いま考えていること 241(2006年08月)
――自民党総裁選挙――

来月の自民党総裁選挙を控えて、靖国問題を中心に、次期総裁候補の政見発表が続いています。マスコミは3人の候補の違いに力点を置いて国民の間にも関心を喚起使用としています。しかしよく考えればこの問題は自民党の党内問題であり、候補の違いに眼を向けるのは問題の重要な点を見誤らせるものではないかという気持ちになってきました。

マスコミで取り上げられている候補の違いに気をとられているともっと重要な点が隠されてしまいます。それは何かというと3人とも自民党の人であり共通の信条があるのだと言うことです。違いにだけ関心を持つとこの共通点の認識が消えてしまいます。

自民党の新綱領の中には次のような項目が見られます。

〇新しい憲法の制定を

私たちは近い将来、自立した国民意識のもとで新しい憲法が制定されるよう、国民合意の形成に努めます。そのため、党内外の実質的論議が進展するよう努めます。

〇高い志を持った日本人を

私たちは、国民一人ひとりが、人間としての普遍的規範を身につけ、社会の基本となる家族のきずなを大切に、国を愛し地域を愛し、共に支え合うという強い自覚が共有できるよう努めます。そのために教育基本法を改正するとともに、教育に対して惜しみなく資源を分配し、日本人に生まれたことに誇りがもてる、国際感覚豊かな志高い日本人を育む教育を目指します。

”教育に対して惜しみなく資源を分配し”という言葉の裏に奨学制度の切り捨てがすでに進行していることだけでも信じられない気持ちがするのですが、昔の教育勅語も美辞麗句が並んでいました。新綱領のこれらの言葉は一言で言えば、戦後60年の切り捨て、否定であり、現在取りざたされている3候補とも自民党員でありますから、この憲法改正・教育基本法の改定には完全な合意があることを忘れてはなりません。あえていえば独走的に総裁候補として安倍氏がもっとも有力だと伝えられるのは同氏がもっとも純粋な自民党綱領の推進者たり得るという認識が自民党内にあるからだと思います。靖国問題や消費税問題などは綱領から見れば抹消の違いに過ぎません。世界に対し人類の理想に対し現在の憲法・教育基本法の持つ普遍的な理想の火を消してはなりません。自民党綱領はナショナリズム高揚のバックグランドとなって、日本を再び危険な国にする可能性を持つことから眼をそらしてはなりません。重要なことは国民にとって、自民党政治をいつまでも許しておくのかということで総裁が誰であるかということではありません。

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いま考えていること 242(2006年09月)
――安倍自民党総裁のスタートに際して――

あれだけマスコミでは安倍氏の圧勝をあおり立てていましたが、結果は圧勝には遠く66%の得票に終わりました。 自民党の中にも安倍氏を総裁にすることに危惧する層があるのがわかります。それは彼が来年の参議院選候補の差し替えを公言したことに原因があるのかもしれませんし、小泉さんの郵政選挙で当選してきた小泉チルドレンたちの次期選挙に対するおそれから、「寄らば大樹」的に安倍氏支持の動きがあったのかもしれません。前回も書いたように安倍氏の主張はもっとも自民党的なものですからこの時期の当選は素直な結果であるのかもしれません。正直言って自民党の古いものへの回帰路線、国家中心的な指向は私の好まない路線ですから安倍氏の当選をめでたいとは考えません。

