きんもくせい50+36+1号
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現場に真実はあり、細部に神は宿る

まちづくり会社コー・プラン代表

小林 郁雄


 師・水谷頴介の口癖であった「時流に乗るな、多数派になるな、在野精神」という村野藤吾さんのことばを、噛み締めて飲み込もうとする時に、舌に残るのが「現場に真実はあり、細部に神は宿る」という現場主義具体自律宣言である。「時流」という時間軸でも、「多数派」という空間軸でも、孤立無援の自律主義人生をかろうじて支えたのが、現場(リアリティ)であり細部(ディテール)であった。それが水谷さんからことあるごとに学んだ核であったと、今にして思う。
 参画協働の声がかまびすしい。確かに21世紀の市民活動社会(市民まちづくり)の基本はその倫理的論理的基盤である「合意形成」をもとにした参画と協働である。民主主義の本義に従えば、間接代議制のまやかしから、戦後50年にしてようやく辿り着いた結論である。個人の「自律と連帯」が政治、経済、社会の基底にあることを確認すれば、自ずから政治、経済、社会への「参画と協働」が行動原理になる。そして、それを支える情報技術(IT)がやっとそれに応じた環境をつくることができるようになったからと、いえよう。
自律連帯にもとづく参画協働は、結局、直接民主主義の手法であるといえる。だから、地域主権・情報共有が重要である。「地域主権」とは、自分たちの住み活動する時空間である地域を、自分たちで計画し作り上げ運営していく(その運動を「市民まちづくり」という)、それを自分たちが中心になり自律的に進めることである。国家の効率的運営のための「地方分権」といった矮小化されたことではない。
 「情報共有」とは、そうした地域における自律的な市民まちづくりが進められる基礎条件である。その地域に関係する情報が構成している地域の市民に共有されていなければ、自律も連帯もない。官僚などがかき集め溜め込んできたものを、公開請求にやっと「情報公開」などといった姑息なことではない 参画協働社会は、地域に主権があり、情報を共有することが、必要不可欠である。
 地域の主権を支えるのは現場主義である。刑事は行き惑ったら現場に戻るという。中坊公平さんの行動原点は現場である。現場に真実がある。
情報の共有は細部へのまなざしに他ならない。すべての構築物は詳細部分の集積である。細部を知らねば全体の理解はあやうく、細部に神は宿る。(030413記)
* * *
 「きんもくせい」再復刊の巻頭頁はリレー論文にします。この1年間、連歌のように「参画協働のまちづくり」をテーマに、論議を続けて行くようにしていただけたらと考えます(もちろん、突然にテーマが変わることもアリですが)。
 次号は、ひょうご市民活動協議会(HYOGON)代表の野崎隆一さん(遊空間工房)よろしく。

(小林郁雄→野崎隆一→)


全国に広がる コレクティブ住宅

石東・都市環境研究室

石東 直子


  阪神大震災後に全国初として事業化された公営コレクティブ住宅「ふれあい住宅」(10地区、341戸)は、入居してからもう5年半から4年になる。震災直後の復興公営住宅という状況から、必ずしも協同居住を指向した人たちが入居したわけではなく、さらに、被災高齢者のためにシルバーハウジング制度で建設されたものが多いので、コレクティブ住宅=高齢者住宅である、または、生活援助員つき住宅であるという曲解されたイメージを広めてしまった。
 本来のコレクティブ住宅は70年代ごろから北欧を中心に進められてきた住まい方で、個人の自由な生活を基本に、家事や育児の協働による合理化、協同で住む安心感と楽しさをもつ住まい方を指向する人たちが住まい、居住者たちで住運営をしている。建物形態は個人の独立した住まいに加えて、必要とされる共用空間や設備を備えている。



●ふれあい住宅の今

ふれあい住宅は入居してから数年が経ち居住者の入れ替わりも少なくなく、各ふれあい住宅の協同生活の現状はさまざまである。下町長屋のように隣人との往来がある住宅、月ごとに食事会や誕生会をして和やかなひとときをもっている住宅、忘年会や新年会、雛祭りなどが恒例になっている住宅、愛好者たちがガーデニングを楽しんだり、ボランティア登録をして活動をしている住宅もある。一方、居住者全体の高齢化が一段と進み、共同活動のエネルギーがなくなっている住宅もある。しかし、復興公営住宅に移り住んで既に150人にも及んでいるという孤独死は、ここではない。
 
