-前編-
明日は俺の誕生日だ。 といっても、毎年何があるわけでもない。 両親も、誰も気付かない。 ただいつも通りの一日があって、気が付くと終わっている。 自分でも、誕生日だということに気付かなければ、いいのだけれど思い出さないようにすると余計に思い出してしまうのだ。 毎年、誕生日が近づくと、気構えてしまう自分がいて…。 バカだなー、と思う。 一度だけ、特別な誕生日を過ごしたことがあった。 日野センセーがまだ、戸倉を知らなかったとき。 俺だけの、恋人でいてくれたとき。 ホテルで食事をして、プレゼントをもらって…。 そんな思い出にすがっている自分が、情けなくて笑える。 日野センセーが自分のもとに戻ってくることなんて、ありはしないのに…。 ベッドの中で、重い心を抱えながら俺は眠りについた。
ウイィーン。 何かが近くで振動し、俺は目を覚ました。 見ると枕元に置いた携帯が、音をたてて震えている。 日野センセーのことで、戸倉と気まずくなってからは、友達らしい友達もいない俺の携帯が鳴ることなど殆どなかった。 癒しの森で会う一時的な客に番号を教えることもないし、両親に無理矢理持たされているだけで使い道のないものだった。 時計の針は、朝の四時を指している。 誰なんだ…?こんな時間に…。 それでも、寝起きのいい俺は通話ボタンを押す。 「もしもし?」 『あ、太一?』 聞こえてきた声に、朝早く起こされた怒りも吹っ飛んだ。 「春也さん!」 『そう、俺。ゴメンね?こんな時間に。でも、どうしても太一にプレゼントしたいものがあって』 「…え?」 『太一、今日お誕生日でしょ?おめでとうね。で、プレゼントをあげたいんだけど、今から来れない?』 春也さんが、昔チラッとだけ言った自分の誕生日を覚えていてくれたことに感動を覚えつつ、とんでもない誘いに俺は目をパチクリさせた。 「今から、ですか?」 『うん。ダメ?こんな時間じゃないと、あげられなさそうなプレゼントなんだよねー』 「わかりました」 『ありがとー。準備して待ってるねv』 …? 俺は、頭にクエスチョンマークをたくさん浮かべつつ、一応親を起こさないようにそっと家を出た。 おそらく、見つかったところで俺に関心のないあの人達は何も言わないだろうけど…。 春也さんの家につくと、春也さんは家の前で待っていた。 「おはようございます!春也さん、どうして…?」 「いらっしゃいvインターホンの音で愛を起こすといけないからね」 ……? 愛さんは関係なく、春也さんだけがプレゼントをくれるんだろうか? 「ふふふ。プレゼントって言うのはね、“愛のイイ顔”なのv 欲しくない?もし、物がいいんだったら、何でも買ってあげるけど…?」 愛さんの…イイ顔? って、Hのときのよがってる顔…? 愛さんは、なかなか感じている顔を見せてくれる事はなかった。 見せるのがイヤらしく、挿入してくるときは大抵後ろからだったし、フェラしてあげてるときは感じてくれてるんだろうけど、こっちも必死で含んでいるので見えないし…。 ……見たいかも…。 「物、いらないです。“愛さんの”が、いいです」 「でしょー?」 わが意を得たり!と春也さんがニッコリする。 「おいで、太一。一応このローブに着替えて」 言われるままに渡されたローブに着替えると、春也さんはチューブを俺に渡してくる。 「これ、太一が持ってて。後で、使うからv」 何のラベルも貼られていないチューブ…。 これは、もしかして…もしかする? 俺は、ドキドキしながらそれを手の中に握りこんだ。 春也さんに寝室に導かれる。 ベッドでは愛さんがグッスリ眠っていた。 ベッドの脇にある椅子に座るように、春也さんに目で合図を送られる。 俺が、座ったその時、愛さんが、掛けられていた布団を抱き込んで寝返りを打った。 俺はビクッとして、腰を浮かせかける。 春也さんが、大丈夫だから、という風に俺の肩を抱いて宥めてくれた。 愛さんは真っ裸で寝ていたらしく、覆う布団のなくなった部分が丸見えだ。 おそらく、昨日春也さんとヤッた後、そのまま眠ったのだろう。 ちょうど、俺の座ったところからは引き締まった背中からお尻にかけてが露に見えた。 やっぱ、いい体してる…。 春也さんは、愛さんが再び穏やかにスースーと寝息を立て始めるのを確認して、おもむろに包帯を手にした。 何のためかと言うと、愛さんの自由を奪うため、だ。 