いま考えていること 127(2003年03月)
――アメリカは常に正しいか――

「萬晩報」というメール配信の論調が送られてきますが、興味深い記事に出会うことが多いのです。今朝受信したブルッキングス研究所(1916年に設立されたワシントンの著名なシンクタンク. 政府プログラムの有効性や公共政策の質の向上を目指し、政治的影響力も強い。)客員研究員中野 有氏の記事の中には次のような記述が見られます。

”日本ではどのように報道されたか知らないが、C−SPANで放映された3月7日の国連安全保障理事会の討論には、外交の駆け引きを超越した、戦争を未然に防ごうとする予防外交と国際秩序を構築しようという空気が漂っていた。特に、フランスやロシアの外相の討論には、イラクの武力行使という目前に迫る問題に現実主義的に対応するのみならず、新しい国際秩序の構築という理想主義を掲げたものであった。フランスの外交の華やかさとロシアがアメリカの覇権主義に挑戦する気骨が現れた建設的な討論であった。

アメリカは孤立しようとしている。最近のニューヨークタイムズやワシントンポストの論調は、ブッシュ批判が目立つ。日本のマスコミの方が、ワシントンの新聞よりイラク攻撃の正当性を訴えているとの印象を受ける。”」

3月9日のAP電はカーター元大統領が当日のニューヨークタイムズ日曜版に寄稿した文を手短に紹介しています。要点を書きますと、

アメリカはまだイラク危機の平和的解決に可能なすべての手だてを尽くしていない。アルカイダとフセイン大統領との関係もはっきりしていないのに両者を無理に結びつけようとしている。軍事行動を起こす前にさらに精力的な国際的支援が必要だ。

国際的な危機に直面した一人のクリスチャンとして、また、大統領として私は正義の戦争の原則をよく知っているが、本質的に一方に偏したイラク攻撃はこの原則に合致しない。

イラクとの戦争は中東を不安定にし、アメリカ国土へのテロリスト的攻撃を増加させるだろう。もし我々が国連を無視して戦争に乗り出すならアメリカの威信は著しく損なわれるだろう。

アメリカのイラク攻撃が現実のものとなるかも知れない瀬戸際の今、先日來、接したニュースでもアメリカ.イギリスの現在の政策への批判を意味するいくつかの例が見られました。アメリカの外交官が政府への批判を込めて辞任したという例2件、国連の承認なしに開戦すれば辞任すると述べたイギリスの閣僚などです。そこで私はもう一度国連の原点を見てみたくなりました。

まず「国際連合憲章」を見てみたのです。この憲章の全文引用はここでは何か重苦しいものになりますので、関心のある方はリンクして読んで頂くことにして、第一章第一条と第二条に国連の目的と原則が簡潔に記されているので、引用しておきます。

  第1章 目的及び原則

第1条

 国際連合の目的は、次のとおりである。

1. 国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整または解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。
2. 人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。
3. 略
4. これらの共通の目的の達成に当たって諸国の行動を調和するための中心となること。

第2条〔原則〕

この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。
1 この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
2 すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。
3 すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4 すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
5 すべての加盟国は、国際連合がこの憲章に従ってとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合の防止行動又は強制行動の対象となっているいかなる国に対しても援助の供与を慎まなければならない。
6 略
7 略

国連のアナン事務総長もオランダハーグで語りました。
「アメリカが安保理の枠外で軍事介入を開始すれば、それは国連憲章に合致しない」
「戦争は最後の手段であるべきだ」
「国連は最後の限界まで平和的解決を追求する義務がある」
「全世界の人々はこの危機が平和的に解決されることを望んでいる」

国連の軍事行動については第42条に書かれています。いずれにせよ国連は平和的に紛争を解決することを目的としており、国連安保理事会から離れてアメリカが単独で軍事行動に移れば重要な憲章違反になることは間違いありません。

ブッシュ政権の中枢にいる人達は、異常な人達であり、かってのブッシュ氏の「十字軍」談話に象徴されるようにキリスト教原理主義者の集まりという批評も正しいのかも知れません。イスラム原理主義同様危険だと思います。