安倍氏の著書も読んでいないのですから偉そうなことはいえませんが、彼の発言で中国に対していつでも扉は開いているのだから首脳の交流をしようというセンスに危惧しているのです。いつでも扉を開いているのは中国で、首脳交流の妨げをしているのは日本の総理の歴史認識であり靖国参拝であることは明らかではありませんか。真実に眼をふさぎ美しい言葉でごまかす人格ではないかと思っているのです。要するに賢明な判断がこの人に期待できないのではないか、そんな思いがしているのです。前回の小泉さんの総裁選挙のときにはまだ未知の小泉さんに期待も持てたのですが、今回は危惧ばかりです。現在の日本国憲法の持つコスモポリタニズム−人類全体に受け入れられる普遍的な思想、ヒューマニズムといってもよろしい−が国に対する愛国心を持たさないというので、憲法改定や教育基本法の改定を進めようとし、私たちが経験した戦前の日本の思想的風土への回帰であるならそれはお断りです。基本は現憲法のような世界のどの民族にも通用する原則をしっかり掲げ、その精神の上で、たとえローカルであっても、何か日本という国の歴史的条件、地理的条件、文化的な財産がもたらしうるもので世界に貢献したいものです。そのためには第一に平和的な外交の重視がなくてはなりませんが、小泉さんは対アジア外交を致命的に壊してしましました。安倍さんの哲学ではますます私の理想とする道から離れていくのではないかと思っているのです。最近公明党の元委員長石田さんが亡くなりましたが、今更ながら公明党の「権力すり寄り体質」をあの人の一生からも確認しました。今回は組閣に当たって公明党から冬柴氏の入閣がほぼ確実な様ですが、彼ほど一応独自の主張を掲げるように見せかけて、結論的には権力の路線に同意しその支持をしてきた人はありません。イラクへの自衛隊派遣のときにもっともこの傾向は明らかになりました。自民党からどのような人が入閣するかも関心を持ってみています。ただ新内閣にとっても政府の財政的破綻は回避できない運営上の桎梏になりますから、格差の解消は口先ではともかく実際は不可能で、ますます一般国民の生活は苦しくなっていくと思われます。この財政的負担が結局近い将来安倍内閣の命取りになるのではないでしょうか。

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いま考えていること 243(2006年09月)
――血液検査は患者自身のためばかりではない――

今年も定期的な大腸内視鏡検査を受ける時がきました。この検査を受ける前には医師から血液検査がセットされます。これまで私は検査は本人のためなので少々採血時の痛さも我慢してやってもらっていたのですが、血液検査は必ずしも患者本人のものではないのです。検査結果は医師から知らされましたが、その項目はRPRカード、TPHA法定性、HCV抗体S/CO値、HBs抗原(定性)でした。医師からB型肝炎、C型肝炎の恐れはありませんと説明されたので、それは結構なことだと思ったのですが、RPRカード、TPHA法定性については何も説明がありませんでした。帰ってきてインターネットで調べてみると、前者は梅毒診断のためのスクリーニングテスト、後者もれっきとした梅毒検査でした。私は梅毒の恐れは全くないのに何故検査されるのか疑問に思いました。

この文章を読んでくださる皆さんはおそらく答えを想像されるでしょうが、これは検査をする医師の側の必要からおこなわれた検査なのです。内視鏡検査で用いるファイバースコープの患者毎の消毒後反復使用に備えて、患者間の感染を防ぐために行われたのでしょう。おそらくそのうちにHIV(エイズの病原体)の検査も行われるようになるのではないでしょうか。検査はすべて自分の病気のための資料ではないのです。他人への感染を予防するための検査も行われているのです。そういう検査の必要もわかりますが、問題は患者の協力を医師の側からお願いする態度が欠けている点にあります。事情が説明され、医師から採血を依頼されれば協力もしますが、説明と同意を得ることなく検査するプライバシーを無視した独善的な医師の側の姿勢に憤りを感じるのです。私の先生にはこのことを申し上げました。「考え方を変える」との答えでした。

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いま考えていること 244(2006年10月)
――安倍さんのこと、竹中さんのこと――

