今川義元との決戦を前に、舞を舞ながら詠った織田信長。
戦いに身を投ずるもののふとしての気概をあらわした有名な句である。
ただこの時の信長の状況を考えれば、こう歌わざるをえないものがあったと思うのだが。
ともあれ、人間の人生、万物流転の時間の流れからするとはかないものだ、と
高らかに詠ったこの句は、信長だけが至りえた境地ではないといえる。
戦国の世にあって、武将、民衆を問わず死はすぐとなりにあったという。
生死の奔流にいつ飲み込まれるのかわからない生活がリアルに感じられていたのだ。
そうすると、そんな儚い、瞬く間の時間に対する態度で人生は大きく変わる。
こう詠った後の信長は強烈な輝きを放つように生きた。
しかも夢まぼろしのような一瞬を駆け抜けていった。
信長は彼なりのやりかたで、この句を生きたといえる。
夢まぼろしのような人生だからこそ、輝きをもって走り抜けたのだ。
そこに彼の生命があり、実存がある。
彼をマネすることなんかできやしないし、マネする必要もない。
でもこの句のリアルさを感じていたい。