審査風景

 

【はじめに】

 

ISO9000シリーズに出会ったのが1992年。

思えばISOから非常に多くのものを学んだような気がする。

そして、何よりISOを通じて、多くの良き先輩方や仲間達に出会うことが出来た。

 

コンサルタント的な仕事を初めたのが1995年。

以後、認証取得を目指す企業の推進メンバーの方々とお会いする日々は、いつも私に新鮮な感動

を与えてくれる。

 

また、審査登録機関の了承が得られれば、コンサルティング先の企業の方々と一緒に予備審査や

本審査に同席し、緊張したり喜んだり悲しんだり、言葉を失ったり。

 

予備審査や本審査に同席すると言っても、事前に審査登録機関から「一切、口出し無用」と言われ

ているため、最終会議にて簡単に指摘事項のまとめと再確認をするだけなのだが、審査の場という

のは独特の雰囲気があって、審査演習ではうまく答えていた方でも頭が真っ白になってしまい何も

言えなかったり、社内規定のどこに手順が記述されているのか忘れてしまったり。

 

そんな時の、パラパラと書類をめくる乾いた音だけがする会議室の沈黙などは耐え難いものがある。

 

たまには審査員と企業が険悪な状況になる場合もあって(その多くは規格の解釈の違いというより

も、細かい指摘に企業がムッとするという感じである)、そんな時は「まあまあ、これは手順があった

方が便利ですよ。不適合じゃないですが、ありがたくご指摘を賜りましょう。」などと仲裁してみたりす

る。

 

考えれば、私は「一切、口出し無用の第三者」として審査の場に立ち会っている。

 

いくら企業と一緒に品質システムを構築しましたと言っても、社員じゃないから第三者と位置付けら

れる。

ISOについて知っているからコンサルタントになったのだが、審査が行われている間は一切、喋るこ

とはできない。あ〜胃が痛い!お尻も痛い!

 

しかし、「審査は知りませんよ、私は出席しませんよ。」と企業さんに言うのは私のポリシーに反する

ため、審査登録機関が同席してもよしと言ってくださる限り、私は審査に同席したい。

ああ、でも何か喋りたいなあ。

※ここは大丈夫という企業さんと審査員の場合は、同席しないこともありますが、、、

 

まあ、本音は置いておいて、実は私のところにEメールやFAXなどで、「予備審査や本審査で審査員

からどういった質問がされるのか?」とか、「予備審査や本審査の雰囲気ってどんな感じ?」と質問し

てこられる方々が非常に多い。

 

で、今回は私が知っている審査の風景、審査員と企業の問答、やり取り等について、簡単にご紹介

することにします。

こんな感じなのか…。できれば素直に受けとっていただければ幸いです。

 

でも、やっぱり普通の審査風景じゃあ面白く無いので、「何だかな〜」というものを選んでみましたの

で念のため。

 

 

【審査登録機関の選定段階】

※いきなり審査のやり取りじゃない内容ですいません。

 

某審査登録機関の事務所にて(同席すると冷や汗ものの話)

 

審査員(というよりも審査登録機関の営業担当の方):

おはようございます。じゃあ、早速ですが見積りの内容について説明いたします。

受審(予定)企業:

先生、お金はどうでもええねん。要は合格させてくれるかどうかや。うちの会社はこれから

1年もかけて審査の準備をするんや。そやけど、もしかすると不適合があるかもしれん。

たかだか1年でシステムの構築なんかできひんやろ。聞けば審査はずっと続くらしいやん

か。ちょっとくらい不適合があっても、見逃してくれとは言わへんけど、次の審査までに直

しといたらええんやろ?そやないと、高い金を出したわ審査に落ちるわやったらアホみた

いやしなあ。そのへんは約束してくれるんか?

審査員:

それはちょっと…。

受審企業:

ほんならええねんで。審査登録機関はここだけやないしな。

 

↑同席してましたので(^^; でした

 

 

適用範囲の説明にて(う〜む。と考えさせられた話)

 

審査員:

で、審査登録の範囲はどうしますか?

