いま考えていること 314(2008年05月)
――後期高齢者医療保険が迫るもの――

後期高齢者医療保険制度の感情的に見て、よくない点は高齢者の差別化だと思います。もう少し共通の普通の保険制度の中に位置づけながら高齢者にもそれ相応の負担を求めるという制度設計ができなかったのでしょうか? 私は理科の出身ですから何事もあるがままの正直さも好きだし、その方が現実を明らかにする点でもよいと思っているのですが、一般の国民はまず感覚的に反応するのも自然です。この制度は制度設計のまずさをまず指摘しておきたいと思います。生活保護者にジェネリック医薬品の使用を迫るなども差別化ということでもってのほかです。

制度そのものを冷静に考えるとき、これからの超少子高齢社会を考えるとやはり高齢者も負担をしないと保険制度そのものが破綻することは目に見えています。広域保険制度が取られ地域地域の医療費に応じて保険料が上がっていくと言うのですが、高齢者の保険料が上がるだけでなく、国5・壮健層の保険からの負担4・高齢者の負担1の比率を厳格に守って、国・現役者の負担もスライドして上がると言うことが今ひとつ明確でありません。高齢者の負担だけが上がるのであれば限界があり、これも差別化です。高齢者の病気が多くなるのは避けられないのですから、将来にわたり変わらない保険料額の負担最高限度額(現行50万円)を打ち出し、そのために保険料収入に不足を生じるなら、それは国なり現役者が負担することを明確にすれば高齢者は安心します。

少子化する現状は次の世代に頼っていわばノウノウと隠居することは日本の高齢者には許されなくなりました。若いときに戦争で苦労し、復興につとめたのだから、もう年寄りをいじめるなとは言っておれない情けない日本の現状だと思います。年寄りもある程度の負担をしなくてはやっていけないでしょう。

保険料天引き制度については「今考えていること312」に書いたとおりで、天引きで生活に困難を発生する問題と天引きという徴収方法の問題とは別個の問題ですから、払うべき人から天引きすると言うことには抵抗がありません。天引きで生活に困難を発生する問題は天引き額が多すぎるか、年金額そのものが低いと言うことを意味していて別途の解決を迫っています。
近頃の施策を見ているとみみっちいの一言です。その反面とんでもない無駄使いが見られますから腹が立つのです。しかし・・・

国・地方の長期債務残高は2006年度末767兆円程度、2007年度末773兆円程度といいますから相変わらず債務は増え続け1年で6兆円も増えています。このような破産状況の国に多くを求めることは我々の家計運営に照らしても合理性はありません。現在の借金の利息だけ考えてもその利息がなければいろいろな政策の実行も可能でしょう。これ以外にも債務保証に伴う出費もあり国・地方をあわせると1,000兆円にもなります。この膨大な債務を減らすために当面国有財産の売却は考えられないのでしょうか。こういう膨大な借金を作った歴代自民党政府の責任を不問にするわけにはいきませんが、現に抱えているこの借金を当面もう少し減らすにはどうすればよいのか真剣に考えたいものです。

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いま考えていること 315(2008年05月)
――特別消費税に賛成して頂けますか?――

前項にも記したように国も地方も家計も借金を抱えていると必ず利息がついてきます。その利息を払うだけでも大変で、まして新しい出費はできるだけ押さえることになります。医療保険問題にも根底には現在の借金財政が展望を暗くしています。わたしの家計運営の基本姿勢は「借金ゼロ」です。勿論本当に必要な時には一時的に借り入れましたが、その後は一時的にもせよ家計を切りつめて速やかに借金の返済に努めました。現在の預金利息がどんなに低いといってもともかくプラスです。ところが借金の利息は瞬間瞬間放っておけばますます借財を増し、新規の計画の実現の障害になるのです。現在の日本の財政の1/4は借金の利息の処理に費やされているのです。これでは福祉予算、医療費予算の改善は望むべくもありません。

近頃消費税増税問題がだんだん表面化しているように思えます。GDPに占める国の医療費予算がヨーロッパと比べて低いと攻撃する野党も、自分にとって都合の悪いヨーロッパの消費税に比べて日本の消費税が低い事実には口をつぐんでいます。私もただ財政が苦しいから消費税を増税するのは反対です。なぜなら今の仕組みのままで国の財政が多少豊かになっても安心感から相変わらずの無駄遣いによる散漫財政は拡大こそすれストップしないからです。一般財政や特定財政は今の消費税収入を前提として立案実施されなければなりません。問題はさしあたって店ざらしされている膨大な財政赤字です。