昨秋、ふれあい住宅連絡会が企画した一日バスツアーの参加者に行ったアンケートによると「ふれあい住宅の住みごこち」については60人の回答者のうち77%の人が「住んでよかった」と答えており、20%が「あまりいいとは思わない」と答えている。 


●公営コレクティブ住宅の全国展開

 被災地コレクティブ住宅は高齢者対応住宅のひとつのモデルとして、各地の自治体から注目を集め、視察が相ついだ。まちづくり協議会、福祉ボランティア組織および個人やグループの視察も少なくない。
 被災地型と同じシルバーハウジング制度による公営コレクティブ住宅の事業化は、大阪府営門真御堂ふれあいシルバーハウジング(20戸、2001年1月入居)、長崎県営本原すこやか住宅(14戸、2001年5月入居)、豊橋市営旭本町高齢者住宅(8戸、2001年5月入居)がある。シルバーハウジング制度によらない一般公営住宅の多世代コレクティブ住宅は埼玉県営蕨ふれあい住宅(19戸、2002年4月入居)や豊橋市営池上住宅(第1期40戸、2002年8月入居。第2期46戸、2004年5月入居予定)がある。いずれの事業も、計画段階や入居募集前から入居後に至るまで、新しい住まい方周知のための説明会やワークショップを行っている。

   なお、大阪府は府営住宅居住者の単身高齢世帯や高齢者夫婦のみ世帯の増加が進み、今後も増加が予測されることから、被災地コレクティブ住宅を検証し、「ふれあいハウジング整備事業」を創設して、シルバーハウジング型、集住型(自立型コレクティブハウジング)、集会所型(ふれあいリビング)の3種の事業を推進している。集会所型ふれあいリビングは既設府営住宅に集会所とは別に「協同生活の場」を整備し、運営は住民の自主運営に委ねるもので、コレクティブ住宅の共同室を別棟にもったスタイルである。現在3ヶ所が事業化され、活発な活動が進められており、週に6日間午前10時から午後4時ごろまで、子どもの遊び場、各種サークル活動や住民のたまり場として活用され、有料の喫茶や軽食サービスがある。図書コーナーやコンピューターコーナーも備えている。
 これらの事業に際して、事業主体の大阪府は民間コンサルタントにコーディネイト業務を委託契約し、担当の府職員と協働して居住サポートを行っている。


●民間コレクティブ住宅の展開

 民間の多世代コレクティブ住宅の展開も始まっている。
2002年6月に入居した「芦屋17℃」は17戸のコーポラティブ方式の分譲コレクティブ住宅である。事業にあたって参画者を募り(共同建設組合を設立)、入居までの2年近くにわたって建物建設のための会合と協同居住のイメージを共有するための会合を重ねてきた。1階に共用リビング(170u)と屋上に庭園があり、住戸は50u〜100uの広さがあり、良好な地域環境に建つ5階建ての集合住宅である。現在(03年3月)の入居世帯は10世帯と1設計事務所でまだ空住戸があるが、幼児のいる若い世帯、成人した子どものいる世帯、初老夫婦世帯、キャリアウーマンや70歳台の単身世帯など多様な世帯構成である。ライフスタイルとして協同居住を指向した人たちの集まりなので協同居住運営に前向きの歩調が感じられる。
 東京都荒川区に28戸の多世代型賃貸コレクテイブハウス「かんかん森」が今年6月の入居を目指して進められている。早期に居住者グループを募り、居住者の意向を計画に反映させ、協同居住の学習等ワークショップの開催を3年近くに及び続けている。コレクティブ住宅の研究や啓発活動を続けてきた専門家たちがNPOコレクティブ社を設立してコーディネイトし、理想のコレクティブ住宅をつくりあげようとしており、入居後の展開が楽しみなプロジェクトである。


●コレクティブ住宅の検証

 現在、わが国でコレクティブ居住を推進する意図は、公営コレクティブ住宅と民間コレクティブ住宅とでは若干の違いがある。
 公営コレクティブ住宅は少子・高齢社会での福祉・住宅施策のひとつのモデルとして、主として高齢者向け住宅が供給されている。自室に閉じこもりがちな高齢者の日常生活を快適にし、生きがいづくりを促す住まい方として、日常生活の中で自然に隣人たちとふれ合う仕掛け「共同室」を備えた住宅の供給である。
   民間コレクティブ住宅はまだ事例が少なく、検証するには今後の展開を待たねばならないが、紹介した2事例は多世代コレクティブ住宅であるが、欧米の先進事例のように食を中心とする家事や育児等の日常生活の一部の協同化を積極的に進めていこうとするものではない。小家族や単一家族では味わえない大家族のような楽しみを共有し、何か手を貸してほしい時には互いが助け合える関係をつくり、安心した暮らしができる住まい方で、社会の変革期にある日本的なコレクティブ住宅と言えよう。あるいはわが国でのコレクティブ住宅勃興期のスタイルとみるのが適切なのかもしれない。


