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コミュニティとまちづくり

ユーコート住人 平家直美

 

 このプロジェクトは、 コーポラティブ方式を使って出来ているということですので、 今日お呼びいただいたのは、 コーポラティブの住人として18年目を迎える私に、 実際に住んでどうだったのかということをしゃべれということだと理解しております。

 コーポラティブは住み手の組合が出来て、 住む前からいろいろ話し合って住んでいるわけですけれども、 ずっとそういうコミュニティが維持できるのかというのが、 多分皆さんの関心事ではないかと思いますので、 今日はその辺を忌憚のない感想も含めて、 お話ししたいと思います。


のろのろジタバタしながら

 私たちのコーポラティブは西京区の洛西ニュータウンのなかにありますので、 今日のお話のような近隣とのトラブルはありませんでした。 ただ48世帯ということで、 全体の意見をどうまとめていくのか、 やり方も手探りでしたので、 結構その辺ではのろのろジタバタとしたという経験があります。 ただ、 話し合いに時間をかけたと言いますか、 一つの事を決めるのに結構みんなで議論をしたということは、 決して無駄ではなかったと思っています。 というのは、 住み始めてから問題がいっぱい出てくるんですが、 コーポラティブの住宅をつくっている時にお互いどういう話し合いをしてきたかということが、 問題の解決に随分役立ったなという思いがしているんです。


子どもを中心にしたコミュニティ

 話は、 どんなコミュニティが出来てきたのかということに戻るのですが、 48世帯いましたので、 入居前は市内各地にそれぞれバラバラに住んでいたわけです。 当時はみんなで一緒に集まって話し合う場というのがなかなかできなかったので、 実は地域ごとの三つのグループに分かれていました。 建物ができる前は地域ごとのグループでコミュニティができていたんですが、 住み始めてからはむしろ子どもを中心にしたつながりができるようになってきました。 お互いに参加の動機なども話し合ったんですが、 私たちのコーポラティブの場合は、 安心して子育てをしたいという要求が強かったのと、 隣近所のつきあいができるような暮らし方がしたいという要求が強くありました。

 実は48軒のうち、 16軒が既に持ち家というんでしょうか、 一戸建てあるいはマンションをもっていらっしゃる方々が集まられたんです。 当時は子どもたちへのいじめの問題などが少し出かかっていましたし、 むしろ異年齢の中で子どもたちを安心して育てたいという要求が強く、 入居の前からお母さん方が子どもたちの「遊びの学校」をつくろうという発想をされていました。 そこで放課後どれだけ豊かに子どもたちを遊ばせることができるか話し合われ、 子どもを中心としたコミュニティがずいぶんと出来るようになりました。 入居して1年後くらいから、 子どもたちの放課後のクラブ、 学童保育のようなものを集会所で始めたりして、 ユーコートのお母さん方が指導員の方を雇って自主的に運営するようになりました。

 もう一つは、 当たり前のことかもしれませんが、 お互い趣味ややりたいことで集まる方々が多くなりました。 女性の方なら月に一度食事に行こうというのもありましたし、 テニスクラブだとか、 ソフトボールなどのスポーツの関係もありました。 それから入居し始めてからいろいろな事業(夏祭りや秋には運動会など)をやりますので、 夏祭りの時はやはり盆踊りがしたいねということになって、 ある方が太鼓を習って、 それがきっかけで子どもたちと一緒になって太鼓クラブができるといったこともありました。 コミュニティが、 子どもを介して、 あるいは趣味を介してできてきたわけです。


すぐに結論を出すのではなくて

 さて、 では住み始めていろんな問題が起きた時に、 どう対処してきたのかと言いますと、 実は、 すぐ結論を出さないというやり方が多かったんです。

 例えば犬と猫の問題がありました。 もともと犬と猫は自分たちの家族の一員だということで、 入居当初から飼うことはオーケーだったんですが、 子どもたちが犬と猫をどんどん連れて来始めたんですね。 そうすると、 しつけも出来ていない、 誰が飼っているのかわからないという状態で、 これをどうするんだという話になったわけです。

 そこで、 犬会議と猫会議というのをやりました。 そして犬や猫を飼っている人たちがどんな気持ちで飼っているのか、 飼っていない人と一緒に話し合いました。 禁止をするとかしないとかという話になる前に、 まずお互いの気持ちを話し合ったわけです。 もちろん、 それですぐに結論が出るわけではありません。 しかし、 とりあえずは、 どの犬がどの人に飼われているのかをはっきりさせていこう、 そして何かあったらすぐその人にオープンに言っていこうということを、 お互いの了解事項としました。 そういうことで、 だんだんと犬と猫の顔と飼い主の顔がわかってくると、 少しずつ問題が解決したということがありました。

 それから中庭の植栽の問題もありました。 子どもたちが入居当初、 中庭の花や木の枝を折って傷めるから、 立入禁止にしようじゃないかという話が出たんです。 ただやっぱり子どもたちに自由にのびのびと遊ばせたいという声も一方で出ます。 どうしようかなということだったんですが、 これも親の方が子どもたちにものの善し悪しを押しつけていくのではなくて、 まず子どもたちにそういうことを知ってもらおうではないかということになりました。 そこで中庭の花や木を植えていただいた職人さんに来ていただき、 その方に「中庭探検隊」ということで子どもたちを連れてもらって、 「ここにおじさんがこの木を植えて、 この木にはこんな花が咲くんだよ」と教えてもらったわけです。

 こうして、 子どもたちと一緒に考えるということをやっていくなかで子どもの行動も変わってきました。 一年二年経つと木はちゃんと地面に根を張っていきますから、 その後は多少は折ったりしても大丈夫になってきたわけです。


お互いの考え方を知るということ

 私たちのやり方はどちらかと言うと、 すぐ結論を出すのではなくて、 何かお互いに話し合いながら、 少し時の熟成を待つようなやり方が多かったと思います。 これは先ほど言いましたように、 建物を建てる時に、 例えば布団の干し方で半年くらい議論したり、 洗濯物の干し方でも、 バルコニーの下につく物干し金具は見え方が悪いからやめようとか、 では他にいい金具はないかとか、 半年くらいそういうことを議論しました。 のろのろとした議論だったんですが、 そうすることでお互いの考え方を知り合うことができ、 またそれが随分その後有効に働いているなと思います。


住環境を守るためのルールづくり

 今から入居されるコーポラティブの方にこんなことを言うのはなんですが、 こうした様々な問題のなかで私たちの一番の問題だったのは、 転売される時にどう対処するかということでした。

 私たちの場合は分譲住宅になっていますから、 区分所有法では自由に転売できます。 しかし私たちは管理組合で話し合って、 転売するときにはこういうルールでお互い転売しようねというものをつくりました。 これは多分皆さんからすると、 個人の財産をそんなルールで縛るのはおかしいんじゃないかという考えもあるかもしれません。 しかし私たちはあるトラブルが起きて、 そのことをベースに話し合ったんですが、 トラブルに学び、 数年かけて転売するときのお互いのルールを取り決めました。 こうすることでお互いの住環境をきちんと守っていこうということになったわけです。

 今お話ししただけだと、 何か良いことばかりのように聞こえるかもしれませんが、 もちろん仲の悪いこともありますし、 いろんなイベントの時に、 出てくる人、 出てこない人がたくさんいます。 ただ18年経過した今年も夏祭りがありまして、 夜はみんなでバーベキュー大会でもしようかという共同の食事会のようなものは続いています。 あらためて振り返ってみても安心して住み続けることができたなという思いがしています。 簡単ですけれども紹介させていただきました。 有り難うございました。

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