5.経営者の責任 経営者の責任という表題ですが、責任者が行うとは限りません。経営者の命を受けて皆さんが行う場合が多いです。 ですから、5.から始まる箇条番号で指摘する場合、指摘する相手は経営者とは限りません。 一般的に多いのは、 5.1、5.3、5.5.2=これで指摘した場合は経営者が処置することになるなあ 5.2=7.2.1や8.2.1の担当部門が処置することになるなあ 5.4.1=実際に品質目標を策定して活動している担当部門が処置することになるなあ 5.4.2=QMSの計画を策定したり変更したり、変更した内容を確認承認した担当部門が処置することになるなあ 5.5.1=責任と権限を定めている担当部門が処置することになるなあ 5.5.3=内部コミュニケーションを運営実施する担当部門が処置することになるなあ 5.6.1=マネジメントレビューを運営実施する担当部門が処置することになるなあ 5.6.2=インプット情報を用意する、まとめる担当部門が処置することになるなあ 5.6.3=指示も何もしていなかったら経営者が処置することになるなあ、でも「なんも無し!現状維持」も指示です 監査で経営者の責任に関する要求事項を確認する際には、トップに時間をかけて聞く方が良いところと、実際に運用実施している部門で時間をかけて聞く方が良いところを間違えないようにしてください。 5.経営者の責任 5.1 経営者のコミットメント(決意表明、強い約束) コミットメントの証拠を示さなければならないと要求されていますので、何か「見て」確認できることが多いです。監査ではトップインタビュー+何か見せてもらいながら判断しましょう。 5.1a)、5.1b)=品質方針5.3を見て確認 5.1c)=5.3a)b)と5.4.1で確認。全社の目標があるならそれも確認して、具体的には各担当部門の実施状況で確認 5.1d)=5.6で確認 5.1e)=5.6.3c)で確認 5.2 顧客重視 顧客要求事項が明確にされ、顧客の要求に合った製品が提供されていることを確実にしなければならないとされています。 顧客要求事項のうち、特に顧客との契約内容は7.2.1a)b)c)d)で明確にされます。 ※顧客との契約といっても、契約書を取り交わすことだけではありません。日々の顧客からの注文書受領や口頭で注文を受けた場合も契約に含まれます。 8.2.1では、顧客がどれくらい満足しているかとともに、もしかすると顧客の潜在的な要求や、これから要求するであろう(または要求するかもしれない)事柄を確認できる可能性があります。 7.2.1や8.2.1の責任と権限が定められている、定められた業務が遂行され、その結果が何らかの形でトップに報告されているでしょう。7.2.1や8.2.1の結果は8.4a)b)c)でまとめられ、5.6.2のマネジメントレビューとか、5.5.3の内部での情報交換と意思決定、指示の場へのインプット情報となっていることが多いです。 監査では、トップインタビューのあと、7.2.1や8.2.1の担当部門で確認しましょう。 5.3 品質方針 トップが、 5.3a) 組織の目的(進むべき方向)にふさわしい方針を考える 5.3b) その方針には、要求事項に適合した製品を造ること及びQMSが計画通り期待した結果を出すために、継続的な改善を行うことについてのトップの決意と約束を含めること 5.3c) 上記のa)b)を考慮した方針は、組織の品質目標を設定する際の枠組みとなり、また、設定した品質目標をレビュー(現状の品質目標を確認したり、見直したり)するための枠組みとなります。 ※枠組みという言葉は、例えば次のような場合に使います。 「現状の問題を洗い出して、解決策の議論の枠組みを検討しましょう。」 「今年の○○計画の枠組みを決めましょう。」 一つの考え方としてですが、中期の3年計画があり、それを達成するために単年度の方針と目標をトップがコスト、納期、品質、安全などに分けて具体的に示し、各部門がそれを受けて活動するという方法もありますので組織として「枠組み」を具体的に示すことも良い方法かもしれません。 5.3d) 方針の周知(伝達して理解させる)方法は決めておきます 5.3e) 上記のa)b)が変わった場合など、方針そのものを見直しする必要があります 監査では、上記のa)b)c)はトップインタビューで、d)e)は実施状況を確認しましょう。 5.4 計画 5.4.1 品質目標 組織内のしかるべき部門及び階層でとなっていますので、全ての部門や階層で品質目標が設定されているとは限りません。他の部門の品質目標を補佐、補助する部門があっても良いです。 製品要求事項を満たすために必要なものを含む品質目標7.1a)を設定しましょうとあり、7.1a)は7.2.1で明確にされています。したがって、7.2.1a)b)の顧客に関連する品質目標以外に、7.2.1c)法規制や7.2.1d)組織が必要とした内容に関連する品質目標もあります。 監査では、5.3a)b)を把握したうえで、全社の目標があるならそれも確認して、具体的には各担当部門の実施状況で確認します。 「どんな目標か?達成度はわかり易いか?誰が責任持ってやるのか?いつまでに?進捗度の確認方法と頻度は?