★まずはじめに安倍さんのこと。正直言って安倍さんの政治姿勢は好きではありません。「美しい日本」と言いながら、どことなく嘗ての日本に回帰する臭いを感じるからです。ですが、新内閣発足後の安倍さんの総理としての姿勢はかなり自分で忍耐し、必ずしも彼個人の「我」だけにとらわれる姿勢が見られないのは小泉さんと違っています。今日は中国首脳との会談に訪中しておられますが、先日からの予算委員会での答弁を見ていますと、総理として私の政府は「村山談話」「河野談話」をそのまま受け継ぐと表明しています。言うまでもなく前者は「我が国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」たことを戦後50周年の終戦記念日に村山首相が述べたものです。また後者は「慰安婦関係調査結果発表に関する」ものであり、当時の軍の関与の下に事実があったことを認め謝罪と反省を述べたものです。安倍さんの従来の主張からするとどちらもかなり異なるものですが、政府としてはこの線を踏襲するというのですから、これが安倍さんの本心から述べられたとすると、訪中訪韓前の妥協だとしても結構なことだと思います。これまで新内閣が発足すると真っ先に属国よろしくアメリカに挨拶に行っていたことを思うと、今回の訪中訪韓はそれだけでも大きな変化が見られます。願わくは首相在任中は「我」にとらわれず国の利益を考えてアジアにしっかりと足を据えた外交を展開してほしいと思います。今後の靖国参拝を公表することなく姑息に行えばアジアの国々は却って大きな不信を抱くことを考えてほしいものです。

★朝鮮民主主義人民共和国の核実験は実行の可能性が高いと思っています。この問題は安倍内閣にとっては大きいとげになりますが、拉致がけしからぬ事件であったことは私も同感ではありますが、根本的な日朝関係の改善について、前内閣は5人の人を短期に帰国させると約束しておきながら、そのまま日本に留め置くという不信を相手に植え付けてしまう行為をしてしまったので、とうてい現状解決のめども立てられず、お先真っ暗ですから安倍内閣にとってもとげになって迫ってくるでしょう。核開発について一方で核保有国の核軍備縮小が約束されていながらそれは全く実行されず、新たに核を保有することを禁ずるのでは現保有国の脅しの特権だけを認めるもので、世界全体の核保有禁止の運動展開と実行の中でなければイランや朝鮮を非難する気になりません。朝鮮がアメリカに対してものをいえるように核の面で対等の立場に立つために、長距離ミサイルと核爆弾を製造する気になるのは理解できないでもありません。広島長崎を経験した我々としては二度とあのようなむごたらしい殺戮を起こさないようにすべての国に対し核爆弾廃絶を政策的にも正面から全世界に迫っていかなければなりません。

  (1970・3・5核兵器の不拡散に関する条約(NPT)  第六条 [核軍縮交渉] 各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核
   軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約
   について、誠実に交渉を行うことを約束する)。

★竹中さんは前内閣で自民党からも叩かれていて、そのために便宜的に自民党参議院議員に立候補され幸い多くの人の票を得て議員となられましたが、小泉首相の引退とともに議員も辞職されました。学者として自分の持っているもので金融改革、郵政改革と当時としてはどうしても必要であった処方箋を造り実行された並々ならぬ勇気に敬意を表し、政治に対する野心を持たれることなく議員を辞し、再び学者としてのUターンを淡々と実行されることに清々しいものを感じ拍手を送ります。

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いま考えていること 245(2006年10月)
――株式相場の背後に――

数ヶ月前には日経平均2万円は間違いなしという評論家もいたものですが、このところ日本の株式は大きく言って頭打ち状態が続いています。一方アメリカではダウ工業株30種平均株価の史上最高記録が現れ、日本の株価もそれとの連動で激しく動いています。

日経新聞を購読されている方は次のようなヘッジファンドの失敗記事をごらんになっているのでお気づきかと思いますが、原油価格の大幅な低下もどうやらこのあたりに原因があるらしく、お金の動きが変わってきているように思います。秋には日本の株価が上がるという予想は早くからでていましたが、このお金の動きの変化が日本の株価にも早晩陰に陽に影響をしてくるものと私は予想しています。

