着生蘭栽培に限らず、園芸植物の栽培には3つの要素があるといわれます。
置き場 植え方 管理
このうち最も重要なのが置き場。これでほぼ決まり、といっても過言ではありません。置き場次第で管理の仕方が大きく左右され、
管理を楽にするために植え方を工夫します。
自生地の環境に近ければ、ヘゴにでも着けてぶら下げておくだけで生育・開花・増殖するでしょう。
しかし理想的な環境のもとで栽培を楽しむことができる人はほとんどいません。
できるだけ自生の状態に近づけ、可能な限り毎日の世話を手抜きできるようにします。そのために限られた栽培環境のもとで植え方を
工夫し、管理を変えます。
置き場=環境(温度・湿度・日照・通風)
戸外に置いて雨に当てるべきです。物干し、棚などを利用して1m以上の高さに吊るし、東向きが理想的です。
次いで、湿度がある程度確保でき、遮光を調節できるなら南向き。それが難しい場合はむしろ北向きがよいでしょう。
着生蘭の場合は家の北側に吊るすと、乾き過ぎずうまく生育します。ハダニも発生しません。西向きは
最も厳しい環境で、遮光ネットが欠かせません。
-2゜C〜35゜C
ナゴラン、フウラン(富貴蘭)、セッコク(長生蘭) 一年を通して戸外栽培
ただし、ナゴランは寒風が直接当たるのを避けるために厳冬期ビニールで覆う方が無難です。
フウランとともに壁際に特別な保護をしないまま乾燥気味の状態で吊るしておいても越冬できます。
葉が極端に萎れますが枯れることはありません。九州では冬期降雪のある地域にも自生しているようです。
ナゴランを冬季室内で保護(最低温度15度程度)すると1月末頃花芽が伸び、いい花が咲きません。 セッコクも室内では弱光のまま成長を始め、貧弱な茎にしかなりません。
棚の下に池があれば絶好調でしょう。湿り気の要求度は、ナゴラン>セッコク>フウラン
ベランダ栽培や軒下栽培では、雨の日に灌水しなければいけないのが苦労です。 雨がかからないので灌水の調節を自分でやることは出来ますが、野生蘭の水分補給は 自然の雨に任せて、晴天が続いたときに補うのが理想的です。
南側では乾燥が激しいので油断するとセッコクがハダニの被害を受けます。
午前中の直射光に当てたいものです。
夏場の直射光への耐性は、セッコク>フウラン>ナゴラン のように感じるので、
この順に外側にセッコク、壁際にナゴランを吊るします。
セッコクは通年直射光に当てるくらいの方が丈夫に育ちます。
できるだけ風通しよく、込み合わないように吊るします。
ナゴラン・セッコクは鬱蒼とした林内にも自生していますが、フウランは風通しのよい樹幹の高いところに
着生しています。
通風の好み具合は、フウラン>セッコク>ナゴランでしょう。
「置き場」「管理」と密接な関係があります。
特に水分(湿度)を確保できるかどうかに係っています。夏場湿度が確保でき、日に何度も灌水できるのであれば
コルク・流木・ヘゴ材に着生させてもよいし、砂礫・水苔に植え込んでもよいでしょう。
忙しくて灌水がままならない場合は水苔植えが無難です。
着生蘭栽培の定番といえる植え込み材です。できるだけ良質のものを使うと作業がしやすく、結局は経済的です。
2号〜4号の素焼き鉢に植え込みます。2〜3号鉢の場合は中心部まで水苔を詰め込み、3〜4号鉢は
中空にして乾き気具合を調節します。大株のナゴランを植えるのでもない限り、4号でも大きすぎるくらいです。
これ以上の大きさでは重くなり、水管理が非常に難しくなります。
毎年水苔を換える人もいますが、1年か2年おきくらいが植替えのめどです。
長年水苔を換えずに栽培した場合
砂といっても、2mmのフルイを通した砂礫で、山野草用(軽石、硬質鹿沼土、焼赤玉土等混合)の大粒のものを使います。 同じ様な配合で、少し大きめの東洋蘭用に配合されたものや 洋蘭用のコンポスト(軽石、バーク、ヘゴチップの混合)も使えます。数年植替えの必要がありません。