」 なお、品質目標には必達目標とチャレンジ目標がありますので、進捗管理状況についてグダグタ言ってもよい場合と(計画建ててきっちりと管理されている)、臨機応変ぐあい(すばやく判断して対応されている)で判断する場合を間違えないように。 5.4.2 品質マネジメントシステムの計画(当社では品質マニュアルに書いてある内容のこと) a) 品質目標に加えて4.1(ISO9001の概要)に規定する要求事項を満たすために、品質マネジメントシステムの計画を策定する=ISO9001の要求事項を受けて、わが社は何をするのか決める=それは品質マニュアルに書いてあるのだ!だから、品質マネジメントシステムの計画とは、品質マニュアルに書いてある内容のことだ。 ↑それでいいです。 b) 何らかの理由で、品質マニュアルの内容を変更する場合は、お客様に迷惑をかけたり、品質が不安定になったりしないようにしましょう。これは、品質マニュアルの改訂箇所は「確認と承認」されますので出来ているはずです。 5.5 責任、権限及びコミニュケーション 5.5.1 責任と権限(誰が何を行うのか及び誰が決定するのかを決めておく) 責任=与えられた職務を遂行すること 権限=決定、認可、承認する権利 上記を決めて組織内に周知しましょうという要求事項です。 監査では特に「許可、認可、決定、承認」するのは誰か? 権限を持った人が許可、認可、決定、承認しているかを確認しましょう。 権限を持った人が許可、認可、決定、承認していない場合とか、許可、認可、決定、承認する人が決められていない場合など、私は、「許可、認可、決定、承認」が含まれている箇条番号で指摘します。 例えば、「顧客へ製品を引き渡すことを、正式に許可する人が決められていない。」という事象の場合、 要求事項 5.5.1 責任及び権限が定められ、組織全体に周知されていることを確実にしなければならない 不適合の状態 顧客に対して製品の出来具合を最終確認して出荷を許可する人が決められていませんでした。 ↑ これでもいいのですが、この事象は8.2.4の「顧客への引き渡しのための製品のリリースを正式に許可した人を記録しておかなければならない」で指摘した方が、より品質保証体制に対する指摘としてインパクトがある、分かり易いと考えるからです。 ですから、 要求事項 8.2.4の「顧客への引き渡しのための製品のリリースを正式に許可した人を記録しておかなければならない 不適合の状態 顧客に対して製品の出来具合を最終確認して出荷を許可する人が決められていませんでした。 ※本件は、5.5.1 責任及び権限が定められ、組織全体に周知されていることを確実にしなければならないにも関連します ↑ 8.2.4で指摘して、5.5.1にも関連することを明記します。 なお、上記で指摘としてインパクトがあると書きましたが、 4.2.3a) 文書管理規程の承認者→誰がするのか決まっていない 6.2.2a) 内部監査員の社内資格を認可→誰がするのか決まっていない 6.3b) 設備の定期点検内容を確認して承認する→誰がするのか決まっていない 7.2.2 顧客からの注文を受注決定する→誰がするのか決まっていない 7.4.1 供給者の評価結果をもとに選定する→誰がするのか決まっていない 8.2.4 顧客に対して製品の出来具合を最終確認して出荷を許可する→誰がするのか決まっていない 上記をすべて5.5.1にしてしまうと、どのプロセス(業務)で問題があるのかわかり難くなります。 監査の指摘をまとめる場合、 今回の監査結果 不適合 6件 すべて5.5.1 「今回の監査で6件の不適合がありましたが、すべて5.5.1責任と権限が明確になっていないという指摘でした。」 ↑では、少し乱暴かな?分かり難いかな?と思います。 できれば、権限を持った人が許可、認可、決定、承認していない場合とか、許可、認可、決定、承認する人が決められていない場合に、どのような不具合(リスク)があるのかを考え、その不具合(リスク)に関連する箇条番号を使いたいです。 さて、次のまとめ、どちらがお好きですか? 今回の監査結果 不適合 6件 内訳 5.5.1(4.2.3aにも関連) 5.5.1(6.2.2a)にも関連) 5.5.1(6.3b)にも関連) 5.5.1(7.2.2にも関連) 5.5.1(7.4.1にも関連) 5.5.1(8.2.4にも関連) 今回の監査結果 不適合 6件 4.2.3a)(5.5.1にも関連します) 6.2.2a)(5.5.1にも関連します) 6.3b) (5.5.1にも関連します) 7.2.2 (5.5.1にも関連します) 7.4.1 (5.5.1にも関連します) 8.2.4 (5.5.1にも関連します) 5.5.2 管理責任者 TOPが管理責任者を任命します。トップに代わってQMSに関して決定できる人です。 組織の管理層の中から管理責任者は任命されますが、管理層=5.5.2a)b)c)の責任と権限を行使できる人であればいいです。 私が以前に所属していた組織では、人事異動の際にも任命書を発行していましたが、口頭で任命していてもOKです。 できれば、組織の皆さんが管理責任者は誰かくらいは知っていてほしいですから、品質マニュアルに、管理責任者として「○○太郎」とか「品質保証部部長」とか明記されている組織もあります。これ、組織の皆さんに対して親切ですよね。 管理責任者の似顔絵ポスターを張っている組織もありました。 管理責任者は複数でもいいです。