俳句絵解き草子(1)    
磯 野 香 澄
冬木立根は岩を這い鞍馬寺香 澄    

 鞍馬山は義經が修行をした処だと言う事でたいていの人に知られていますが、鞍馬の集落の中程から登り口があって山門を潜ると由起神社と言うお宮があります。そこからケーブルがあるのですが、その横に昔からの参道があって、その道は大杉の茂る急な坂でつずら折れになっていて、そこを登りきると本殿があります。その左手の細いけれど平坦な道を行くと奥の院への別れ道があってその先は川床料理で有名な貴舟の里へ下りて行くので、ハイキングコースにもなっているのですが、その尾根一帯は岩盤で形勢されていて、杉や雑木が生えているのですが、なにしろ地面が岩で木々は根を地中に伸ばしたくても入れないので、ほんのちょっとした岩の割れ目にしがみつく様にして横へ伸びているのです。始めは苔とか小さい植物だったのでしょうが長い年月をかけて大木が生い茂るまでになっているのですが、根は岩を這いながら太くなり、まるで吸盤で吸い着いている様に岩に密着して大きな幹を支えているのです。それらの木々の始めは種が風に運ばれて来たのか、どんな拍子でそこに根を降ろすことになったのか私には知る由もありませんが、私はその根だらけの細道を歩く度に何も選り好んでこんな厳しいとこに生えんでも、もうちょっと楽なとこへ生まれていたらよかったのにと、自分の生い立に重ね合わせてそう呟いてしまうのです。そしてこんなとこでよう頑張っているなあとこれらの根とそして木々に心の中で話してしまうのです。遠くから見れば普通の木立に見えるその根は必死で幹を支え養分を岩の割れ目から吸い取って枝葉に送っているのです。寒い冬でも普通なら暖かい地中で守られているべき根なのに、雨にも雪にもさらされて必死で耐えている冬の木立がいとおしくてならないのです。鞍馬寺は義經の修行の拠点であった様に、生き物に厳しさと忍耐を与えてやまない悟りの場でもある様に思えるのです。

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