私のこれから提案することは、どなたも賛成しては戴けなくて袋だたきもよいとこだろうとは思っているのですが、国の将来展望を開く意味はあると思うので書きます。現在の膨大な赤字はこれまでの自民党政治の結果で、一市民として生活してきた私個人にはおそらく責任は見られないと思うのですが、日本国民である以上は、この現状をふまえた上で解決をスタートさせざるを得ません。そこで提案です。

これまでの財政と完全に切り離して赤字返済のためのシステムを作り、一般消費税5%から切り離した特別消費税を新設するのです。税率は検討すればよろしいが私は5%以下を考えています。この率は現在の赤字に伴って支払っている利息額を上回る額を前提として設定することです。少し上回る程度でスタートしましょう。これによってたとえ額は少なくても確実に赤字は減り、赤字に伴う利息返済も減らすことができます。もちろん経済の成長を計り、一般財政で黒字がでればこの返済財政に組み入れ、また特別消費税も可能ならば増税するのです。ともかく最大の癌である国家の赤字に焦点を定めて集中的に減らす作業を始めようではないかという提案です。赤字がなくなり余裕ができない限り、国に生活の困難の打開を求めても実現はできないでしょう。嘗ての地域振興券の愚を思い返しましょう。下手をするといっそう赤字に追い込まれ利息の返済に追われます。 議員定数の削減も必要ですし、公務員宿舎を始め可能な国有財産は赤字減少の原資と特定して売却して行くことも原則としたいものです。国有財産から現在の負債を差し引けば黒字だから少々これ以上に借金を増やしてもよいではないかというのは暴論です。

この手法は個人の家計に借金が障碍を及ぼしている場合に取る手法だろうと思います。いわば当然のことを言っているのに過ぎません。私の祖父は破産を経験しています。破産の後遺症修復には三代かかりました。

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いま考えていること 316(2008年05)
――中国震災への自衛隊機派遣?――

ここ数日注目された自衛隊輸送機の中国震災への派遣問題はどうやら終息を迎えたようです。今日の毎日新聞朝刊によると、中国から正式に要請があったかのように展開していたこの話は、日本側の取り違えで、「要請してきたのは中国軍の少佐」「政府関係者は『中国から求められた』と口を揃えたが、実際には日本側が持ち出していた。12日の地震発生の直後、政府は・・・の4提案とともに『自衛隊の派遣を要請してはどうか』と提案した。(中略)自衛隊派遣案がもともと人道支援ではなく、政治的意味合いから出発していたわけで、政府関係者からは『最終的に見送られたのは必然』との声も聞かれる。」と書かれています。

「石破防衛相は31日、シンガポール市内のホテルで開かれたアジア安全保障会議(英国際戦略研究所〈IISS〉主催、朝日新聞社など後援)で講演し、自衛隊海外派遣のための恒久法(一般法)の必要性を改めて強調した。」との記事がasahi.comに見られますが、わたしは自衛隊機の中国派遣の実績を作って「恒久法」制定の布石とし議会におけるバリヤ−を除いておこうとした政府の下心を感じています。

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いま考えていること 317(2008年06月)
――軍事費とレイルガン――

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の発表によると2007年の軍事費で日本は世界第5位で436億ドル(概算4兆6600億円)です。アメリカの5470億ドルに比べると小さいのですが、ドイツの369億ドルよりも大きく、非武装国日本の建前との矛盾は否定できません。まして償還する国債費に毎年の予算の1/4を当て、高齢者医療費を始め医療保険や年金制度の将来不安とはどうもバランスしません。ご存じのように日本の自衛隊はその装備に於いてアメリカに従属した立場ですが、アメリカ海軍でまた画期的な軍事上の出来事が出てきました。それはレールガンの実験成功です。

レールガンというのはこれまで火器というと爆薬の爆発に伴う力で弾丸を発射していたのですが、長く懸案として研究されていた磁場内を流れる電流が受ける力の応用で爆薬を使わないで発射するシステムなのです。2本のレールの間に発射物をおきこの発射物を通してレールに電流を環流させます。このときレールの周辺に生じた磁場と発射物の中を流れる電流の間に生じる力を利用して発射物をレール上で移動させ発射するのです。大きい電流を流すほど移動させる力は強くなります。長所は弾薬を使わないので火薬庫が不要となり、弾丸の発射速度も音速の7倍、秒速2,520mに達したというのです。命中精度も高まり、毎秒当たりの発射回数も増えるといいます。実験は2008年2月3日に行われ、そのテストムービーはインターネットでも見ることが出来ます。エネルギーも10.64メガジュールあり、強大な破壊力を持っています。強大な電流が必要だということが障碍になっていたのですが、この問題を克服したのでしょう。現在はまだ実用段階ではありませんが、火器の弾丸発射という作業に全く新しい原理を導入し、操作する兵士にも火薬の爆発という危険を減らしているのです。アメリカのこの成功はいずれは実用化され、我が国にも影響を及ぼし軍備の近代化へ膨大な予算を使って突入することにもなるのではないでしょうか。

