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SFバカ本 白菜編
(大原まり子・岬兄悟編、ジャストシステム、1997年、1900円、ISBN4-88309-435-9)

 そのむかし、声を立てのたうち回って大笑いできるSF短篇小説がたくさんあった。電車で読めば周りの乗客がそおっと後ずさり、自室で読めば家人が気味悪そうに覗きにくる――ああ、荒熊雪之丞よ、「水素製造法」よ、「関節話法」よ、「ちゃんこ寿司の恐慌」よ!
 というわけで、第一弾『SFバカ本』に続いて、“白菜編”(意味を問うてはならない)の登場である。九篇のバカ話が収録されており、SF専門誌(若いあなたには信じられないかもしれないが、むかしは複数あったのだ)や中間小説誌のどこかに毎月必ずこういう話が載っていた時代を知るファンには、十分楽しめることだろう。巻頭巻末を飾る大原まり子「インデペンデンス・デイ・イン・オオサカ(愛はなくとも資本主義)」、梶尾真治「ノストラダムス病原体」は、いわば、オールドファンの知る“あの”バカ話であり、安心して楽しめる。とくに、谷甲州「五六億七千万年の二日酔い」、岡崎弘明「地獄の出会い」の“バカ性”は、このアンソロジーの本来の企画意図によく応えたものと言えよう。
 異彩を放つのは、森奈津子「地球娘による地球外クッキング」だ。これを読むと、バカ話の進化とでも言うべきものを感じる。このノリと文体は、私の世代(昭和三十年代後半生まれ)が親しんだSFバカ話のそれではない。強いて似たものを捜せば、少女向けギャグマンガのムードとテンポであろうか。おそらくこの作品は、このアンソロジーが本来アピールすべき読者層に最も違和感なく受け入れられるはずだ。他の作品を貶める意図はまったくないのだが、この作品がなければ、本書は私の世代のSFファンが喜ぶだけの、単なるナツメロに終わってしまったことだろう。私は森奈津子の作品を『SFバカ本』でしかまだ読んだことがないけれど、SFの資産と伝統を新世代の読者に通じる言葉で継承し得る貴重な作家なのではないかと感じている。小説をマンガ風にすればいいなどと言っているのではない。そんなことは新井素子などがデビュー当時から手掛けている。SFという最も時代に敏感であるべき小説が、ナツメロ風の楽しみかたをされているだけでいいのかと言いたいのである。
 野阿梓の「政治的にもっとも正しいSFパネル・ディスカッション」や、とり・みきの「ネドコ一九九七年」は、かなり年季の入ったSFファンにしか通じないだろう。とり・みきは本職ではないからゲスト作品として箸休めにもなるとしても、野阿梓の意図はちょっと測りかねる。私は大笑いした。楽しんだ。が、私のような読者だけが喜ぶのだとしたら、このアンソロジーの意味がないのだ。
 この『SFバカ本』シリーズ、企画意図には大いに賛同する。長く続けてほしい。収支を考えればないものねだりなのかもしれないが、十代の読者にも気軽に買える価格帯の版型で出してはどうだろうか。私たちがのたうち回った活字のバカ話の楽しさを、若い世代にもぜひ知ってほしいのだ。


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