財団法人 日本総合研究所理事長 寺島実郎氏の意見には同感することが多いのですが、氏のいわれるように21世紀の今日わが国の安全保障も日米安全保障を脱して、戦争経験を基にした現憲法の理念に誇りを持ち、この理念を生かした、広くロシア、中国などをも含んだ協定という新しい安全保障体制を考えることも必要でしょう。現状北朝鮮の脅威にとらわれて現在のアメリカ指導部の哲学に一体となることは世界の人々に罪悪を及ぼすのでは無いでしょうか。
イラクが非難されているのは大量殺戮兵器の開発貯蔵だと思うのですが、一昨日放映されたアメリカの最強力通常爆弾MOABの実験を見ていると、いくら人工衛星で精密誘導して軍事目標を狙うとしても、被弾範囲を限定することは不可能で紛れもなく無差別に大量殺戮を引き起こしかねない兵器です。アメリカが核の保有を認められているのもその良識に対する信頼あってのことでしょうが、国連無視の単独軍事攻撃でも行えば、この信頼は根元から揺らぎ始めるでしょう。

(3月19日追記)今日党首討論があったので聴きました。小泉さんの答弁を聴いていると、この人もどうものぼせが頭に来て質問をまともに理解できなくなっているという印象を持ちました。答弁でどうしても理解できなかったのは、これまでの3つの安保理事会決定があっても、イラクとの戦争を開始する最後の決定がアメリカのブッシュ大統領の意志だけで出来るという点でした。それを支持する首相の主張には説得力はありませんでした。

(3月30日追記)アメリカの意図は一言でいえば、イスラエルと同様の対米関係を持つもう一つのイスラエル、しかもユダヤ教でなく純粋にキリスト教思想に基礎を置くイスラエル樹立にあると考えると、今度の戦争開始の意図がはっきりすると思います。

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いま考えていること 128(2003年03月;07月;08月;11月)
――アメリカは勝てるのか――

国連安保理事会の決定を経ないで戦争に突入したアメリカの態度は、他国の主権を無視した不合理なものであることは世界の世論の判定といっても間違いではないと思われます。核を含む危険な大量虐殺兵器の廃棄という錦の御旗が、いつの間にかフセイン大統領の廃棄という、とんでもない本心の露呈で始まった戦争は、たとえフセインが自分本位の独裁者であるにもせよ他国が戦争という暴力で始末を付けるテーマではありません。国際間の紛争はやはり法の下で忍耐強く処理されなければ世界は常に力の万能を許すことになり、平和は保てないからです。そういう意味で実現の可能性はゼロに近くても、戦争を直ちに止めよという声に沿って国連を中心として動かなくてはならないのでしょう。

現実の戦況に目を向けますと、正に破竹の勢いでアメリカ軍はイラクの首都バクダッドに迫っていますが、一つはアメリカ軍の補給路が随分長くなりしかも急激に展開して後方支援の体制が十分構築されていないかも知れないと考えられないでしょうか?日本軍のインパール作戦失敗は補給の問題が解決されていなかったことでした。また、ほとんど抵抗なく砂漠の中をバクダッドに迫ったことは比較的イラク軍の兵力は温存された状況にあるのではないでしょうか。ゲリラ的に補給路を脅かし、袋に入ったネズミを叩くようにイラク軍が戦いを挑む時、これまでのような順調な進軍が逆の意味を持ちこむかも知れないとは考えられないでしょうか。空軍による支援攻撃も、市街戦に入ると味方を誤爆する恐れも高くなるので効果は衰えます。ABCテレビは、ラマダン副大統領・アジズ副首相・イブラヒム革命評議会副議長らフセイン政権幹部が空爆で死亡したと報じていましたが、いずれも元気なようで、会見に臨まれる方もあり、あるいはまた当初報じられたバスラで第51師団師団長が多くの兵士と共に降伏してきたというニュースも実際は一人の将校が投降後の好待遇を期待しての演出だったことがはっきりしたなど、アメリカからの情報も簡単に信じられなくなってきました。日本も過去に大本営発表で勝利ばかり報じられましたが、すべてはフィクションでした。官製報道は政治的な意図が働いており疑ってかかる必要があります。

