竹林の拡大問題

(文責:竹文化振興協会専門員 渡邊政俊)



平成13年5月21日、NHK「クローズアップ現代」で竹林の拡大問題が放映されました。
ご記憶の方も多かろうと思いますが、竹の文化的・産業的活用を啓蒙している本会としましても、 この竹林の拡大問題を軽視することはできません。
そこで、本ページでこの問題について考えてみたいと思います。

竹林拡大の実態

まず、京都府南部の田辺・山城地域では1953〜85年の32年間で竹林面積が約10培に拡大したと報じられました。
これは鳥居厚志・井鷺裕司両氏(森林総研)の研究を紹介したもので、同報告では53〜78年の25年間の拡大(約7倍)は ほぼ人工的に植栽されたもの、そして78〜85年の7年間の竹林増加(約1.4倍)は森林が自然に竹林に置き換わった場合がほとんどと述べています。
すなわち、53〜78年の25年間の拡大は筍栽培が有利な経営であったことから農民が人為的にタケノコ栽培竹林を拡大したものであって、 現在問題視されている竹林の拡大には当たりません。つまり、1978年以降7年間の拡大がいわゆる自然拡大で、 その面積は約1.4倍だけなのです。
しかし、放映ではあたかも自然拡大が10倍になったかのように受け取られる内容でしたが、 それは事実でありません。

竹林拡大の理由について

現在、竹林の多くは放置された状態にあります。
これは、近年、近隣諸国から筍が大量に輸入されるようになり、 これがタケノコ栽培農家に大きな打撃を与えているからです。
つまり、栽培農家はタケノコ生産に経済的メリットが見出せなくなったことから竹林が放置されるようになった訳です。
しかし、放映では、「竹林が放置されたため、竹林が拡大した」という説明でしたが、 竹の生理・生態的な特徴からみて、そのような説明は適当ではないと考えます。

実は、今から40年も前に、世界の竹博士と称された故上田弘一郎博士と世界的に有名な生態学者の故沼田眞博士の共同研究で、 竹林が長年放任され、原生林化した場合、竹林内の生産力がほぼ一定となり、 極相¥態になると発表(1961)されています。
しかし、放映では竹林が長年放任された場合、竹林内で栄養不足状態が起こり、 そのため地下茎が竹林の外へ侵出する≠ニ言うような説明がありました。
しかし、両博士の研究結果から推して、竹林が放任されると、竹林内の物質循環が安定の方向に向かい、 一定の生産力が維持されることになります。
ですから、竹林の放置と竹林の拡大とは関係がないということになります。
また、竹は美味しいところに向かって伸びていくような印象の話でしたが、植物は「意思を働かせる」ことができません。 あくまでも環境に適応して生活するのが植物です。

つまり、竹林が管理されていても、また放置されても、地下茎の伸長方向には無関係であって、 例え理想的に管理されていても林外へ伸長するものは当然伸長するであろうし、 また林内へ広がるのも当然なことです。
それが竹類の生態的特徴です。

こうした竹類の特徴をきちんと説明しないと、ただ竹とは外に向かって広がる恐るべき植物≠ニしか受け止められません。
このように誤解されては、竹産業関係者の気持ちを踏みにじることになります。

このことについて、さらに問題を提起したいと思います。
竹類の生態的特徴からみると、竹類の拡大は拡大されては困る側の責任≠ニ考えます。
かつて、里山は燃料供給源として、人々の生活のとって大変重要な位置にありました。
しかし現在、里山はどうなっているのでしょうか。
また、モウソウチク林に接した造林地の管理はどうなっているのでしょうか。
振り返ってみると、かつては里山や造林地に招かざる竹などが侵入してきた場合、直ちに処置され、それによって里山や造林地が守られていた筈です。

元来、モウソウチクなどの竹類は里山の構成植物として人々の生活に直結した価値を発揮し、人々の暮らしに貢献してきました。
そして、その当時も、また現在も竹類の生活力は何ら変わるものではありません。
つまり、現在の拡大は、隣接していて侵入されては困る側の事情が急変したことによるものであって、決して竹類が悪者ではないのです。
この点を明確にしておかなければ、とんでもない誤解を生む恐れがあります。

その他のことについて

放置竹林は山崩れするとて、動画まで駆使した説明がありました。
確かに、放置竹林では防災的機能が低下することは十分理解できます。
しかし、放映ではあたかもすべての竹林が山崩れを起こすがごとき印象を与えるものでした。
あまりに一方的な見解だけが取り上げられた感があります。
古来、竹は山崩れや堤防の決壊を防ぐ植物として広く植栽され、そして活用されてきました。
すると、それらはすべて間違いだったのでしょうか。

ボランティアが造林地に侵入した竹を伐竹奉仕している紹介は貴重でしたが、 京都府大山崎町ではボランティアが拡大した竹林を活用する方向≠ナ取り組んでいる例もあります。
また近年、各地で竹林拡大問題に取り組んでいるいろいろな団体があります。

この他、研究の現状説明ではほとんど行われていないかのような印象の解説≠ェありました。
そのようなことは事実でありません。
現在、国の森林総合研究所や地方の研究機関などで活発に種々の研究が行われています。

まとめ

総じて、この「NHKクローズアップ現代」の放映は一方的に竹のみを悪者扱いにした構成≠セったと断言出来ます。
しかも、それがNHKのゴールデンアワーであったのは残念でした。
どれほどの国民が視聴したかは知る由もありませんが、当竹文化振興協会の会員の多くが視聴し、実に腹立たしく思ったとの声が多くありました。
今後、改めて、新たな見方で放映されることを期待して止みません。