あとがき野崎隆一 |
95年1月17日の大地震では、 多くの親しまれた近代建築が被災し姿を消した一方で、 保存を叫ばれながら老朽化し危険であるとして取り壊しの決まっていた建物が残りました。 このブックレットは、 震災前より神戸の近代建築とそれをとりまく文化を愛してきた諸団体が、 震災後初めて合同で開催した「シンポジウム・都市の記憶」('96.11〜'98.11)をまとめたものです。
震災後、 私達のほとんどがそれぞれの職能(建築家、 都市計画家、 大学研究者或いは一ボランティアとして)に応じて震災復興事業と深く関わり活動してきました。 そして、 ある日突然気付きました。 かってそこにあった建物が思い出せない。 建物だけでなくその建物と共にあった記憶が失われたことを。 ほんの数年前の記憶が、 日々の鮮明な現実の映像により塗りつぶされていくのは、 ほとんど暴力的な体験でした。 震災前にも保存運動を続けながら消えていった建物もありましたが、 震災による変化は我々の想像を超えていました。 そのような切羽詰まった想いが「シンポジウム・都市の記憶」に結集したといえます。
ここで語られているのは、 突き詰めれば「私たちは、 何を失い、 何を失っていないのか?」「震災を超えて残ったものは何か?変わらぬアイデンティティとは何か?」であったように思います。 考えてみれば、 それは被災地神戸だけの問題ではないのではないか。 まだ歴史の浅い日本の近代都市において都市文化、 都市アイデンティティをどのように守り形成していくのか、 同じ想いを持つ他都市の人達とこの本によって繋がることが出来れば幸いです。
最後に、 シンポジウム毎に写真パネルを提供していただいた写真家米田定蔵氏と故高橋裕嗣氏の家族の方々、 私たちの活動に助成していただいたHAR基金・兵庫県建築士会・日本建築家協会に感謝の意を表したいと想います。
シンポジウム・都市の記憶実行委員会 事務局
芦田 俊、 小黒章司、 押田榮一、 小宮容一、 瀬戸本淳
武田則明、 竹山清明、 田尻陽一、 中尾嘉孝、 野崎隆一
野崎瑠美、 橋本健治、 藤本恵理子、 宮崎みよし、 本岡健一
山本和代
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