(3月30日追記)今は砂嵐が収まっているようですが、仄聞するところでは、砂嵐は少しとぎれても繰り返すようで、4月になればさらに激しくなるかも知れません。それに体温を超える高温が訪れるようです。ナポレオンのモスクワ冬将軍ではありませんが、砂将軍の威力も無視できなくなるかも知れません。

アメリカと国連が一致し、言い換えればアメリカが国連を利用に値するものとして矛盾を起こさなかった間は、日本も「国連中心主義」と「アメリカとの協調」に矛盾を起こさなかったので口では「国連中心主義」を掲げていられたのですが、現在は決定的にアメリカが国連と袂を分かった行動に出てしまったものですから、日本は「国連」を選ぶか「アメリカ」を選ぶかののっぴきならない踏み絵を踏まされ、転びバテレンじゃありませんが「アメリカ」に転ぶ道を選んでしまったということです。「国連中心主義」のメッキが剥げ落ち、世界から信用されなくなる道を選んでしまったというところでしょう。

(7月17日追記)  米兵に対する攻撃が頻発するなか、イラク戦争開始以降の戦闘中の米兵の通算死者数は7月16日約150人となり、91年の湾岸戦争中の同死者数147人を上回る見込みです。アビゼイド司令官は同日米国防総省で記者会見し、イラク国内で続く米軍への攻撃について、「古典的なゲリラ型の軍事作戦だ。低強度の紛争だが、これは戦争だ」と述べ、事態が「ゲリラ戦」になっているとの認識を初めて認めました。「米軍は(旧フセイン政権の支配政党)バース党の残党とイラク全土で戦っている」と述べ、同党の中堅層や、旧政権の特別治安組織、共和国特別防衛隊などが地域レベルで連携していると指摘。「次第に組織的になり、我々の戦術や技術に適応しつつある」と述べました。

17日毎日新聞夕刊で在ワシントン佐藤千矢子記者によると、バグダッド陥落に中心的役割を果たした米陸軍第3歩兵師団の駐留米兵が、米ABCテレビのインタビューに「ラムズフェルドがここにいたら、彼の辞任を求めるだろう」「かってはイラクの人々を助けたいと思ったが、いまはもう全く関心がない」「彼(ラムズフェルド長官)に我々はなぜまだここにいるのか聞きたい」「家へ帰る一番の近道はバグダッドを通ることだと言われ、そうしたのに、まだ我々はここにいる」など次々に述べた不満が、放映されて波紋を広げています。

(8月31日追記)現在イラクの状況はますますゲリラ戦の様相を呈しています。復興したばかりのキルクーク油田からの送油管の連続爆破、親米の傾向を示してきた「イラク・イスラム革命評議会」の最高指導者ムハマド・バクル・ハキム師の爆弾テロによる死、スンニ派とシーア派の衝突・銃撃戦と枚挙に暇のない状態です。新しい政権作りの準備にあたる統治評議会のメンバーの一人シーア派聖職者ムハンマド・バハル・ウルーム師が30日、統治評議会参加を当面見合わせる考えを示しましたが、アメリカ主導の統治評議会の解体の序曲かも知れません。

(11月07日追記)このところますますイラクではゲリラ戦の様相が強まっています。用いられる武器は以前よりも高度な兵器、携帯地対空ミサイルによる米軍ヘリコプターの撃墜から迫撃砲攻撃へとエスカレートしてきています。標的も米軍のみならずこれに協力するイラク人、国連、国際赤十字、イラク南部に展開するイギリス兵、イラク中南部にいるポーランド兵にまで及んでいます。ブッシュ大統領は撤収しないで留まるよう呼びかけましたが、国連要員、赤十字要員、は言わずもがなアメリカと轡を並べてイラク入りした同盟国スペインに至るまで撤収をはじめています。業を煮やしたアメリカは海兵隊・陸軍の増強を計画しているようですが、事態の好転は元々大義なき侵略戦争ですから望めず、予想されるのはイラク人やイスラム組織の抵抗の泥沼への陥没しかありません。