●コレクティブ住宅の展望

  90年代から加速した少子化、高齢化、単身世帯化は今後も続くであろう。特に大都市では老若男女を問わず単身世帯が全世帯の30パーセント近くを占めるようになり、ライフスタイルに大きな変化が見られるが、住まい方に関してはそれに対応するものがなかなか見えてこない。
  今後、この日本型コレクティブ住宅は、さらに日本的特性を深めて、住いづくりの枠を越えたまちづくりや豊かな生涯生活設計づくりへと連携し、現在かかえる諸課題の解決策に有効に機能すると考える。
  例えば、60年代から70年代に開発された団地はオールドタウン化し、近隣センター等の空店舗も目立ち、町全体が衰退の様子を示し、団地再生が緊急課題となっている。コレクティブ住宅の導入は団地再生の有効なツールとして機能し、地域再生、コミュニティ活性化につながると思われる。高度経済成長期に大量に建設され、建替え時期を迎えようとしている集合住宅は、建替えに際して一部にでもコレクティブ住宅を導入すれば、住戸面積をそんなに広げることなく対応できるし、高齢世帯や単身世帯にも建替えが受け入れやすいであろう。また、街中の集合住宅の低層階に通りに面してコレクティブの共同室が位置していると、通りに温かな景観を醸し出してくれる。さらに、一人、二人ではなかなか実行しにくい地球環境に負荷をかけない暮らし方が協同居住なら実行しやすい。
  コレクティブ住宅を単なる新しい住いづくりという視点だけでとらえるのではなく、地域再生、コミュニティの活性化、地球環境と共生する持続可能なまちづくりの視点としてとらえると、日本型コレクティブ住宅の更なる展開につながるのではないだろうか。

 

居住者が仲よしの子育てグループを招いての定例の集い
大家族のようなクリスマス食事会
*写真はすべて「芦屋17℃」

 


〜震災復興で加速する企業と地域の新たな関係を考える〜

企業文化と地域社会イノベーション

神戸商科大学

加藤 恵正

 
 阪神・淡路大震災からの復興過程において、NPOやボランティアといったいわゆる市民セクターの台頭は特筆すべき現象であった。震災後1年間に活動したのべ130万人のボランティアの活動は、これまでの地域社会経済システムのあり方を再考・再編する契機となったことは論をまたない。こうした市民活動は、これまでにもその活動は仔細に紹介され、98年のNPO法の成立ともあいまって新たな主体としての認知は確立してきた。しかし、被災地における復興を展望すると、いわゆる既往主体である「企業」や「行政」にも大きな変化があるようだ。とりわけ、企業はこれまで「まちづくり」という観点からは必ずしも積極的に関与する主体として議論されなかったこともあり、被災地における新たなまちづくりの視座を提供しているように思われる。次回以降、「きんもくせい」においてこうした企業を数回事例としてとりあげ、震災後に地域との関係づくりについて再考し今後の地域社会経済システムのありかたについて若干の考察を行いたいと考えている。
 企業文化が都市・地域経済の再生と関連してその重要性・課題が議論されたのは、1980年代の民活全盛期であった。たとえば英国における都市開発公社やエンタープライズ・ゾーンといった企業活力に大きく期待した政策では、民間企業を主体とする都市再生事業がもたらす功罪を「企業文化」という観点から論じていた。もともと企業文化という概念は、経営学における組織全体の外部環境適応に関わるキイワードのひとつとして1970年代に登場したものである。どちらかというと企業の内部構造のあり方に関わる議論として位置づけられてきた「企業文化」は、現下における社会経済システムにおける評価のありかた(コーポレイト・ガバナンス)に関わる議論の展開ともあいまって、企業と外部環境、より具体的には都市や地域との相互的関係のなかで捉えなおす必要があろう。たとえば、従来企業内部で行ってきたR&Dも、企業外部の様々な主体との情報共有を行いつつイノベーションの突破口を切り開くことを指向する地域イノベーション・システム構築に向かいつつあることは周知の通りである。さらに、こうしたことと関連して地域社会における直接的には企業ビジネスと関わりを持たないようにも見える主体や活動との相互的学習(collective learning)は、企業と地域コミュニティが連動して地域内部に「社会イノベーション」を創出する可能性を示唆していると考えてよい。
  今回の連載は、現代における企業文化を、企業活動と地域社会との関係から見出すべく、被災地に所在する企業を事例としてファクト・ファインディングを試みるものである。これまで、地域づくりにどちらかというと「排除」され「無関心」でもあった企業が、どのような形で地域社会との関係を持ちつつあるのか、こうした新たなまちづくりの主体の登場によってコミュニティ形成にどのような変化がもたらされているのか。かかる課題について企業や企業家の具体的な姿から、地域社会の将来像を考えようとするものである。

