水晶の鳥形日本式三連双晶

ペグマタイト27号(97-6),1997年12月号 より一部抜粋

高田 雅介

 水晶はきわめてありふれた鉱物であるが,日本式双晶となると,そう簡単には出くわさない.しかし,最近では,日本でもずいぶん多くの場所からその産出が報告されるようになった.
 これからここで取り上げようとする日本式三連双晶は,筆者の知る限りこれまでの日本式双晶の学術的な記載には登場してこない.ただし,日本鉱物誌第三版上巻(1947)には日本式双晶の項に「稀にコの字形をした三連晶をなすことあり(乙女)」という記述があるが,これは平板式のもので,結晶図に示すと,図1に示したような双晶である.ただし,筆者はこのような双晶にまだ出くわしていないし,所蔵しているコレクターも知らない.非常に稀な双晶と思われる.
 この双晶は,これからここで登場する「三連双晶」と区別するため,これを「平板状日本式三連双晶」と呼ぶ事にしたい.そしてこれが完全な双晶になると,理屈の上では四連輪座双晶になるわけで,これはこれで稀な面白い双晶である事には間違いない.

 さて,ここで筆者が登場させたい日本式双晶は,3個の水晶がそれぞれ,ほぼ直角の方向に双晶したもので,平板状ではない特異な形態をした三連双晶である.そこで,これを前述のものと区別するため,「鳥形日本式三連双晶」と呼ぶ事にする(図2).
 この特異な三連双晶に対する『鳥形』の名称は,故櫻井欽一先生が生前に使われていた名称で,実物の双晶を見ると,なるほどと思われる命名である(もしかすると,外国でつけられた名称の和訳かも知れないが,今となっては櫻井先生にお聞きすることもできない).
 さて,この双晶については,実は先ほど紹介した越喜来翔氏の「新・鉱物冗話」(1991)の中に以下のような記述がある.
 『さらにS先生によると,鳥型(鳥形)といわれる同一平面でない三連双晶のみごとなものが産出したことがあるとのことである.どんなものか見たことがないので想像もつかないが,かなめとなる真中の結晶は平板ではないのでなかろうか.』まさに,これがここで取り上げたい,鳥形日本式三連双晶なのである.


   鳥形日本式三連双晶

 筆者が水晶の「鳥形日本式三連双晶」を初めて見たのは,1985年に東京練馬の鉱物科学研究所を訪問した折りの事である.
 所長の堀秀道氏から「高田さん,こんな珍しい水晶の双晶があるのを知っていますか」と言って,片手に乗る程度の大きさの不思議な形をした水晶(ブラジル産?)を見せてもらった.水晶の形は平板状ではなく,しかも3個の水晶がそれぞれ直角(正確には84゚33')に結合したもので,これまでに見たこともない形態をしていた.

 さて,話は変わってそれから5年後の1990年1月.京都地学会・新年総会の後におこなわれた夜の懇親会で,友人のT氏がその日の即売で購入した乙女鉱山の日本式双晶のたいへん立派な標本を披露する機会があった.
 この,T氏が披露した乙女鉱山の日本式双晶がきっかけとなり,彼のテーブルの周囲では日本式双晶について,酒の勢いも手伝って口角沫を飛ばす白熱した収集・採集・自慢話が展開した.
 この論議の中へ,筆者が堀さんに見せてもらった日本式三連双晶を,絵に書いて説明していたところ,まったく意外にも東京のIw 氏が「その双晶ならすでに知っている.何年か前に長崎県五島列島の奈留島で,K氏が採集した事がある.自分も一緒に現場にいて,この目でしっかり見ている」と言いだした.
 信じがたい話であったが,後日,K氏からこの奈留島産の日本式三連双晶の写真を送ってもらったが,まさに堀さんに見せて戴いた物と同じ形態の双晶であった.
 ただし,堀さんに見せて戴いたブラジル産の方が結晶はc軸方向に長く伸びていて,結晶面はかなりシャープで,まさに『鳥形』にピッタリの形状であったが,K氏の採集された奈留島の鳥形日本式三連双晶は,それより少しずんぐりしたものであった.
 この話には,さらに後日談がある.この時,この話を聞いていたかどうかは不明だが,滋賀県在住のIs 氏が,その年の3月に奈留島へ行き,幸運にもKの見つけたものと,うりふたつの三連双晶を採集したのであった.従って,この『鳥形日本式三連双晶』は少なくとも,日本では奈留島において2個採集されているのである.
 なお,このIs 氏が採集された三連双晶は,京都地学会会誌47号(1993)に写真とスケッチで簡単に報告されている.


  三連双晶の結晶図について

 これまでに,「平板状日本式三連双晶」と「鳥形日本式三連双晶」のいずれについても,結晶図を掲載した論文や,記事を筆者は知らない.そこで,両方の三連双晶の結晶図を描いてみたのが,図1,図2である.
 図1の「平板状日本式三連双晶」については,筆者はまだ見た事がないので,実物に基づいて描いた結晶図でない事をお断りしておきたい.しかし,日本鉱物誌第三版上巻には『コの字形』という記述があるので,まず,このような形態に近いものであろう.
 もし,実物を採集された方や,所有されている方があれば,ぜひご教示いただきたい.
 図2の,鳥形日本式三連双晶は,東京の鉱物科学研究所で堀さんに見せていただいたものと,ツーソンのミネラルショーに行った折りに見たもの,奈留島産のK氏,Is 氏の標本,の計4個の標本を見ているので,それらに基づいて描いたものである.


   おわりに

 K氏らが奈留島で発見・採集された時からすでに10年余が経ち,K氏から手紙をいただいてから7年が経った.
 今回,水晶の三連双晶を記事にしたが,ここではブラジル産のみにとどめず,奈留島の三連双晶にも触れて話を進めた.
 奈留島での三連双晶発見の経緯は,時間的経過からして,このあたりで事実経過を明らかにしておく事が必要と思われたため,筆者のかかわった立場からではあるが,むしろ積極的に記事にした次第である.

 (原文は本名で書いているが,ここではイニシャルを使わせていただいた.)

図1.平板状日本式三連双晶(推定図)

図2.鳥形日本式三連双晶

一つ前のページに戻る