いま考えていること 139(2003年06月)
――世界デフレは避けられない――

私が使った最初のパソコンは富士通のFM11で、1983年のことでした。この器械は8ビットのCPUを2個使った疑似16ビットの器械でしたが当時としては能力の高いものでした。現在64ビットの器械が一般化していることを思うと今昔の想いを避けられません。当時はまだ光ファイバーはおろかモデムも無く信号を音に変換するカプラーをパソコンにつなぎ電話機をカプラーに差し込んで通信していました。インターネット用のWindowsも無く、ワードスターを除いてはめぼしいソフトも無く、プログラムも自分でbasicを使っていくつか作っていましたが、何夜も連続運転を続けて、自分で作ったプログラムが無事著書の索引を作ってくれたときには嬉しくて眠れないくらいでした。なぜコンピューターを取り入れたかと言いますと、論文をタイプライターで打ち込みますと、修正したいと全部打ち直すか、修正液でカバーしてその部分を打ち直さねばならずどうしても汚くなるのです。ところが英文ワープロソフト「ワードスター」を使うと、パソコンで論文を作成でき、フロッピーデスクに保存しておけば呼び出して修正が出来、完成すればプリントアウトできたことと、また比較的新しい化学論文の目録とも言うべきChemical Abstructの検索が、パソコンをこのカプラーを使ってアメリカにつなぐと瞬時に出来たのです。これは画期的なことでした。

未だにインターネットにノーベル賞は与えられていませんが、現代の生活にこれほど大きい影響を及ぼしているものはありません。第二次大戦中我々は全く外国の科学の成果から遮断されていましたが、戦後各地に出来たアメリカ文化センターやイギリスのブリティッシュ・カウンシルで文献を閲覧することが出来てよく訪れたものです。最新の文献が揃っていましたから急速に知識を吸収し、国際平準化することが出来ました。このように情報の共有化が進めば学問も経済も共有化が進み平準化がいやでも進むのです。インターネットはこの共有化のスピードを昔なら、とても考えられないレベル、リアルタイムのレベルに推し進めたのです。

現在デフレの世界化が恐れられていますが、この現象は昔の世界にはなかったインターネットと衛星通信の存在という条件下で進行しています。この条件下でのデフレはいままでの世界経済史からは予測不可能なもので、全く新しいものだと思うのです。ストレートなインターネットの効果を見てみますと、まずIP電話です。接続の作業を除けば、回線使用料はただなのですから、通話料金は距離を考えることなく安くなり、既存の電話会社の回線通話を脅かしているのです。次に挙げたいのはインターネットショッピングです。同じ品物をいくらで売っているか情報の比較を簡単にすることが出来ます。一般にインターネットでの提示価格は安いと思うのですが、比較によって一番安いところから買うことが容易です。企業経営の立場から考えますと、企業が中国に移ろうとインドに移ろうと時間差や民族の違いを全く障壁とすることなく情報を共有することが可能になりました。企業は人件費や土地の安い他国に移転しても企業を支えるのに必要なリアルタイムの情報をインターネットと衛星通信のおかげで何ら障壁無く往来させることが可能です。求人、商品探索、入札、購入すべてリアルタイムに全世界を相手に展開できます。この結果として世界的に人件費や土地経費の低い方への平準化が避けられないのだと思います。インターネットが存在する現在の世界では、日本のみならずアメリカでもヨーロッパの各国でも世界経済の平準化とアジア・中国での低価格の優秀な製品供給の増大と共に、デフレの進行は避けられ無いというのが私の考えです。

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いま考えていること 140(2003年07月;8月;9月)
――信なくば――

今朝(2003.07.03)の毎日新聞を読んでいて、いくつか目につき私にこの文を書く衝動を迫るものがありました。
福島第一原発6号機の安全について原子力安全保安院が安全宣言を出したことへの県知事の言葉のなかで注目されたのは「技術的な安全と、県民がその会社(東京電力)を信用できるかどうかは別」。そうです。その通りです。東京での夏の電力不足が心配されていますから、保安院が安全だと宣言すれば感情的にはすぐに発電所の稼働を迫る気持ちになりがちですが、下請け企業を含め東電の体質や安全対策が根本的に改まっていないのであれば、県民の方達が大災害の発生を恐れて未然に「もう再開しないでくれ」という結論を持たれたとしても納得できますし、災害が発生してからではダメージはもっと大きくなります。節電のレベルの問題ではありません。事をなすに当たって信を失うことの意味と怖さです。