翻って人間生活の現状を見るとき食糧は不足し、石油は枯渇の時期を迎え、地球の二酸化炭素が増え続けて温暖化は進み、北極の氷解は海面の上昇を招いて、低地の人々の居住を脅かすに至っているのです。この時期に人間殺傷の新兵器の開発と軍備増強に大切な資金を投入することが許されるのでしょうか。世界的に軍備費予算への投入を抑えて人々の福祉にお金を使うのでないと人々の気持ちは荒廃し突発的な不幸な出来事は続くことでしょう。

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いま考えていること 318(2008年06月)
−−拉致問題の行方−−

当面北朝鮮にとって原爆保有を犠牲にしても獲得しなければならないことというと、テロ国家のラベルを返上し国際的な地位を高めることだと思います。この道筋を実現するためにアメリカから突きつけられた日本との拉致問題の前進は放置出来ない段階にあり、このステップ実現によってテロ国家指定解除を実現する確約をアメリカから取り付けていたものと思われます。任期の終わりにかかって失政を重ねてきたブッシュ政権にとっても、せめて北朝鮮との間で外交的成功を収めなければ共和党の完全な敗北を見なければならなくなっています。

北朝鮮はただの談話などでなく具体的な事実をアメリカに答案として示さなければならなくなってきています。その具体的事実を公示しながらアメリカはテロ国家指定を解除するのです。わたしはおそらくアメリカが欲しかったのはこの拉致問題前進の具体化という「事実」であり日本政府も阿吽の呼吸で具体的に貿易の一部解除、チャーター機の乗り入れ解除、さらに日朝双方にとってもあまり大きい負担にならない「よど」号事件被疑者の送還と驚くべき早さで具体的事実を与えました。おそらく何らかの根回しがアメリカ側から日本政府に対してもあったものだと思われます(参照:国務省スポークスマンのバスケス氏は「日本政府からは今回の会談内容を事前に聞いていた」と語り、日朝協議にあたって日米両政府が緊密に連携していたとも強調した。[日経ネット6月15日])。日本政府の具体的な反応で、北朝鮮はアメリカへの答案の裏付けが得られたわけで、急速にテロ国家指定解除が実現するでしょう。

わたしは拉致被害者家族の皆さんにはお気の毒ですが、被害者の全員送還は不可能であり、今後そう具体的な前進は見られないと思います。今の時点で北朝鮮に必要なことは拉致問題前進の姿勢と何らかの事実を示すことであって、テロ国家指定解除後は拉致問題真相解明のジェスチャーを見せることはあっても、よど号被疑者の送還以外に新しい事実は生まれないだろうと思っています。

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いま考えていること 319(2008年06月;08月追加)
−−多角的に考える−−

今朝のNHKビジネス展望は山下一仁氏(農業問題アナリスト:元農林水産省農村振興局次長)でした。テーマは米作の生産調整を止めることでした。最近の世界的な食糧不足で来月のG8でも発展途上国の農業生産性の向上が問題になる情勢の中、日本の米作りは基本的に外国から隔離されていて、減反が相変わらず実施され、この制限を解くと米価の大幅な低下をもたらし専業農家は立ち行かなくなると言われるのですが、山下氏は現在支払われている補助金を改変して農家に対して直接補償すれば結果的に消費者は安い米を食べられ生産者も困らないという趣旨のお話でした。米の増産=米価の低下には違いないのですが、補助金の支出という面では額は変えないでより有効な政策をとれば米の増産=農家の困窮にはならないのです。

山下氏の主張では、生産調整を止めると米価は60kg あたり現在の1万4000円から約9500円まで下がる。これに伴って需要は現在の850万トンから1000万トンに増える。それでも農家の収入は減るから減収分の80%を直接主業農家に補填する。この費用は約1500億円になるが現在生産調整に支払っている「産地づくり交付金」の交付予定額は1476億円でそれほど変わらない。現在市場で流通している米約630万トン中主業農家のシェアは約40%という。