審企受業

受注金額が100万円以下の仕事(工事)は除きます。

審査員:

そうなんですか…。(しばし沈黙)でも、100万円以下のものを除く理由は?

受審企業:

100万円以下のものについては、短納期で書類や記録を作成する時間がありません。

また、100万円以下の仕事をくださるお客さんはISO9001を知らないこともあって、こっ

ちがISO9001に準じたシステムで仕事をやっても(お客さんの)安心感や信頼感につな

がりません。システムよりも納期と価格と出来あがりの良さを重視されますから。当社とし

ては納期遅延やコストアップにつながりかねないシステムはやりたくないのです。

審査員:

でも、100万円以下のものも含めて初めて会社としての信頼感が増すのでは?

受審企業:

ISO9001を導入することで、100万円以下のものは確実にコストアップにつながります。

また、100万円以下の契約は契約内容の確認もなくて、すべて当社にお任せという場合

が多いものですから。契約書や注文書だって引渡し後にいただく場合も多いのです。これ

は不適合ですよね?

審査員:

契約書や注文書をもらえとISO9001では言っていませんよ。貴社が記録しておけば良い

のです。金額で区切るのはどうかと思うのですが…。

受審企業:

手を抜くと言っているんじゃありません。例えば、50万円の仕事は50万円で可能な最高の

品質を考えて提供しています。それも限られた時間と人材で。だから、お客さんは注文して

くださる。ISO9001で無くてもです。製品ごとに審査登録している企業だってあるんですよ

ね?それと同じだと思うんですが。

審査員:

しかし、金額で区切るのは…。う〜む。

 

↑この審査登録機関は仕組みを2種類作れと言ったので話がややこしくなりました。

 

 

4.2.2 品質マニュアル

 

審査員:

品質マニュアルは、ISO9001:2000の要求事項のすべてを網羅して、適用除外や該当し

ないところがあれば、そのすべてを明記する必要があります。品質マニュアルとは、そういう

ものです。ねえ、松森さん、どう思われますか?

 

松森 (^^;

 

↑ISO9001:2000の文書審査でした、、

 

 

4.2.3 文書管理

 

審査員:

あれ、廃止文書と使用している文書がファイルは違うけれど同じ棚にあるなあ。

それも隣同士に置いてあるぞ。これは混在の危険性ありだなあ。確実じゃない!

 

↑セミナーで、審査員に言われたという企業さんがおられました。

 「確実にって、どこまでやれば確実ですか?」  そう質問されました(^^;

 

 

4.2.3 文書管理

 

審査員:

これが現場で使われる指示書ですか?

受審企業:

はい、この4枚です。

審査員:

台帳管理はされていないのですか?

受審企業:

はい、このファイルに綴ってあるものが最新版です。この原紙を管理して、台帳での管理は

していません。

審査員:

でも、他のところは、ほとんど台帳管理していますよ。原紙を管理している場合は一覧表を

付けてありましたし。

受審企業:

4枚でも一覧表が必要ですか?

審査員:

他はそうしていましたしね。一覧表があれば便利ですし。他はそれで納得してくれましたし

ねえ。一覧表をつくりませんか?」

 

↑台帳または一覧表を作成しているか?が審査登録機関のチェック項目になっていると

 審査員が言ってました(^^;

 

 

4.2.4 記録管理

 

審査員:

このロッカーに品質記録が置かれているのですか?

受審企業:

はい。でも、品質記録だけじゃなくて、管理文書や非管理文書も一緒に入っています。

一応、品質記録のリストと管理文書のリストはロッカーの扉に貼ってあります。

審査員:

しかし、いちいちリストを見ながら書類や記録を出さなきゃいけないんだなあ。

これで管理された状態と言えますか?少なくとも僕にはわからないなあ。

皆さんがわかるって言うのは管理されているとは言えないよ。

僕がわからなきゃ、審査できないしね。

 

↑「僕は(審査員は)、顧客の代わりに来ています!」=「僕がわからないとダメ!」

 になるといけませんね。

 他の殺し文句として、「他の審査員も同じこと言いますよ!」とか、

 「僕は納得しました。でも、他の審査員が来たら、また聞きますよ。」

 なんてのもありました。

 その時は痛快で、受審企業さんは「いいですよ、また説明します。年に一回ですから。」(^^;

 

 

5.3 品質方針

 

審査員:

品質方針を組織全体に伝達して理解させるために何をされていますか?