小泉内閣、公明党、保守党も信を失いかねない崖っぷちに立ちました。さすがに妥協の好きな民主党も今度のイラク派兵にはそっぽを向きました。ひとまず民主党への信は保てたと思います。アメリカのイラク戦争開始前の艦船の展開は、もはや戦争をしなければ収まりようが無いレベルのものだと感じていた世界の人も多かったと思います。アメリカはイギリスのブレア首相も道連れになんとか開戦の大義を見いだそうとし、情報の操作を行ったことはもはや否定困難なレベルにあります。米英とともに参戦したオーストラリアでもハワード首相が「対イラク参戦は正しいことだ。イラクはアルカイダなどと密接な関係があり、テロ組織に生物・化学兵器を流す可能性が大きい」と語った数時間後、首相直属の国家調査室のアンドリュー・ウイルキー氏が辞職し、その翌日ウイルキー氏は「イラクへの介入は間違っている。イラクの大量破壊兵器計画は分裂しており、湾岸戦争後は活動を封じられていた。イラク政府とアルカイダの実質的な関連を示す確かな情報もない」と語り、6月16日の英下院外交委員会公聴会でも「米英豪三国政府は戦争する真の理由を覆い隠すために、大量破壊兵器の脅威を誇張したと信じている」と証言したといいます。オーストラリア連邦議会も7月5日から調査を開始します。毎日新聞によればパウエル長官が安保理外相会議で新証拠を発表したときも、日本のある外交官僚の言葉によると「大量破壊兵器が見つからない場合でも、支持表明の違法性を問われないようにするにはどうすればいいかを考えた」といいます。開戦日の3月20日小泉首相は「武力行使ナシで大量破壊兵器を破壊するのは不可能な状況だ」「北朝鮮問題でも日米同盟が有効に機能すると思う」と述べたのも前の部分のイラク攻撃支持根拠「大量破壊兵器」が仮に根拠薄弱でも、北朝鮮問題とアメリカのイラク攻撃を結びつければ、核兵器保有を公言した北朝鮮の脅威に対して警戒感を深める国民を納得させられるという作戦だったようです。アメリカのまずイラク攻撃ありきと同列なのが、今回のまず自衛隊のイラク派兵ありきだと思います。イラク復興支援の国連決議があるからだと言うのですが、ロシア・中国・ドイツ・フランスには軍隊派遣の動きはなく、現状派遣は少数の国だけです。軍備を持たない建前の日本の派兵は、属国日本に対するアメリカの指示によるとしか世界の人々は考えないでしょう。怖いことです。自公保連合政府も世界に対し、国民に対し、自衛隊員に対してさえ「信を失う」道を辿りつつあります。

(7月12日追記)浅田信幸赤旗パリ特派員と片岡正明ベルリン特派員の記事によると、ラムズフェルド米国防長官の仏独のイラク安定化部隊への参加要請に対し、フランスのドビルパン外相はイラク問題に対し「国連が安全保障の責任を負い。イラクの主権回復という政治的プロセスを組織すべきだ」と強調し、フランス軍の派兵があるとすれば「国連平和軍の枠組みにおいてのみ想定される」と述べています(10日付フィガロ紙)。シラク大統領は15日、パリを訪問したチェコのクラウス大統領との会談で、イラクへの仏軍派遣は「現在の枠組みでは考えられない」と語りました。一方、ドイツの立場は「イラクへの派兵を検討するためには国連の強固な関与が必要」とドイツ国防省報道官は述べ、シュレーダー首相も11日夜のテレビARDのインタビューで「米国にドイツ連邦軍の派兵はないとはっきりいってある」ドイツが派兵するのは「国連の委託があり、国連とイラク政府が国際部隊に参加するようドイツに要請してきた場合に限る」と発言しています。

(7月15日追記)エジプトの政府系日刊紙アル・アラハムは12日「イラクにおける雇われ軍隊」という記事(同紙コラムニスト、サラマ・アーメド・サラマ氏による)の中で、米国から支援を要請されている日本、パキスタン、東欧諸国の軍隊は、米軍の指揮下で働くことになり「雇われ軍隊」以上役割を持たない。一層の外国軍隊の展開は「イラク全土で怒りを高め、抵抗の根拠を強めることになるのは確実だ」「それはアラブ諸国と軍派遣国との溝を深めることになるだろう」とのべ、米国の選択すべき道については「それはただ一つ、イラク復刻に関する仕事を国連の手に委ねることだ」

