……マラソンとは、数学であり、哲学である……


 【第33回防府読売マラソン完走記】2002.12.15

悲 願 達 成
  〜 定 刻 の 逆 襲 〜

【少しの工夫と、少しの努力と】

最近のフルマラソン結果は、2時間40分切りに挑戦するも果たせず、40分台後半、という膠着状態がやや目立っていた。 やはり、月間250kmそこそこの練習量で40分を切ろうというのはおこがましいのだろうか。 何か一工夫加えてこの膠着状態を打破する必要に迫られていた。

一つ思い当たることがあった。私はこれまで、レース前に特段の食事制限などはしていなかった。 周りでは結構気を使っているランナーの話を耳にしたが、すでに十分体重は絞られているのであり、そこまですることはない、と私は思っていた。

でも、である。俗に体重を1kg減らすと、フルでは3分ほどの記録向上の効果に相当する、と聞いたことがある。 もしベストと思っている今の状態よりもさらに1kg軽量化でき、自己ベストから3分短縮となれば、40分を切れるのではないか。 単純にそうは行かないだろうが、これは練習量にかかわらずできることなので、試してみて損はないのではないか。

そこでごく簡単ながら食事に気を使った生活を心掛けた。 中身はごく単純で、夕食の炭水化物を減らすこと、ただそれだけであった。

それまでの食生活と言えば、勤務終了後、練習を行い、帰宅して、ああお腹が減ったとばかりにご飯をいっぱい食べて満腹満足、という内容であった。 ランニングの成果で基礎代謝量が多いおかげで、それで太ることはなかったが、体重は59kg台を中心に推移、油断すれば60kg超という状況であった。

夕食は摂る。しかし、ご飯の量は半分に減らす、あるいはおかずだけでご飯は食べない。 こういった食生活を2週間前から始めた。 日中空腹でかなりつらいこともあったが、おかげでレース直前、体重は57kg台まで減少した。

レース2日前の金曜日の夕食から、この制限をついに解除。思う存分ご飯を食べた。 カーボローディングの開始である。 満たされたお腹から、体中にエネルギーが蓄積される、そんな感触だった。

ちなみに、禁酒はしなかった。 というのも、今まで自己ベストが出たケースでは、むしろレース前も普通に酒を飲み、リラックスできていたという状態がほとんどであり、下手に禁酒してストレスを溜めるのは逆効果と判断したからである。 もちろん暴飲は控えた。

練習量も、僅かながら増やした。 それまで月間250kmすら達しない月もあったが、11月は300kmを超えた。 それも、今までは平日昼休みに3〜4kmせこせこと走った分もカウントしていたが、短すぎて練習としては意味が薄いと思い、昼休みランを廃止、勤務後に10km以上、それもスピード練習やペース走など内容の濃いものをこなすよう心掛けた。

基礎体力も、見直した。 サブスリー・50分切りがいつでも出せるようになってから、正直慢心して怠っていた面があったのだが、思い直して腹筋、背筋、腕立て伏せをまたやり始めた。 それも、少しやり方を変えてみた。

マラソンでは、短距離のような瞬発系の筋はさほど要らないはずだ。 とすれば、これらの補強運動も、ゆっくりと時間をかけて行った方が、持久系の能力向上に役立つのではないか。 例えば、腕立て伏せでも、1回の上げ・下ろしにそれぞれ5秒ずつかけて行ってみた。 素早く動作するよりも、大変だ。 回数もたくさんはこなせないが、その方が効果が出ているような気がした。


【可もなく、不可もなく】

こうしてレース本番を迎えた。 実業団選手のような厳密なピーキングなどとてもできないので、今がピークなのかどうかはわからなかったが、少なくとも悪い感じはしなかった。 これまで全く風邪を引かなかったのは幸いであった。

レース3日前の木曜日、最後のスピード練習としてキロ3分45秒のペース走を6km程行った。 ほぼイメージ通り走れて、しかも思ったより2〜3秒速かったので、期待が高まった。 これは2年前の防府の時と同じ状況だったからである。

あのときは、キロ4分を基本としつつも、実際はキロ3分55秒できっかりイーブンで走りきったため、大躍進につながった。 今回もそうなってくれればいいのだが。

レース前日の土曜日に防府入りし、開会式を見て、買い物を済ませた後、ひとりぶらぶらと防府天満宮へ向かった。 おみくじを引いてみた。「吉」だった。

実は昨年も同じようにおみくじを引いたが、そのときは「大吉」だった。 いたく喜んだものの、実際のレースでは入れ込みすぎて失速、自己ベスト更新はならなかった。

そうだ、あんまり良すぎてもよくないのだ。 可もなく、不可もなく、が結果的には一番いいのではないだろうか。 ちなみに、そのおみくじには、「勝負事は勝ち」と書かれていた。 そのおみくじを境内に強く結びつけた。


