からおあずかりって何?
最近気になっていることの一つが、喫茶店やレストランなどのレジでの店員さんの受け答えである。
といってもいつ頃から気になりだしたのかは覚えていないのだが。たとえば喫茶店に入りコーヒーを飲む。店を出るときレジで代金を支払うが、問題はそこでの店員とのやりとりにある。
仮にコーヒー一杯300円だったとしよう。
店員:「315円になります」 そこで僕が500円を渡すと、
店員:「500円からお預かりします!」 といってお釣りの185円を僕にくれる。
普通に見られる光景だし、これを読んでる人の大部分は経験したことがあるだろう。
で、僕が気になっているのは、この「500円からお預かりします」の「からお預かりします」の部分なのである。
なぜ「から」なんだろう? なにを「お預かり」なんだろう? なのである。
支払っている当人はコーヒーを飲み、しばし店の座席を占有し、店員のサービスを受けた代価と、代価に対する消費税を支払っているつもりなんだが・・・
僕は支払っているのは代金と消費税だけだと思っているが、実はこれ以外に店に何かを預けているんだろうか
なにげないことでも、一旦気になると気になってしょうがない。
気になり出してからは、「〜からお預かりします」が持つ語感まで変に思えてきた。
気をつけていると、この「からお預かりします」は、飲食店にかぎらず本屋であろうと雑貨店であろうと、店の業種に関わりなく使われている。もはや氾濫しているといった方がいいかもしれない。
自分自身で、国語辞典を調べたりしてみたが、一向に答えらしきものはみつからない。考えれば考えるほど分からない・・・うーん
とうとう最近では「この店ではどうだろう? 言うかな?」・・・「やっぱり言いおった」などと嫌な気分になる反面、どこかで発言を期待し、こんな店にまで「〜から頂き・・」の魔の手?が伸びているかと妙に感心するほどになってしまった。(笑)
やみくもに考えてもしょうがないので、自分なりに解決を試みてみよう。
確かに「から」と「お預かりします」のバランス、というか組み合わせが良くない気がする。「〜から」という語と「お預かり」という言葉の組み合わせを経験したことが少ないのだ。
でもよくよく考えてみると、どうやら気になっているのは、結局のところ「お預かり」の意味なのだ。
まずヒントになりそうなのはこの応対をする店員の年齢層だ。
この「〜からお預かりします」と答えるのは圧倒的に若い店員だろう。となると若者が働いている店ということになるから、コンビニやファーストフード店、レンタルビデオショップ等々・・・。最近は、百貨店などでも管理職とおぼしき年輩の方がレジに立たれることもあり、一概にはいえないが、そんなオジさんたちは「〜からお預かりします」とはいわない気がする。
ここまで考えて一つのことに気がついた。
そういえば、コンビニといいファーストフード店といい、応対マニュアルがありそうな店ばかりだ。マニュアルがあるということは、マニュアルを暗記すればとりあえず言葉の意味はどうでもいいんだから、多分「〜からお預かりします」を使ってる若者たちはその意味も考えたことないだろう。
もし仮にお客に尋ねられても
「そんなことどーでもええやん!」
「なにしょーもないこと聞いてんねん!」と心の中で思ってしまうんじゃないだろうか・・・
おっと話をもとに戻そう。残念ながら、僕は応対マニュアルというものを見たことはない。マニュアルがありそうな店といいながら、ホントにそんなものがあるのかどうかも知らない。
でも想像するに、そういった店では、同じような場面で同じような応対に遭遇することが多いから、マニュアルはあるんだと思う。多分色々なケースを想定して、場面ごとの応対が書かれているんだろう。
じゃああの「〜からお預かりします」は、応対マニュアルに書かれているのだろうか?
僕は書かれていると思う。あの日本語としては少し変な言い回しがである。
マニュアルは、繰り返し行われるケースを想定し、応対を画一化し業務の流れを合理的にこなすために作られる。どんな時間に行っても同じ応対になるように。またどの支店(チェーン店)でも同じサービスが受けられるようにである。
だからマクドナルドは全国どこの店でも「いらっしゃいませ。こんにちわ!」だし、必要もないのにポテトを勧めたりするのだ。京都のマクドナルドへ行ったからといって「おいでやす!」という京都弁の応対に遭遇することはないし、ポテトを勧めてくれた店員がポテトを食べたい僕の気分を察してくれたわけではない。
そうした全国チェーンの店では、マニュアルは本社でまとめて作ってるんだろう。もしかしたらマニュアル制作部ってのがあるかもしれないし、どこかマニュアル制作会社に依頼されているかもしれない。
・・・それで合点がいった。
やっぱりあの「お預かりします」は預かってるんだ。
何をかって?僕らがお店に支払っている代金の中で、お店が預かってるものといえば、消費税しかない。
全国チェーンの店は、消費税を国に納めている(あたりまえだけど)。ほとんどが非免税業者だろう。消費税は最終的には国庫に納められるが、店が消費税を支払うのは年一回。その時まで消費税は店が預かっていてくれるってわけだ。
そうした店のマニュアルは、消費税の徴収はあたりまえのこととして記述されることだろう。
だからあの応対は、「500円から代金を頂くと共に、消費税をお預かりします。」の意味なんだと思う。
店にすれば、代金を頂くのは当たり前。でも「頂きます」といってしまうと、本来預かるべき消費税も頂いてしまうイメージを与えてしまう。消費税を「ねこババ」してるようにも聞こえてしまう。
仮に僕がマニュアルを作るとして、いくらいい加減なものしかできないにしても、実際に作るときには少しくらい反証してみて、これじゃちょっと変だ、この言い方よりこっちの言いまわしの方が・・などとやるだろう。
そうした検討項目の中には、正しく意味を伝えるというのも含まれることだろう。
もしかしたら、我々が日頃何気なく接している応対も、マニュアル検討会議でものすごい激論を経て決まったものかもしれない。この「〜からおあずかり」もそうした激論?の末生み出された言葉かもしれない。
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