インド政府は、14日内閣安全保障会議を開き、米国が6月上旬要請していたイラクへの派兵を拒否することを決定しました。

以上2件、15日付しんぶん赤旗掲載の特派員報告。他の新聞が15日現在取り上げていないのでここに収録。

(7月19日追記)
毎日新聞から摘記
◆米国防総省の専門家チームが先月下旬から2週間イラクを現地調査した報告書「今後急激な改善がなければ、真の混沌に陥る可能性が増大する」。
◆イワノフ露外相は17日カイロで「数多くの国が軍部派遣に貢献できるよう、国連安保理の新決議が必要だ」と発言。
◆ロシア外務省ヤコペン報道局長は18日「国連安全保障理事会で関連する決議が承認されれば、ロシアはイラクに平和維持部隊を派遣する可能性がある」と発言。

しんぶん赤旗から
◆18日の参議院外交防衛委員会の公聴会で栗田禎子・千葉大助教授は、外務省がイラクへの軍隊派遣国16の内に数えているサウジアラビアとヨルダンは、両国とも「軍隊派遣とはとらえてない」事を両国大使館への確認のうえ発言しました。なお、外務省によれば「治安維持活動」への派遣国は米、英、デンマーク、リトアニアの4カ国です。
7月28日米国務省バウチャー報道官はイラクでの米軍主導の治安維持活動に日本を含む30カ国が参加の意思を表明したと発表しました。(29日追記)

(8月02日追記)
毎日新聞を読んで
◆パキスタン政府は現時点では米国の要請に基づくイラクの治安維持活動への兵士派遣に応じない方針を固めました。国内で米国のイラク攻撃自体への反発が強いことと米国への協力に消極的な中東各国との関係悪化、イスラム社会での孤立を恐れたためと書かれています。
◆米英軍占領当局が設置した統治評議会とは別個にシーア派の最大派閥の指導者ムクタダ・サドル師は「米英軍による占領は認められない。イラクの全国民によって支持された民主的な政府が必要だ。」現在の統治評議会は「占領軍が拒否権を持っており、フセイン政権の独裁と変わりがない。真のイラクの代表ではない。」として独自に「国民会議」創設を進めています。

(8月07日追記)
◆21カ国とパレスチナ自治政府で構成されているアラブ連盟は5日、13カ国の外相会議を開催し、イラクへ派兵しないこととイラク統治評議会を当面イラクを正統に代表する機関とは認めないことを表明しました。

(9月24日追記)
◆2003年5月ポーランドの有力紙ジェチポスポリタの調査ではポーランド軍のイラク駐留賛成45%反対46%でしたが、8月の世論調査機関CBOSの調査では賛成34%反対61%になりました。ポーランド軍は9月3日イラク中部の治安任務を米軍から引き継ぎ、現在2400人の将兵が駐留していますが、ポーランド兵に対する攻撃もあり、週刊誌『ブプロスト』は「バビロンののろい」と言う記事で「わが兵士は、後頭部にも目が必要だろう」と書いています。以上本日の赤旗岡崎衆史記者の記事から。

◆夕刊によると[ニューヨーク共同]イラク暫定統治機関、統治評議会のチャラビ代表は23日ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「評議会側に直ちに財政や治安関係の部分的権限を与えるべきだ」と述べ、また「これ以上の外国軍部隊の派遣は拒否する」と述べたと言います。現在のアメリカの基本路線との食い違いが明らかです。

(9月26日追記)
◆asahi.comによると、国連のアナン事務総長は25日、イラク国内で復興支援に従事している外国人スタッフの規模をさらに縮小し、大半を隣国ヨルダンに退避させることを決めました。米政府は24日、アナン事務総長に「撤収」という言葉を使わないよう圧力をかけたとされます。今回の措置は一時的とはいえ、「事実上の撤収」(国連事務局筋)だとする見方が関係者には強いそうです。

(9月27日追記)
◆アメリカの民主党寄りのブルッキングス研究所に所属しておられた中野氏のアメリカ内部から見た現在の状況を「萬晩報」030927 アメリカと国連で読むことができます。ご一読をお勧めします。

