タヌキ山事件(9)
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9 それから…
タヌキ山はまたもとのタヌキ山にもどりました。学者がくる前とすこしもか
わったところはありません。
めまぐるしくいそがしかった日がすぎさってしまうと、町長は久しぶりに望
遠鏡を出して、タヌキ山をながめました。
−ああ、静かでいい山だ。それにしてもどうかしていた。もっと慎重にやる
べきだった。あの山はあの姿のままで、それでいい。町の人たちになんと言っ
ておわびをしたらいいのだろうか。長いはしごといい、ばかでかい「てこ」と
いい、費用もかかりすぎた。しかし、わたしはただ町が発展することを願って
いた。ただそれだけだった…。
町長はこの町が有名になりそこねたと同じに、自分も町長をやめなくてはい
けなくなったことを、いまさらながらくやんでいました。町長は疲れきった顔
で、深い息をつき、目をとじました。
町はいつのまにか、しずかで平和な町にもどっていました。町の人たちはと
りたてて、タヌキ山のことをとやかくいわなくなりました。だって、やはり見
なれた山にしかすぎなかったのですから。
さて、これで、静かで小さな町に起こった大きな出来事の報告を終わります。
タヌキ山の岩がすこしうごいた日から一週間ほどあと、都会の新聞には、山
あいの小さな町がたつまきにみまわれ、百軒ほどの家が被害を受けたというニュ
−スがのりました。
その十行ほどのニュ−スは、実はたつまきなどではなく、こんな大きな、町
をあげての出来事でした。
なにしろへんぴな小さい町でのできごとでしたから、風の被害のことだけが
つたわって、なぜそうなったのかということはまるで知らされなかったのです。
でも、町の人たちにとってはかえってよかったかもしれません。もしも本当
のことが伝えられれば、タムタム古墳の発掘がはじまるかもしれませんし、ま
た、タヌキ山を見るためにたくさんの人が町にやってくるかもしれません。そ
れよりも、観光地をつくるためにもっとたくさんのダイナマイトをしかけて、
タヌキ山がめちゃくちゃになってしまうかもしれませんもの。
町はあいかわらずおとずれる人もなく、静かでいい町のままだということを
お伝えしておきます。もっとも町長さんは、今は、別の人になったそうです。
(おわり)
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