ヘッジファンドのアマランス・アドバイザーが天然ガス取引で60億ドルの巨額損失を出し、ヘッジファンドが一斉に国際商品の持ち高を減らしています。アマランス・アドバイザーは8月末には運用資産90億ドルの2/3以上を天然ガスとして持っていましたが、これが急落したのです。他の原油で運用していた投資信託も巨額の損失を抱えてしまいました。アマランス・アドバイザーが失敗したと見たマネーは債券に動きました。米十年物国債利回りは4.5%台に低下し債券相場は上昇しました。原油価格の低下はひとまずインフレ懸念を抑え、景気減速と株価の上昇とのバランスをとりながら、持続可能な成長へと進行中です。国際的に見て日本ではまだ金利が低く、円安が進んでいます。外貨MMFもこの為替相場の下落の影響で思いの外利益を得ています。もちろん輸出にとってもよい影響をもたらしています。

現在日本経済はもはや国境の枠を超えた活動を展開していますから、企業の儲けを労働者にもっと多く配分しようと言っても企業は儲けるのが本性ですから、外国で安価な良質の労働力が得られるときにはやはり外国に出て行きます。その結果失業者が国内に増える問題が出てきます。円安が進むとどうしても輸出圧力が大きくなります。内需中心の経済というかけ声も消えてしまいます。さらに日本では未曾有の低い利息が今なお続き、しかもインフレ圧も低い現在では当分低金利時代が続きます。確かに格差問題や増税をはじめ社会保障費の高騰に嘆く我々の日常ですが、客観的な事情、環境が結局は経済を支配しますから、現状はそう簡単には改められないと思います。私も一部の預金を外貨MMFで運用していますが、円安の現在利息と相まって日本の銀行・郵便局とは次元の違う利息がはいってきます。もちろん為替相場は刻々変動しますからそのうちマイナスも経験するかもしれませんが、現状は日本の金融機関とは次元が違うのです。

結論的には世界的なお金の動きの変化を見据えた運用を必要としてきたこと、グローバル化した現在、昔とは根本的に事情の変化が起こっていることを意識しようといいたいのです。

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いま考えていること 246(2006年10月)
――安倍さんの外交――

小泉さんの対中、対韓の失敗は、安倍さんの本心から離れていたかもしれませんが、安倍さんの「村山談話」と「河野談話」確認を前提とした先日の訪中、訪韓行脚でひとまず回復のめどが立ちました。このように行き詰まった関係を打ち破ろうとすると具体的な「新しい行動」を必要とするものです。

この私の見方からすると、安倍さんの現在とっている対北朝鮮強硬政策と拉致問題に対する並々ならぬ解決へのジェスチャーとには大きい矛盾を抱えているように思います。強硬政策の下ではおよそ拉致問題解決への糸口は見られず、早晩拉致された人たちの日本への帰国(これもその人たちが生存して居れば、ですが)を含んだ問題解決は実行不能だと思っているのです。拉致問題の解決については私は以前から私のホームページの「貯蓄」の部分に書いてきた見解があります。そこでは次の見解を披瀝してきました。

「わたしは北朝鮮との約束を守って5人の拉致被害者の方は北朝鮮にいったんは戻すべきであったと今でも思っています。その上で拉致問題全体の交渉を開かせるべきだったのです。交渉の道を閉ざした責任は日本政府にあります。初めから相手をだます作戦であったのなら、5人を返す約束はしてはならないのです。相手との約束を破っては外交は成り立ちません。二度目の小泉訪朝の本質はこの過ちの許しを乞うことだったと見ています。小泉さんは今後の対朝外交は国交回復に主眼を置きたかったのでしょうが、拉致問題がその桎梏(しっこく:足かせ手桎かせ)となって進展を許しません。平壌宣言を読むと「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。」とあり、読みようによっては過去の問題は拉致問題も含めて一応終わりにするとも読めますから、宣言すること自体が早すぎたのだと思います。もし小泉さんが本心北朝鮮との今後は平壌宣言に記された路線で進めようとしたのであれば、拉致問題を過去のものとして拉致家族の意向を無視するだけの政治の冷たさが必要でした。核武装をめぐる六カ国協議を進めるためにもその決心が必要でした。小泉さんの器量ではこの政治の冷たさを持つことができなかったので、かえって日朝間に不信が大きくなり、現在は明らかにデッドロックに乗り上げています。安倍さんは拉致問題対策本部を設置し、自ら本部長になりましたが、拉致問題の解決はそう簡単に進むとは思えません。小泉さんの失敗があっただけにかえってこの問題は解決が難しくなっていると見ています。」