例えば、同じ敷地内にあるけれど、A棟はうどんつゆの製造、B棟はうどんの製造で、A棟とB棟の管理責任者は別にした方が良いとか、各地の工場ごとに管理責任者を任命した方が良いとかの場合です。 でも、管理責任者、副管理責任者2名など、責任と権限が明確でなく、その結果、合議制になってしまい意思決定が遅れている場合など、「いいのかなあ?」と思う場合もあります。 私は、監査では5.5.2や5.5.2a)b)c)の箇条番号は、使ったことがありません。特に5.5.2a)b)c)は責任と権限を持っておれば良いと割り切り、次のように指摘しています。 5.5.2a)=確立、実施、維持できていない事象に近い箇条番号を使い、指摘はその担当部門にします。 5.5.2b)=5.6.2マネジメントレビューのインプットあたりを使い、指摘はインプット情報を準備する担当部門にします。 5.5.2c)=認識を高める方法を決めている箇所の箇条番号を使い、指摘はその担当部門にします。 5.5.3 内部コミュニケーション(情報交換) 品質マネジメントシステムの有効性に関する情報交換の方法、ツール、情報交換する内容はいろいろありますね。 ただ、コミュニケーションですから朝礼や掲示板などの伝達と、会議体などのコミュニケーションとは分けて考えた方が良いかもしれません。 会議などは誰が出席するのか、議事は何か、欠席者があった場合はどうするのかは決めておきます。 重要なコミュニケーションの場ではやはり議事録は取っておきたい。部門内の会議の議事録を持ち回りで毎回、違う方が作成している組織もあります。 また、情報交換だけで、会して議せず(会議)、議して決せず(議決)、決して行わず(決行)ではまずいですよね。 監査では、「会して議して、議して決めて、決めて行う」のサイクルを見てください。 5.6 マネジメントレビュー(経営者による確認、見直し) 5.6.1 一般 あらかじめ定められた間隔で、今がQMSを改善する機会なのか、QMSを変更する必要があるのかないのかを検討します。 あらかじめ定められた間隔は、毎年○月とか決めておいた方が組織として動きやすいです。 組織の状態によってですが、トップに代わって意思決定できる幹部のいる組織では、マネジメントレビューは半年や1年に1回として、マネジメントレビューには半年や1年の傾向をインプットして次半期や次年度の判断を仰ぐのが良いかもしれません。 トップによる都度の意思決定を重視する組織は、マネジメントレビューを毎月やっているところもあります。 品質方針及び品質目標を含むQMSの変更の必要性の評価を行わなければならないとありますが、 品質方針の変更の必要性の評価→品質方針は5.3a)b)が変わった場合は方針そのものを見直しする必要があるため(5.3e)) 品質目標の変更の必要性の評価→品質方針が変われば品質目標を決定する根拠(枠組み)も変わるため5.3c) ということです。 QMSは5.6.2のインプット情報により見直しされますが、内部外部の環境による5.3a)b)の変化によっても見直しされます。 5.6.2のインプット情報や内部外部の環境により、現在のQMSや品質方針を見直す必要があるかどうかを検討し、QMSや品質方針を見直す必要がある場合は、それに応じて品質方針を受けて決定される品質目標も変わってくるはずです。 マネジメントレビューの結果の記録は維持しなければならない(4.2.4参照)ですが、普段の日常会話で「維持」という言葉はあまり使いませんので、ここは、「マネジメントレビューの結果は記録しておかなければならない。その記録は、4.2.4記録の管理に従って保管管理する。」とします。 監査でマネジメントレビューの記録が作成されていない場合は5.6.1で指摘し、記録は作成されているものの3年保管のところ1年で廃棄されている場合など(記録の管理に問題あり)は、4.2.4(5.6.1にも関連)とします。 5.6.2 マネジメントレビューへのインプット(インプット=情報、資料) 年に半年や3カ月のサイクルでマネジメントレビューを行っている場合、例えば、年間とおして次のすべての情報がマネジメントレビューに提供されていると良いです。 a)=内部監査結果。該当すれば顧客の監査、当局の監査、認証機関の監査なども含めるとさらに傾向が見えてきます。 b)=8.2.1や7.2.3c)の内容や傾向です c)=8.2.3や8.2.4の内容や傾向です d)=8.5.2や8.5.3の内容や傾向(概要)です e)=前回のマネジメントレビューでのトップの指示事項に対する対応状況です f)=内部外部の環境の変化、法規制の改正、ISO9001の改訂などです g)=各部門から出してほしいです 上記のc)はプロセスの監視測定の結果ですから、品質目標の達成度や教育訓練の実施率や供給者の状況など(特に、前回のマネジメントレビューからの今回までの状況を見て、インプットしておいた方が良いもの)も含めてください。 上記のa)b)c)d)はサンプルが多ければ8.4でグラフ化して分析した結果をインプットしましょう。 5.6.3 マネジメントレビューからのアウトプット(経営者からの指示事項) 「特に問題なし、現状通りで行こう!」もアウトプットです。 監査では、TOPから指示がでている場合は、指示を受けた部門で進捗管理しながら取り組まれているかどうか確認しましょう。 |