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【3機編隊、快進撃】 |
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対向するランナーはもう終わってしまった。しかし、ペースはまだ落ちていない。
いや、落ちないどころか、かえって上がっているような気さえする。
実際に時計のタイムは限りなく10秒に近い数字を連発してそのことを示していた。 |
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この状況は、似ている。そう、2年前の防府だ。
絶妙のペースで抑えた効果が現れてきたのだ。…ついに、定刻の逆襲が、始まった。 |
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既に折り返し過ぎたあたりから別大殴り込み艦隊はばらけてしまっていた。
少しずつではあるが、前のランナーを捕らえ、抜き去っていった。
すると、自分と同じ様なペースで走る2人のランナーに気が付いた。 |
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ゼッケン360と175。当然面識は全くなかったが、ありがたく付いていくこととした。
3人組の編隊飛行で、次々と前方のランナーを抜き去っていく。
巡航速度はキロ3:40前後まで上がっていた。 |
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26kmの給水地点。ここでも今回一つ新兵器を投入していた。
今までは、エネルゲンを置いていたのだが、この26kmと31kmだけは趣向を変えて、カーボショッツの水溶液を置いた。
カーボショッツ自体は前回新潟でも試したが、袋のままではやはり摂りにくかったので、水に溶かしてみたのだ。
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作戦は、当たった。これなら飲みやすい。味はかなり独特だが、この際関係ない。
即効性のあるエネルギー補給で、終盤の闘いに備えた。 |
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再びJRの跨線橋に差し掛かる。もうここならいいだろう。妙見山モードを解禁した。
ストライドを狭め、回転数を上げる。3機編隊の先頭を引っ張った。
頂上を過ぎ、下って、水平に戻ると、また後方に待機。 |
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JR北側の道路を東へ突き進む。ペースは相変わらず3:40を続けているのに、全然苦しくない。
まるで、私は、風になっているようだった。 |
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【第1段ロケット任務完了】 |
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もう30km地点が迫っていた。当初の予定では1時間51分30秒に通過だ。
果たして、実際のタイムは1時間51分06秒であった。言うことなしだ。
第1段ロケットの任務は、無事完了した。 |
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30km以降も、ペースは衰えなかった。さっきの3機編隊は、まだ続いていた。
こうなったら、地獄の果てまで付いていってやる。 |
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二度目の三田尻大橋、ここでも妙見山モードは健在だった。
ひょっとして、本当に2時間40分が切れるかもしれない。そう意識し始めた。
しかし、意識した途端、脚の疲労が気になり始めた。いったいあとどれぐらい保つのだろう…
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工場地帯の道に入り、沿道の応援はほとんどなくなってしまった。
編隊を組んだ僚機2名からも、少しずつ離されてしまった。
しかし、前方に別のやや大きな集団を見つけたので、そこに追いつき合流した。 |
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35km通過、2時間09分43秒。手元の表示は、残り2秒。
キロ3:48に設定したデッドラインが、徐々に迫りつつあった。 |
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【哲学の時間(とき)】 |
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36km、いよいよ苦しくなってきた。脚が、疲れてきた。
ここは自分のスペシャルドリンクを置いた最後のポイントだ。取った。飲んだ。
でも、やっぱりしんどい。36km地点はまだなのか… |
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その時。
ピロピロピロピロ。 |
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ついに、時計がアラーム音を発した。デッドライン、キロ3分48秒をオーバー。
アラームは4秒間鳴り続ける。せめて鳴っている間に…。まだだめか…。まだか。まだか。
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やっと36km地点を通過した。表示は6秒オーバー。キロ3:54。
たったの6秒間が、ずいぶん長く感じた。急激に、全身に疲れが回ってきたような気がした。
いかん、このままでは失速する。 |
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「くりりんさん、ファイトっ!」 はっ、誰だ?!。自分を呼ぶ声が聞こえた。…みぃちゃん!! 沿道の観客がほとんどいない中、ここでの声援は、ありがたかった。 |
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…そうだ。こんなところでくたばってたまるか。今まで何のために練習してきたというのだ。
ここから踏ん張れなくて、どうする。 |