基本的には今もこの見解を変えてはいません。振り返れば平壌宣言を作った時は、小泉さんの訪朝という当時の意表をつく新しい行動で、日朝関係改善の可能性を現実化した希有の段階であったと思います。その貴重な関係を壊してしまったのはむしろ日本であったと思います。覚醒剤の密輸とか偽ドル札の印刷とか北朝鮮のやっていることは無法きわまるものではあり、とてもまともな相手とは思えないのですが、地理的にも、またかっての日朝の関係からも北朝鮮を完全に無視していくわけにもいかない宿命の国です。この膠着した関係に新しい幕を開くには全く新しい発想の手を打たないと幕は開けません。阿部内閣の現在していることではとても局面を打開できるはずがなく、拉致問題家族が阿部内閣に期待を表明していますが早晩完全に裏切られるでしょう。安倍さんの頭が異常でなければ賢明にも安倍さんは対策本部まで作って見せかけの最大限の努力をしたジェスチャーを整え、努力したけれどもだめだったというスタイルを計画したのかもしれません。きわめて政治的な布石だと思っています。核問題を巡る強硬姿勢と拉致問題解決の具体的な道の両立はとうてい望めません。私は平壌宣言の時点に立ち戻って、日本も拉致問題を過去の問題と認め、その後始末を北朝鮮との平和的な外交交渉によって進めていく以外に方法はないと思います。

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いま考えていること 247(2006年10月)
――NHKビジネス展望を聞いて――

今朝のテーマは地方の疲弊の問題でした。論者はもっぱらその責任を小泉内閣の政治に帰しておられましたが、アナウンサーのそれを克服する方向はどうかという問いに対して、その答えは現在ヨーロッパなどに進んできた独自の課税権まで含んだ国とは独立した地方の自治の強化に求めておられるようでした。

それを聞いていて私は地方の疲弊の問題は、基本的にはかってのバブル経済そのものに原因があるのではないかと思いました。小泉内閣は銀行の不良資産の処理をはじめ、改革路線をとってきました。今朝の論者はそれらの施策が今日の地方の衰退を招き、都市と地方の格差を生じたといわれていたのですが、あのバブルの後遺症の退治に小泉路線は完全解とはいいませんが、それなりの現実的回答であったと思います。小泉さんの外交路線、ことに小泉さんのかたくなな「我」には失政と思うのですが、経済の回復、金融危機の克服には一つの回答を提示し、それなりの成功を収めたと思っているのです。

では地方の衰退についておまえはどう思うのだと問われれば私の答えは、それまでの自民党政治による交付金や補助金政策の結果だということです。こういう地方の自治性を失わせる政策が、地方をして中央依存の体質を養い、もっぱら中央の族議員に陳情してサポ−トを引き出す位しか知恵を養わなかったことに原因を見ます。たまたま今日昼のNHKは北海道滝上町の七面鳥養殖産業を放映していました。瀧上の「滝」を七面鳥=ターキーにかこつけて地域のユニークな産業をというのが出足であったようです。えさは地元でとれた野菜、小麦で農作業と時期的に補う形で養殖を展開していました。スモーキーにするための桜のチップも地元の桜の廃材のチップを利用したり、味付け・献立も地元の人のたゆまぬ苦労の産物のようでした。この土地の人々は自分たちの力で新しい産業を展開しているようで、幸せそうでした。基本は他に頼るのでなく自分たちの努力で道を開く開拓者魂ということに尽きそうです。国に経済的余裕がなくなった状況から、小泉改革では地方も個人も自分の力で道を開くことを推進しなければならなくなりましたが、もう一度自立の気持ちを回復させた点ではよかったと思います。政府に頼り切りにならない、この精神こそ私の長い人生の教えです。政府に頼り切ると精神を奪われ、果ては命まで奪われるのです。

