が必要とされる。 しかし現状の「まちづくり協議会」等の住民組織が上記の役割を担うには限界がある。 従って、 地域に生きる人々の生活の将来の道筋を示しながら、 地元組織の自律を支援する役割を担う専門家が必要となる。 まちづくりセンター等のインターミディアリー(中間組織)が様々な分野の専門家を巻き込みながら、 中間領域で活躍しうる地域・情報・生活のオーガナイザーを育成する形で確立されて行かなければならない。

被災から復興までの過程をサポートする地域情報拠点を構築する

 被災時から復興までに必要な情報を自ら発信し、 選択を可能にする情報拠点を地域ごとに整備する。 同時に多量の情報を整理するエディター的な役割を果たす情報オーガナイザーの育成を行い、 平常時からまちづくりに必要な情報の提供を行えるようにする。 このことが連続的な復興や非常時おいても幅広い選択肢を可能にする。

多様な活動を行っているまちづくり支援NPOのネットワーク化

 活動の場面や組織の規模・形態等において多様な形で存在し、 かつ今後も増えるであろうまちづくり支援のNPOを、 多元・多層的なネットワークとして連携させるような役目(コーディネート機能)を担うことのできるフットワークの軽い専門家組織が形成されていくことが重要である。 またそれらは、 地域においてまちづくりの拠点を構築する形で成立していくことが望ましいと言える。

草の根の経済活動をまちづくりのシステムとして取り入れる

地震は多くの人々から生活の糧を奪いさった。 生計が立たなければ生活もない。 避難した人々が、 地域に帰り生活を取り戻すために、 復興関連、 その他の事業は、 草の根の経済レベルまでおろされる必要がある。 国や自治体は地域での住民の経済活動を支える初期投資を積極的に進めなければならない。 逆に地域の自律性を奪うような公共投資は慎むべきである。 まちづくり支援NPOは、 各地域における市民のニーズと供給側を結びつけ、 回転資金を獲得して、 住民が自ら生活を再建することを支援する必要があろう。

地域での復興を助けるための国、 自治体の支援のあり方を変える

 地域で住民主体の復興まちづくりに必要とされていることは多岐に渡る。 しかしその多様性に行政のタテ割りシステムは対応できていない。 地域の必要に応えるためには、 タテ割りの資金が地域のために総括され、 使途には地域の意志が反映されるべきである。 行政は資金の公正な分配と監査と共に地域住民の主体的なまちづくりの支援の役割を果たす。 住民は自ら最も必要とする事柄に資金を回せるようになり、 限られた復興資金が有効に使われることになるだろう。

計画から事業への連続性が確保できる
地区のまちづくりシステムを構築する

 現在の地区レベルのまちづくりシステムでは、 まちづくりの総意を取り付けながら徐々に個別のアクションへ進む技術と制度を擁していない。 例えば、 ビジョンの作成から地区計画制度の適用、 個別事業の実施へ連続的に移行できるような、 新しいまちづくりシステムの構築が必要とされている。

住民の多様な活動を尊重し、 そのまちづくりへの可能性を育成する

 地域における豊かな生活を実現させるために、 住民の現在までの多様な活動やライフスタイルを尊重し、 かつそれをまちづくりにつなげるための支援を行う専門家が必要である。 またその可能性を大きなものにするためには、 日常的な生活に根ざした「まちづくり教育」の場面が、 専門家のNPO化を伴う形で用意されていかなければならない。

阪神淡路大震災の復興をめぐる集中討議と提案として

阪神淡路大震災復興集中討議実行委員会

1996年9月13日 神戸にて

* * *
テキストのファーストアップは Nifty GHA02037 つじさんによる
なおこのテキスト全文のネットワークへの全文掲載は横浜国立大学の高見沢実氏と東京理科大学の小泉秀樹氏のご尽力により可能となったものである。
(c) by 阪神・淡路大震災復興集中討議実行委員会

関連情報「きんもくせい」38号へ
きんもくせいホームページへ
HAR基金ホームページへ
支援ネットワーク関連ページへ
学芸出版社ホームページへ