(11月09日追記)イラク訪問中のアーミテージ米国務副長官は8日、バグダッドで、「我々は問題を抱えている。我々は反乱に直面しており、これは極めて戦争に近い」と述べ、武装勢力の活発な活動に苦悩を表明しています。

(11月10日追記)asahi.comによれば、イラク駐留米軍は8日、イラク市民が地対空ミサイル6基を自発的に供出してきたと発表し、また、北部モスルの南にある町カイヤラをパトロール中の米軍部隊が、草原に隠されていた地対空ミサイル1基を発見したといいます。この事実は住民の協力進んだと言うよりも、7基はいずれも旧ソ連製の肩掛け式携帯型ミサイルSA7で、米軍ヘリの撃墜にも使われたとみられる地対空ミサイルがイラク国内に広く出回っていることを示すものとこのニュースではとらえられています。
(11月11日追記)今日目にしたニュースのうち『イラクや中東地域を管轄する米中央軍のアビゼイド司令官が8日、米軍への攻撃が頻発しているイラク中部の「スンニ派トライアングル」と呼ばれる地域を訪れ、ファルージャ市やラマディなど米軍への攻撃が相次ぐ町の部族長を集め、「もし抵抗を抑えないなら、米軍は断固たる措置をとる」と警告し、会談の数時間後、米軍の攻撃機がファルージャ近郊に500ポンド(230キロ)爆弾3発を投下した』というニュースともう一つ『イスラム教シーア派の急進的指導者ムクタダ・サドル師の支持者が多く、反米感情が強い サドルシティーの出来事として、サドルシティーの自治評議会のモハナド・カアビ議長が9日、米兵と口論中に銃で撃たれ、死亡した』というニュースは注目されます。この2つの話はおそらくますます米軍とイラク人との軋轢を強めるものだろうと思われます。米軍自体がイラク情勢を平和から遠ざける方向に追い込んでいます。しかし力に頼る計画は反発を強め、決して成功しないでしょう。

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いま考えていること 129(2003年04月;9月)
――イラク戦争を振り返る(1)――

もう少しイラクの抵抗もしっかりしているのかと思っていましたが、これということもなくフセイン体制は崩壊しました。今度のイラクの出来事はこれからこそ大きい問題があることを立証していくと思いますので、折に触れて見直していきたいと思っています。今日はその第一弾のつもりです。

今日までにはっきりしたことは、アメリカが開戦の理由としていた大量破壊兵器は、このギリギリの時点になってもイラク側からは出てこなかったと言うことと、子供を初めとする一般非戦闘員の犠牲が物凄かったということです。さらに付け加えるならフセインに対する忠誠心は一般の人々からはホンのかけらも窺えなかったこと、マスコミ動員を意識的に操作したアメリカの心理作戦の巧みさも挙げられるでしょう。やはり独裁的なフセイン体制は基本的に民衆の利益と一致してなかったので、献身的な民衆のサポートは無かったと言えます。しかしたとえそうであったとしても、アメリカによる攻撃は許すことのできない他国政治体制への武力介入であり、この先例を是認することは出来ません。アメリカの論理を発展させれば、北朝鮮には金日成から始まった金王朝の独裁体制があり北朝鮮の民主主義樹立を目的とした侵略的な戦争を許すことになりましょう。その結果として北朝鮮が保有しておれば長距離ミサイルを日本の基地に向けて発射したり、最悪の場合核攻撃をすることだって起こりかねません。イラクがクエートにミサイルを発射したようにです。シリヤ・レバノンへの攻撃開始もまんざら無いことでもなくなります。これでは日本はもちろん世界の平和は保たれません。みんなが不安におののき被害を避けられない状態になってしまいます。やはり“法”のもとでの平和を追求しなければならないと思います。

アメリカが持ち込もうとしている自分にとって都合のよいイラクの政治体制と利権が今後イスラム世界でどのような経過を辿るか、またアメリカの軍事力の圧倒的な強さの裏面にある経済的な弱点が今後どのような様相を示すかなど、私の第二弾以後の関心は尽きません。