これからは中央政府も地方の自治体も予算配分は本当に必要とするところに配分する必要があります。以前の地方振興券の愚を繰り返してはなりません。今朝の論者がいわれていた地方自治の強化もまず第一にこの自立精神で進むことを見失ってはならないと思います。

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いま考えていること 248(2006年11月)
――ブッシュ大統領の終焉――

今回のアメリカ中間選挙は、民主党の両院制覇で幕を閉じました。共和党といい民主党といいアメリカ資本主義の側面からは 変わりがないといってもよいかと思うので国内政治の変化の期待はできないのですが、イラク戦争についての考え方にはかなりの違いがあり、選挙民の意識に両者のとらえ方には大きな違いを生じたものと思われます。ことイラクに関する限りブッシュ大統領はこれまでの路線を続けることはできなくなりました。これを象徴するのがラムズフェルト国防長官の更迭でしょう。アメリカのイラク戦争はフセインの悪行があったにもせよ、法的に侵略だといってきた私にとってはどうやら肩の荷が降りた心地です。テロとの戦争というスローガン自体が怪しげなものです。ブッシュの敗北で、一時的に余韻的にテロが激しくなることがあっても、次第に収まっていくでしょう。テロにはその源になる政治的な理由が必ずあると思うからです。現在のテロの根元はブッシュ自身の政治姿勢にあるからです。イスラエルに対するアメリカの態度を見てもわかるように、9.11自体がアメリカの政治姿勢にあるからです。レイムダックと化したブッシュ大統領に不信任決議が突きつけられる日も遠くないかもしれません。

安倍さんが就任早々慣例のアメリカ詣でよりも中国韓国訪問を行ったのは確かに一つの政治姿勢の転換を物語り、彼の本心はともかく村山談話・河野談話の継承を語って一応しかるべきアジア外交の原点を打ち直したのはヒットであったと思うのです。当時でももはやブッシュの敗北は少し考えれば予想できたのですから、ブッシュとの握手よりもこれからますますアジアでの影響を強め世界政治の上でもウエイトを増していく(この間のアフリカ首脳との会議もその例です)中国との関係を回復しようという根回しを行った「まともな誰か」が居たのだと思います。

イラク人自身がイラクの政治に責任を持った差配ができることが望まれますが、これはそう簡単なこととは思えません、クルド・スンニ派・シーア派の対立は容易にまとめることはまず不可能でしょう。それぞれに石油利権も絡んでいます。アメリカのイラクからの撤退はやがて現実のものとなるでしょうが、すでに石油利権はアメリカの手にあるものと想像します。最後にものをいうのは経済ですから、アメリカの石油利権の動きがどうなのかがとても大事だと思うのですが、私にはその知識はありません。クルドについてはトルコが、シーア派についてはイランが強い関心を持っていることでしょうから、これらのトータルとしての動きを考慮しないと、軽々しくイラクの未来を描けないのですが、フセインのような暴力的な強い政治家が登場しない限り統一国家の形をとることは難しいでしょう。よくて連邦、悪くいけば内戦をともなう分裂になるかもしれません。

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いま考えていること 249(2006年11月)
――私の教育基本法――

材を尽くす
茶の間に京都師範附属小学校創立100周年記念式典の引き出物に配られた「人の材を盡くす」という文字を書いた扇子が飾ってあります。これは内藤(虎次郎)湖南先生の書で,ご子息が附属で学ばれた縁で寄せられた書き物から抜粋されたものだといいます。これは教育の基本を短い文字で表現した貴重な言葉だと思います。

