長野県御陵山林道産
水晶の鳥形日本式三連双晶

ペグマタイト39号(99-6),1999年12月号 より

加藤邦明・寺島靖夫・渡辺博和

一つ前のページに戻る

 今年,7月17〜18日に開催された東京のあるミネラルショーで,渡辺は長野県大深山産水晶の日本式双晶を購入した.ところが,この購入した標本をよく見ると多数の小さな日本式双晶に混じって,稀産と言われている「鳥形日本式三連双晶」が付いているのが見つかった.
 鳥形日本式三連双晶については,本誌97-6(27号)に高田雅介氏が長崎県奈留島産のものを紹介されているので,詳しくはそれを参照されたい.
 購入した標本は,鶏卵大の母岩に3〜4mm大の平板状日本式双晶が散在しているもので,それに混じって鳥形三連双晶が2個も付いている.鳥形三連双晶は,中心の結晶が周囲の水晶より太いが,それに双晶した2つの結晶は小さく,しかも根元の部分が半分褐鉄鉱に埋没していたため,販売している者も気付かなかったようだ.

 さっそく,「採集に行こう!」という相談がまとまり,9月5日に渡辺の車でメンバー3人が大深山に向かうことになった.毎度のことながら,早朝に横浜を発ち御陵山林道の現地に着いたのは7時半だった.渡辺がこの標本を販売していた人から聞いたところ「産地は林道の上方」とのことだったので,とりあえず,かって日本式双晶を産した晶洞があったという辺りの尾根筋を探す予定であった.
 ところが現地に来てみると,予想とは異なり林道に新しい枝道が出来ていて,さらにまた,林道のカット面はすでに吹き付け作業が完了していた.
 谷側の斜面に捨てられていた石を調べると石英脈がみられ,すぐに加藤はその晶洞から蝶形の日本式双晶を見つけた.さっそく,皆で周辺を探したところ,かなりの数(3人で100個以上)の日本式双晶が見つかった.
 ここの日本式双晶は平板の軍配型やハート型をしたものが多く,L字型をしたものも見られるが,概して小さく,最大で10mm,大部分が1〜5mm程度の大きさである.3人で探すうち,ついに寺島の採集したものに鳥形三連双晶が1個見つかった.それは,中心の結晶が晶洞壁面に寝ていて両翼の結晶のうち右側の一部が欠けているが,鳥形三連双晶であることは明瞭で,2×2mmの大きさである.
 帰宅後採集品を見直したところ,寺島があと3個,渡辺が3個,合計で7個の鳥形三連双晶を見つけることができた.大きさは,一番大きいもので3×4mm,中心の結晶が壁面に寝た形のものが6個,立っているものは1個だけだった.
 また,当産地の鳥形三連双晶には中心の水晶から出た二つの双晶の角度が60゚のもの(図参照)と,120゚になっているもの,という2つの異なるタイプが見られる.また,渡辺は2つの蝶型双晶どうしが同一平面状でくっついたものを見つけている.
 日本式双晶の付いた母岩は砂岩か粘板岩中に発達した石英脈で,水晶以外の鉱物としては,セリサイト化した微細な白雲母と,褐鉄鉱,それに水晶の中に含まれた微細な黄鉄鉱などである.また,寺島は一個体だけであるが黄鉄鉱の五角十二面体結晶の仮晶を示す褐鉄鉱(径3mm)を採集した.
 当産地の鳥形日本式三連双晶は,最大でも数mmで,大きさでは奈留島に遠く及ばないものの,産出した個体数はかなりの量に達するものと思われる.
 なお,無名会のH氏は我々よりも以前に採集に行き,一つの母岩に7個の三連双晶が付いたものを採集していたとのことである.