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いま考えていること 141(2003年07月)
――近頃の株価――

近頃急激に株価が上昇し、企業の株価含み損が減少、経営によい影響を及ぼしていると言われます。この株価の上昇も来年の再選をめざすブッシュ大統領の国内向けパーフォーマンスによって予想される今秋以降の景気回復を踏まえたアメリカでの株価上昇が支えになっている面は否定できませんし、投機的な外人買いがあるのかも知れません。私もこの側面を否定するつもりはなく、株価を煽り立てておいて高値で一気に売る動きが出ないとも限らないと思ってはいます。手放しで株価が一本調子に伸びるとは思えません。こういうときに乗り遅れてはとうっかり手を出せば、痛い目に遭いかねません。米国経済の本質的な赤字体質がいずれは大きい問題へ発展しかねないとも思うので、そうなったときの計り知れない日本経済への影響を思うと株式への投資も恐くなります。

しかし、今年の春の企業の業績報告書を見ていると、健全な道を歩む企業からは来年あるいはここ数年の間の企業業績の伸びにはかなり期待が持てる予想が浮かび上がります。現在の株価の伸びはあまりにも急激で今後一進一退を示すでしょうが、これから着実な株価の伸びを予想できるだけの改革路線を具体化している企業が見えだしました。投資の対象と考えるそれぞれの企業をよく分析しないとただ世間の風潮に乗ったり、投機的に手を出すとそうもいきませんが、私はここ二、三年の間によい営業成績を収め、株価の面でも期待に応える企業が出てくると思っています。永い目線で慎重に取り組めば、考えようによってはいま絶好の株式仕込み時期かも知れません。外人の盛んな買いも日本人以上に確かな目で日本企業の成長を予想している層もある気がしています。

台湾に続いて北京上海間に「新幹線」を売り込む動きが盛んな反面、それを機会に技術を中国に学習され、引き合わないという声も聴かれます。しかし中国の豊かな人口をバックに展開される中国人の豊かな才能を考え、かっての植民地経営思想から離れてこの情報化時代を考えると、技術をとられるなどという近視眼的見方を離れて、隣国中国の発展を喜びそれに参画する中で、日本の高齢少子化経済の活路を見いだすことがもっと大切なのではないでしょうか。日本は世界水準より高度な学術、技術を自分のものとして育てる努力を絶えず怠ってはならないのです。少し前までは希望の灯が見られなかったロシアも、プーチン大統領の下で急速に発展し、シベリアからの天然ガス輸送やサハリンに日本が昔造った狭軌鉄道を全部ロシア本土並の広軌に換え、さらに本土への鉄橋あるいはトンネル掘削を考えている時代なのです。経済的にも技術的にも立派なものさえ準備できれば、日本の出番は平和の内にいくらでも飛び込んできます。 

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いま考えていること 142(2003年07月)
――日本の心――

今夜のNHKスペシャル は「京都 冷泉家の八百年」でした。ここで紹介された冷泉家の生活も厳密には800年の間全く変化していないとは思えず、政治の世界では飛鳥の時代から平城・平安を経て源平・足利から戦国・徳川の時代に至るまでどろどろした権力争いのなかで多くの血が流れましたから、冷泉家の八百年が「日本」の八百年ではありませんが、副題「日本の心」というものを改めて考えさせてくれました。前の森首相を初めとして近頃は国内にも復古調が見られるようになりましたし、私の小学校時代から中学時代は『国体の本義』の時代でしたから、徹底的に「国体」を叩き込まれました。現在の人には「国体」といっても「国民体育大会」のことだろうと思われるかと思いますが、私たちの時代の「国体」とは「日本とは何か」ということでした。基本的にはいまも亡霊のように時たま復活してくる「教育勅語」に盛り込まれている思想が国体でした。森首相などの言う天皇を神とあがめる復古思想は正にこの思想への回帰です。私は歴史学者でも社会学者でもありませんから、ここに書くことも感想に過ぎませんが、私が叩き込まれた日本、森さん達が復興しようとしている日本というのは、どうも武士道ができ、またその後明治維新で絶対君主制国家に転じてからの日本で、本来の日本ではなかったのではないかという思いです。私は謡曲もたしなみますが、{山姥」、「遊行柳」など自然の姿を擬人化した題材も多く、源平ものに登場する武士達はどちらかと言うと猛々しいものでなく人間の「滅び」を湛え、人間としての哀感に満ちています。景清にしても宗盛にしてもその例外ではありません。

