いま考えていること 73(2001年06月)
――小泉首相−−日曜討論を聞いて――
これまでの首相はもうすぐ景気はよくなると言い続けてきましたが、小泉さんはむしろ景気はしばらくは悪くなる、その代わりその後に経済は回復するといっています。これだけでも小泉首相は根は正直な人だと思います。立場上いつも正直でいることは出来ないでしょうが、本質は正直な人だと思いました。もう一つは感性の優れた人だと思いました。問題解決には問題をすべて並列に並べて処理することは出来ないのです。より根元的な問題が何かを診て、これを解決すれば他の問題は派生的に解決することも多いということは私の「ものの考え方」でも強調したのですが、今日の討論で郵政三事業の民営化を俎上に乗せたから特殊法人問題にもメスを入れられたという発言にこの例が見られました。郵政は貯金と保険の形で金を集め、財政投融資の財源として政府の予算とは別枠で使われて来たのですが、この資金の入り口をなくすれば郵政の金の流れの下流は干上がってしまいます。道路特定財源も政府の政策意志と無関係に機能する聖域でした。道路特定財源はサンデープロジェクトでも以前大きく問題にしていたことがありましたが、今日まで聖域として手付かずでした。このようにメスを入れるべき根元的問題の判断は優れた感性の賜物です。なお気に入ったのは「万機公論に決すべし」との意志を明瞭にして独断専行は避けるという戦略と、古い自民党の人たちの表舞台からの退場にも優れた感性と心理の読みに頭を巡らした作戦を立てておられるように見受けられた事です。総裁選に臨まれるときに森派を脱退し、その後も首相の周辺には派閥は感じさせません。それだけでも希有な現象です。彼の作戦は眼を国民に向けていくことにあるようです。それは内閣メールマガジンの発行にも見られます。閣僚の地方巡業(タウンミーチング)にも見られます。国民の支持を梃子に派閥や権益を基盤とする族議員政治を行ってきた古い自民党を根底から転覆しようとしているように見受けます。小泉支持90%と自民党支持30%のギャップを梃子に候補者も小泉さんの政策に賛同していると意思表示しなければならなくなっていくことをねらっています。「小泉が応援に行くときはこの候補も私に賛同している」と演説しますというのも巧妙な掬い取りです。腹の底では反対していても自民党の候補者諸君は選挙に生き残るには小泉人気に逆らえない悲しさがあるのです。小泉氏はなかなか打つ手と読みが巧妙と見受けました。小泉さんのキーワードは「国民」と見受けられます。しかしこれからの難しさは具体的な改革が進み出すと、「国民」の対応がそれぞれの立場に応じて分裂してくることでしょう。国民の希望の最大公約数を見失わずそれを鼓舞し続けることでしょう。
惜しむらくは、彼の欠点は、靖国参拝の姿勢に見られるように歴史的認識と分析が欠けた情緒的判断の独り歩きです。
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