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2006年11月16日から読んでいるのは... 森博嗣 「εに誓って」

タイトル 著者 出版社 読み終わった日 よかった度
シャングリ・ラ 池上永一 角川書店 2006.11.15 ★★★★★
久しぶりに所謂ミステリーではない本です。これどんなジャンルになるのか難しいですが、強いて言えばSFでしょうか。なんといっても設定が奇想天外なんですよね。
温暖化に悩む世界各国は国連を中心とした「炭素経済」に移行、排出する炭素量に応じた税金が課せられる世界になっています。そして、日本は炭素を吸収する森林を増やすため東京市街地を放棄し、東京に大森林地帯を作ります。さらに、数百万人が暮らす巨大な人口建造物「アトラス」を建造し、何層にも階を重ねながら、富士山よりも高く聳える巨大な塔ができています。地上では、アトラスに移住できない民がゲリラ「メタル・エイジ」を組織し、政府軍と戦っています。そのメタル・エイジの総統に高校生の國子が就任したところから、この物語はスタートします。
ね、設定は奇想天外ですよね。で、終盤に向けて、このアトラス建造の真の目的、國子の謎が明らかにされていきます。これがまた奇想天外なんですよね。これほど奇想天外なのも久しぶりで、結構楽しめました。
O.p.ローズダスト 福井晴敏 文藝春秋 (上巻) 2006.07.04
(下巻) 2006.08.23
★★★★★◎
福井晴敏さんの新刊です。「終戦のローレライ」以来です。今回も上下巻合わせて1100ページの大作です。しかし、長さはまったく感じさせません。「終戦のローレライ」や他の福井さんの本もみんなそうなんですが、このストーリーを語るためには、やっぱりこれぐらいの分量が必要なんですよね。そしてそのストーリーの中で国家とは何かを常に問い続けてきます。しかも、今回は「国家」という枠組みに対してだけではなくて、その国家を形成する「一人一人」に対しても、福井さんの矛先は向けられています。確固とした信念を持たず、雰囲気に流されてしまう脆い国民として。
今回も、通称「市ヶ谷」、防衛庁情報本部がストーリーのベースにあります。市ヶ谷が画策した「オペレーションLP」と不慮の事故によって死亡した工作員、生き残った工作員の海外への逃亡と密かに帰国し仕掛ける対日テロ「オペレーション・ローズダスト」、自らも「オペレーションLP」の生き残りでありながら防衛庁職員としてそれを阻止しようとする青年、その青年をバックアップしいっしょになってローズダストを追い詰める警視庁公安部の「ハムの脂身」と呼ばれた中年男。
まさに福井ワールドです。ここに登場する青年達、その青年達の心の葛藤、「オペレーションLP」の失敗により失われてしまったかけがえのない命、「ハムの脂身」と蔑まれながら必死になってローズダストと戦う公安警察の男。
彼らの展開する人間ドラマは非常に切ないです、哀しいです。「ローズダスト」の言葉に込められた青年達の想いや悲しみ、そういったものがとても心を打ちます。そして、福井作品のエンディングに共通する「明日への希望」は今作でも健在です。どんなに切なくても哀しくても、最後には必ず「明日への希望」が語られる。それが福井作品の大きな魅力であり、これがある限り、私はこれからも福井作品を読み続けると思います(^^)。
三百年の謎匣 芦辺拓 早川書房 2006.05.23 ★★★
芦部さんの本を読むのは久しぶりなんですが、この本も「このミス」でランクインしてたんで読んでみた本です。この本、構成がとても面白いです。探偵春江春策の登場する本編があって、その途中に中に時代設定も場所もまったく異なる短編が6篇挟まっています。で、その短編の謎が本編の謎解きの鍵になっている、という、今までにない構成ですね。なかなか楽しめました。
さよならの代わりに 貫井徳郎 幻冬舎ノベルス 2006.04.21 ★★★★★
この本、私はノベルスで読んだんですけど、ちょっと前にハードカバーで出てたんですよね。そのときの帯に「これほど切ない結末があっただろうか」みたいなことが書いてあって、「うわ読んでみたいなぁ」とは思ってたのですが、なかなか他にも魅力的な本があって読めずにいたんです。で、たまたま本屋でその本がノベルスで出てるのを見つけて、やっとこさで読んでみることにしました。
主人公和希と、自分は未来から来たと言い張る謎の少女祐里、和希の所属する劇団の公演最終日に起こった劇団員の殺人事件、事件の真相を追う和希と祐里、最後に明かされる事件の真相と祐里の真実。
確かに結末は切ないです。ハードカバーの帯にあったように「今まで読んだ中で一番切ないか?」と訊かれれば、実はもっと切ない物語はありましたが、それでもこの本は切ないのです。未来から来たという祐里の真実が切ないんです。多少「ターミネーター」みたいなタイム・パラドックスの矛盾を感じたりはしますが、それでもやっぱり切ないです。うん、いい本でした。
