さちあ
sachia hase

関西の人・まち(14)



関西で活躍するジャズヴォーカリスト麻生優佳さん(前編)

  週末の午後。アイルランド風の落ち着いたカフェに、ジャズの響きが心地よい。高槻市城北町にあるJKカフェでは、平日の夕方6時からと、土日の3時と6時 から、ジャズミュージシャンたちのライブ演奏が開かれる。そこで出会ったヴォーカリストの麻生優佳さんの歌が心に残った。彼女の歌は、日々の労苦を離れ て、あっという間に非日常と憩いの空間をつくりだす。歌うのはスタンダードジャズ、ベースとピアノの生き生きとした旋律に乗って麻生さんのアルトが響く。
 大阪、神戸、京都と各地で週末にライブ活動している麻生さんからジャズにまつわる話を聞かせていただいた。
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(質問者)外国語で歌う難しさはありますか。
(麻生)私はネイティブではない ので、うっかり日本語的な発音をすると意味が違ってくるような単語があるんです。たとえば、I thinkは「あなたのことを思っている」という、ラブソングにはよく出てくる単語なんだけど、これをsinkと発音したら「沈む」になっちゃう、そうい う発音の難しさは常にあります。だからネイティブの人が聴きに来たら、もう緊張して歌うのやめようかなという気になったりします。あとは、スウィングはリ ズムと、言葉のアクセントとがうまく合わないと、リズムが崩れるようなところもあるし。

(質問者)それは原曲を作った人がそのリズムにのせて歌えるようにしてあるというのを意識されているのでしょうか。
(麻生)元 の人がどういう風に作っているかっていうことは、譜面では分かるんですけど、譜面どおりに歌っても、なかなかスウィング感って出ないと思うので、単語の区 切りをつけたり、アクセントをつけて、なおかつその意味がおかしくならないように歌うというところは、ちょっと難しいかなと。

(質問者)ジャズヴォーカルをはじめるきっかけっていうか、歌うようになられたきっかけってあるんですか。
(麻生)けっ こう小さいときから洋楽が好きで、小学校の終わりころには、バンドがしたいなあと思っていました。そのときはドラムがしたかったんですよ。でもドラムセッ トなかなか買ってもらえないし、家にあった楽器はピアノで、中学になってバンドを組んでみたら、ピアノもしてたんですけど、結局ヴォーカルのほうをやれっ ていわれて。それでだんだんヴォーカルを。でも私はそんなに器用なほうじゃないので、どっちつかずになるのがこわかったんです。ピアノを弾くと、歌に気持 ちが、込められない、上の空なんです。で、歌に気持ちを込めたらピアノ間違えそうになるじゃないですか。それなら歌の方をやろうとピアノはやめといて ヴォーカルをしてました。そのときはポップスとかロックのバンドで、だんだんロック色がつよくなってきてたんです。大学のときに、一度ミニFM局のDJを することになりまして、そのうち、そっちが忙しくって、バンド活動があんまりできなくなったんです。もともと音楽がすっごい好きやから、聴きだすと、一生 懸命になって、聴くほう専門と曲の紹介とか、そういう方向に、ずっとのめっていって。でも聴く音楽の幅が広がって、ちょっと大人の曲もいいなあって、大人 になったらジャズをやりたいなと思ってました。

(麻生)そのあとは、就職したので、一時、バンド活動もDJもやめてたんですけど、音楽から離れられない自分がい て、バンドがしたくなって、仕事で東京のほうによく行く仕事だったので、東京に滞在してる間にオーディション受けにいったりしてたんです。でも日本の芸能 界が求めているのは、結構アイドル性だったりとかで、ロックとかポップスではとてもちゃんとしたバンドでやっていけるような道が見当たらなくて、ちょっと 諦めかけてたんです。その頃アカペラがちょっとしたブームになっていて、で、そのオーディションに受かって、デビューすることになったんです。でもそのと きに、私のほうで待ったがかかってしまって、デビューを見送ることになりました。それなら、一人で活動できる、以前にやりたいって思ってたジャズを、勉強 してみようと。それで、勉強するところから始めて、でも見切り発車的に一年くらいで、もう、ステージに立ってました。

