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いま考えていること 67(2001年03月)
――デジタルテレビとインターネット――

昨日は放送記念日でした。デジタルテレビで何が変わるのかなどが取り上げられて討論されていました。双方向性、データの蓄積性、番組の多チャンネル化など大抵はもうすでにインターネット領域では実現しているものです。

私たちはテレビを極端に言えば聞き流す形でつけっぱなすことも多いのではありませんか?一定の聴取料をNHKに払えばそれ以上の負担は要りませんが、インターネットは電話料がかかるからと不意の来客でもあれば、あわてて止めることも経験してきました。しかしこの問題は例えばNTTのフレッツISDNやフレッツADSLを使えば問題でなくなりました。もう一つは例えばRealPlayerで画像を見ていても品質が悪くとてもテレビには及ばないことを経験してきました。この問題も近い将来光ファイバー化が進み、ブロードバンドの採用が一般化すれば解決するでしょう。

2,3年前郵政省事務次官で地上波テレビのデジタル化を強く否定した人がいました。加工という点でデジタル方式の長所を実感していた私はバカなことを言うものだと思っていましたが、現在は2010年には完全にデジタル化されることになっていて、昨夜の放送もその露払いのようなものでした。品質の優秀性は当然でしょうが、何しろこの不景気の中で、地上波テレビのデジタル化は10年間に設備投資など76兆円が見込まれ、全体としての経済波及効果は211兆円の巨額に達する(「地上デジタル放送懇談会」報告書)のです。業界の食指も動きます。

テレビは現在すべてではありませんが、中には内容的に魅力のあるものも見られ、近頃見たものでは樹木希林さんの「日本の美と心」が印象に残ります。連続テレビ小説「オードリー」も毎日見ています。玉石混交が激しく、個人が作っているインターネットコンテンツに比べるとテレビのすごさを感じます。

しかし、先にも書いたように記録装置としてのハードディスクの採用など技術面ではインターネットが一歩を先んじており、パソコン使用者はデジタル処理に馴れ、またその長所を日常駆使することに馴れていますから、私の見解では、もうすでに発売されだしているようにパソコンでテレビが見られるようになり、ブロードバンド化で、テレビチューナーを併設しなくても、動画がすっきりと見られるようになれば、パソコンこそ総合的な機能を備えたデジタルテレビ受像器の位置を占めるのではないでしょうか。テレビ受像器はやはりバックグランド的に流しっぱなしの受像機器として、あるいは家庭内での受像専用器という位置以上のものにはならないのではないでしょうか。

デジタルテレビ受像器にパソコンの機能を兼ねさせようとして、使いにくく値段ばかり高いものにして欲しくありません。

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いま考えていること 68(2001年04月)
――利下げスパイラル?――

18日米連邦準備制度理事会(FRB)は緊急利下げ0.5%を実施し、ニューヨークの株価は急騰しました。確かに景気の下降を憂慮した利下げで当面効果が出ていますが、何しろいままで右上がりの株価を見込んで、国際的にも借金して株価バブルに踊ってきたアメリカの根本体質は変わっておらず、いずれはこの体質を是正しなければならなくなるでしょうし、また、すでに401Kなどで将来の年金の夢を株にかけさせて国民の半数を株式投資に引きずり込んできた路線は、株価の低下で日本同様国民の間に将来の不安を広範に呼び込んでいるに違いありません。ですから私は今回の利下げで預金金利も下がり、株と預金の両方でパンチを浴びたアメリカ国民の消費に火がつくとは思えないのです。一時的に株価は持ち直しても再び暴落し、スパイラル的に米連邦準備制度理事会の利下げを繰り返し呼び込むことになるでしょう。何のことはない、これまで日銀の歩んだ道にアメリカも遂に踏み込んだというのが率直な感想です。現在の日米の不況はそう簡単には克服できない深刻なものです。

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いま考えていること 69(2001年04月)
――新内閣に思う――

自民党が信頼を取り戻すか否か最終的な段階を迎えました。“変人”首相小泉氏の内閣スタッフを見て、70点を差し上げましょう。森派の尾身氏の入閣が汚点を残します。嘗て尾身経済企画庁長官の経済見通しの図々しい誤りを思うと、とても入閣に値する人材とは思えないからです。しかし柳澤氏の残留や民間からの大臣や有能な女性5人の大臣任命はかなり思い切ったものです。石原氏の抜擢も注目に値します。田中さんの外相就任も父君の中国での評価を思えば今の時期に適任かと思います。当選回数の多い議員に箔をつけるための大臣任命を止めて、首相在任中は内閣スタッフの更迭は考えないというのも賛成です。これまでの自民党では考えることのできない布陣と思います。小泉氏のタカ派ぶりを危惧する意見もあります。しかしアメリカなどへの率直な意見の発表は期待できます。