また本日の毎日新聞によれば高齢化=医療費の増加にはならないと言うことでした。「政府はこのままでは25年度の国民医療費が現在の倍の65兆円になる」といいますが、25年度の65兆円は国民所得の12〜13.2%で、04年度の8.9%と比べれば倍にはならないと言うことですし、25年度の65兆円の価値がどうなっているかすら分からないのです。米国の医療経済学者ゲッツエンによれば「高齢化が医療費を増すように見えるのは見かけの関係で、医療費の増加率は国民所得の増加率で決まる」というのです。日本では先進7カ国でもっとも高齢化率は高いのですが国内GDP比で見た医療費はもっとも少なく、二木教授(日本福祉大)は「日本の医療費がアメリカに比べて低い理由の一つは終末期医療費の低さにある」風邪など軽い病気は保険から外し、重い病気に財源を回すべきだという意見もありますが「患者の8割は軽い病気だが、使っている医療費は全体の2割にすぎず、医療費削減効果は小さい。何より8割の患者が使えない保険では意味がない」と述べておられます。厚労省の担当課長すら「医療費の自然増の最大の要因は(高価な薬や機器、治療手段が開発される)医療の進歩であることは明白だ」と述べているということです。

この2例からだけでも私たちは一つの情報だけ信じてはならない。多角的にものを考えること、一度立ち止まって別の角度から考えてみることの重要性を迫られています。

(2008年8月8日追加)2008年8月08日大前研一氏は政府・与党の漁民への直接燃料費補填政策に対しこの政策はあまりにも安直だと言っています。漁業従事者が必ずしも海に出漁しているのではない、むしろ魚の流通に古い制度が今なお生きていることこそ問題で、原油値上がりに伴う魚の値段の高騰がこの問題に対して有効な改革着手のきっかけになるだろうと述べておられます。この見方も視点を吟味する必要性の例でしょう。

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いま考えていること 320(2008年06月)
−−カフェイン飲料愛好家の方のために−−

今朝(2008年6月25日)のCNN日本語版を見ていたら 忙しい米国の母親、カフェイン過剰摂取の傾向という記事がありました。我が国はアメリカの影響を受けやすいので、いずれこの状態が日本でも見られるようになるのではないかと思ったのです。コーヒーを飲み過ぎたりカフェイン飲料を過剰に愛用している方に警告という気持ちで読まれることをおすすめします。わたしの友人で会社からデュッセルドルフの事務所に派遣されて滞在していた人がありますが、雇っていた女性が一日に数杯のコーヒーを入れてくれ、それを飲んでいて体調を崩した人があります。クリックされると記事に飛びます。

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いま考えていること 321(2008年06月;2009年3月)
−−インフレは外からだけか−−

じわりと物価が上がり出しました。今度のインフレは石油や穀類の価格の上昇によるもので、原因は外的な条件の変化によるといわれています。新興国の発展はめざましく、それに伴って石油の消費量が増し、また過剰な穀類をさばくためにブッシュ大統領がトウモロコシからのバイオエタノール生産を推し進めたのも事実です。トウモロコシは家畜のえさとして我が国では多量に使用されていますから影響は大きく、我が国農協は価格の優等生”卵”の価格の一割値上げを提示しています。共和党の大統領候補ジョン・マケイン上院議員が23日、ハイブリッド車や電気自動車向け燃料電池の性能を大幅に向上させる能力を持った開発者に、賞金として3億ドル(約325億円)を提供することを提案したのも、ブッシュのバイオエタノール生産による原油輸入の抑制では根本解決にならず、大統領選挙を意識したものかも知れません。わたしも原油や穀物の高騰を沈静するには燃料電池の実用化がかなり意味を持つだろうと思っています。原油の高騰は基本的には地球の埋蔵量が次第に枯渇に向かっていることに最大の原因があると思っているのですが、そうであればあるほど原油先物取引に拍車がかかるので投機資金の流入が見られるでしょう。

しかし投機資金を生み出した原因を考えると、この原因を生み出してきたのは我々自身ではないのか、責任があると思うのです。先ずブッシュによるイラク攻撃はイラクの石油生産能力を破壊し、原油不足に拍車を掛けています。我が国の基準金利は現在でも0.75%ですしアメリカのFF金利も現在2.00%です。この異常な低金利が過剰資金を世界的に供給し投機資金を支える一助にもなっているのではないでしょうか。今後インフレの昂進があれば国内金利も引き上げることにはなるでしょうが、それはそれで新たな問題を引き起こします。

浜 矩子著"グローバル恐慌"(2009)(岩波新書)p.37〜p.44を読んで、日本の低金利の影響について私の見方も間違っていなかったと思ったものです。最近の世界経済、中でもアメリカ経済についてこの本は非常にわかりやすく、また、読みやすく教えてくれます。

