xx そういう関係2 xx
― 交わる関係 ― 3
浅井は何かを考えるように、ずっと押し黙っていた。 僕は、浅井の体温を背中に感じながら、何も考えないでいた。 「お前が泣くのは…寂しいから…じゃないか?」 やっと口を開いた浅井は、そう言った。 「………」 分かっていたような気がした。 空虚さは、寂しさそのものなのだ。 気が付かないフリを…していた。 寂しい、それを認めたからってどうなる? 「…悪い。それ、言ったって何もならないことは分かってた…言わないべきかとも思ったけど…」 「ううん。いい。たぶん、合ってるし…浅井に分かっててもらえてるのは、嬉しいというか…安心するっていうか…」 浅井は、僕を抱きしめる腕に力を加えた。 「…考えよう、織。幸せに…なってくれ」 「……ありがとう…」 本当に、浅井が友達で幸せだ、と思った。 こんなに、優しい奴は…いない。 「織。お前の寂しさは…俺じゃ、埋めきれない…そうだな?」 でも浩二の代わりには、ならない。 「…そうだね」 「自分を抑えるなよ、織。浩二を、あきらめるな」 「それが出来たら…どんなに良かったか…」 「やれよ!」 「ダメ…僕は弱虫だ…。もう、痛いのは…イヤ」 浩二を諦める決意をした時のことを、思い出した。 また、ここで浩二の元へ戻ったら? …浩二は、勝手に出ていった僕を、許してくれるかもしれない…。 でも、どうせこの浩二に対する僕の醜い独占欲がむくむくと頭をもたげ、浩二の傍にいるのに耐えられなくなる日が来るに違いない。 そして、またあの痛みを味わうくらいなら! 一度身を切られるような思いをしたのだ。 それを、無駄にはしない。 「浩二、お前が出ていってから、荒れてるぞ」 「横にいる女の子の入れ替わりが、激しくなったよね」 僕は苦笑する。 浅井が僕の髪に顔をうずめた。 いつのまに…どうしてこんなに信用してしまっているのか…浅井の行為に全然イヤな気分にならない。 「…少し前まではな。最近、あいつ見てるか?」 「…見ないようにしてる」 「そっか…あいつ、女の子たち全員と手、切ったぜ。あいつから聞いてない?」 「聞いた…ような気がする」 でも、全然本気に出来ないような内容だったので、耳から耳へと素通りさせていた。 バカな期待は、もう、しない。 「疑ってるか?まぁ、それも当然だよな。でも、ホント。俺が保証する」 浅井が、そこまで言うなら本当なのだろう。 信じられないようなことだけど…。 「そう…なんだ。でも、一時的なことだと思うよ」 「…今までの浩二だったら、そうだよな。でも、あいつ変わったぞ?ちゃんと、自分の気持ちに向かい合った。そして、判断したんだ。女の子たちすべてを捨ててでも、織を取るって」 僕を…とる? 浩二が、そう言った? ……涙が出た。 浅井の温かい右手が、僕の顔を覆う。 僕は声を殺して、泣いた。
ピッピッ。と電子音が鳴り、夜の10時を告げていた。 「ごめんね。ごはんも食べずに、こんなことに付き合わせて」 僕は体を反転させて、浅井と向かい合った。 「そんなの、気にしなくていい」 浅井は、僕の顔を覗き込む。 目が、どうするつもりだ?と聞いていた。 「…浩二の言葉、あいつを諦めると決める前に、聞ければ良かった…」 「織!」 「ダメなんだ…。もう、悪いほうへばっかり考えてしまう。期待しないクセがついちゃった。頑張って、忘れるよ」 「もう一度!あいつにチャンスを…!」 浅井が必死な顔で、僕の肩をつかんだ。 「浅井。大好きだ。僕と浩二のために、こんなに…」 また涙が溢れてきた。 もう、浅井の前で隠すことは諦めた。 「夏から、本当に浩二から離れるよ」 「…どういうことだ?」 「一浩さんに、教えてもらったんだ。ウチの学校交換留学制度、あるって」 最近、浩二のお兄さんと交流があることは、浅井に言ってあった。 「留学するのか!?」 「……冷めちゃったけど、ごはん食べよう?」 僕が話を変えると、浅井はもうそれ以上何も言ってこなかった。 僕の髪をグシャグシャにかき混ぜると、立ち上がってキッチンに皿を取りにゆく。 二人で、まずいまずい、と言いながら遅い夕飯を食べた。
2000.03.24 脱稿 |