日本殊に京都は四季の移り変わりが繊細に表出してくる土地で、いやでも人間は自然を無視できない、共に生きていると感じさせてくれる土地なのです。今夜の「京都 冷泉家の八百年」を見ていて一番感じたのは冷泉家の人々は年中行事を通じて自然と共に生き、祖先と今なお一緒に生活されている事でした。明月記に見える定家の『紅旗征戎非吾事(こうきせいじゅうわがことにあらず)』はテレビにも登場しましたが、政争から一歩離れて和歌に生きてきたのが冷泉家でした。しかも冷泉家の和歌は自然を詠むことであったといいますから、冷泉家の伝えた日本はやや特殊な日本の一面かも知れません。それはさておき、七夕の夜冷泉家で催される乞巧奠(きっこうてん)を見ても元々は自然と融合した生活を重んじる中国の思想が根源にありますから、日本だけのものではなく東洋の心というべきものかも知れませんが、これこそが日本の心であるならば、そこに回帰することは私の喜びでこそあれ、なんら反発するものではありません。森さん達の日本観は正統なものとは思えません。

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いま考えていること 143(2003年08月;9月;10月)
――イラク戦争を振り返る(5)――

ブッシュ政権の独りよがりの政策を改めさせるのには、アメリカ国内の世論が決定的な意味を持ちます。ブッシュ大統領が大規模な戦争の終結を宣言した後も、イラクでのアメリカ兵の戦死は日増しに増え60人を越えましたが、次第に兵士の家族から撤退の声が聞かれるようになってきました。8月14日のNHKニュースはワシントンでの兵士家族の記者会見を伝えました。「石油よりも子供の生死が重要だ。無事に帰国させてほしい」「息子の話によると報道されている以上にイラクは危険な状況です」「息子は命を落とした。他の子供達は今こそ帰国させるべきだ」。家族の涙ながらの声でした。記者はこれまで家族は共和党政権の強い支持基盤と見られていたが、厳しいまなざしをブッシュ政権に向け始めたと論評しました。ロイター電も12日兵士家族がアメリカ議会議員とブッシュ大統領に兵士の帰国を求める運動を開始したと報じています。イラク駐留米兵の処遇環境の悪さを心配しているのです:「52度の気温の中、一日2リットルしか水は配られず、携帯食だけが食べ物だ」。同日のワシントン・ポスト紙にはスチーブ・ヴォーゲル記者のParents of Troops in Iraq Fight to Get Them Home(イラク駐留兵士の親たちは兵士を帰国させるために戦っている)という記事が見られます。記者会見はナショナル・プレス・クラブで行われたのですが、この運動は"Bring Them Home Now、"運動と言われています。これはイラク人からアメリカ軍が攻撃を受けた7月に、ブッシュ大統領が 'Bring 'em on.'(彼らに目にもの見せてくれる)と言ったのにかこつけたのです。
アメリカの空気の変化は、次の発言からも読み取れます。兵士の父親の一人Larry Syversonさん(リッチモンドの環境技師)54才は、 昼食時にリッチモンドの裁判所の前で平和を求めて車の警笛をならそうと運転手達に呼びかけてきたのですが、「イラク戦争中はお前は共産主義者だとか、非国民だとかとなじられたが、今は変わってきた。“兵士の死が増えれば増えるほど警笛を鳴らしてくれる人が増えてきた”」と述べたとワシントンポストは報じています。今後もこの様な動きには注目していきたいと思っています。

(9月5日追記)赤旗ワシントン特派員遠藤誠二記者の記事(しんぶん赤旗9月5日)によると、2003年9月3日元米司法長官ラムゼー・クラークら反戦組織代表はワシントン市内で記者会見し、イラク侵攻はブッシュ政権が進めた「犯罪行為」であり米国は多くの人々を殺戮し、米英による占領の下で「2400万人のイラク国民の怒り」を招くという代償を支払う羽目に陥っていると指摘。現政権指導部を政権から引きずり落とす必要を説いたそうです。この記者会見では他に、イラク派遣米兵の家族からも「この戦争は不当です。われわれの兵士を早く故国に戻して」との訴えがありました。