今採算がとれなくなって連日漁業者の出航停止が見られます。これではお魚など海産物の高騰も避けられません。車の生産を伸ばすために自家用車の保有を奨励し、食生活でも欧米化を進めてきたのは我々自身ではないでしょうか?昔に比べて随分生活は贅沢になりました。戦争中にいわれた「贅沢は敵だ」とは全く意図するところは異なりますが、インフレ、つまり、もの不足を招いているのは我々の生活スタイルの変化にもあるのではないのでしょうか?原因を外的なものにだけ求める訳にはいかないと思うのです。

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いま考えていること 322(2008年07月)
−−世界文化遺産・平泉−−

平成18年9月14日の外務省プレスリリースには

     我が国政府は、9月14日(木曜日)、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)に基づく「世界遺産一覧表」へ
  の記載物件の推薦について、文化遺産として「平泉−浄土思想を基調とする文化的景観」を推薦することを決定した。

    推薦物件の内容:

    * 概要:
      平泉は、東北地方のほぼ中央に位置し、12世紀に奥州藤原氏により浄土思想を基調として完成された当時の日本の北方領域における政治・
    行政上の拠点である。自然地形に順応して造られた施設とその周辺の農村は、地下に完全な状態で遺存している考古学的遺跡を含め、良好な文
    化的景観を形成している。特にその構成要素である寺院建築や庭園群は、浄土の世界を具現化した空間造形の傑作であり、その背景を成した精
    神性は、宗教儀礼・行事を通じて現在にも継承されている。
    * 所在地:
      岩手県平泉町、奥州市、一関市
と書いてあります。この推薦は去る7月9日「登録延期」になり、事実上落選しました。

歴史にも興味があるので過去2回平泉を訪れたことがあります。そのわたしから見ると、今回の推薦のテ−マ「浄土思想を基調とする文化的景観」というのではどうもピントが合わないのです。浄土思想を基調とする文化的景観は、何も奥州平泉を謳わなくても京都・奈良にもいろいろこのテーマにふさわしい有名な場所、たとえば浄瑠璃寺があります。平泉がわたしを誘うのは、かっての奥州の金を背景にした豊かさであり、京都の朝廷とうまく協調しながらも、あたかも独立国のように振る舞った、あるいは振る舞えた奥州藤原氏の権勢です。平泉には京都と同様の景観があり、円山までありました。これは疑似京都を奥州に作ろうとしたのに違いありません。中尊寺の金色堂は全く浄土そのもので、三代のご遺体が葬られていたのですから浄土思想云々を全く否定するものではありませんが、それよりもまだ中央の政治が完全に地方に及んでおらず、将門の蜂起があり源平の戦いが鎌倉幕府の創設を導くという不安定なこの時代を背景に奥州に覇を称えた当時、奥州藤原氏があたかも独立国のように御所を持った都を作ったということの方が心を打ちました。まして後年鎌倉の兄頼朝に追われた悲劇の義経を庇護して受け入れ、義経とともに滅んでいった悲劇が心に残ります。芭蕉の心を打ったのも「夏草やつわものどもが夢の跡」でした。浄土教では無いのです。石見銀山遺跡のように焦点を絞ればよいので、この藤原氏の個人的な信仰、浄土思想 のような理解しにくい抽象的なテ−マを表(おもて)にしたことに推薦の誤りがあったように思います。日本人が「浄土」という言葉から受ける阿弥陀の世界とこれを英訳した「pure land)」では全く受ける印象は異なり、その溝を埋めるだけでも容易なことではありません。外人を中心としたアドバイザーの助言を得て申請したようですが、もっと日本人自身が自信を持って世界的な視野で意義の認識と説明が出来るようにならないとすばらしい世界遺産平泉は受け入れられず、永久に誕生しないでしょう。

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いま考えていること 323(2008年07月)
−−洞爺湖サミット、成果は?−−

サミットで50年後に二酸化炭素半減を目指すことは共感を得られましたが、それを実現する中間過程の具体的スケジュールはなにも成案を見ず、食糧問題についても具体的成果は見られませんでした。一言で言えば現状認識から一歩もでられなかったと言うことで、所詮G8の限界を露呈したと見られます。我が日本のやったことと言えば七夕の夜の消灯というような見てくれで日本は省エネに努力していますというイベントくらいで何とも白々しいものでした。確かに現在の諸問題は金融不安・石油問題・食糧問題すべておそらく誰が考えても具体的な手段は提示不可能だろうという気がします。仕方がないのかもしれません。あえて成果といえば世界の首脳が直接コミュニケートしたことでしょうか。それだけでもお互い戦争していたことも近い過去にはあったのですから、喜ぶべきことでしょう。

