m● 体験通して地域に活力 ●
(平成15年1月7日 京都新聞丹波版)


収穫したソバを、完成したばかりの 水車小屋で味わう鶴ヶ岡地区の人ら
(美山町豊郷)
昨年十二月、美山町鶴ヶ岡地区のわずか十五戸の集落「神谷」に、水車小屋が完成した。直径四bの手作り水車が回る。かつて集落内には水車が四棟あった。四十-五十代の「若手」が、京都市など都市部の出身者らを巻き込み、二十五人で十カ月かけて復活させた。
 「この過疎の地に、なぜ住んでいるのか。『だからここに住んでいる』といえる理由となる拠り所を作ろう」。縫製会社の社長を務める柿迫義昭さん(54)の呼びかけに、仲間がこたえた。
 メンバーの前田好久さん(47)は水車を見上げ、「素人のぼくらの手で作るなんて、夢みたいな話だった」と振り返る。メンバーらは自信をつけた。「今度は宿泊施設を作ろうか」「水車をもう一つ作ってもいい」
 福井県と接し、山々のふもとに集落が点在する鶴ヶ岡地区。人口は約千人。過疎と高齢化が進み、集落の中には、六十五歳以上の高齢者の割合が50%を超えたところもある。
 主産業の農林業は、苦況にあえぐ。美山町には、全国から年間五十三万人の観光客が訪れるが、見学先はかやぶき民家が軒を連ねる北地区などに集中する。鶴ヶ岡にはかやぶき民家が少なく、「見てもらう」だけの観光では、なかなか足を運んでもらえない。
 「都市部の住民と地域とが、田舎のよさや大変さまで理解し合いながら関係を深める。人が動けば、モノや金も動く。これが活性化につながるのではないか」
 柿迫さんは、都市との交流に、活性化への活路を見いだそうと考えた。

 二年前から、そばづくりの体験を通して、京都市内の住民と交流している。地元の二十五人で「ごんべの会」を結成し、京都市内のそば店や製麺所など二十五の事業所が加盟する「伏見麺道場」と提携した。昨年八月の収穫イベントには、京都市内からの約八十人が参加した。自らの手で種まきから草刈りまで、手塩にかけて育てたソバを、地元産の辛味ダイコンとともに味わう。「おいしい」。参加者の顔がほころんだ。
 体験だけには終わらせない。転作で住民が栽培したソバを、「道場」の会員に販売する。昨年は千二百`を出荷した。
 比較的、栽培しやすいソバは、中山間地の転作用に各地で生産され、競走相手も多いが、「道場」も「何とか軌道に乗せたい」と全面協力している。
 京都市内で、店頭に「美山鶴ヶ岡産」ののぼりを立て、期間限定メニューとして力を入れる店も現れた。
 都市と交流できるメニューを、もっと増やしたい」。柿迫さんらは、ソバや水車の次を模索する。「両町村合併をしようとしまいと、活力のある地域は生き残り、活力のない地域は廃れる。手をこまねいていても仕方ない。時間がない。やるしかないんや」