(9月6日追記)5日付ワシントンポスト紙の記事(Ex-Envoy Criticizes Bush's Postwar Policy By Thomas E. Ricks Washington Post Staff Writer Friday, September 5, 2003; Page A16 )によると9月4日数百人の海兵隊員と海軍士官を前にして、前海兵隊司令・前米中央軍司令官で現在国務省の顧問をしているAnthony C. Zinniはブッシュ大統領のイラク戦後処理には、"There is no strategy or mechanism for putting the pieces together," "we're in danger of failing."(「問題解決の戦略も仕組みもない」「失敗の危険に直面している」)と述べ、さらに前に国連を袖にしたのに、いま国連にかしこまった態度を取っているのは理解できない("We certainly blew past the U.N.," he said. "Why, I don't know. Now we're going back hat in hand.")と述べています。士官の中には録音テープやCDを仲間にも聴かせようと購入するものもいたそうです(Some officers bought tapes and compact discs of the speech to give to others.)。

(9月24日追記)23日付ガーディアンによるとイギリスでは、初めてイラク戦争は「正しくなかった」とする世論が53%に達し、「正しかった」とする回答38%を上回りました。

(9月27日追記)24日ロイター通信のGrant McCool記者はイラク戦略の誤りと題する記事を書きました。

来月出版される著書"Winning Modern Wars. Iraq, Terrorism and the American Empire"のなかで、1997年から200年までNATO最高司令官を勤め、次期大統領選の民主党有力候補 Wesley Clark氏は、次のように書いている:「アメリカ主導のイラク侵略と占領は勝利を収められない軍事作戦の完全な例である。」「2001年11月にブッシュ主導のフセイン排除を目的としたイラク戦は5ヶ年にわたる7カ国を対象とする軍事キャンペーンの1部分であることを知った。同月国防総省を訪問したとき、軍幹部からイラクの次はシリア、レバノン、リビヤ、イラン、ソマリア、スーダンだと聞かされた。」「軍の構成にも不必要な危険を持ち込んでいるし、戦後プランも不適切で、不注意にも極めて大事な国際的協力をなおざりにされている。」

(9月28日追記)9月26日付フィナンシャル・タイムズはそれぞれロンドンとワシントンにいる2記者の共同執筆記事を掲載しています。まずイギリスについては、2000人の成人に9月11日から16日の間に行った調査では、イラク戦と政府の健康改善での失敗にも拘わらず、労働党は保守党よりも9ポイント高い支持率を持っていると言います。しかし、もしブレアから後継者財務相ゴードン ブラウンに党首が交替すればこの数字は9から15に跳ね上がる結果が出ています。アメリカについてはブッシュはブレアほど支持率は落ちていませんが、ギャラップ/CNNの共同世論調査とゾグビー世論調査は共に支持率50%を示し、、NBC/ウオールストリートジャーナルの調査では49%になっています。ニューズウイークの調査では初めてブッシュのイラク政策への評価は不支持が支持を上回りました。フィナンシャル・タイムズの世論調査ではブレアの政策について64%の人が不満だと答えましたが、「いまブレアは辞任すべきか」を尋ねたところ、50%が辞任賛成、39%が反対、11%がどちらか分からないと答えました。

(9月28日追記)しんぶん赤旗浜谷浩司記者(ワシントン)の記事(9月27日)から

"ブッシュ米大統領がイラク占領継続のために求めている、八百七十億ドルの2004年度補正予算案は、議会で厳しい批判に直面しています。支持率も急落し、ブッシュ政権は苦境に追い込まれています。

二十四日の上院歳出委員会公聴会「八百七十億ドルは巨額だが、米国の安全保障に必要な金だ」と言い放ったラムズフェルド国防長官に、民主党の長老バード議員が迫りました。「イラクの復興や民主化を、米国民が政府に求めたというのか」イラク戦争を「大統領の戦争」と呼ぶバード議員。「長期にわたって、高いものにつくこの占領は、避けられないものではなかったと指摘しました。

(10月20日追記)今日の赤旗には“大量の「ニセ手紙」が語る大義なき戦争“という記事が出ています。イラク戦争への疑問が米軍兵士の間でも広まっているなかイラク開戦と軌を一にする虚偽の手紙の活用が行われているというのです。これを裏付けるデータが書かれています。列挙しておきます。

