オプション取引とは
オプションは英語でoption、選択権を意味する。オプションはデリバティブ取引のひとつ。デリバティブは英語でderivative、派生を意味する。オプションは証券や通貨または先物などを売買する権利で、オプション取引=権利の売買といってよい。売買する権利の対象となっている証券や通貨または先物などを原資産(underlying asset)などとと呼び、先物がオプション取引の対象となっている場合、原資産を原市場などという。
厳密にいうと、オプションは条件付き請求権(contingent claim)と解釈すべきである。オプションという選択権はある特定の条件下において、行使されるからである。オプションという選択権を行使することを、権利行使(exercise)という。
オプション取引で売買される権利には2種類ある:
買う権利を購入すると、高いモノ(原資産)を安値で買うことができる。
売る権利を購入すると、安いモノ(原資産)を高値で売ることができる。
オプション取引では、買う権利と売る権利に定まった名前が付いている:
オプションは条件付き請求権であるから、ある特定の条件下において権利行使すると有利である。権利行使はオプションの買い手にしかできない。
オプションの売り手には、オプションの買い手が権利行使したとき、買い手の請求に応じる義務が発生する。
オプション取引は権利の売り手と買い手によって成立する契約(contract)だが、権利行使は買い手のみによって実行することができる。売り手には買い手が権利を行使したときに義務が発生し、権利行使がなければ義務は発生しない。
例えば、ガン保険に加入したとする。保険の購入者はガンに罹患すれば、補償を受けることができる。交通事故などで死亡しても、ガン保険からは何ら補償は出ない。
ガン保険の購入者は保険会社に保険料を支払う。
保険会社は購入者がガンに罹患し請求がなければ、補償の支払い義務は発生しない。
このようなガン保険の補償は「ガンに罹患すること」を条件とした条件付き請求権なのである。
ガン保険の購入者は、このような権利を購入しているのである。
保険会社は購入者に対し権利を売っているのである。
オプションも権利(条件付き)である。
保険会社はオプションの売り手で、ガン保険の購入者はオプションの買い手である。
万一、ガンに罹患すると治療費など家計はマイナスになる。「ガンに罹患したとき治療費などが請求できる」という条件付きの請求権(オプション)を、あらかじめ購入しておけば、ガンに罹患したとき助かる。
ガン保険を購入するということは、ガンに罹患したときのリスクをヘッジ(回避)する手段なのである。
オプション取引も保険契約と似ており、購入者にはリスクヘッジのメリットがある。売り手には保険料が収入となる。保険契約と同じように、購入者は売り手に条件付きで請求権を行使することができる。
例えば、コールの買い手は原資産の価格が行使価格以上になったときオプション(選択権)を行使できる。具体例として通貨オプションの取引を使って説明する。
今日から3カ月間において、ドルを110円で買う権利というコールを購入すると、ドルの相場がいくらであろうと3カ月間はドルを110円で買う権利がコールの購入者は持っている。一方、コールの売り手は権利行使されたとき不利であっても買い手の請求に応じる義務がある。例えば、ドルが130円でも、コールの売り手は買い手に110円でドルを売らなければならない。売り手には市場でドルを130円で買い付け、コールの買い手に110円で売り渡す義務がある。コールの売り手は20円損するが、買い手は20円得する。
オプションはゼロサム・ゲームなのである。
オプションには、いつ権利行使できるかによって2つの取引形式がある。
プレミアム(premium)とはオプションの価格のことで、もともと「保険料」という意味である。
オプション取引では、プレミアムが権利の代金で、プレミアムが売買されることで権利が売買されるわけである。
ドルを110円で買う場合の損益図を見てみよう。オプションはアメリカン形式なので、権利行使はいつでも可能。行使価格は110円で、オプションの期間(残存日数)は3カ月とする。プレミアムは3円と想定した。ドルのスポットは110円。行使価格と原資産価格が同じときで、このようなときのオプションをアット・ザ・マネー(at the money)と呼ぶ。
Traderを使って損益図を書いた。ただし、理論価格の曲線は表示していない。(残存日数に0を入れると表示されない)
ドルが110円以上になると権利行使は有利であるが、3円のプレミアムを払っているので損益分岐点(ブレークイブンポイント)は113円である。ドルが110円のとき権利行使しても、儲けはゼロで、3円のプレミアムを払っているので、トータルではプレミアム分3円の損失になる。
ドルが113以上に値上がりすると、コールの買い手にとっては有利である。
コール・オプションの場合、原資産価格(ドル)が行使価格以上のときのオプションを「イン・ザ・マネー(in the money)」という。逆に、原資産価格(ドル)が行使価格以下のときのオプションを「アウト・オブ・ザ・マネー(out of the money)」という。
仮にドルが120円のとき権利行使しても、これは120円のドルを110円で買うわけであるから、すぐに売って10円の利益を確定しなければならない。
が、一般に実際のマーケットではこのようなことはできない。為替の取引では売り値と買い値の開き(スプレッド)があり、すぐに売る場合でも相場が急変すると有利な価格で取引できるとは限らない。
