高血圧症
日本高血圧学会のガイドラインを概説します.当院ではこのガイドラインにのっとり診療を行っていますが,患者さんごとの事情やパーソナリィティーなども考慮し,多少修正し適用しています.
※参考:日本人間ドック学会が高血圧学会とは異なった血圧の基準値を公表し,高血圧学会より高い目であったため一時話題になりました.人間ドック学会は,現在健康な人のデータから割り出した血圧の基準値であって,将来のリスクを勘案した高血圧学会の基準値とは異質のものです.日本人に多い脳卒中の予防,食生活の欧米化により増加しつつある虚血性心疾患の予防のためには高血圧病学会のガイドラインに沿った診療を行うべきと考えます.
血圧の基準値
下記の表のごとく,ガイドラインでは収縮期血圧140以上または拡張期血圧血圧90以上を高血圧とします.これは診察室血圧での基準です.140/90mgHg以上を高血圧と判定していることには十分な根拠があります.すなわち140/90mmHgを超えると,脳卒中になる危険が急激に増すことが疫学調査で明らかになっているからです.
成人における血圧値の分類(mmHg)
白衣高血圧といい,医者の前だと血圧が高くなる方を多く見かけます.逆に,仮面高血圧といい,早朝などに高く,受診時には下がっている方も時におられます.当院では,以前より自動血圧計を貸し出し,家庭血圧の評価を行って来ました.高血圧学会のガイドラインでも2014年版より家庭血圧を優先するようになりました.
治療目標の血圧
それでは,高血圧と診断された場合どのぐらいまで下げるべきでしょうか?ガイドラインでは疫学調査などの結果をもとに,年齢や疾患ごとに目標を示しています.診察室血圧と家庭血圧それぞれの目標が示されています.
降圧目標
高血圧に対する治療
血圧の値だけでなく,他の病気の合併の有無などにより生活習慣の改善のみで経過をゆっくりとみる場合から,急いで薬物療法を開始する場合まであります.このページ最下段の表のごとく低リスク,中等リスク,低リスクに分けるのですが,この分類は複雑ですので担当の医師に任せていただいていいと思います.
低リスク→3か月以内の指導で140/90mmHg以上なら降圧薬治療.
中等リスク→1か月の指導で140/90mmHg以上なら降圧薬治療.
高リスク→直ちに降圧薬治療.
上記の指導というのは具体的には下記のとおりです.
1)塩分を控える.1日6g未満.(漬物や佃煮はやめる.料理は薄味に.味噌汁やうどんのだしなどなるべく飲まない.)2)体重を減らす.(肥満の解消で10mmHg血圧が低下すると言われています.)BMIが25未満となるよう.3)野菜を多く摂る.3)野菜を多く摂る.4)コレステロールや飽和脂肪酸の多い食品を控える.魚を積極的に食べる.5)運動をする.(1日30分以上の有酸素運動=あまり激しくなく,持続的な運動.速歩などがいい.)6)コレステロールや飽和脂肪酸の多い食品を控える.魚を積極的に食べる.7)禁煙.8)節酒.エタノール換算で男性は20-30ml/日以下.女性は10-20ml/日以下.
降圧薬による治療は医師にお任せください.危険因子,臓器障害を加味した上でその種類を選択し,単剤による治療から開始します.降圧が得られない場合は2剤以上を組み合わせて行います.
参考:(診察室)血圧に基いた脳血管リスクの層別化
下記の診察室血圧に基いた脳血管リスクの層別化”の表に従ってまずリスクの層別化を行います.そのうえで管理計画を立てます.
(診察室)血圧に基いた脳血管リスクの層別化
※血圧値以外の危険因子:高齢(65歳以上),喫煙,脂質異常,肥満(BMI 25以上),メタボリックシンドローム,若年(50歳未満)発症の心血管病の家族歴,糖尿病,※臓器障害/心血管病:脳(脳出血,脳梗塞,無症候性脳血管障害,一過性脳虚血発作),心臓(左室肥大,狭心症,心筋梗塞,冠動脈再建,心不全),腎臓(蛋白尿,eGFR 60ml未満,慢性腎臓病,糖尿病性腎疾患腎症や腎不全などの確立された腎疾患,腎不全など),血管(動脈硬化性プラーク,頚動脈内膜-中膜肥厚>1.1mm,大血管疾患,末梢動脈疾患(足関節上腕血圧比低値:ABI≦0.9),眼底(高血圧性網膜症