【本日天気晴朗ナレド波高シ】

レース当日の朝を迎えた。12時スタートの大会は朝がゆったりできていい。 いつものようにTVの子供向け科学番組を見る。番組は一緒だがCMが地方によって異なるのが何となく面白い。 遠征しているのだなと実感する。

ホテルの朝食は、正直言って貧弱であった。 洋食を選んだのだが、パンはおかわり出来ないというので、なぜかご飯をおかわりした。 まあ、レース前にもっと補給するのでこの程度でいいだろう。

防府市内は、というよりもこの日は全国的に好天であった。 つい数日前まで居座っていた寒気が去り、移動性高気圧が張り出している最中なので、快晴となった。 朝早くは冷え込むが、日中は気温がやや上がるだろう。 昨年に引き続き好天となったことに感謝した。

私はどちらかといえば暖かい気候の方が走りやすい。 実際、シーズンとしては遅めとなる4月に自己ベスト更新を過去2回達成している。 日中の最高気温の予想は、13度。申し分ない状況であった。

駅から会場の競技場まで運行される臨時バスも、2人分のシートを占有できた ので荷物も気にならず、ゆったりとした気持ちで会場へ向かうことが出来た。
バスの中から、携帯で自らの掲示板に書き込んだ。
「本日天気晴朗ナレド波高シ」

【「定刻主義」、再び】

会場では、いつも通りの「儀式」を始めた。 何度もレース経験を重ねてくると、いつもやっている装備が抜けると不安で仕方がない。 新たな装備で成功したら、必ず次のレースでも使うので、どんどん増えてしまった。

キネシオテープ、使い捨てソフトコンタクトレンズ、サングラス、首輪、チタンテープ… なかには本当に科学的根拠があるのか疑問な装備もあるが、所詮気休めである。

それよりも科学的・数学的に考えなければならないのがペース配分であった。 2001年の別大で、その当時の実力としてはそれ以上考えられないという絶妙のペース配分で記録をうち立てて以降、ペース配分には悩まされ続けた。

前半若干の余裕を作り、後半その貯金を薄く伸ばして使ってギリギリのタイムでゴールに飛び込む。 そこで考案したのが三段ロケット方式であったが、まだ一度も打ち上げには成功していなかった。 即ち、最初から30kmまでを1時間50分で走り、30km〜40kmを40分で走り、最後の2.195kmを10分で走る。

しかしながら、これだと第一段ロケットはキロ3:40で走らなければならない。 30kmの自己ベストですら、まだ1時間51分かかっている現状では、オーバーペースといわざるを得ない。

一方で、二段目、三段目は、今年4月の長野マラソンで初めて成功した。 このときは第一段(30km)に1時間52分要したため、2分オーバーがそのまま2時間42分となって現れた。

この2分をどうやって消化するか。 そこで考えたのは、最初の30kmをちょっとだけ緩めて1時間51分30秒かかってもよいことにする。 はみ出した1分30秒は第二段で1分、第三段で30秒取り返す。 即ち、第一段はキロ3:43、第二段は3:54、第三段は4:19で走ることになる。

だが、こんな針に糸を通すような芸当が可能なのだろうか。 そこでもう一つ考えたのが、「42ヶ所の小関門、8ヶ所の中関門」を設けることであった。 防府では1kmごとに距離マークがあるので、1kmを3:48以内で走ることを絶対防衛線(デッドライン)とする。 そして5kmごとの通過タイムは必ず19分以内に収めるようにする。

理論的にはこれをこなせば2時間40分(正確には20秒ほどオーバーするが)でゴールできる。 実際は、最初のうちは関門より僅かに早く通過するだろうから、そのかすかな貯金を後半の遅れに備え積み立てておく。 まさに2年前にキロ3:55の設定で行った「定刻主義」の再現であった。

このことを自覚させるため、時計の設定を変えた。 今までは、スプリットタイムとラップタイムの表示にしていたのを、ラップタイム部分を、減算タイマーに変え、その設定時間を3:48とした。

つまり、ボタンを押すと、通常ののラップ(0秒から増えていく)ではなく、 3:48の表示からカウントダウンしていき、ゼロ、即ち3分48秒経過した時点でアラーム音が鳴り、オーバータイムを表示していくのである。

この場合問題となるのは、今のラップタイムが何分何秒だったのかを、3:48から引くなり足すなりしないと出てこないと言う点である。 5秒10秒程度なら構わないだろうが、何十秒もずれた場合に頭の中で計算できるかどうか…。

しかし、ここで思い直した。 そもそも何十秒も遅れるような事態が発生したのなら、2時間40分切りなど及びもつかない。 そんな状況で正確なラップなど何の意味があろうか。

ついに、これまでとは異なる時計の設定でレースに臨むことにした。 果たして吉と出るか、凶と出るか。



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