受審企業:

ポスターの掲示や朝礼での唱和などでやっています。

審査員:

この部屋にはポスターが掲示されていませんね。

受審企業:

ここは会議室ですから。しかし、工場には貼ってあります。

審査員:

じゃあ、そう書いておいてくださいね。それと、品質方針を朝礼で唱和したという記録は

ありますか?

受審企業:

記録?あっ、ありません。

審査員:

じゃあ、朝礼の手順などはありますか?

受審企業:

それもありません。必要でしょうか?

審査員:

まあ、不適合とは言えませんが…。あった方がいいなあ。

 

↑朝礼の手順や記録の話にせず、ポスターの掲示や朝礼での唱和が理解したと言える

 のかどうかを考えるべきですね(^^)

 

 

6.2.2 力量

 

受審企業:

力量についてですが、年齢を考慮すると難しいですね。

20代という年齢を考えると充分な力量を持っていて「Aランク」としたいのですが、30代の

「Bランク」と比べると見劣りしたりする。何か力量評価の良い方法はないですか?

審査員:

例えでご回答しましょうか。

戦国時代の剣豪なら、たとえ技能に優れて20代で日本一だったとしても、30代の野武士

に切り殺される。そうじゃあないですか?

受審企業:

・・・・・・・・・・・

審査員:

例えでご回答しましょうか。

僕は、戦争には行ってませんが海軍にいたのです。何故だかわかりますか?

背が高かったからですよ。背の低いのは、みんな陸軍の戦車兵でしたよ。

受審企業:

・・・・・・・・・・・

審査員:

まだ、ご理解できない?例えでご回答しましょうか。

働き蜂と女王蜂は卵の形は同じでも、与えられる栄養素が違うから、、、

おっと、これは例えが違うなあ。

カブトムシと、そのサナギは、、、

 

↑ここで、話題を変えました(^^;

 

 

7.3.6 設計開発の妥当性確認

 

審査員:

この設計計画書にある設計の妥当性確認の記録を見せてください。

受審企業の担当者:

ああ、これは担当者が休暇を取っていたため、まだ実施していません。

審査員:

不適合になりますよ?

受審企業の担当者:

でも、この製品はもう完成して、、最終検査も終わって出荷済みです。

いまさら妥当性確認をやったって無駄なような気がしますが。

審査員:

じゃあ、この計画書にそ旨を記録しておいてください。でも、不適合ですね。

計画書は設計の進展に応じて更新しないと。変更があった場合は必ず計画書に記載

してください。

受審企業の担当者:

計画書を直せば良いのですか?

審査員:

妥当性確認がされていないのはこの製品だけですし、マイナーな不適合にしておきま

す。

受審企業の担当者:

ああ、よかった。

受審企業の部長(担当者に向かって):

何がよかっただ!おい、なぜ妥当性確認しないで出荷したんだ!

計画書を直すより先にお客さんのところに行って、作動確認してこい!

 

 

↑妥当性確認としての社内での作動確認をせずに出荷してしまいました。

 現地の据付メンバーが苦労します

 

 

7.4.1 購買(評価選定)

審査員:

この工事委託先の評価記録を見せてください。

受審企業:

はい。工事委託先、資材購入先、運送業者及び外注校正先に分けてファイルしています。

審査員:

なかなか厳しい評価基準ですね。ああ、ISO9001の認証取得企業は無条件に選定されて

いるのですか?

