司会:
先ほど絹川さんは、 このつくば方式のマンションについて「他人のふんどしで相撲を取る」と表現されました。 この方式は大きな資本がなくても町中で開発することが可能なやり方だと思います。 アメリカでは非営利法人で地域開発会社を立ち上げて、 地域の小さな開発を住民自身が盛んに行なっています。 それは日本では難しいだろうと思っていたのですが、 この方式ならば住民自身や有志の手による良質な地域開発が可能だと感じました。
そのあたりを含めまして、 今日の感想やスケルトン定借の今後の可能性について、 スケルトン定借普及センターの小林秀樹さんからお話をいただいて、 今日の締めくくりとしたいと思います。
小林:
まず、 今のディスカッションについての感想から述べたいと思います。
ディスカッションで指摘された問題には〈近隣〉と〈施工の大変さ〉の二つがありました。 つくば方式1号のマンションでもその二つはすでに課題としてありまして、 実はもう解決方法もある程度確立しています。 しかし、 それを京都という土地柄の中でどう展開していけばいいのかが不案内でしたので、 今後はこの経験を生かしたいと思っています。
我々がこの二つの課題をどうとらえているかを紹介しますと、 まず〈近隣〉についてですが、 土地利用の変換は地主さんの相続問題や家の老朽化に伴う建て替えの時に起こります。 通常の容積率いっぱいのマンションや密集したミニ開発となってしまうのを仮に零点としますと、 この方式は60点、 つまりかなりましな結果になるのです。 なぜなら、 この方式なら容積率が下げられるからです。 どういうことかと言うと、 一般分譲マンションの場合、 土地の値段の占める割合が分譲価格の中で大きいものですから容積率を下げることはかなり困難なんです。 しかし、 つくば方式は借地によるマンション建設ですから土地負担が軽くなって、 その分容積率を下げることが出来るんですね。
今回の容積率も167%と、 かなり抑えてあります。 実は東京1号の「松原アパート」も同じく167%でした。 そこでも近隣紛争は大変でした。 今回と同じく、 近隣にかなり配慮したプランとして出したのですが、 それでも大変な反発を喰らいました。 平屋が4階建てになることは、 かなり拒否反応が強かったんです。 しかし、 完成して5年経った今、 北側の一戸建ての人々が「完成してみると、 私たちが思っていたよりはるかに影響がないことが分かった」と言ってくださるようになりました。
続いて〈施工の大変さ〉の問題についてです。 これは、 スケルトン部分とインフィル部分の契約及び工事の分離をすることで、 ほぼ問題は解決します。 そのために必要なのが法律の改正で、 私たちの働きかけの結果、 つい最近、 去年(2002年)から工事の完全な分離が出来るようになりました。 だから、 従来のマンションのように一斉にインフィル部分を完成させる必要はなくなるわけです。 入居者、 工事側とも余裕を持って工事を進めることができ、 その場合の契約も個別に双方が納得のいく形でやっていただくという体制になりました。 ですから今後はスケルトン・インフィルの分離をすることで、 施工の大変さはかなり軽減されると予想しています。
さて、 このスケルトン定借方式は、 分譲・賃貸マンションと同じく裏方の事業方式に過ぎないものです。 この事業方式を使ってどういう思いを実現するかは、 地主・設計者・入居者のみなさんに任せられているものなのです。 今日見学した「センテナリオ」は、 その点がとてもうまい形で調和していると思いました。 例えば、 地主さんの土地への愛着という思いは、 アプローチ部分の緑や旧宅の古材をあちこちで使うという形で上手に表現されています。 また、 この建物は5階建てで近隣から問題視されているということですが、 私が見た限りでは5階建ての圧迫感を感じないよう巧みにデザイン処理されていました。 さらに、 各入居者の部屋もそれぞれの思いが実によく表現されていましたし、 共用空間の豊かさは設計者の思いの現れだと思います。
この調和のとれた空間について言及しておくと、 つくば方式は「調和させる仕掛け」だけは持っていると自信を持って言えます。 つまり、 ひとつにはコープラティブ方式を採用することで注文設計が出来るという仕組みがあります。 ふたつ目には、 あまりに個人の思いがバラバラにならないよう、 スケルトン・インフィルの仕組みを採用することで、 スケルトン部分で地域や建物全体との調和、 地主さんの思いを優先し、 インフィル部分で個人の思いを優先するという風にはっきりと区別することで混乱が起きないようにしています。 また、 個人の思いを強く発揮するとどうしても住宅価格が高くなってしまいますが、 借地にすることで価格を下げられることがみっつ目の仕組みです。
今回はこの三つの仕組みを大変よく生かしてくださったプロジェクトだなと思います。 私もとても嬉しく思って、 みなさんのご意見を拝聴いたしました。
なお、 それ以外のエピソードもここで付け加えさせていただきます。 実は事業の途中で、 岡本さんから契約方式、 その他について何十回となくメールをいただきました。 質問や改善点をいろいろと受けたのですが、 つくば方式にとってもよかったと思っています。 私たち自身も気がつかなかった盲点を非常にうまく指摘して下さって、 スケルトン定借方式の発展にとっても有り難かったと感謝しております。
スケルトン定借の京都1号となった「センテナリオ」は紆余曲折があったにせよ、 出来上がってみると大変素晴らしくて、 私は十分誇りになると思います。 これをきっかけに関西で次々とつくば方式のプロジェクトが立ち上がればいいと思っております。 関東のほうでもこの9月に地主さん向けのセミナーを実施し、 地主さんが参加できる活動に入っていく予定です。
以上で、 私のコメントを終わります。 ご静聴、 ありがとうございました。
司会:
ではこれで今日のセミナーを終わります。 みなさん、 長い時間お付き合いいただきまして、 ありがとうございました。
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