 

被災者復興支援会議V 「地域と企業]フォーラム030408
(支援会議では、復興の残された大きなテーマとして地域と企業の関係を問い直している。左端が著者) 写真/小林郁雄


京都市都心再生に向けた取り組み

第25回都市公団まちづくり研究会/講師・岸田里佳子(京都市都市づくり推進課)

都市公団

田中 貢

 

 あの京都ホテル・京都駅ビル問題の景観問題、また料亭と都心マンション反対運動など、ここ10数年何かと話題を集めていた京都市内の「(まちなみの景色)京町家再生」について、行政が住民意向を受けながら約1年半かけて一つの方針を纏め上げた。

 将来目指すまちの有り方を、公開の場で、市民の注視の元、共に議論しながら作り上げた。この「新しい建築ルール」の作成プロセスそのものが、市民参加の合意形成の形である。
 また、岸田氏は最近「職住共存の都心再生」(学芸出版社)、「造景35」の2冊の本を出されている。京都の町家をどのようにして合法的にまた、合理的に残し、観光資産として生かすかという行政側の視点。そして住まい手側としては、自信をもって住みつづける文化の視点。また「よそ者」「若者」がそのスタイルが楽しいと古家に住み働く場所となり楽しむ視点。などが見えるのではと思います。
 そこで本日の研究会では、国の都市再生プロジェクト推進費調査や京都市条例(40条+市条例による区域取りで準防火を外す)など京町家の最近の取組状況に加え、4月1日施行の京都都心部の新しい建築ルール(規制強化)などの取組、都市再生本部事務局主催の「歴史的たたずまいを継承した街並み・まちづくり協議会」との連携などについて、説明していただきました。
 一貫している主張は「全ての建物を町家にするわけではなく、中高層の建築物もある中で、まちに賑わいがあり、持続可能なまちなみをつくっていく」という思想であると思います。随一のベスト追求ではなく、そこそこのベスト(モアベスト)論が住民合意をこなしていくためにも必要な判断でありそうである。
 歴史的まちなみの保存について、京都人に「こだわり」がある人もいる。若い人が古臭さも感じていない。この町家は使ってナンボ。住みながらにして全国発信したい。このような「京都ブランド」の力も、一過性の文化でないようにしないと、将来にその反動が起こる可能性を潜めている。
 最後に、この研究会では過去、国の関係者に2回話してもらった、どちらも女性である。明快に切って捨てる分析力と行動力にまったくこちらがひれ伏すばかり。これからもいかんなく持てる力をおおいに発揮していただきたいし、今回もしがらみのない「よそ者」であるからこその力を見せてもらったような気がする。
(なお、この記録は私の記憶に基づくものであり、まったく思い込みで記載した箇所もあるかもしれない、断りを入れさせていただきます。当日の記憶メモと配布資料は、m-tanaka01@udc.go.jpへ連絡を)

講義風景 '030326

 