中国や日本には「先ず隗より始めよ」ということわざがあります。やはり大きな責任を持ち現在の温暖化現象を引き起こした先進国から具体的なスケジュールを組み立て実行するのが順序というもので、中国やインドが同じように合意しないと自分はなにもしないというアメリカの態度では温暖化防止は前進しないでしょう。しかし各国にバラバラな対策を迫るだけではこの地球的な問題は解決できませんから、やはり先ず主要なG8で統一して具体的な案を出せないと会議そのものが無意味です。

この文章を読まれる皆さんは必ずしも賛同されないと思いますが、唯一ブッシュ氏に私が同意するのは「原子力発電」の推進です。放射能問題の未解決や発電所の耐震性、原子力発電所の計画から実現までの手続きや建設に10年はかかるなどすべてに満足できる答えにはならないのですが、日ごと進行する地球温暖化の弊害に比べれば、化石燃料を使わないですむ原子力発電の推進は必要だと思っています。

NHKのラジオレポートによるとカナダでは貧困国の食糧危機を論じた会議がそのあと豪華な食事をともにし、アフリカの首脳も誰一人それに異議を唱えて退席すると言うことがなかったことが会議そのものの意義よりも大きく取り上げているようです。

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いま考えていること 324(2008年07月)
−−橋下知事を叩かねばならない−−

私は大阪府知事の政治姿勢には基本的に同感することが多かったのですが今夜の毎日新聞夕刊の記事を見て、むしろ橋下知事の芽は今の内につみ取らなければ彼は独裁者に堕するだろうとの思いが強くなりました。改革者は少なくとも改革の途上でだけでも己を律して、行動しなければなりません。ところが今日の記事によるとお話にならない印象です。具体的には公表されていた「庁内執務時間」中に公用車で北区のジムに行ったということで、そのいいわけが振るっています。曰く「自分で時間を管理するのが特別職。ジムで思いを巡らすこともある」。公用車の使用については「プライベートだが、警備上必要で問題ない」と言いながら帰りはタクシーを使ったと言います。矛盾を感じます。「知事職は意志決定の職業。体調管理や判断できる環境作りも必要」と語ったと言います。これは自らを至高の存在にし何をしようとすべて知事のすることは正しいという意志表示に他なりません。思い上がりも甚だしく、今の内に叩いておかないととんでもない独裁者に堕するでしょう。

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いま考えていること 325(2008年07月)
−−体の調子にどう立ち向かうか−−

今月初めから体の調子がちぐはぐで今なお正常ではありません。私は現在79歳と6ヶ月ですが、月初めに引いた風邪が未だに全快しないのです。夏の風邪は治りにくいとはよく聞くことですが、本人の体調の夏の衰えもあるのでしょうが、いちばん大きい原因はウイルスの種類が冬と違ってなかなかしつこく体を痛めることだそうです。風邪の薬はほとんど飲まずもっぱら日数を重ねて安静で耐えます。ウイルスを退治する薬がないというのですから、症状緩和の一時しのぎの薬は飲まないのです。

入れ歯の調子も悪くなって新しく作ってもらいました。かねて世話になっているなじみの歯科で作ってもらったのですが、調整前は本当に歯茎の部分に痛みがひどく、食事をしようにもしっかり噛めないのです。食欲も減って一時体重も減りました。その後調整してもらってだいぶん楽にはなりましたが、なお、痛みがあり、直らなければもう一度行こうとは思っているのですが、新しい入れ歯との慣れもあろうかと思い今はまだ辛抱しています。食べ物の味もあまり感じられないのです。
昨年春に白内障の手術をし、お陰でものの色はきれいに見えるようになりましたが、水晶体がプラスチックになり焦点が固定するものですから眼が疲れやすくなりました。若くて元気なときには別に意識することもなかったのですが、歯といい目といい造物主からもらったもののすばらしさに早く気づき、もっと大事に使うべきだったという思いがします。すべて失って初めてそのものの価値に気づくのが人間の愚かしさなのかもしれません。