本来なら野党に変革を期待したいのですが、最近の共産党の経済再生案を読んでも、共産党の主張する消費税の3%への引き下げが日本経済の再生を根本的に担うものとはわたしには到底思えません。「しんぶん赤旗」の主張も読みましたが、銀行の不良債権の軽視は賛成しかねます。野党に政治を託せるような意見と主張を見いだせないのは寂しいことです。現実には自民党の動きを無視できません。取り急ぎ意見を書いておきます。

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いま考えていること 70(2001年05月:05月)
――小泉首相施政方針演説に思う――

施政方針演説を聞きました。具体的なことが何も無いという批判があり、私もすべてこれからという点で同じように思いました。しかし一面、小泉首相がもし本気で聖域無き改革、新世紀維新に取り組めば、野党よりも自民党内部に大きい反対が出てくると見ています。首相自身もそれは十分ご存じでしょうから、今日の演説でこの内閣がしようとしていることはすべて、これまでの内閣で作ってきた政策を実行するだけだというニュアンスで話を進められたのは、ある意味で自民党内の批判を封じる巧妙な作戦であった気がします。ある意味で今日の演説は自民党内保守派に向けての演説であったと思っています。小泉は何も新しいことをするのでない、これまでの成果を実現するだけだという形で国会に臨んだのは、作戦としてはうなずけます。看板はこれまでの成果を受け継ぐという形にして、中身をどこまで換骨奪胎できるかおもしろいところです。もし成功すれば賞賛に値します。私はこれまで自民党批判の一辺倒で進んできましたが、しばらく進行を見守ろうと思っています。

(付記:5月9日)今日は所信表明に対する代表質問初日でした。答弁にはメモを読むという感じのところもありましたが、例えば郵政改革や改革への取り組み姿勢、前内閣との違い、永年勤続議員表彰などでメモ読みでない率直な所信の表明が首相自身の言葉で振るわれ、国会中継も久しぶりに聴くのがおもしろくなっていました。改革についても審議会の議論を経なければならないものなどは、森山法相とも、その結論を尊重するということで勇み足もなく結構でした。田中外相の答弁も簡にして実のあるものと思いました。

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いま考えていること 71(2001年05月)
――歴史を検証しなくては正しい理解はできない――

“いま考えていること66”に「小泉氏は調子は良いが、緻密な分析とその上に立った緻密な立案能力がなく」と書いたのでしたが、靖国神社についての小泉氏の認識にはこの危惧が象徴的に露われていると思っています。

まず事実を。朝鮮、樺太、台湾、満州・パラオと日本の植民地にはすべて神社が祀られ、統治の基礎とされました。たとえば朝鮮には朝鮮神宮(祭神:天照大神・明治天皇)竜頭山神社(祭神:天照大神・国魂大神・大物主神ほか)京城神社(祭神:天照大神・国魂大神ほか)鎮海神社(祭神:天照大神・豊受大神)江陵神社(祭神:天照大神・国魂大神)元山神社(祭神:天照大神)などが見られます。朝鮮神宮が鎮座したのは大正14年のことですが、葦津耕次郎は天照大神・明治天皇を祀ることに反対し「朝鮮神宮を設立するなら、まず第一に朝鮮人の祖神を祀るべきだ」と主張しています。現在も近くの神社が改築する時など堂々と町内会を通して寄附帳が回されますが、明治13年頃から始まった「神道非宗教論」つまり神道は仏教やキリスト教と違ってそれらの宗教よりも上位の別格で「天皇の政道なり」とされた名残が未だに生きているからでしょう。戦争に負けた日からまだそう日月も経っていない12月15日GHQは日本政府にいわゆる(神道指令)を発しています。リンクされるとその全文を読むことが出来ます。国家神道と宗派神道を区別して論じられています。宗派神道は否定していませんし、他の宗教と同様に保護されるべきものとしていますが、天皇と結びついた国家神道は廃止すべきものとしています。占領軍の優位から発した指令と簡単に云うことは出来ない内容です。では靖国神社はと云えばこれは明らかに国家神道の中で作られたものです。ここではこれ以上論じませんが、情緒的に国家のために命を捧げた人を祀るところだからと総理大臣という政治のトップが軽々しく詣れるところではないのです。国家神道にまつわる過去の思いは朝鮮や中国の人たちにとっては限りない屈辱の思いから切り離すことが出来ないからです。首相が詣られるのなら千鳥が淵霊園でしょう。私は歴史研究班に中学時代所属しましたが、歴史の検証を抜きにしては正しい認識はすべてできないものです。後年専門とした、およそ人文的でない化学の分野でも、たとえば“酸化”の概念も原子概念も化学の史的変遷を辿らなければその内容の変貌を理解できないのです。