私の思うのに、人には生まれながらにその人の奥底に運命的に「運」もあれば「能力」、「得手」、といったものが備わっているように思います。これは天から与えられたものです。こういうと運命論者だといわれ、努力によって開拓すべき「可能性」を否定するようですが、長年の人間観察の結論がこうなのです。では教育とは?何かといいますと、“いろいろのチャンスを与え、経験させ、天から与えられたものを発見させること、それは簡単に言えば何が自分に適した、「快い」ものかを発見させることだと言うに尽きます。自分の中に生まれながらに与えられているものを発見し、それに沿った仕事、職業に従事させていくこと、「人の材を盡くす」とはそういうことです。教育はもちろん生涯にわたって必要となる基礎的な知識、常識の準備をすることでもありますが、こちらはそれほど重要とは思いません。それは必要となり一念発起すれば万人が努力で獲得することができるからです。しかし自分に本来備わっているものはいろいろのことに自分で試行的にぶつかっていく以外発見する手段はありません。社会に出てからの失敗はあるいは取り返しのつかないダメージになるかもしれませんが、教育期間の失敗には「ゆるし」がありやり直す機会が与えられますから、大いに「失敗し、恥をかけばよい」のです。教育する側にもこの「赦し」と、機会を提供しているのだという教育に対する畏敬の念、教え子に対する謙虚さがなければなりません。

かっての日本に見られたようにすべての人を「国民」としてあるいは「陛下の赤子」として一つの方向の鋳型に押し込め、国に都合の良い人間に仕立て上げるような、個性を無視したものは「教育」ではないのです。親の立場でも子どもに機会を与えアドバイスすることは必要ですが、何か親の結論を押しつけるようなことは教育ではありません。

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いま考えていること 250(2006年11月)
――政治の醜さ――

郵政民営化に反対していた議員たちが自民党に復党の願いを出し、元々民営化には反対ではなかったといっています。復党手続きの屈辱的側面にふれることもできずおめおめと復党です。もっともこの問題をはかる安倍さんの目にも輝きはなく、右往左往する目の動きにも自信のほどは見られませんでしたが。昨秋の刺客たちは今のところ特にライトを受けるでもなく、次の選挙では復党組と一戦を交える運命に追いやられました。刺客たちに投票した有権者たちはどう思っているのでしょうか。所詮使い捨ての運命だったのでしょうか。

本来「国」や「政治」はそんなに頼れる存在ではないのです。小泉さんの戦略に乗って国会議員の椅子を得ようとして立候補した時点から、刺客たちは今日の事態は覚悟していなければならない動きであったのです。「国」や「政治」はもっともらしい理屈で人々を駆り立てますが、所詮自分の有利を基本に置いた動きのカモフラージュにすぎません。私たちは努めて、覚めて動きを見つめていないと、とんでもないところに放り込まれ、泣きを見ます。今回のタウン・ミーティングで図らずも露呈したやらせの手法も全く根は同じものです。世論を誘導し、自分の目的を達しようというのが彼らの本質です。この姿勢は今に始まったことではありません。私の生きてきた約80年の歴史を振り返っても政治にはそれ以外の動きは見られなかったように思います。これは政府側だけではありません。最近の野党の審議拒否作戦にしても意図がわかりません。

かといって、政治の中で生きているのですから、政治を否定するわけにはいきません。その黒い雲は容赦なく私たちの生活をコントロールしてしまうのですから。私たちは政治や「国」の醜さを十分わきまえつつ付き合っていかなくてはなりません。おかしいことにはおかしいという理性や勇気を持ちながら、最終的には自分の守備範囲を固めていかなくては何をされるかわかったものではありません。普通よりもうまい話に簡単に乗ってはなりません。日常生活でも「近未来通信」のような話に乗って投資し、今になって弁護士に泣きを入れているようではその人の知性が疑われるではありませんか。うまい話には棘が隠れているかもしれません。

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