春也さんは、右手、右足そして、右足、左足の順に、愛さんの四肢をベッドの端にくくりつけてゆく。 「ん…、春…?何…やってんだ?」 愛さんは自分の体を這い回る手に気付き、目を覚ましたようだった。 「愛。起きたの?まだ寝てていいよv」 「んん…そうか…ん?いてっ!」 「あ、ごめーん、愛。きつく縛りすぎちゃった」 「…シバリ…?」 ようやくハッキリしてきた頭で、愛さんはただならぬ状況を瞬時に理解したみたいだ。 「何だ、これはー!!」 愛さんが驚くのも無理はない。 愛さんは完全に手足の自由を奪われていた。 「えへへ。ちょっと不自由だけどガマンしてね?愛。今日は太一の誕生日なんだ」 「だから…?」 怒っている証拠に、愛さんの声は低く唸るようだ。 「だから、ね。太一に愛の“イイ顔”をプレゼント〜!!」 「………」 やっと部屋の隅にもう一つ気配があることを感じたらしく、愛さんは俺のほうへ顔を向けた。 「おい、お前。春を止めろ」 相変わらずの命令口調に、俺はちょっと反抗的な気分になった。 「イヤです!!」 愛さんは一瞬目を丸くし、続いて苦味を噛み潰したような顔になる。 「太一、ちゃんと愛の“イイ顔”見ててね?」 言って、春也さんは愛さんに手を伸ばした。 ずっしりと重そうな愛さんのものを春さんの右手がすくう。 すぐに春也さんの手は、あやしく動き始めた。 が、愛さんは憮然とした表情のままだ。 “困ったもんだね”と言うような顔を春也さんは愛さんに見られないように、俺に向ける。 そして、再び愛さんに向き直った春也さんは、愛さんの耳元に唇を近づけた。 「ね、愛。まわりは忘れて?ただ、俺の手を感じるの。ね?気持ちいいの、スキでしょう?」 唇を愛さんの胸にすべらせながら、春也さんは優しく、囁くように、愛さんを呼ぶ。 「あーいv 俺に、酔って?」 やがて愛さんは、諦めたように体の力を抜いた。 目を閉じ、春也さんの手、舌の動きを意識で追っているようだった。 春也さんの舌が、胸の突起を集中して弄っている。 俺は、自分がそうされているような感覚に陥って、体に痺れが走った。 愛さんは少し眉根を寄せ、快感に耐えていた。 あ、カンジてる? 微妙な表情をこんなにじっと見ることができるなんて…。 あまりにもオイシイ状況に、俺は春也さんに大感謝だ。 少しずつ、勃ち上がってきた愛さんのものを、春也さんの手が愛しそうに優しく撫でている。 浅く息を吐きながら、快感を適度に逃していた愛さんの口を、春也さんは自分の口で塞いだ。 「ん…むむ」 しばらく、その舌を味わっていた愛さんだが、息苦しくなってきたらしく、首を振って春也さんから逃れる。 「あん…愛。逃げないの!」 「バカ。苦しいって」 愛さんは機嫌よさげに笑い、なだめるように春也さんのこめかみに口付けた。 「もう…」 少し反抗の声を上げたが、春也さんは次の行動に移った。 だんだんと春也さんは唇の位置を下へ下へと移動させて行く。 喉元から胸の突起の間を通り、下腹部へ。 繁みにほお擦りした後、春也さんの口は愛さんのものを含んだ。 春也さんは、俺への気遣いを忘れず、常に俺が見やすいように、と自分の体の位置を変えてくれていた。 おかげで、今も俺の位置からは愛さんのものが春也さんの口に出入りする様子がハッキリと見える。 そして、愛さんが目を閉じて快感に絶えている様子も…。 愛さんのものは、春也さんの唾液と、愛さん自身の液で濡れそぼっていた。 春也さんの口から完全に出ると、それはプルンと跳ね、天を突く。 それを、春也さんは根元から舐め上げては、先端を口に含み、喉を突くぐらいに含んでは、出し…と繰り返した。 少し顔を歪め、それでも声を出すのを耐えている愛さんの顔は、本当に色っぽかった。 愛さんの顔を見ているだけで…カンジてしまう…。 突然、愛さんは手で、再び愛さんを含もうとして口を開いた春也さんの頭を押さえた。 「おい…もう、出る…。イヤ…なら、顔、どけとけ」 「別にイヤじゃないけど、太一に見せてあげよっとv」 言って、春也さんが顔を退けた瞬間、愛さんは息を詰めた。 「くっ…」 低くうめいて、白濁した液を迸らせる。 愛さんの腹部に落ちるそれを、俺は感動?興奮?…とにかくひどく高揚した気持ちで、見ていた。
2000.06.28 脱稿
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