満期時のプレミアム
前提
ここでは、K's Soft社の株券オプションを想定して解説する。(もちろん、そのような株式は存在しないが・・・)
また、以下を前提とする。(オプション理論でノーベル賞を受賞した論文[1-3]でも同じような前提を使っています。このような前提を使うことで、数学的な論理展開が容易になり、ブラック・ショールズ式が誕生したのです)
(1) 株式は無配当
(2) 株式などの証券取引に必要な手数料・証拠金はない
(3) 税金はかからない
(4) おカネを借りるときの金利と、貸すときの金利は同じレートである(例えば、年率10%で借入でき、貸し付けるときも年率10%となること。もちろん、実際にこのようなことはありえませんが・・・)
(5) 空売りは手数料・証拠金などなしで、自由に実行できる。
満期におけるコールの公平価格
コール・オプションの満期における価値について解説する。
満期においてK's Soft社の株が1株あたり1000円で取引されているとき、行使価格が600円のコール・オプションについて投資家が取る行動を考えよう。
満期において、コールの価格が500円ならば、投資家はどうするであろうか?投資家は以下のようなアーブ(アービトラージのこと)によって無リスクで儲けることができる。
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コールを売る |
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株を買う |
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買ったばかりの株を行使価格の600円で売る |
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合計 |
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このようなアーブによって、無リスクで収益が発生するため、コール・オプションの価格(プレミアム)は不公平ではないか。コールが高すぎるのである。
では、いくら高すぎるのか?
もちろん、アーブによって発生する金額分だけ高すぎるのだ。したがって、コールは500円ではなく、400円でなければならない。
したがって、満期におけるコールの公平価格C*は
となる。Kは行使価格、S*は満期における株価である。maxとは、カッコ内の0もしくはS* - Kのどちらか大きい方を取ることを意味する。S* - Kが負ならば、C*はゼロである。ゼロの方が負の値よりも大きいからだ。
ただし、実際の株券オプション取引では、プレミアムには呼値の単位があるため、この計算式とぴったり一致する値にはならない。が、じゅうぶん近い値にはなる。
では、満期においてコールが400円よりも安く、例えば300円としたら、投資家はどのよにアーブによって儲けることができるか。
コールが割安なので、コールを300円で買い、株を1000円で空売りすれば、手元に700円残る。さらにこの700円で、行使価格が600円のコールを行使して、空売りしたばかりの株を600円で買い戻せば、100円が儲けとなる。タダ飯ではないか。こんなことはありえない。
したがって、コールの満期における公平価格C*は
でなければ、ならないのである。
C* = max(0, S* - K)をもっとよく見てみよう。満期日において、株価が行使価格以下ならばコールの価値はゼロで、行使価格以上ならばコールの価値は株価と行使価格との差額になる。と、いうことが分かる。これをグラフで示すと、以下のようになる。
赤線で示したのが満期におけるコールの価値である。満期日に株が上昇すると、行使価格を分岐点としてコールの価値も株価と行使価格との差額分だけ上昇する。赤線をよく見ると、直線ではない。このような線を非線形(non-linear)という。
オプションの価格が非線形であるといいわれる所以がここにある。
単に、現物の株を買って保有しているならば、相場が上がれば儲かり、下がれば損をする。この場合、損益は相場の動きとぴったり連動するではないか。換言すると、損益図は直線なのである。
ところが、オプション取引から生じる損益図は直線ではない。非線形なのである。
ここに、オプションのようなデリバティブと現物投資との違いがあるのだ。ここにオプションの醍醐味があるのだ。相場の変動に応じて損益のタイプを、投資家の裁量によって選ぶことができるのである。
このようなことは、もはや現物投資だけではできない。
だからこそ、デリバティブ市場が急成長したのである。リスクをコントロールし、リターンを追及することができるからである。
満期におけるプットの公平価格
コールの公平価格についての議論と同様の方法によって、プットの満期における公平価格P*は