大都市大震災軽減化特別プロジェクト(大大特)はじまる

神戸大学図学教室

大西 一嘉


  文部科学省研究開発局企画課防災科学技術推進室が主導する研究委託事業として平成14年度から18年度までの5年間で実施される研究プロジェクト(通称、大大特)がある。ローカルな(?)まちづくり誌にすぎない本誌にいきなりこんなお堅い話で恐縮だが、実は、きんもくせいの発行主体である「阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク」をアンブレラ組織として、私たちで当該プロジェクト公募に申請したところ委託研究開発に参画できるようになったことから、せっかくの機会なので支援ネットワークの諸活動を通じて積極的に研究成果を公開し、議論する場としても活用していこうという話になり、それが「きんもくせい」復刊のきっかけとなったという経緯がある。復刊を心から願っていた私としては、まさに思惑通りの展開に持ち込めたと密かに悦にいっている次第である。結果的には任意団体の受託行為にクレームがつき潟Rープランに受託契約窓口をお願いしたが、近いうちに支援ネットワークそのものをNPO化することも関係者間で合意されたので、NPO登録後は種々の問題にも幅広く対応できる心積もりである。筆者は当該研究プロジェクトの取りまとめ組織の一つである地域安全学会広報理事も務めており、復刊にあたっては最初にスポンサーサイドの話も含めてプロジェクトの全体像を説明しておくべきであろう、ということで簡単にその概要について紹介したい。
  そもそも今回の研究開発事業は、文部科学省が掲げる「新世紀重点研究創生プラン」(RR2002:"Research Revolution 2002")において位置付けられた重点5分野において、産官学の国家的な研究開発機関をつくり委託事業として進められるものである。重点課題研究の中核となるコア組織をあらかじめ定め,公募チームとの連携により効果的な研究推進体制をつくることになっている。
 【重点5分野】
 1.ライフサイエンス  2.情報通信  3.環境  4.ナノテクノロジー・材料  5.防災

 ここで防災分野は都市再生プログラムの一環として位置付けられており、研究対象地域として特に首都圏(南関東)や近畿圏の大都市圏での大地震による人的・物的被害の半減を目指して科学的・技術的基盤の確立を大きな目的としている事から「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」(大大特)と名づけられた。防災分野だけで平成14年度で27億円の研究費が投入されたといわれる。科学技術・学術審議会研究計画・評価委員会が評価選定を行なうという形式を取っているが、実質的にはその下に設けられた「防災分野の研究開発に関する委員会」で議論が行なわれ、コア組織として旧・科学技術庁系の独立行政法人・防災科学技術研究所を始め、東大地震研究所、京大防災研究所などが指定され公募が行なわれた。
  大大特はさらに、4つのプログラムにより構成されており、研究費の大半は、かつての地震予知研究の流れを汲む活断層調査(T)と、日本産業界が世界に誇るロボティクス技術を駆使した期待の星レスキューロボット開発(V)に流れているとみてよいだろう。
 T)地震動の予測「大都市圏地殻構造調査研究」 14億円
   大規模ボーリング調査等による活断層調査、地震動予測図、断層モデル等の作成
 U)耐震性の向上「震動台活用による耐震性向上研究」) 3億円 
   実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)運用体制整備、建物崩壊の実大実験
   原発対策という側面もある
 V)被害者救助対応戦略の最適化「災害対応戦略研究」 Wとあわせて14億円
   レスキューロボット開発、ITを活用した先端的シミュレーション開発
   川崎市と神戸市に屋内大規模テスト場(NPO国際レスキューシステム研究機構)
 W)地震防災対策への反映「地震防災統合化研究」
 地方自治体等の防災対策の指針となる「地震防災対策標準ガイドライン」作成を念頭におきながら、上記の3つの研究開発成果を統合し具体的な防災対策に活用できるように研究を進めるものとされており、この統合化研究は以下の3課題で構成される。「3.復興・復旧」については分科会での様々な議論の中で設定されたと聞く。研究費のウェートは小さいものの政策科学的側面も併せ持つ意義の高い課題である。
 W−1.事前対策(木造住宅耐震補強政策研究)/東大生産技術研究所
 W−2.災害情報(確率的地震予測,報道,デマ)/東大社会情報研究所
 W−3.復興・復旧/筑波大学・地域安全学会
  復旧・復興課題の推進にあたっては、被災地の復興過程から得られる知見を最大限取り入れてこれまでの復興まちづくり現場での教訓を体系的に再整理し、次なる大都市災害への備えとして生かすべきであろう。この復興復旧分野は下記課題で構成され、関西地域の機関からは6課題が選ばれている。
 @コミュニティ自律的救済 A住宅喪失世帯への対応 B被災集合住宅復旧・復興 C被災戸建住宅補修支援プログラム D住宅再建支援プログラム  E生活再建フローと支援メニュー F復旧復興評価手法 G事前復興計画の立案・策定 H地域経済復興支援(以上9課題はH.14〜H.18の5年間継続)
 I震災復興政策評価 (H.14〜H.16の3年間で終了)
(以下の2課題はH.15年度以降に順次参画予定)
 J避難所計画の有効性評価システム K(テーマ未定):防災科技研・地震防災フロンティアセンター(牧)

