おばさんとの会話4



●謝るの今頃なの?

前の日に座敷で騒ぎすぎて、おばさんに大変怒られたことがある。翌日『たにし』の席についても、いつもだったら黙っていても出てくる、お通しとお茶割りが出ないままだった。その日はおばさんも常連たちも全然口を利いてくれない、常連たちは話しかけてもいそいそと半身は僕と逆の方を向いている。そのまま席に座っていた30分間はとても長く感じた。昨日のことはほとんど記憶に無い僕は、その時になって初めて、事の重大さに気付いた。もう2度と『たにし』には来れない思いで店を出た。目白駅でこれが最後と電話をして、譲さんを呼び出して貰った。譲さんからは『早く店に来ておばさんに謝ればいいんだよ!』と聞きいた。喜び勇んで『たにし』へ戻った。

『たにし』の席について、おばさんに『昨日は騒いでごめんなさい。』と言うと。

おばさんは『あら、ごめんなさいって、作井さん今頃謝るの。』とお茶割りとお通しを出してくれた。

そのやり取りを見守っていた常連たち、その瞬間から全く元通り今まで何もなかったように接してくれた。

詳細は『おばさんの逆鱗』中村 譲



●松葉杖で『たにし』

アメフトの試合で大けがをして、膝に水が溜まり一週間ほど歩けなかった。自宅でおとなしくしていた後、だいぶ良くなったので、松葉杖で『たにし』に出かけて行った。松葉杖の僕を見て、おばさんは『あら、作井さんどうしたの?』試合で怪我をしたことを説明すると。『怪我したときは、お酒はダメよ!』と飲ませくれなかった。それでも、『もう、だいぶ直ったから大丈夫です。』と言ってやっと一杯お茶割りを飲ませて貰った。



●おばさんの口座

ある時、石橋さんの会社でアルバイトをしたことがある。当時としては大金の15万円、しかし、もらったのは現金では無く小切手だった。しばらくは大切にその小切手を持っていたが、現金としては使えなかった。

『たにし』でその事を長尾さんに相談すると『作井、銀行に持っていって自分の口座に振り込めばいいんだよ!』。

しかし、僕は銀行口座を持っていなかった。また、現金化されるのに2〜3日時間が掛かると長尾さんが言う。その話を聞いていたおばさん、自分の通帳と印鑑を僕に渡してくれた。

『作井さん、その小切手をここに振り込んで、同額をあたしの口座から直ぐにおろしたら。』

おばさんの好意に甘えてしまいました。


●毎日が日曜日

『たにし』が7月で終わった年の秋に『たにし』会を宝軒で催した。いつもの”のれん”を飾って、『たにし』を思い出して常連たちが集まった。店を閉じてから僅か2ヶ月程度だったと思うが、同窓会のように皆楽しみ懐かしんでいた。おばさんと話しているときに、当時流行っていた言葉で”毎日が日曜日”と言う言葉が頭に浮かんだ。
就職前の夏休み何もやることの無かった僕は、何の気もなく『おばさん、ぼくは”毎
日が日曜日”ですよ。』と言ったら。
おばさんも『あたしも、”毎日が日曜日”なの。』

40年も続けたものを閉じたおばさんの気持ちをくみ取れず、暇な学生が不用意に言った事、今でも覚えている。
『たにし』会はそれ以来、毎年続けている。


2000年3月  作井 正人


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