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2005年11月 日韓学生演奏交流ワークショップin大阪 (文化庁主催)

「音楽は国境を越える」をスタート地点として
                                大阪府立芥川高等学校和太鼓部  2年 藤内ひかる

 日韓学生演奏交流ワークショップが開催された十一月には、私たちは他にも六回もの 和太鼓演奏会が入っていて一日の休みも取れず、連日の疲れがピークに達している上 に、初めての海外交流と日韓合同演奏への不安、韓国語でのスピーチ、大事な司会役 への緊張が重なって、張りつめた気持ちの中で当日の朝を迎えました。 日韓交流の練習が始まったのは九月下旬。それからの一ヶ月半は私たちにとって葛藤 の連続でした。韓国特有のリズムである八分の九拍子に苦戦し、韓国側と調子を合わ せるために笛を購入したり、楽譜を書き換えたりして苦労していました。他の演奏会 も次々と押し寄せ、毎日夜遅くまで練習が続き、焦りを感じて、なぜこの一日だけの ために練習時間をさいてここまで苦しまなければいけないのかと疑問を感じたことさ えあったのです。日韓の高校生たちが出会ったその日に短時間の練習をしただけで本 当に合同演奏がうまくいくのかという不安は当日午前中まで続きました。日韓合同で の練習が始まっても、韓国の先生の指示が簡単な通訳だけでは十分には理解できず、 「言葉の壁」という厳しい現実に突き当り、不安が一層募ったからです。

でも、そうした状態はいつまでも続きませんでした。午後になって両国の演奏を交流 する時間になり、私が韓国語で「私たち若者こそが日韓両国の関係を確かなものにし ていきましょう。」とあいさつすると韓国の高校生たちから大きな歓声と拍手が起き ました。それに続く太鼓の演奏でも私たちの緊張を吹き飛ばす程の歓声でした。本当 に驚きました。

 私はその時、確かにお互いが通じ合ったことを感じ、これまでの苦労が報われたと思 いました。続いて韓国側の演奏では華やかな衣装を身にまとい、細かいリズムを規則 正しく正確に打ち続けるという難易度の高い技術に感動させられました。両国共に、 楽器紹介の時と違い、感情のこもったそれぞれの楽器の本当の音色を聞くことができ、 その楽器の良さや、音の一つ一つに込められた思いが伝わってきました。

 そして迎えた日韓合同演奏本番。練習の時の不安や焦りが嘘のように無くなり、全体 の息が合っていることを演奏者としても実感できる演奏でした。舞台と観客が一体と なって楽しむことが出来るものだったと思います。それは言葉を交わさなくとも、そ こにいるすべての人が信じ合い、お互いの音を尊重し合ってひとつの曲を作ろうと思 いを寄せた結果だと思います。私はこの時、「音楽は国境を越える」という言葉を初 めて身をもって実感し、私自身が今まで越えがたい大きな存在として捉えていた「国境」 という壁を乗り越えることができたという確信を持ちました。

 私は今、「国境」とは実は人々の心の中にあるものであり、国境を越えることは互いが 信頼し尊重する気持ちさえあれば、音楽の世界だけでなく、全ての物事においても可能 なことだと思っています。この「音楽は国境を越える」という言葉をスタート地点にし て、これからさらに視野を広げ、人々が「心の国境」を持たず、紛争や不平等のない世 界を実現するには自分が何をすべきかということを真剣に考えていきたいと思っています。