 当支援ネットワークは上記の課題H「地域経済復興支援」に取り組んでいる。小林郁雄氏を筆頭に、天川雅晴(アップルプラン)、上山卓(コー・プラン)、久保光弘(久保都市計画事務所)、中沢孝夫(姫路工業大学)、山本俊貞(都市問題研究所)及び筆者が加った7人の侍が勢ぞろいし、顧問に小森星児先生を迎え、心やさしい天川佳美さんのサポート(監視?)下で工業、商業、業務の各分野に分かれて共同研究を継続中である。復興まちづくりに精通されている専門家ならではの発想や得難い教訓の数々に触れることは一介の研究者である私にとってなかなか刺激的な経験である。
 今後、本誌上で他研究課題も含めた最新動向紹介コーナーも設ける予定であり、読者からの忌憚のないご意見や主張を期待している。さらに、これまで定期的に開催していた支援ネットワーク会議も最近はやや息切れ気味であったので、新年度から隔月で我々の研究会活動報告の場として活用する事にした。行政や実務専門家、研究者、市民も含めて広く議論をしていきたいと考えている。巻末のニュース欄でも案内記事があると思うが、さっそく5/2(金)6時〜 最初の合同報告会を、新装オープンした人と未来防災センター別館のお披露目を兼ねて開催することになっている。ご関心のある方は是非ご来場願いたい。
  平成7年5月に出された科学技術会議の報告においても、今後の研究開発の方向として重視すべき点が次のように述べられている。阪神・淡路大震災の経験として、第1に被害を前提としつつ総合的な被害軽減対策をとること、第2に生活や経済活動等、機能集中する都市では、生命確保と共に社会の諸機能への影響を最小化し迅速な復旧を図ること。第3に大震災の事象を十分調査し因果関係を解明すると共に、膨大なデータを有効に活用して研究開発を行うことが重要である。このような観点から、耐震性向上などハード面のみならず、避難、復旧活動等に有益な情報や手段の提供、災害に強い都市づくりを支える計画技術等、特にソフト面での研究開発がより重視される。即ち、スムーズな復旧復興にあたって必要な事項を復興まちづくり現場の実態に則して体系化し発信する事が、被災地にとって今後も重要な役割であることは論を待たない。
  一方、これまで主に基礎研究を担ってきた大学では国立大学独立法人化が目前に迫り、全ての研究者が自ら競争的資金獲得に奔走せざるを得ない状況に追い込まれている。研究分野では何が何でも防災に結び付けて予算獲得を狙うまさに「防災バブル」的状況に陥っているかの感もあり、地道に地域防災研究に取り組んできた者としてかなり複雑な心境ではある。とはいえ、きんもくせい復刊を喜ぶ一人として、産官学の連携が地域の力に結び付けられるのであれば、これもひとつの契機として受け止め、可能な限り力を蓄積して次なる災害に備えていきたい。本誌が今後も神戸の「まちづくり力」発信に一役買うことを願ってやまない。


作麼生!スタンダード!

