奈良県五代松鉱山産水晶の
日本式双晶と鳥形日本式三連双晶

ペグマタイト42号(00-3),2000年6月号 より抜粋

高田雅介・鶴田憲次

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    はじめに

 五代松鉱山は奈良県吉野郡天川村洞川に位置し,主としてスカルン鉱床中の磁鉄鉱を採掘したと思われる規模の小さい鉱山である.
 五代松鉱山から水晶の日本式双晶が産することは,コレクターの間では結構古くから知られていたようで,坑口から貯鉱場,道路を挟んで川に達する広い範囲のズリで,僅かではあるが日本式双晶を採集したという話を聞いたことがある.
 今回,日本式双晶が見つかったのは,坑口よりも少し上の斜面に置かれていた,褐色泥状で粘性のある堆積物からである.この堆積物の出所は今のところ全く不明である.
 この堆積物からは日本式双晶に混じって,数個の“鳥形日本式三連双晶”が見つかっている.しかも,これまでの奈留島産(ペグマタイト,97-6,1997)や,御陵山林道産(ペグマタイト,99-6,1999)の三連双晶とは多少趣が異なる鳥形三連双晶(写真参照)である.
 残念なことに,日本式双晶が見つかった場所は幅3m,長さ数mほどの狭い範囲で,すでに多勢のコレクター達が押し掛けたため,日本式双晶を含んだ堆積層そのものが無くなってしまい,日本式双晶の採集は事実上不可能となっている.
 そこで,これらの日本式双晶,特に鳥形三連双晶について,記録としてとどめておくことにした.

   五代松鉱山産日本式双晶の概観

 五代松鉱山の水晶や日本式双晶は,母岩に付いたものがほとんどなく,分離した単体で産出する.しかも水晶と,水晶に包有されている針状の角閃石様鉱物以外の鉱物は,すべて風化・変質して粘土質の褐色泥状物になっているため,必ずしも産状は明らかでない.
 ほとんどの日本式双晶は1cm以下と小さく,また欠けていないものでも,大半が成長をじゃまされていて頭部を形成しておらず,両頭の完璧な双晶は少ない.
 さらに,頭部が揃っている双晶でも,左右対称に成長しているものは少なく,むしろ左右の大きさや形が非対称になっているものの方が多い.
 また,不思議なことに,同じところから産する単晶よりも双晶の方がずっと小さい.中には数cmの単晶に数mmの双晶が着いたものが見られる(写真参照).
 これは水晶に限らず,一般的に「双晶は単晶と同じ大きさになるか,あるいは双晶の方
が単晶よりも大きく発達する」という経験則からは,はずれている.
 また,じっくり探すと,2,3面しか現れておらず,見た目には分からないものでも,条線から双晶になっていることが判明するものが多数見つかる.
 ヘッドルーペを使って,丹念に調べたところ,このような見た目には日本式双晶と分からない双晶がすでに選りだしたものの2倍程度もあった.

 五代松鉱山の日本式双晶は,概略的に言えば他産地(例えば奈留島)の日本式双晶に比べて産出量は少ないが,ひじょうに形態変化に富んでいる.そのため,形態の整った双晶が少なく,双晶とは思われないものも多い反面,ごく僅かではあるが透明で際だって美しい双晶や,三連双晶などが見られる原因となっている.

   五代松鉱山産日本式双晶の形態

 五代松鉱山の日本式双晶には,x字形,y字形,ハート形,蝶形,など,これまでにいろいろと言われてきた,かなり多様な形態の日本式双晶が見られる.

   五代松鉱山の鳥形日本式三連双晶

 日本において鳥形日本式三連双晶は,前述のようにこれまでに,長崎県奈留島,長野県御陵山林道の2ヶ所で見つかっている.
 五代松鉱山の鳥形三連双晶は,筆者らの知る限りでは日本で第3番目の発見である.
 筆者らが採集した鳥形三連双晶は5個(うち2個は高田採集)で,そのうち60゚型が2個,120゚型が3個である.残念ながら180゚型はまだ見つかっていない.
 これまで見つかっている奈留島や御陵山林道産の三連双晶は,大きさなどは極端に異なっているにも拘わらず,いずれも同じような特有の晶癖を持った双晶の形態をしている.
 しかし,五代松鉱山の三連双晶はこれらとは少し違った様子を示し,中心の水晶や,それと双晶になっている両側の水晶が余り歪まず六角柱状で,特有の晶癖を持った形になっていないことである(写真参照).
 もっとも,普通の日本式双晶でも板状にならずに六角柱状のままのものも見られる.