オプション取引には決済方法についてのルールがある。日経平均のルールは通貨とは違うし、先物(大豆やとうもろこしなど)とも異なる。例えば、商品先物のオプションでは権利行使すると先物でポジションを取ることになり、証拠金が必要となる。このため、商品先物のオプションでは、オプションの最終取引日(納会日)は原資産である先物の納会日よりも早い。日経平均のオプションではSQ算出日が最終日(オプション契約の満期日)で、差金決済である。日経平均オプションは現物指数のオプションで、先物の最終取引日とオプションの満期日が同じになる限月がある。
このように、オプションの取引ルールを念頭に、オプションの損益図は、必ずしも実際の損益ではないことを留意すべきである。
また、コールの売り手は権利行使できない。権利を売っているわけであるから、行使する権利を持っていないのである。買い手に権利行使されたとき、不利であっても買い手の条件に応じる義務が発生する。商品先物オプションの場合、権利行使されると買い手と逆の約定を先物市場でしなければならない。コールの売り手なら、先物を売り建てねばならない。商品先物の場合、アメリカン・オプションなので権利行使はいつでもでき、権利行使があった場合は、抽選によって売り手が選ばれる。
コールの売り手の損益図は以下のようになる。
行使価格110円のコールを売る場合、円安になると不利になる。コールの買い手は110円以上になると行使するかもしれない。コールのプレミアムが3円なので、コールの買い手にとっても売り手にとっても損益分岐点は113円である。
アメリカン・オプションでの権利行使であるが、商品先物のオプションでは、抽選によって売り手に義務が発生する。
以上のオプション取引はドルが110円のときに成立している。行使価格とスポットが同じ値段のときである。行使価格と原資産価格が同じときのオプションを「アット・ザ・マネー(at the money, ATM)のオプション」という。また、原資産価格にもっとも近い行使価格のオプションを「ニア・ザ・マネー(near the money, NTM)のオプション」という。
実際のマーケットでは、オプション取引が成立したとき原資産価格と行使価格がぴったり一致していることはあまり起こらない。NTMをATMとみなして、「ATMのオプション」または「ATM近辺でのオプション」などということもある。
プット・オプションは原資産を行使価格で売る権利である。権利の買い手は売り手にプレミアムを支払うことでオプション契約は成立する。
行使価格110円のプットを買ったときの損益図である。プレミアムは3円と想定した。
プットを買うと、安いモノ(ドル)を高く売る権利が得られる。行使価格が110円なら、ドルがどんなに値下がりしても110円で売ることができるのである。しかし、権利を得るための対価として3円のプレミアムをプットの売り手に払っている。プットの買い手にとって、107円が損益分岐点である。107円よりもドルが安くなれば、プットの買い手は権利行使することにより利益が得られる。
プレミアムは手付金のようなものである。
プットを売ると、どうなるのか。以下が損益図である。
プットの売り手の損益分岐点は、買い手と同じで107円である。これよりドルが値下がりすると、損失が出る。が、107円よりも円安なら、権利行使されないのでプレミアムが収益となる。
プット・オプションの場合、原資産価格(ドル)が行使価格以下のときのオプションを「イン・ザ・マネー(in the money)」という。逆に、原資産価格(ドル)が行使価格以上のときのオプションを「アウト・オブ・ザ・マネー(out of the money)」という。
イン・ザ・マネー(in the money)
アウト・オブ・ザ・マネー(out of the money)
アット・ザ・マネー(at the money)
は、いずれも競馬用語に由来する。賭け馬が予想通りゴールインすると、イン・ザ・マネーでフィニッシュというわけ。はずれると、アウト・オブ・ザ・マネーで、アット・ザ・マネーでは、ちゃらという意味。
オプションは競馬とよく似ている。まず、レースのように勝負する時間が短い。レースが終わると、当たり馬券には価値があるが、はずれ馬券は無価値である。オプションも満期が過ぎると権利が消滅する。満期においてイン・ザ・マネーなら、利益になるが、それ以外の「はずれ」なら、プレミアム(馬券購入代金)を捨てることになる。
オプションはある一定の期間のみにおいて価値のある消耗資産で、オプションの価値は原資産の変動によって揺らぐ。また、原資産の他、最終取引日までの日数である残存日数や金利などの影響によっても、オプションの価値であるプレミアムは揺らぐ。
オプションは原資産があってこそ成立可能な売買権利の取引なのである。オプションは原資産から派生してつくられた消耗資産(wasting asset)。派生は英語で、derive(動詞)またはderivative(名詞)という。これがデリバティブという言葉の由来である。
コールは英語でcallである。「呼ぶ」という意味の他に「要求する」という意味がある。コールを買うと、有利な行使価格での取引を売り手に要求することができる。高いモノを安値で買い付けることを、売り手に要求できる。
プットは英語でputである。「課す」という意味があり、プットの買い手は売り手に安いモノを高値で買い取ることを課すことができる権利である。