群馬県三ッ岩岳産水晶の
日本式三連双晶とその分類

ペグマタイト53号(02-2),54号(02-3),2002年4,6月号 より抜粋

星野由紀夫・高田雅介

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   群馬県甘楽郡南牧村三ッ岩岳付近からは,多様な形態・形状をなす水晶の日本式双晶が産出する.観察された日本式双晶は,これまでに記載のないものも多く,その組み合わせの様式も多様で何種類にもなり,それらの関係を簡単に分類することは難しい.
 そこで,三ッ岩岳産水晶において観察された日本式三連双晶を基に,1個の水晶に2個の水晶が「日本式双晶の関係」で0゚,60゚,120゚,180゚の位置で双晶した“三連双晶”の形態を明らかにし,その分類をおこなうことにした.
 なお,ここで取り上げなかった異なる様式の日本式双晶については,続報としてまとめたいと考えている.

   水晶の日本式三連双晶

 ここで取り上げる日本式三連双晶をもう少し厳密に示すと『1本の水晶を中心にして,ある1点からその水晶の周りに,2個の水晶が互いに0゚,60゚,120゚,180゚の位置で双晶したもの』という双晶である.従って,前号の記事に示した「キの字形」の日本式三連双晶などは,明らかに1本の水晶の2点から双晶が形成されているので,ここではその分類から省いている.
 しかし,2ヶ所の双晶位置が見かけのうえで1点からずれていても,2ヶ所の双晶関係が互いに何らかの影響を与えていると思われ,『1点から生じた双晶関係が結晶の成長過程でずれたもの』と見なせる双晶は,すべてここで扱うことにした.

 ここで取り上げた三ッ岩岳産の日本式三連双晶とその分類は,単に双晶の位置と形によるもので,しかも筆者らが独自に設定した基準によっておこなった.
 水晶の日本式双晶の双晶面は,同じ面指数で示されてはいても,右水晶,左水晶,ドフィーネ双晶やブラジル双晶,などの違いにより微妙に異なっている.そのためこうした側面からの考察も必要と思われる.
 しかし,これまでにこのような日本式双晶は全く記載が無く,これらの日本式双晶,とりわけ三連双晶を記載するためにおこなった分類である.

   日本式三連双晶の分類

 長崎県奈留島からは「鳥形三連双晶60゚型」が,長野県御陵山林道と奈良県五代松鉱山からは「鳥形三連双晶の60゚型,120゚型」が知られている.
 日本式三連双晶の分類は,以上の産地でこれまでに知られている鳥形三連双晶を基準にして,「鳥形三連双晶」,「変形鳥形三連双晶」,「貫入三連双晶」の3つの様式に区分した.
 さらに,3つに区分した双晶様式にはそれぞれに 0゚,60゚,120゚,180゚型の4つの型があり,全体では12に区分した.
 観察に基づいて,その晶癖を対称的,理想的な形にして描いた結晶図を図1に示した.
 3つに区分した双晶の様式は,以下のようなものである.

 ◎鳥形三連双晶:鳥が翼を広げた様な格好の日本式三連双晶.翼に当たる2つの双晶は,左右が対称的な位置にある.
 0゚型は蝶が羽を閉じたときのように,2つの双晶が同じ位置になり重なるので,結果的には普通の日本式双晶になり,三連双晶ではなくなる.

 ◎変形鳥形三連双晶:鳥形と違って翼に当たる2つの双晶が左右対称でなく,非対称的な関係にあり,双晶の位置も少しずれている.
 60゚型と 120゚型では,右手系と左手系の対掌体(鏡像体,キラル)を生じる.
 180゚型は2つの双晶のc軸方向が一致し,貫入双晶(X形)となり,三連双晶ではなくなる.

 ◎貫入三連双晶:鳥形三連双晶の翼に当たる2つの双晶が共に貫入したもの.
 0゚型は変形鳥形三連双晶の0゚型が貫入したものとなる.
 180゚型は0゚型に全く同じ.
 貫入三連双晶には,2つの双晶のうち1つだけが貫入した不完全なものも数多く見られる.これの60゚型と120゚型にも,右手系と左手系の対掌体が生じる


 三ッ岩岳では,これらすべての三連双晶が見つかっている.

分類表と結晶図はこちら