(2003年9月25日追記)国連総会一般演説の冒頭アナン事務総長は名指しを避けながらも先制攻撃は「過去五十八年間、世界の平和と安定が依拠してきた原則、国連憲章に対する根本的な挑戦」で「一方的で理不尽な武力行使の拡散につながる先例を作ることになる」と糾弾しました。これに続く各国の演説もアメリカの一国専制主義を批判するものが相次ぎました。

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いま考えていること 130(2003年05月)
――馬鹿なことは止せ――

与党の緊急金融対策が連休明けにも明らかになり、経済財政諮問会議の俎上にも8日のぼると見られています。内容は(1)日銀の株式買い取りの対象に銀行株を加える。(2)郵便貯金の現在の株式運用枠を2%に拡大する。(3)企業の厚生年金基金の代行運用返上の期限を10月から6月に前倒し等々のようです。持ち株の評価損が本業の利益を上回ったところも多い期末決算を見て株価は下落の道を辿っていますから、この様な提案が与党から出てくるのもおかしいわけではないのですが、考えてみると馬鹿げています。これらはいずれも過去の問題先送りのつけから発生したもので、また問題を先送りし、返って後で問題を一層大きくしかねないからです。日銀の基盤を損ねたり、公社化した郵政に危険を押し付ける姿勢ではないでしょうか。かって公社だったNTTが厚生年金基金代行を返上する時代に郵政公社に株を買わせる神経の鈍さが馬鹿げているのです。右肩上がりの経済の時に各企業の厚生年金基金は一儲けを夢見て代行運用に走ったのではないでしょうか。株価が下がれば損をするのは当然で、自己責任で処理しなければなりません。

2005年から世界の各国で実施される減損会計の導入も日本だけは見送ろうと言う動きも与党に見られますが、これも同じ発想で、将来への見通しを欠いた小手先のごまかしです。政治は現実との妥協ですから私のような気質のものが考えるのと一致しないのも当然でしょうが、まだしも竹中さんは彼なりの見通しと確信を持って走っていると見ています。
銀行と企業の株の持ち合いこそ、改めなければならない問題点であり、見通しを誤った企業の大きな損を孕んだ厚生年金基金代行返上の動きもやらなければどうしようもないでしょうし、その結果市場での需給バランスが崩れて株がどんどん下がるのも致し方ないことでしょう。私の持ち株も大幅に評価損が大きくなってはいますが、見方によればどんどん今経済界の膿が出てきているので、改革への歩みの証明だとも思えます。一部の会社では新しい設備投資が見られます。問題がはっきりし、将来の展望がなければ新規の投資が起こりはしないでしょう。私は未来に向かって必ずしも悲観的出ない動きが起こってきていると見ています。まだまだ時間はかかるでしょうがこの様に膿の排出が表面化してきていることはむしろ目出度いことだと思っています。膿は出し切りその芯まで除かないと傷は治らないのです。実態と堂々と向き合い、それを認識し対応することから、物事は新しい局面に進むことは経済現象も自然界の現象も同じことです。ごまかそうと言う意識は馬鹿げています。
鋭さと指導力を失いつつある小泉さんの経済財政諮問会議での指導に監視的に注目したいのと、株の市中への流出を防ぐ手段が講じられれば代替的に株を保有する機構の保有株数が大きくなり、将来株価の上昇局面を迎えてもその時この機構からの放出が予想されますから、かなりの期間にわたって株価の抜本的上昇は期待できないでしょう。株投資は現在危険です。回復の鍵はなすべき構造改革は反対を押し切ってでも速い足取りで進め信用を回復するような国際的に常識となっている会計も恐れることなく採用して、魅力を回復することです。将来に対して魅力を回復出来れば外国からの投資も増え。国内の投資も必ず回復します。これしか株価の蘇生はないのです。

(5月25日追記)大和総研が海外の機関投資家などにアンケートした結果が報じられています。

 自民党などの一部から株価対策として、企業の保有株式について現行の時価評価のほか取得時点の価格での評価も選択可能とすることや不動産など固定資産の含み損を強制的に会計処理させる減損会計の導入時期を05年度から2年程度延期する意見が出ていますが、アンケートは4月下旬〜5月上旬に実施し、欧米や香港などの48の海外機関投資家や中央銀行などから回答を得ています。