元まち・コミ代表、雲水/修行僧

小野 幸一郎


  私はまち・コミュニケーションの元代表の小野と申します。まち・コミについてはここであえてくどくど述べませんが、現在も神戸市長田区御蔵通で活動継続中のまちづくり支援グループであります。先日、過分にも御蔵のまち協と共に「防災まちづくり大賞」を頂きました。関係各所の皆様のご尽力、深謝いたします。
 さて、私は活動を2年ほど前に離れて、現在は仏教は禅宗の1つである臨済宗の修行道場に身を置き、仏道を学ぶ雲水(修行僧)として日々を送っております。ご存知の方はご存知でしょうが臨済宗は禅宗のなかでも修行が厳しくて有名でして、普段は修行道場から“外界”に出ることも厳しく制限されます。閉ざされた環境の中で「自分を見つめる」為にそうする訳なのですが、そんな私に無謀にも小林さんは不定期でいいから原稿を書かないかとお誘い下さいました。そして、私もまた無謀にもそのお話しを受けさせて頂いちゃった次第なのであります。しかし、先に述べたような環境であるのは事実ですし、本筋の修行(「見つめる」うんぬんですね)が最優先ですので、本当に不定期になるかとは思いますが、何はともあれ駄文を綴らせて頂こうかと思います。(しかし、ホントに現役雲水としてはホメられる話ではないので、もしこの文章を仏教関係者の方がご覧になりましたら、どーかくれぐれもご内密に・・・)
 さて、それで、こんな私が何を書いたらよいかということになる訳ですが、法話の類は修行の身なので当然パス(というか話すことができない)でありまして、修行そのものの“内幕物”というのも考えられるけど、何も「きんもくせい」で書くこともないだろうし・・・そう、まさに復刊したきんもくせいにふさわしいテーマは何かと、そこで思いついたキーワードが“スタンダード”であります。
   震災9年目にしてきんもくせいが復刊したのは何故か。裏事情は知る由もありませんが、これはつまりは復興まちづくり(のもつ要素)がスタンダード−標準であることを宣誓するに等しいのではないか、と私は勝手に解釈しました。それで、よくよく考えてみたら、仏教だって生活に染み込んでいるという意味で日本の宗教のスタンダードだし、うーん話があった!という訳でかなりこじつけが入ってはいますが、“まちづくりのスタンダード”とは何じゃということで、題して(ちょっと禅僧ちっくに)「作麼生(“そもさん”と読みます)!スタンダード!」というのでいかがでしょう、小林さん。
   皆様ご存知の通り、一言「スタンダード」と申しましても、これがなかなか単純ではありません。例えば、身近な仏教ひとつとっても、実は“生きている人に向けての教え”である事が存外知られていない、みたいに“認識されている内容”と“実際”がかけ離れてしまうというのはよくある事です。だけれど現実は先祖供養を始めとした“人が死んでからの儀式”によって坊さんが飯を食えているのもまた事実だったりします。
   ではまちづくりはどうでしょう。私が僧堂に入った時、当然前は何をやっていたか聞かれる訳ですが、「(阪神・淡路大震災の被災地で)まちづくりの手伝いをしていた」と言うと「ああ、ボランティアね」という反応が返ってきた。もしかしたら「震災」という言葉に反応したのかもしれないけど、なるほど、そういう捉え方もあるか、とは思いました。
   まちづくりという言葉は浸透しています。けれどもその解釈となるといろいろでありましょう。いろいろであって全然いいのかもしれませんが、しかし、スタンダードを標榜するのならやはり一本ビーンッと通ったものが欲しい気がします。(解釈が入り乱れた時は原点を見つめろと言う話しもあって、そうすると「まちづくり教の教祖」とかというとんでもなく恐ろしい肩書きを名刺に刷り込まれている御仁の顔が思い浮かんだりもしますが、それはとりあえず脇に置いて・・・)。
   さて、そんな訳で、次回から色んな角度から“まちづくりにおけるスタンダードとは”を模索しようかと思いますが、ともかく拙僧、“素人に毛が生えた”まち・コミ出身者である上に、何度も繰り返して主張しますが、今は情報収集が極めて困難な状況であります。本誌を手に取られているかなりの方がプロ・専門家であり現場に身を置かれている方々だと思いますが、よろしかったら是非皆様の考えられている“スタンダード”をお聞かせ下さい。メールであれば読むことが出来ます(DQK04247@nifty.ne.jp)。別に“問答”を臨んでいる訳ではないのであしからず。ではまた次回。(小林さん、こんなんでよいのでしょうか!?)


空き地からはじまる物語 1

椅子

中川 紺


 その椅子が空き地に置いてあることに気づいたのは、夕方、駅から歩いて5分のワンルームマンションの自宅に帰る途中だった。いつからそこにあったのかは分からない。朝は電車の時間ギリギリで駅まで猛ダッシュ、帰りは残業続きで、少々早めに仕事が終わっても、そのまま飲みにいってしまうから終電ばかり。家は寝る場所でしかなく、日の高いうちにこの空き地の前をゆっくりと歩いて通ったのは、本当に、1ヶ月ぶりくらいだった。
 木製でニス仕上げを施してある椅子は、脚の長さが30センチ程度しかなく、小さな背もたれがなければ、単なる台かと見間違うようなもので、雑草が生い茂った小さな空き地の中で、その椅子は合成写真のように異質な雰囲気を持っていた。
さらに分からなかったのは、椅子が、空き地の三方を囲んだ真新しい戸建て住宅群の中の一件、窓のほとんどないベージュの壁を見るような形で置かれていることだった。