もう一つは脚の膝関節です。痛くて起きあがるのもままならなくなりました。「その内よくなるさ」と思っていたのですが、見るに見かねて長男に病院に連れて行かれました。診断では関節の軟骨がすり減っていて水もたまっていると言うことで、太い注射器で淡黄色の水を抜かれ、ヒアロン酸の注射をしてもらいました。かなり楽になりました。インターネットで“変形性膝関節症”を調べてみると大腿四頭筋の鍛錬がよいと書いてありましたので早速毎日の日課の一つとし、もう四十日ほどになります。二ヶ月も続ければ必ずそれだけの結果は得られるとありますので今も続けています。多少楽になってきたようで少なくとも悪くはなっていません。こちらも歩くというごく普通のことができなくなって、正常であったときを懐かしんでいます。ただ静養するのでは筋肉の劣化が進みさらに不都合な廃用性萎縮が起こりそうなので、夕方はソロリと歩いて散歩しています。
これまで人様には歩かないとだめだと偉そうに説教していたのですが、やはり老齢には勝てず自分が長年続けてきた朝の散歩は今なお中断しています。歩くことは糖尿のコントロールの手段でもありますので、今の気持ちでは、そのうちにまた一日一万歩の散歩を再開できればと思っています。病院の先生はヒアロン酸の注射にまた来なさいと言っておられましたがその後行っていません。新聞の広告で連日「コラ−ゲン」「ヒアロン酸」服用剤が目につくのですが、はたして効果が期待できるのかわかりませんので、もっぱら大腿四頭筋の訓練に励んでいます。自然治癒力に頼る気持ちと悪いことが起こるときはその時期の過ぎるのを−−“待て!而して希望せよ”とモンテクリスト伯のような思いもあるのです。

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いま考えていること 326(2008年08月)
−−新内閣に期待はできない−船頭多くして船(ふね)山に上る

今夕福田さんは内閣改造に踏み切りました。当たるも八卦当たらぬも八卦ですが、私の考えを書いておきます。支持率低下に悩み、国会のねじれ現象、公明党との不一致に悩み福田さんは自民党の主力を網羅した内閣を編成しました。一見強力に見えるのですがあまりにも大物の登場で、福田さんの器量ではコントロール不可能だと思います。結果としては新しく任命された方たちも互いに同僚に遠慮がありますから、三すくみの状態に陥るでしょう。要はこれだけの人材を福田さんではコントロールできないところに欠点があるように思います。いよいよ福田内閣の末路も近づいたというのが率直な感想です。

財政再建に於いても路線を異にする人たちが入り交じっていますし、首相に器量があれば異なる多くの意見を止揚して良い結論を見いだせるのですが、福田さんにはこの止揚(アウフヘーベン)力が欠けているので結局空中分解するか何も新しい方策を内閣全体として強力に打ち出せないと言うのがわたしの見るところです。会社でも個々には優秀な社員を抱えていても、経営陣、中でも社長が社員を統率できず、決断と指導力がないところは優れた業績の確保はできないものです。民主党の小沢氏についても本質的にわがままで包容止揚する器量の欠如を以前から感じているのです。

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いま考えていること 327(2008年08月)
−−社説の主張にも矛盾−−

今日の毎日新聞社説は“臨時国会召集”でした。冒頭「理解に苦しむ対応である。自民、公明両党は次の臨時国会をいつ召集するか協議しているが、まとまらず、福田康夫首相が当初、検討していた今月下旬の召集は見送られる可能性が強まっている。」とのべ、毎日新聞が早急に国会を開き、与野党が真剣に議論するよう再三求めてきたのは、原油高や食料品の高騰、景気の先行き不安など国民生活が脅かされているから福田首相の言う「国民の目線」で考えてほしいためだと書かれています。さらに社説を読むと国会召集を先送りしようとしているのは、公明党が特措法延長再可決と衆議院解散時期との重なりを考慮して党の都合から国会召集を遅らせることをのぞみ、自民党も含め与党内には最近の物価高や税金の無駄遣いなど、「国会を開いても野党に攻め込まれるだけだ」との声があるからだと言っています。では首相が、元々、8月下旬に国会召集を検討しているのは「新テロ対策特別措置法が来年1月に期限が切れることから、同法を延長するために審議時間を確保したいというのが主な狙いだ。」という社説のくだりはどうなのでしょう。早期に召集しようと来月召集しようといずれにせよ「暮らし」を安心なものに返すためではないわけです。国民の願いと自民・公明両党の思惑には相容れないものがあるようです。