 時価会計の選択制が株価対策やデフレ対策に有効かとの質問に、「有効」との回答は6.1%で、「日本企業の財務諸表への信頼を無くし、逆効果」との回答は73.5%を占めました。(「影響なし」は14.3%)。

 減損会計の導入延期については「有効」は4%、「逆効果」が64%、(「影響なし」は28%)。

 大和総研制度調査室は「海外の機関投資家のほとんどは、会計ルールを変えても企業の実態が良くなるわけではなく、見せかけだけごまかそうとしていることを見抜いている」としています。

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いま考えていること  131(2003年05月;6月)
―イラク戦争を振り返る(2)――

個人の生活でも見られることですが、未来への見通しと言う点ではなかなか予想できにくいものがあります。アメリカにも予測を超えた運命が訪れつつあるようです。

今朝ラジオNHK第一放送ビジネス展望で、日本総合研究所の寺島実郎さんの話を聞きました。寺島さんの話からはいつも私など思いもつかない事実を伺えて教えられるのです。ヨーロッパの2,3の国を歴訪されて今朝はパリからの報告でした。印象に残ることが3つばかりありました。一つはアラブ諸国がイラク戦争後アメリカのイラク石油支配の動きに対抗して、石油代金の決済をユーロに振り返る動きがあるということ、次にアラブ諸国はフランスに対する政治的信頼感を高めているということ、もう一つは微妙なイギリスの動きの中でイギリスに至るまで、ドイツの経済的影響はヨーロッパで圧倒的である、この3点でした。そういえば今朝は1ドルが118円になった反面、1ユーロは逆に133円台になったことが報ぜられました。アメリカのドルの下落に比べユーロの上昇は確かに私のユーロMMFに対してさえ思わぬ為替益をもたらしています。アメリカのイラク戦勝利宣言が今日空母リンカーン上で、芝居の大見得よろしくブッシュ大統領から発信されるようですが、戦争はアメリカの政治的威信にも経済的威信にも陰りをもたらしつつあるようです。石油代金の決済をユーロに振り返る事態になればドルの信認は揺らぎ、アメリカ経済にも衝撃的な影響を与えることになりましょう。世界経済におけるアメリカの地位に画期的な転換をもたらしたイラク戦争ということになるかも知れません。イラク国内でもアメリカ寄りの亡命イラク人をキャップに据えようとする動きへの拒否反応はますます強まってきていますし、私から見れば日本が協力しようとしているアメリカの復興人道支援室など「イラクにアメリカが戦争を仕掛けたのこそ最悪の人道蹂躙」だと思っています。日本政府は何をサポートしようというのでしょうか。ヨーロッパでも不況が報ぜられ、ドイツの株価も下落していましたから相変わらずドイツの経済のファンダメンタルズが強いという報告は目を覚まされました。
この連休を利用してヨーロッパを回り、アメリカと欧州との関係修復を計るといっても、アメリカへの忠誠を誓った日本の首相をイギリス・スペインの首相以外の誰がまともに相手にするでしょうか?

イラク戦後初めて英国で地方議会選挙が5月2日行われました。昨晩迄の集計では労働党は772議席を失い保守党は544議席、野党第二党の自由民主党は150議席を増やし、ブレアの労働党の大敗が明らかになっています。原因はイラク参戦と公共サービスの切り捨てによるもので、投票率の低下はイスラム教徒のイラク戦争反対の棄権が増えたためといわれます。日本の新聞の多くはこの地方議会選挙結果について報道していません。

(6月4日追記)エビアン。サミットでブッシュ大統領は強いドル路線に変更は無いと語ったと言いますから、日欧諸国は輸出の立場から一安心したのかも知れません。しかし、アメリカに対する直接投資は昨年度は00年の6分の以下の水準に落ち込んだと米商務省は3日発表しています。イラク情勢の緊迫化が解消された今年は 多少持ち直すかとは思いますが、現在のアメリカの利息の水準はユーロ以下ですから海外からの投資はそんなに増えないでしょう。さらに寺島さんの言われるように石油のユーロ決済でも現実のものとなると、ドル安に向かう条件はますます強まるでしょう。ドル高はブッシュの単なる希望に過ぎません。