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萎えかけていた気持ちが、奮い立った。止まりかけていた、第二段ロケットのエンジンが、息を吹き返した。
作戦タイムはオーバーしてもいい。キロ4分を維持すれば、行ける。 |
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37km手前、またアラームが鳴る。5、6、7、8…いま。9秒オーバー。でも大丈夫。
まだキロ4分は上回っていない。そしてついに、残り5kmの表示が見えた。 |
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……「マラソンには2つの我慢がある。前半飛ばしたくなるのを我慢することと、後半ペースが落ちるのを我慢すること。」< たっちゃんから聞いた話を思い出した。今日は前半うまく我慢できた。そうだ、今こそ後半の我慢の時だ。 |
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……「マラソンは、30kmから始まる。30kmからのモチベーションが、全てだ。」 ブッちゃんは、常に30kmからの重要性を説いていた。師匠、今日の残り12.195kmは必ずしっかりと走り切ってみせます。 |
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……「常に課題を見つけ出すことです。そしてその課題をどう克服するかを考え、練習するのです。」 確か、りかねんさんはそんな内容の話をしていた。今日は考え得る課題は全てつぶしてきたつもりです。もしこのまま走り切れれば、きっと誉めていただけますよね。 |
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様々なランナーから聞いたことのあるアドバイスや、理論、体験談が走馬燈のように脳裏をよぎった。
私は何のために走っているのだろう。
マラソンの神はこの答えを見いだせた者だけに、最後まで走りきれる力を与えるのだ。 |
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ついに、40km地点が視界に入った。
既に毎回アラームは鳴っていたが、ギリギリのところで踏ん張っていた。
頼む、あと2km少々保ってくれ。 |
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40km通過、2時間29分42秒。何とか、目標タイムを守った。第二段ロケットも成功したのだ。
あと10分だ。あと10分で、全てが終わる。 |
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【未知の世界へ】 |
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余程のアクシデントでもない限り、2時間40分は切れそうだと確信した。
少しでも余裕を残しておきたいと思った。 |
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既にペースはキロ4分を上回っていたが、今ならサブスリーペースでも大丈夫だ。
いや、キロ4:20かかっても大丈夫だ。 |
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こんなペースでも、幾人かのランナーをぽつりぽつりと抜いてていく。
彼らは2時間40分を切れるのだろうか。もし可否の境界線が見えるのならば、教えて欲しい…。
早く、そのラインを突破して楽になりたい…。 |
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競技場が間近に迫った。沿道にこの日4度目ぐらいになる、うずらさんらの応援を発見。
気合いで応えた。 |
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「行くゾォーーーーォォォォッ!!!」 そうだ、切れるのではない。切りに行くのだ。気力を振り絞って、ペースを上げた。 |
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競技場に入った。トラックは4分の3周でいい。行ける。39分も切れそうだ。
でも、これ以上、ペースは上がらない。バックストレートで、2人ほどのランナーに抜かれた。
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第4コーナーから、最後の直線へ。満を持して、最後のスパートをかけた。 「うぉぉぉぉぉぉーーーーーーぁぁぁぁぁぁっ!!!」 ゴール。手元の時計では、2時間38分43秒。また、吼えた。 |
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私は、2時間40分を切れたら泣くと思っていた。だが、不思議と、涙は出てこなかった。
むしろ気合いに満ちあふれていた。まだ、限界ではないということなのか。
そんな思いを胸に、控室へと歩みを向けた。 |
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記録 2時間38分44秒 順位 99位(完走351人中) |
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選手控室の人影は、まばらだった。しばらくして、見知った顔が次々と帰還してきた。
が、思い通りの走りができたランナーは、意外と少なかった。
私の結果を聞き、皆次々と、祝福の握手を差し出してくれた。
誇らしく思うひとときだった。 |
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帰路の新幹線が早めの時間だったため、あまり長い時間競技場での余韻を楽しむ間もなく、防府の地を後にした。
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車内では、コンパートメントで杯を傾けながら、マラソン談義に花が咲いた。
ふと車窓に目をやると、瀬戸内の海に沈みかける、夕日。
美しい風景が、いつまでも、いつまでも、印象に残っていた。 |
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