★米軍の新聞スターズアンドストライプから。「戦争の意味がわからない」という兵士が3割以上、「自分達の志気が低い」と思っている兵士は34%、「部隊の志気が低いと思っている兵士」49%。これに対しマイヤーズ統合参謀本部議長も憂慮の念を表明(ロサンゼルス・タイムズ2003.10.17)。
★USAtoday紙(13日)イラクの米軍兵士で自殺者が増えている。戦争開始以来10月はじめまでの自殺者数14人、神経上の問題での本土送還兵士数478人。
★それぞれ別の兵士の名前で故郷の新聞社宛“イラクの現地では市民がみな米軍を歓迎し、復興支援は全くうまく行っている”という手紙が届き11の地方紙に掲載されたが、イラク北部にいる大隊指揮官の某大佐が部下の名前を使ってやったことで既に500通の同文の手紙を送っていました。ニューヨーク・タイムズは16日付けで社説「戦場からのニセ手紙」を掲載、「イラクの真実についての情報がますます求められている中でニセ情報とは、考えられる中で最悪の方法だ」と厳しく批判。

(10月27日追記)★25日イラク駐留米軍の即時撤退を求める大規模な反戦デモが、ワシントンとサンフランシスコでありました。主催は米国の反戦・人権団体「国際ANSWER」(戦争阻止と人種差別停止を今こそ)と「UFPJ」(平和と正義のための連合)で、ワシントンの集会に約10万人、サンフランシスコで約1万5000人が集まったとしています。ホワイトハウス近くの広場で参加者は「ブッシュはうそをついた」「ブッシュこそ大量破壊兵器だ」などと書かれたプラカードを手にデモ行進。戦費支出の代わりに雇用拡大や教育の向上を目指すことなども訴えました。
★ニューズウイークの世論調査結果:ブシュ政権によるイラク戦後統治費用870億ドルの支出は多すぎるという回答58%、概ね妥当とする回答31%。ブッシュ政権にはイラクの戦後処理に綿密な計画がないとする回答49%。

(11月03日追記)11月02日付けのワシントン・ポスト紙はABC Newsと共同で行った電話による1,207名を対象とした世論調査結果を報じています。10月26−29日時点のものですが結果の一部を記録しておきます。カットしたのは主に来年の大統領選関係のものです。現在のアメリカの世論について示唆深いものですが、その判断は読者におまかせします。

ブッシュの対イラク政策

    是認 (%)          47          ギャラップ社の分析:この結果は
    承認できない(%)        51   ベトナム戦争の泥沼化で支持率を56%
                   (65年12月)から32%(68年2月)
迄落として、再選断念に追い込まれたジョンソン大統領と共通点が見られる。
2003年4月中旬のブッシュ支持率は76%でした。
    ◆ブッシュの外交政策に賛成しますか     はい (%)     49     いいえ(%)     47 ◆来年の大統領選でイラク事情を考慮しますか     はい (%)     93     いいえ(%)    6  ◆来年の大統領選で外交問題は重要ですか     はい (%)     94     いいえ(%)    4 ◆イラクでの長期にわたるまたコストのかかる平和維持活動に アメリカは行き詰まるかも知れませんがこの問題に関心がありますか     はい (%)     96     いいえ(%)    4 ◆ブッシュは今年初めイラク復興のために790億ドルを支出しましたが、 さらに870億ドル支出するのに賛成ですか                  はい (%)     34     いいえ(%)    64  ◆イラクでのアメリカ軍人の死傷者数は納得できる数ですか                       はい (%)     35     いいえ(%)    62 ◆イラクに市民の安定が復活しなくてもアメリカは軍人の犠牲から見て撤収 すべきだと考えますか          はい (%)     38     いいえ(%)    58  ◆アメリカ軍のイラク駐在はテロとの戦いの一環だと考えますか             はい (%)     61     いいえ(%)    37  ◆アメリカ軍のイラク駐在はテロとの戦いの一環だと考えますと、アメリカ軍 のイラク駐在は1.テロとの戦いでもっとも重要だと思う 2.テロとの戦いで 重要だが一番大事とは思わない 3.そんなに大事だとは思わない          1.の人 (%)     23     2.の人 (%)     67     3.の人 (%)      8 ◆あなたの考えに近いのは今のところ共和党ですか、民主党ですか        共和党(%)     36        民主党(%)     31         どちらでもない(%) 32    
 

