アトリエについて -京の町家暮らしを通して-
つくられて90年ほどが経過する建物は、たいへん簡素で慎ましやかな住宅ですが、当時のありふれた材料であっても実に丁寧に手づくりされています。また、一般の民家よりも繊細なつくりで、乱暴な扱いはゆるされません。この便利とはいいがたい古風な建物はしかし、モノづくりの世界で生きてゆくためのアトリエとして、よき師匠でもあるのです。
時には住みにくい建物の典型のようにたとえられる町家は、実際に暮らしてみると驚くほど快適で、子供の頃からずっとここに暮らしていたかのような安らぎを感じるものでした。それが自然素材の恩恵によるものなのか、人体寸法に基づいたスケール感によるものなのかはわかりません。しかし庭や通りとの関係や、季節や天候との関係、さらに時間による経年変化による関係にも柔軟に対応し、何ごとにも無理がないことは間違いがありません。
この「無理がない」という暮らしのスタイルは、これからの住まいのあり方を考える上でも大切なキーワードであるように思われます。無論、季節の変化をダイレクトに体感できる町家の暮らしが誰にでも快適とはいいきれませんが、そこから得られた大切なエッセンスを設計者がすくい取り、新たな住まいづくり・モノづくりに発展させることで、住み手や使い手が心を含めてなんとなく豊かになる。そうすると、さらに周囲にも良い影響を与えるようになる…。
そのようにして生活という名の文化は、ゆるやかに変化しながら継承されるのだろうと考えています。
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川城 茂一 (かわしろ しげかず)
1967 広島県生まれ
1990 福山大学工学部建築学科卒業
1993-94 建築家フィリップ・ギブス(PhillipGibbs)に師事
1993- 独学により絵画活動
2002-08 福祉施設職員として働きながら施設設計を手がける
2004-09 施設利用者と協同で刺し子の製品化
2008 アトリエかわしろ一級建築士事務所設立(京都府知事登録(25A)第01919号)