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いま考えていること 72(2001年05月)
――ハンセン氏病裁判控訴問題――

今日は小泉首相に賞賛のメールを早速送りました。今日の決断はヒューマニズムの立場に立つもので立派であったと思います。率直にそう思います。官僚では出来ない措置です。国会の怠慢を裁判で指摘され、他への影響が大きいので控訴するといわれていましたが、事実として国会の怠慢であったことは否定できません。他への影響というだけで控訴するのでは誤りの上塗りです。政府声明という形で当面恰好をつけられるのなら、それもよいでしょう。ともかくこの決断は簡単にできるものとは思いません。立派です。これからの改革にも期待を投げ掛けてくれました。がんばってください、小泉首相。

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いま考えていること 73(2001年06月)
――小泉首相−−日曜討論を聞いて――

これまでの首相はもうすぐ景気はよくなると言い続けてきましたが、小泉さんはむしろ景気はしばらくは悪くなる、その代わりその後に経済は回復するといっています。これだけでも小泉首相は根は正直な人だと思います。立場上いつも正直でいることは出来ないでしょうが、本質は正直な人だと思いました。もう一つは感性の優れた人だと思いました。問題解決には問題をすべて並列に並べて処理することは出来ないのです。より根元的な問題が何かを診て、これを解決すれば他の問題は派生的に解決することも多いということは私の「ものの考え方」でも強調したのですが、今日の討論で郵政三事業の民営化を俎上に乗せたから特殊法人問題にもメスを入れられたという発言にこの例が見られました。郵政は貯金と保険の形で金を集め、財政投融資の財源として政府の予算とは別枠で使われて来たのですが、この資金の入り口をなくすれば郵政の金の流れの下流は干上がってしまいます。道路特定財源も政府の政策意志と無関係に機能する聖域でした。道路特定財源はサンデープロジェクトでも以前大きく問題にしていたことがありましたが、今日まで聖域として手付かずでした。このようにメスを入れるべき根元的問題の判断は優れた感性の賜物です。なお気に入ったのは「万機公論に決すべし」との意志を明瞭にして独断専行は避けるという戦略と、古い自民党の人たちの表舞台からの退場にも優れた感性と心理の読みに頭を巡らした作戦を立てておられるように見受けられた事です。総裁選に臨まれるときに森派を脱退し、その後も首相の周辺には派閥は感じさせません。それだけでも希有な現象です。彼の作戦は眼を国民に向けていくことにあるようです。それは内閣メールマガジンの発行にも見られます。閣僚の地方巡業(タウンミーチング)にも見られます。国民の支持を梃子に派閥や権益を基盤とする族議員政治を行ってきた古い自民党を根底から転覆しようとしているように見受けます。小泉支持90%と自民党支持30%のギャップを梃子に候補者も小泉さんの政策に賛同していると意思表示しなければならなくなっていくことをねらっています。「小泉が応援に行くときはこの候補も私に賛同している」と演説しますというのも巧妙な掬い取りです。腹の底では反対していても自民党の候補者諸君は選挙に生き残るには小泉人気に逆らえない悲しさがあるのです。小泉氏はなかなか打つ手と読みが巧妙と見受けました。小泉さんのキーワードは「国民」と見受けられます。しかしこれからの難しさは具体的な改革が進み出すと、「国民」の対応がそれぞれの立場に応じて分裂してくることでしょう。国民の希望の最大公約数を見失わずそれを鼓舞し続けることでしょう。

惜しむらくは、彼の欠点は、靖国参拝の姿勢に見られるように歴史的認識と分析が欠けた情緒的判断の独り歩きです。

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いま考えていること 74(2001年06月)
――外務省と田中外相――

6月9日毎日新聞夕刊「歴代次官の引責検討」の記事は注目しました。先日来の田中さんの発言を巡って外相更迭の話さえ出ていますし、この問題に関したテレビによく鈴木宗男氏の姿が見られるのも意味深いものを感じさせます。ロシヤとの北方領土問題の取り扱いでの鈴木氏の二島先行返還論と田中さんの四島同時返還論の衝突、機密費詐欺事件をめぐる外務省幹部の動き、それに駐米大使柳井俊二氏の発言など正に“伏魔殿”の動きです。私の見るところではこの北方領土問題と機密費横領問題真相密閉が外務省幹部の最大重要問題で、問題から眼を逸らさせるために会談内容を断片的にリークしたり、鈴木宗男氏や先輩柳井氏を動かしての田中更迭を画策したりしたものと見ています。しかし、国民世論をバックとした田中さんの強い意志とおそらくは省内の幹部批判勢力の動きの下で、空気は外務省幹部の敗北へと流れつつあることを、この記事は垣間見させてくれていると思って読みました。

