m● 近づけない秘境の地 ●
(平成14年8月11日 京都新聞丹波版)

●音谷の滝(美山町豊郷)


 緑の色を深めたサワグルミやトチ、シデやナラなどの自然木が覆う絶壁に、白布を引くような一条の滝が目に入る。静寂の空間だが、岩をたたく水音は遠目には届かない。美山町豊郷、洞集落の背後に広がる通称、音谷の滝。音谷には、さまざまな風情とスケールの滝が連続し、弘法大師伝説を残している。
 集落の長老の一人、下田正一さん(八三)は「弘法大師が道場を開くため音谷を訪れた。修行場として四十八滝が必要だが、四十七滝しかなかった。大師は、条件を満たした高野山に去ったと伝えられている」と話す。
 音谷は、頂上部の標高八九八・九bの三角点・地蔵杉や一帯に広がる天然杉やブナなどの原生林(洞八丁)に向かって険しく切れ込み、容易に人が近づけない秘境の地。下田さんは「大師は空から滝の数を調べたそうな。なにしろ神みたいな人やから」と。
 音谷の滝は、対岸の林道から二つ見ることができる。支流の聖ケ谷は、次々と滝が現れるが、登山の熟練者以外、アタックはあきらめたほうが無難だ。