 数日後、出張で早朝に家を出た僕は、いつものように空き地の前を通り過ぎようとして、あの椅子に腰掛けている人物がいることに気がついた。――あれは、たしか裏手に住んでいる一人暮らしのおばあさんじゃなかったかな。休みの日に時折駅前のスーパーで見かけることがある――好奇心に駆られて、知らない間に僕の足はおばあさんに近づいていた。靴が踏む草のかさこそという音に、おばあさんは振り返って少し微笑むと「おはようございます」と小さいけれどしっかりした口調で声をかけてくれた。それで少し緊張が解けた僕は、何を見ているのかを、思いきって尋ねてみることにした。
 「あら、あなたも座ってごらんなさい」
 小さな椅子に足が余ってしまう。目の前には壁があるばかりだ。一体何を?
 「ほら、あそこ、あのすきまよ」
  おばあさんの深い皺が刻まれた指の先に低いブロック塀の飾り穴があった。
  そこから真っ白な…猫がのぞいている。
 「毎朝、あそこに来てくれるのよ。でも腰をかがめないとよく見えない高さでしょう?それでこうやって座ってみることにしたの。この椅子ね、昔息子が高校の授業で作ったもんなんだけど、ちょうどいい高さなのよ」
 椅子の脚を愛しそうに撫でながら続ける。
 「猫はね、近づいたらだめなのよ。すっとひっこんじゃって。やっぱり野良よね。警戒してるみたいで。それにわたし、食べ物を持っていないでしょう。余計にね」
 謎が解けてから、もう一度おばあさんに席を代わった。その時だ。壁からするりと白いものがすべり落ちた。
 白猫がゆっくりとこちらへ歩いてくる。
 「あら、まあ」
 つぶやくように声をあげたおばあさんに応えるように、猫がにゃあんと鳴いた。
 僕には一瞬、おばあさんと猫の間に暖かい帯のようなものが見えた気がした。(完)


なかがわ・こん 神戸生まれ。神戸のまちづくりコンサルタント事務所に約6年間勤務した後、本格的に書き物を始める。今の題材はまちやモノに潜む物語。

イラスト/やまもと・かずよ 神戸生まれ。神戸の建築設計・まちづくりコンサルタント事務所に7年間勤務した後、現在イラストを中心に多様に活動展開中。


情報コーナー

 

●第63回水谷ゼミナール

・日時:4月25日(金)18:30〜
・場所:こうべまちづくりセンター6階会議室
    (中央区元町通4丁目2-14)
・テーマ:公園、まちかど広場
・内容:発表者、演題等は未定
・問合せ:ジーユー計画研究所(TEL.078-251-3593、FAX.251-3590)


●2002年度/平成14年度大大特研究発表会(神戸)

・日時:5月2日(金)18:30〜21:00(〜22:00)
・場所:人と防災未来センター(防災未来館)5階プレゼンテーションルーム
 (TEL.078-262-5060、http://www.dri.ne.jp/)
・参加費:無料(あふたー研究発表会:500円)
・内容:
・趣旨説明、参加者紹介/小林郁雄(コー・プラン)
・地域経済復興支援方策の開発研究
概要/小林郁雄、地域経済復興と中心市街地活性化/中沢孝夫(姫路工業大学)
・震災復興政策総合評価システムの構築に関する研究
  概要/永松伸吾(人と防災未来センター)、復興評価の政策学的視点/林敏彦(大阪大学)
・被災集合住宅の復旧復興に関する研究
   概要/大西一嘉(神戸大学)、8年目を迎えたマンション再建/梶浦恒男(平安女子大学)OR野崎隆一(遊空間工房)
・全体討議
・あふたー研究発表会/5階ロビーで缶ビール交歓会
・問合せ:コー・プラン(TEL.078-842-2311、FAX.842-2203)


●ネットワーク連絡会について

 2003年4月より、神戸市民まちづくり支援ネットワーク及び阪神白地まちづくり支援ネットワークの各連絡会は、統合して新たに阪神白地まちづくり支援ネットワーク連絡会として開催することになりました。
 偶数月の第2金曜日午後6時30分から開催します。参加ご希望の方は、事務局(GU計画研究所/北中、TEL.078-251-3593、FAX.078-251-3590)までご連絡ください。

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