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いま考えていること 144(2003年08月;9月)
――虎の“衣”を借ろうとした狐――

イラクバグダッドの国連現地本部を狙った19日の爆弾テロ事件で、人道援助派遣の国連への攻撃を非難する声は高まることが予想されますが、私はだいたい人道援助派遣として分離しようとした試みそのものが魔術に過ぎなかったと思っています。正統なイラク攻撃の根拠が疑わしい今回のアメリカ・イギリスの攻撃のまともな解明を曖昧にしたまま、人道援助の名目で国連を巻き込むことは、イラク攻撃の責任を曖昧にする危険があります。あるいはアメリカの虫のよさを感じます。いくら人道援助と旗印を立ててもそれらはアメリカ・イギリスの行為の追認あるいは結果的にバックアップになってしまうのです。大枠がアメリカ・イギリスのイラク攻撃と侵略的占領の中での出来事なのですから。日本の自衛隊派遣にも同じ人道援助の魔術が見とられます。自衛隊はあくまで日本の専守防衛に徹する組織である筈のものを、海外派遣も人道援助なら文句はあるまいとの打算が見えます。国際法を無視して戦争と占領支配を始めたアメリカが、国連をイラクに関与させるのも自分の思惑にプラスになる範囲でのものであり、国連やいろんな他国にそれを合理化するために投げかけた錦の御旗が「人道援助」なのでしょう。

イラクのフセイン残党を支持する気は毛頭ありませんが、ことの本質をあぶり出す役割を演じた今回の事件でした。米英が自分達の不合理性を薄めるために国連の権威を利用しようとしても愚かな狐の企てになってしまうでしょう。もご覧ください。

          “統治評議会などイラクの実権は米英軍が握る。だが、それに
                        敢えて厚化粧を施し、国連という仮面をかぶせた”
                               
                                         (24日の毎日新聞「東論西談」)
(9月4日追記)

アメリカの野心が具体的な形を取り始めました。今日の新聞によるとブッシュ大統領は国連安保理に、多国籍軍の指揮権はアメリカが確保することを前提にイラク派遣多国籍軍の創設をする新決議案を提案する方針を固めたというのです。何とも虫の良い提案です。先日この様な方式をロシアのプーチン大統領も口にしたというのですが、真意は明らかでありません。もしこの様な多国籍軍が派遣されてもゲリラ的攻撃を受けないという保障はありません。否、むしろイラクの反米・反国連の空気を助長するでしょう。イラク評議会に暫定自治政府を発足させ各省大臣の任命をさせるという決定も報じられていますが、次官はかっての植民地国家満州国と同様アメリカが任命するとも伝えられています。これで事態が解決するとは思われません。ドビルパン仏外相は8月21日国連安保理で「占領を終結に導き、イラク人の主権回復を可能にする速やかな政治的移行」が「(米英の)占領軍でなく、国連に体現された国際社会全体の援助を受け、イラク人自身によって推進されなければならない」と訴えましたが、今後の安保理での各国の対応が注目されます。

(9月6日追記)決議案の内容をロイター通信が伝えました。この中に「国際社会が統治評議会の設置を代議政府に向けた重要な一歩と積極的にうけとめていることを歓迎し、同評議会をイラク暫定政権の主要な組織として承認し、閣僚任命などの努力を支持する」とあります。アメリカが任命した統治評議会の公認を迫るものです。多国籍部隊については「統一指揮の下に、必要なあらゆる措置をとってイラクの安全と安定を維持することを承認し、加盟国に兵力を含む支援を与えるよう要請する」ここでいう統一指揮とは事実上米軍がこれに当たることを考えているようです。財政面では「国際金融機関が緊急措置をとって融資と金融支援を提供し、暫定政権の主要機関としての統治評議会と協力するよう呼びかける」というのですから、ここでもアメリカの作った統治評議会を傀儡とし、これに権威を与えようという思いが見られます。また、「十月二十三、二十四の両日にマドリードで開かれる支援国会議など、イラク復興支援の取り組みに対する財政後見を加速するよう加盟国に促す」という条項にも財政支援でも国連を利用して日本などこれまでの支援国の枠をさらに国連の名において広げようとする意図が伺えます。何とも独りよがりの虫の良い決議の羅列です。

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