(6月10日追記)米議会予算局(CBO)は9日、財政予想の中で、03会計年度(02年10月〜03年9月)の財政赤字が過去最高になり4000億ドルを超すという見通しを明らかにしました。これは税収が減る一方、イラク戦争に伴う軍事費や失業保険給付の増大などで、歳出が大幅に増えているためです。一方、経常収支も年間5000億ドルを超える赤字額となっており、経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」が、再び米国経済の懸念材料となってきているのです。経済的にはアメリカは決して強い国とは言えません。この経済的な弱さは致命的で、遠からずアメリカの足下を脅かさずには置かないでしょう。ユーロのウエイトが世界貿易でさらに強い立場を取るようになると、ドル安傾向に拍車がかかるでしょう。経済大国日本はこのアメリカの赤字を支えてきたのですが、保有するドルの価値低下はわが国にも大きな損失をもたらします。

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いま考えていること 132(2003年05月;9月;10月;11月)
――イラク戦争を振り返る(3)――

2003年5月17日毎日新聞朝刊「世界の目」に南アフリカの作家コリン・スマッツさんの「米国に路線を変更させよう」という寄稿がありました。南アフリカの人がどういう見方をしているかは世界の世論という意味でも興味を持って読みました。
要約しますと、アメリカのイラク侵略はイラクの石油を支配することと、パレスチナ支援基地としてのイラクの無力化で、これはイスラエルのロビー活動によるもので証拠は次の攻撃目標をシリアに置いていることで明らかだというのです。今後のイラクではアフガニスタンのカブールのようにイラクではバクダッドだけがアメリカとアメリカの任命した「イラク政府」の支配地域となり、他の地帯は無秩序のままになるだろうと書いています。(この点については5月18日毎日新聞の一橋大内藤正典教授の「危険な米国のイラク再建策」が注目されました。教授はアメリカが援助したイラクのクルド人勢力が自治権を拡大すると、トルコやイランでもクルド人の分離独立運動が活発化すること、逆にキルクーク油田にクルド勢力の利権を許さないとなるとキルクーク油田はアメリカの支配下に置かれクルド人の不満がいろいろの形で現れ、中東の安全保障と言う点から重大な脅威になるだろうと警告されています)、でに米英がイスラエルのための中東掃討作戦を展開している間、第三世界の開発・貧困・教育・栄養失調の問題は隅に追いやられることを問題視しています。解決策は反戦運動・国連や法の支配・米英の有権者の民主主義的動きを支持して、米国の保守原理主義的指導部との困難な闘いを継続し、ブッシュの大統領再選を阻止することと結論しています。

私はこの記事でアフリカでの反イスラエル感情の強いことを知り、その立場からイラク戦争が見られていることを感じるのと同時に基本的にこの見解に賛成です。中東の平和にイラク戦争は新しい火種を播きつつあるのかも知れません。冷静に考えると日本が展開すべき世界への貢献もアメリカへの協力ではなくて、日本国憲法の精神にのっとった第三世界の発展への寄与であるべきだと示唆しているものを感じます。こうして初めて日本は世界に独自の立場を鮮明に出来、信頼される歩みを示せるでしょう。テロ対策の点でも、軍事力に頼るよりもテロ発生の芽を減らすことは出来ると思います。現在行われている「太平洋・島サミット」はこの点で支持します。

(9月22日追記)今朝の毎日新聞朝刊にはイラク北部でクルド人とトルクメン人との対立が表面化してきているという記事がありました。両民族ともフセイン政権下では「圧政の被害者」であったのですが、現在アメリカ寄りのクルド人の羽振りが良く「クルド語教育の強制や(トルクメン人)教員に対するいじめや、公共施設からの締め出しなどの差別が始まっている」と言うのです。8月21日にはトルクメン人のシーア派モスクの爆破があり、これに抗議するトルクメン人デモにクルド人の発砲があり8人の死亡が起こったということです。北部のキルクーク油田の権益をめぐってクルド人のクルド化を進める動きが新たに紛争の種を播いているようです。