(質問者)それは誰かに師事されて・・
(麻生)最初は全く右も左もジャズのこ とが分からなかったので、小さなスクールみたいなところに行って、ジャズピアノの先生についてました。ジャズってどんなんかなみたいなところを教えてもら い、男の先生だったので、ヴォーカル的なものはそんなには教えてもらえなかったんで、あとはもう、自分で探そうという感じで、今に至るです。

(質問者)ジャズをやり始めてから、ミュージシャンで、この人に影響を受けたという人はいますか。
(麻生)最 初は、大御所っていうか、サラ・ヴォーンとか、エラ・フィッツジェラルド。サラ・ヴォーンの、すばらしさはわかるんですけど、キャラクター的に、エラ・ フィッツジェラルドがすごい、チャーミングで、かわいい。性格もすごい何か、愛くるしい感じ。彼女のジャズのライブ版を聴いたときに、MCを聞いてね、 あーなんかもうこの人の歌聴き続けたいなって思って、エラに、一番はまったし、尊敬しています。

(質問者)ヴォーカリストをしていて、よかったって思った瞬間ってありますか。
(麻生)私 の歌っていうのは、完成度でいうと、まだまだだと思うんですけど、初めて会った人や聴いてくれた人が、「すごく元気が出た、ありがとう」ってお礼を言って くださったり、「落ち込んでたのに元気になった」っていうようなことを聞いたときに、自分の歌が、少しは、人のためになるもんなんだなと。そういうことが 自分でも驚きだったし、やっぱりずっと続けて生きたいと思う一番大きな理由です。

(質問者)なんば、桃谷、梅田、大宮とコンスタントに続けてらっしゃる場所が多いんですけど、何か、関西にこだわっていることというか、関西のよさってあると思いますか。
(麻生)あ ると思いますね。東京には東京のよさがあると思うしそれぞれだと思いますが、お客さんが、人懐っこくてあったかい感じがする、ほんとに友達みたいに、応援 してくれてるなっていう感じがダイレクトに伝わる、こんなところが大阪の好きなところです。それに私は生活の拠点が関西なもので。

(質問者)お店で歌う曲はどうやって決めているんですか。
(麻生)その日に、 とりあえず1ステージ目は、バンドのメンバーも、知らない人で、初めて合わせるっていうときが、多いわけです。お店がメンバーをブッキングって、組んでる ときもありますし、誰かから声をかけられて、参加する形になることもありますし、またはその友達のを聴きにいって、仲良くなってというか、その人の演奏を 聴いて、ぜひ一緒にしたいっていうところから、実現するところもありますし、パターンがいろいろなんですけど。結構、初めてばっかりっていう組み合わせも あるにはあるんです。なので、とりあえず1ステージ目は、どういう感じか、みんなの感じがつかめるようなというか、おとなしく(笑)出しておいて、2nd ステージ3rdステージと、曲を考えていって。あと、そうですね、お店に入ったときのお店の雰囲気とか、客層で、1stステージも少し考える。お客さんの 感じを見て、選曲していく。あと、ノリを少し、同じ曲でも、リズムとか構成を変えてみたりして、お客さんの雰囲気にあわせてるっていう感じです。

(質問者)歌ってる中でこの曲は大好き、という曲はありますか。
(麻生)ほん とに好きな曲っていっぱいあって、私が歌ってる曲はほとんど好きな曲なんだけど、結局は歌ってしまうって曲なのは、金曜日の夜とか、仕事がきっと忙しかっ たんだろうな、でも駆けつけてくれたんだな。とか、お店によく来てらっしゃる方かもしれないけど、はじめて会う方にしても、楽しんで聴いてくださってるの が伝わってきたり。毎回みんなにその感謝の気持ちを歌いたくなって、その気持ちを私としては込めて歌えるというのが"'S Wonderful"。すばらしい、すごくすばらしいっていう、それをよく1stステージの最後に歌ったりしていますね。”Night and Day”という曲も、すごく好きな曲です。この2曲はつい歌ってしまうっていう感じかな。あと”Fly me to the Moon”も好きです。これは、大阪人って、すぐ突っ込みをいれるというかね、大阪人としてはこの”Fly me to the Moon”の歌詞は、入って行けへんのとちゃうかって言われたことがあるんですけど、何でやねんと。やっぱり、乙女やから。あの”Fly me to the Moon”の思いっきり乙女心も、結構好きです(笑)。

                                     (つづく)

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