レタス・フライ 森博嗣 講談社ノベルス 2006.04.03 ★★★
森博嗣さんの短編集です。9編収められてるんですが、大半が数ページの本当に短い話になってます。ただ、その数ページのやつっていうのは、いわゆる「オチ」がついてるか、というと、実はオチがついてないんじゃないか、と思えるような作品なんですよね。ちょっと微妙です。森さんの短編には独特の雰囲気がありますが、ちょっとシュールすぎるような。最後の短編は西之園萌絵や加部谷恵美など、現行のシリーズのメンバーが登場して、丸く収めてくれました。
シリウスの道 藤原伊織 文芸春秋 2006.03.10 ★★★★★
さらに、この本も「このミス」でランクインしていたので読んだ本です。もちろん著者が藤原伊織さんだから、ランクインしていた本の中からこの作品をチョイスしたわけなんですが。
この本の帯を見たとき、25年ぶりに男女3人が出会ったことで思わぬ悲劇が、みたいなことが書いてあって、実は「え!? この本も?」と思ってしまいました。というのも、久しぶりに出会った男女3人が、出会ったばっかりに悲劇に見舞われる、というストーリーは、古くは「永遠の仔」、最近では「ポセイドンの涙」のように、似たような設定の本を読んだことがあったからなんですよね。でも、この本はちょっと違ってて、出会ったことはどちらかと言えば、事件というか、いろいろと起きる事柄のきっかけの方ではなくて、結果の方なんですよね。なので、出会ったことは悲劇の幕開けではないですし、出会ったこと自体も悲劇ではないですね。この点はよかったです。ほっとしました。
で、中身の方ですが、主人公はいかにも藤原さんらしい「ちょっとしがない、ちょいワル中年ハードボイルド」的なキャラクターで、「テロリストのパラソル」「てのひらの闇」に通じるものがあります。このキャラクターだけでもう藤原ワールドに浸っちゃいます。「テロリストのパラソル」や「てのひらの闇」ほど「哀しい」ストーリーでもなかったので、久しぶりの藤原ワールドを満喫しました。
扉は閉ざされたまま 石持浅海 祥伝社 2006.02.06 ★★★★★
これまた、「このミス」で評価が高かったので読んでみた作品です。石持さんの本は「月の扉」というちょっと異色のミステリーを読んだことがありますが、こちらはストレートですね。
この本もいきなり殺人シーンで始まります。犯人も殺害方法も明らかにされていますので、これも犯人当てではありません。で、密室ものの体裁をとりながら、ストーリーが進むにつれて謎のまま残されていた「動機」が読者に徐々に明かされていくわけです。ミステリーというと犯人当て、という図式がありましたが、そういうオーソドックスな構成ではなく、「動機当て」というちょっとひねった構成になっていて、これ、結構楽しめました。
容疑者Xの献身 東野圭吾 文芸春秋 2006.01.24 ★★★★
今年の直木賞に選ばれた作品です。読んでいる最中に直木賞に選ばれました。ということで、この本を読んでみようと思ったのは、直木賞をとったからではなく、実は2005年の「このミス」で1位をとったからなんですね。東野圭吾さんの本も読んだことがなかったので、まぁ、「このミス」1位なら読んでみようかな、と思った次第。で、読んでみて、確かに面白いですね。最初に殺人事件が起こるのですが、すべてが描写されていますので、誰が犯人かを当てる「フー・ダニット」とは違います。犯人と犯人を追い詰める警察側との心理戦ですね。最後にちょっとしたどんでん返しがあるのですが、うん、これもなかなかよくできた本だと思います。
天使のナイフ 薬丸 岳 講談社 2006.01.01 ★★★★★
いや〜、結構面白いじゃないですか。これ第51回江戸川乱歩賞受賞作ということで、去年の受賞作なんですが、期待してたよりもずっと読み応えありますね。
主人公は少年達に妻を殺され、少年法の厚い壁で隠された真実をなんとか知りたい、と思っている男です。少年法と少年犯罪という非常にむずかしいテーマを扱っていて、私も加害者天国・やったもん勝ちの現在の日本の状況には憂いを感じているわけですね。で、作中の主人公の立場に共感しながら読み進めていたんですが、社会派小説かと思いきや、なんとなんと、どんでん返しに次ぐどんでん返しで、どんどん引き込まれていきます。単なる社会派小説ではなくて、ちゃんとエンタテインメントに昇華させているんですね。江戸川乱歩賞というと「新人」の登竜門なわけですが、この構成力はとても新人とは思えません。「あとがき」で乱歩賞の他の候補作がけちょんけちょんにけなされている中で、この作品が一人勝ちのダントツの評価を受けたことも納得できます。非常によくできた面白い本でした。


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