受審企業:

はい。認証取得企業ならば間違いありませんからね。

先だっても、この会社に民間の工事を依頼したのですよ。

審査員:

そうですか。

ちなみに、この工事委託している先のISO9001の認証範囲に民間工事が入っていること

の確認はされていますね?公共事業に限るというところも多いですし。

受審企業:

うちもそうや、、、(T T)

 

 

7.5.3 識別

 

審査員:

検査の合否はどうやって識別していますか?

受審企業:

はい。検査で不合格になった製品には、この不適合連絡書を付けています。製品が小さく

て不適合連絡書が付けられない場合は、この赤い箱に入れています。

ちなみに合格した製品には現品票を付けて、現品票が付けられないものは青い箱に入れ

ます。

審査員:

僕は検査の後の識別について質問しています。わかりますか?

貴方は検査後の識別と製品の識別と不適合製品の識別をごっちゃに考えていませんか?

あのね、これらの違いはね…。(講義の始まり始まり)

 

↑一度に聞けてよかったのにねえ。でも、検査後の識別と不適合製品の識別が、

 結果的に同じでもOKです。たまに、質問したことだけに答えないと怒る審査員

 がいます(^^;

 

 

7.5.4 顧客支給品の管理

 

審査員:

じゃあ、使用に適さない支給品があった場合はどうされますか?

受審企業:

この不具合連絡用紙に不具合の内容を記載して、顧客にFAXで連絡して指示を待ちます。

審査員:

指示が来ない場合はどうされますか?

受審企業:

指示が来ないことはありません。

審査員:

絶対に無いと言いきれますか?

受審企業:

絶対に無いとは言いきれませんが…。

審査員:

じゃあ、指示が無い場合の手順を作ってください。

 

↑再度、連絡するしかありませんね 審査員×

 

 

7.6 監視機器及び測定機器の管理

 

土木が認証範囲の企業にて

 

審査員:

コンベックスは校正していますか?校正の必要はないですか?

ねえ、松森さん、どう思われますか?

 

松森 (^^;

 

↑コンベックスの校正というのを久々に聞きましたので、、、

 

 

7.6 監視機器及び測定機器の管理

 

審査員:

じゃあ、社外校正した計測器の校正記録を見せてください。

受審企業:

はい、これです。

審査員:

この校正記録を受け取った際に、受入確認はされましたか?

受審企業:

(思いもよらない指摘に)!!

審査員:

この校正記録を見て、この校正状態で計測器を受け入れられるかどうか検査又は確認する

ことが必要です。

何も特別なことをする必要はありません。校正記録にハンコでも押しておいてください。

 

↑審査員と企業のISO9001関係者の会合で、外部での校正記録に確認印を押した方が

 よいかどうかの質問がありました。経験豊富な審査員は「あった方がいい」、企業の担当

 者さんは「これってムダやなあ」というやりとりがありましたので。

 

 

8.2.2 内部監査

 

審査員:

内部品質監査の記録を見せてください。

受審企業:

はい、これです。本日の予備審査に向けて、初めて内部品質監査をやった時の報告書

です。社内の人間だけでは心もとないので、外部から監査リーダーを招聘しました。

審査員:

ああ、松森さんが監査されたんですね。それじゃあ、安心ですよ。

さすが、しっかりした報告書だ。

受審企業:

ありがとうございます。この監査のチームメンバーには社内の人間も入っています。

松森さんに監査していただくと同時に、社内の監査員の教育訓練も兼ねてやっていた

だきました。報告書は社内の者が書きました。

審査員:

(ニコッと微笑みながら)そうですか。さすがに松森さん、うまい方法ですね。

(顔色変わって)あれっ!品質マニュアルには外部者を内部監査員として招聘する場合

は「リーダーとして招聘する」となってますよ!

内部監査報告書によると、松森さんはオブザーバーで参加ですよね、外部からオブザー

バーを招聘するとは品質マニュアルに書いてないですよ!

ああ〜!外部者を内部監査員として招聘するという、すばらしい手順がありながら、

外部者はリーダーにしかなれないなんてえ〜。

 

松森:(^^;

 

 

 

 

 

 

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