アービトラージの概要

 

言葉の定義と翻訳による誤解

アービトラージ(arbitrage)は、日本では裁定取引と訳される。が、この翻訳には少々誤解をまねく可能性がある。ここでは、簡単な裁定取引の例を使って、翻訳に由来していると思われる誤解について述べる。

現代の投資理論は、アービトラージを無リスクで儲ける行為と定義している。このコンセプト(考え方)が理解できれば、オプションや先物などの理論が理解できる。

アービトラージを理解することは、デリバティブの理論を理解することへの第一歩でもある。オプションだけではなく、先物などの他、デリバティブの理論はアービトラージの概念を基盤に成り立っている。と、言ってもけっして過言ではないからだ。

また、アービトラージが理解できれば、このコンセプトを実際の取引に応用し、儲けることができる。取引支援ソフトは、そのための道具なのである。

英語で、アービトラージを略してアーブ(arb)という。だから、裁定取引によって儲けることは、

Let's arb!

なのだ。

アービトラージを略して、アーブと言うことにしよう。

 

アービトラージの例

(概念を理解するためのもので、実用性は保証しません)

 タダ飯(女の子がメッシー君を利用することなど、食事をおごってもらうこと)

 タダ乗り(女の子がアッシー君を利用することなど)

 京都で100円で売られている缶コーヒーが、名古屋では120円で販売されているとき、京都で買って名古屋で売って儲けること。(大量の売買をすれば、運送費などは賄える)

 円を米ドルに換えて、このドルをユーロにし、このユーロをマルクにし、マルクを米ドルにし、最後にこのドルを円と交換したとき、最初の円での所持金よりも多くなるとき。(これらの取引は、すべて同時に実行しなければならない。実際にこのような交換レートが存在するかどうかは不明だが、もしこのようなことができれば、立派なアーブによる儲けである)

 京都から東京へ新幹線で出張するとき、JR京都駅から徒歩で行ける金券ショップで切符を安く買い、通常の料金を会社に請求すること。(会社にバレないことが前提です)

 

以上が、アーブの概要である。

デリバティブ理論でのアービトラージとサヤ取りは違う

なお、アーブはサヤ取りとは違う。サヤ取りのサヤとは価格差のことである。例えば、2つの異銘柄でサヤ取りをする場合、双方の価格差を見る。価格差(サヤ)が小さくなるか大きくなるかを判断材料とし、片方を売り、もう片方を買うわけである。が、サヤの動きが必ずしも思惑通りの結果を出すとは限らない。

サヤ取りにはリスクがある。

過去の価格データが、そのまま将来においても通用するとは限らないというリスクがある。サヤが縮小し、収れんしたと思って、買った銘柄が上がればよいが、下がったら負けだ。売って下がればよいが、上がってしまったら、どうしよう。

しかし、相場の世界ではサヤ取りもアーブ(裁定取引)のひとつと考えられており、実際にこの方法で儲かる場合もある。

これに対し、デリバティブ理論でのアーブには、リスクはまったくない。リスクなしで、確実に儲ける技である。そのようなタダ飯が起こらないか、起こり得ないと考えられるときに、市場価格は公平な価格(fair value)といえるのである。ブラック・ショールズ式などによって算出されたオプションの理論価格は、このような公平価格なのである。

したがって、デリバティブの理論の範疇においてのみ、アーブには、サヤ取りなどの方法は入らない。

もちろん、だからといって、サヤ取りを否定しているわけではない。リスクのある投資方法と、リスクのまったくない投資方法とを、はっきりと区別しているだけである。そうすることで、デリバティブの理論を、より綿密に論じることができるからである。

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