曰く“外務省は9日までに、元室長の在任中の事務次官だった斉藤邦彦国際協力事業団総裁ら歴代3次官も早期退任させる方向で検討に入った。”また田中外相は“川島裕現次官について7月20日からの主要国首脳会議前にも交代させたい意向だ。”“川島氏は、退任してもしばらくは大使に転任せず、事実上の謹慎となる見通しだ。”“外相は林(貞行駐英大使)氏らの後任に民間大使の起用も検討している。”と。

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いま考えていること 75(2001年06月)
――気持ちの持ち方と修練――

私たちの青年期には“精神力”が強調され、科学を無視して精神の力で戦争には勝てるとか、日本は世界に冠たる“神の國”で神佑天助があるので戦争には勝つなどと教え込まれたので、その反動ですっかり精神力と言う言葉からは縁遠くなっていました。

ところが近頃、人間は気持ちの持ち方と訓練がやはり大事だと思う三つの出来事に出会い、考えを新たにしています。一つは例の怪我をした貴の花の優勝です。取り組み後のあのすごい顔立ちはすべてを集中した人だけが作れる顔でした。二番目はNHKの人間ドキュメントで登場された森下洋子さんでした。すべてをバレエに捧げているといわれる森下さんの鬼気迫る舞台、練習中も少しの暇でも横になられる37kgの森下さんが、一日六時間の練習をされ、舞台では三時間になんなんとする時間立派に舞台を勤められ、しかも若いときの舞台と変わらぬ、否それ以上に技術の上でも訴えるものの上でも一向に衰えの見えない舞台、驚きました。最後に花柳可寿雅さんの日本舞踊の舞台、可寿雅さんは20世紀の初頭のお生まれといいますから、もはや90歳に近いお年と思います。外記猿と吉野山の二番を祇園甲部歌舞練場で踊られたのですが、中でも外記猿の舞台は、裾捌きなど何十年も前とすこしも変わりが見られませんでした。三人の方も決して楽にあのような事がお出来になっているとは思いません。強烈な意志とたゆまぬ訓練だけがあのようなすごい人格と体を創っているのに違いありません。私も72歳ですが辛さ、苦しさに負けないで強い意志を持ち続け、日頃の肉体の訓練を怠らないようにしようと改めて覚悟しているのです。

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いま考えていること 76(2001年06月)
――銀行が中小企業の息の根を止める――

小泉改革で銀行の不良資産の整理が進むと中小企業が倒れるという深刻な問題が起こってきます。銀行は精算で息を吹き返しますが、共産党が小泉改革では銀行を利するだけで、中小企業は潰れるといって改革に反対しているのももっともなところがあります。

もう2,30年も昔、私の教え子で中小企業の社長をしているのが「いらんというのに銀行が金を貸しにきますのや。利息さえ払ろうてもろたら、元金を返してくれとは言いまへんて言うのです」と話してくれました。当時はインフレが基調でしたから借りる方もそのうちにお金の値打ちが下がって、1億借りても返すときは実質5000万円返すような感覚で処理できたものです。今このような時代が終止符を打つ時期にきたのです。銀行の昔の約束と違うと言っても、銀行は元金も返してくれと言ってきます。デフレの昨今中小企業は今でも青息吐息なのに膨大な元金を返せないのも理解できます。借りた方はこの結果倒産ということになりかねませんが、甘い言葉で貸し出し先を確保してきた銀行はこのことについてペナルティも無く息を吹き返すのです。銀行は元々利子を付けて貸して利ざやを稼ぐ商売ですから、事業内容に問題があれば貸すはずが無いのですが、これまで担保さえあれば安全と貸してきました。しかし不況で土地の値段が下がり担保が担保しなくなり、自分自身が倒産の危機に陥って返せというのです。負債棒引きを受けられない中小企業にとっては銀行の身勝手が招いた災難です。共産党の言う消費税引き下げで日本経済が再生するほど問題は単純ではありませんが、確かにこの点では小泉改革で大企業と銀行だけが利益を得ると言う共産党の指摘にも一理があります。明日は都議選ですが共産党は伸びると予想しています。

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