(10月06日追記)asahi.comによると、「イスラム解放軍」は4日、イラクの統治評議会メンバーを「神の敵」として攻撃対象とし、さらに米軍占領下でイラクに進出する外国企業にも警告を発する声明を出しました。声明本文は、米英の暫定占領当局(CPA)に任命された統治評議会議員のアハマド・チャラビ・イラク国民会議(INA)代表を名指しし、「チャラビや統治評議会のメンバーのような偽善者と悪魔の手先は自らの宗教と祖国を裏切っている」とし、「神に刃向かう者と同様に処罰されるべきだ」と死刑を宣言しています。 さらに声明文は「外国企業への警告」として、「米国が主導する外国軍が侵略している時に、イラクで活動する外国企業は我々の攻撃にさらされることになろう」と攻撃を宣言しています。

(10月16日追記)10月12日NHKニュースは、イラクで、10日イラク中部のクーファでの金曜礼拝で、イスラム教シーア派の有力な指導者サドル師が、独自の政府の樹立を宣言するなど、アメリカ主導下のイラク統治評議会が進める政権づくりに反対する姿勢を強調したとほうじましたが、カイロ発14日の時事通信によると、サドル師はナジャフを新たな首都とし、省庁を有する新政府を作る。「既にイラクの内外の人々から強力を得ており、こうした人達が閣僚や知事、議会を構成することになろう」と語っています。

(10月24日追記)今朝の毎日新聞によると、バグダッド大木俊治記者はマドリードで開かれたイラク復興支援国会議をめぐって、バグダッドを拠点とする国際非政府組織「占領監視国際センターは「資金が事実上、占領当局の監視下に置かれる限り、わたしたちはいかなる復興支援にも反対し、これを避難する」と声明した。イラク人の女性所長は「この会議はイラク国民を助けるためではなく、ブッシュ米政権を助けるための政治ショーに過ぎない」「結局は米国の財政負担を減らし、ブッシュ大統領を再選させるための“支援”に過ぎない」と結論づけたと報じています。イラク国民の間には「復興事業の分け前はほとんど米企業が取り、残りの分け前にあずかるのも、米国が指名した統治評議会メンバーの関係者だけ」との冷ややかな憶測が広まっているとも書かれています

(10月29日追記)赤旗カイロ特派員小泉大介記者28日「米軍の首都占領以来半年以上経った今、こうした事件が後を絶たないどころか激化していることは、米軍による無法な戦争につづく占領体制が完全な破綻と共に、米軍がもはや治安維持を含む占領能力そのものも失いつつあることを物語っています。米占領当局は治安回復のため、イラク警察の訓練と強化を図ってきましたが、多くのイラク人にとって警察と占領軍は一体。占領当局の思惑は完全に裏目に出ています。」
赤旗ワシントン特派員浜谷浩司記者27日「ベトナム戦争で六年近くの捕虜生活を送った経歴を持つマケイン上院議員(共和党)が『ニューズウイーク』最新号のインタビューで、イラクに「ベトナムとの類似を初めて見た」と述べ注目を集めています。同議員は、政府が流す情報と現実の状況とがかけ離れていることを指摘し。「国民にそれをはっきりいうべきだ」と語りました。ブッシュ政権は、星条旗に包まれた棺が本国に帰還する模様を、報道機関が記事や写真で報じることを禁止している−ワシントンポスト紙(21日付)

(11月07日追記) AFP通信によると、米英の暫定占領当局(CPA)が任命したイラク中部ナジャフ州のハイダル・マフディ知事は、CPA関係者との会談後の5日、占領統治への抗議のストライキを呼びかけていましたが、市内での地元有力者との会談後、「治安に不安を抱く多数の市民がいる。人々は多くを求めるが、我々の能力には限りがある」と説明したということです。つづく6日、米英が治安維持に成功しておらず、占領統治下で十分な自治権も与えられていないなどと主張して辞意を表明しました。

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