この植え込み材は灌水のタイミングの見極めが難しく、使う人との相性があります。 手軽に取り扱うことができ、比較的安価で、上手に使っている人もいます。
植替えの手間を省き、野趣を楽しむならヘゴ着けが一番です。 水苔植えと比べて根の乾きが早くなるので、灌水に注意が必要です。大きいほど乾きが遅くなります。
最近ではワシントン条約の影響もあって、価格が高騰し入手し難くなっています。流木、コルクなどが替わりに使えますが、 これらは一層乾きやすく、ほとんど水分保持力はありません。
どんな所で栽培しているか、どんな植え方をしているかで管理の手間は決まります。できるだけ手を抜きましょう。 手を抜いた管理ができるような植え方をしましょう。そうしないと、ただでさえ成長の遅い着生蘭と長年付き合えません。
日常的な世話は、この水遣りしかありません。雨にかかれば、晴天続きの日や盛夏時を除いて、ほとんど必要ありません。 雨水に期待できないとなれば、夏場はほぼ毎日灌水に追われることになります。
鉢毎に乾き方が違うと、特定の鉢にだけ灌水して、他にはかけないということになります。 面倒になって、乾きの遅い鉢を目安に一度に灌水すると乾きの早い鉢はいつも水不足ということになり、逆に乾きやすい鉢を 目安に灌水すれば、乾きにくい鉢はいつも水分過多で根腐れしかねません。
管理人の場合はヘゴ着けのセッコクが目安です。これにあわせて、水苔+素焼き鉢で、2.5程度の小鉢なら 中心部まで水苔を詰め込み、より大きい鉢は乾きにくいので中を中空にしてあります。 夏場のヘゴ着けには水のやりすぎということはありません。
日光と水道水と水苔などから溶け出す成分だけでは健全な 生育は期待できません。あくまでも補助的なものとして少しの量を与えます。
化成肥料ばかり与えていると微量要素が不足するので、有機系の肥料を与えたくなります。セッコクは鉢の縁に
小粒の油粕を置いても根はほとんど傷みませんが、フウラン・ナゴランはだめです。
こういう蘭には、2リットルのペットボトルに小指大の油粕を1粒入れておき、一週間以上経ってからさらに薄めて液肥として与えます。
濃さの目安はうっすら茶色に色が着いているくらいです。
着生蘭は肥料で育てるものではありません。光と風と水と足音が育ててくれます。
乾いてから水をやり通風よく管理していれば、まず病気には罹りません。潅水過多から根腐れになって葉枯れを引き起こすとか、 葉焼けなどは病気ではなくて怪我です。潅水の調節、遮光で対処しましょう。また、適度な水分を含んでいれば、真夏の日光でも 簡単には葉焼けなど起こしません。
ウィルスに冒された株の見極めは非常に難しいです。新しい株を入手するときに黒い斑点がある、白いカスレがある、
ヘコミがある、葉や花がよじれている(芸物ではないのに)、元気が無いといったものは、ウィルスに限らず他の病気の可能性があるので
避けます。
疑わしい株が自分の棚で見つかったら思い切って処分します。処分するに忍びないときや判断がつかないときは
覚悟を決めて隔離して栽培します。あまり神経質にならないこと。
害虫としてはハダニが大敵です。周囲の湿度を上げる、夕方たっぷり霧吹きをする、 葉の裏に撒水するなどして対処するしか手がありません。カイガラムシが付いたら爪楊枝で剥がします。 ナメクジは飲み残しのビールで集めます。アブラムシは濃い石鹸水を噴霧すれば退治できます。
予防的な意味で薬剤を散布するのはやめましょう。万一薬剤で治療する場合でも、周囲の環境への配慮、 何よりも本人の健康のために噴霧タイプの農薬は極力使用を避けるべきです。
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