民主党の先頃の首相問責決議も何だったのでしょう。首相、公明党、民主党その他の党の主張も所詮は党利党略でまともに信ずることはできません。いずれも本当の原因を明らかにしそれに対してどう対処するか具体的な政策展開を望めなくなっているのが現状です。原油高・穀物高は国内の対策では解決困難で、あたかも国内で手を打てるように見せかける石油費の直接補填をするなどと言うのも選挙対策にほかならず、またこの借金国日本の赤字をさらに増やすだけです。借金を減らし払うべき利息を減らすことが新しい施策展開の根元であることに手を拱き、野党が新しい高齢者医療改革案を提示もせずに後期高齢者保険を元に戻せなどと言うのも一見もっともなように見えますが、このままでは医療保険制度全体を近い将来崩壊させることになるだろうということは私でも予想でき、高齢者も一定の負担をしたいと思っています。元に戻せと言うだけなら愚人でもできることです。私の心には「政治不信」の気持ちが日ごとに強くなっています。

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いま考えていること 328(2008年08月)
−−証券優遇税制−−

先日次の記事が新聞で見られました。『自民党の麻生太郎幹事長は九日、札幌市内で講演し、経済対策の一環として証券優遇税制の拡充を検討していく考えを明らかにした。一人当たり三百万円までの株式投資について配当金を非課税とする「証券マル優制度」(仮称)の創設を提案。証券市場の活性化策を講じ、株価上昇につなげるべきだと主張した。来年度税制改正の焦点の一つとなりそうだ。税制改正の基本方針は「貯蓄から投資へという流れを税制でやる」と表明。具体策として「一年間保有した株式の配当金を非課税にする」ことも挙げた。』

直ちに反論も載せられました。曰く『金持ち優遇だ』。わたしは基本的には麻生案に賛成です。金持ち優遇と単純に言えないのは三百万円という上限が示されていてむしろ少額投資者に対する優遇になっていること、また「一年間保有した株式の配当金を非課税にする」ことはいわゆるデイ・トレーダーを排除し、投資家でない投機家を優遇するものでないからです。さらに付け加えると株式や投資信託を保持する者、即、金持ちではないからです。さらに私たちの年金の積立分も将来に亘って支払いをしていくためにただ持っているだけでなく資金運用で一定の利息を確保することが前提になっており、現在の低金利下で年金資金もむしろ支払い超過になっているからです。わたしも40年に亘り長期共済掛金を払ってきましたから、伊吹さんも言うように、長生きしたのであるいは支払った額から予想された額以上にすでに受け取っているかも知れませんが、運用利息が現状では著しく予定よりも下回っていることも支払い超過の原因かも知れません。

一番言いたいことは株式や投資信託を保持する者、即、金持ちというような単純な方程式で物事を考えては何によらず判断を誤る危険があると言うことです。いろいろな角度から自分の頭で吟味する習慣をつけましょう。単純に教科書的に結論してはなりませんと言うことです。前項で述べた政治不信の根元もここにあります。一つの尺度だけで考えた結論に簡単に同調していては新しいことは何も出来ないのです。自分の頭で考えましょう。老化の防止にもなります。

証券からの利潤に一般の預金と同じ20%の税金を掛ける方がおかしいのではないでしょうか。預金にはいくら少なくても安全に利息が付いてきます。しかし証券投資には常に儲けどころか損失、時には破滅的な損失が伴う危険がつきまといます。これらの危険を緩和するために証券税制には損益通算という便宜はついてはいますが、安全な預金利子と損失の危険を伴うキャピタルゲインや配当を同列のものとするのは論理的に無理があります。わたしは証券投資のゲインに対する税はいくら多額に株式を保有する人に対しても20%でなくて原則15%とするのが妥当かと思っています。まして少額の零細株主にはゼロにしようという提案には賛成です。

(2008年8月26日追記)「茂木敏充金融担当相は22日の閣議後会見で、高齢者を対象に株式配当・譲渡益を非課税とする株式版「マル優制度」の創設を、今月末に提出する来年度の税制改正要望に盛り込む方向で検討していることを明らかにした。」と報ぜられました。 それ相応の経験と手腕を要する株式投資に老齢者を引きずり込むことは悪くすると高齢者を貴重な財産喪失の危険にさらすことになりかねません。金融相はこの危険に責任を負うことは出来るのでしょうか?未経験高齢者は投資の指南を証券会社などの言いなりになりかねないのです。 新しい鴨が来たとほくそ笑む人の跳梁に任せるのでしょうか?証券税制の改革には賛成ですが、一般預金と投資とは根本的に異なり時には全財産を失うことも担当大臣としては実施に当たっては声を大にして説くべきです。

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いま考えていること 329(2008年08月)
−−南オセチア紛争−−

ここしばらくの新聞を見ているとロシアがグルジアに戦争を仕掛けたという印象でした。私の疑問は民族独立という見地で、当のオセチアの人々はどうなのだろうと言うことでした。新聞にはこの点についての情報が全くといってよいほど出てこないのです。

仕方がないのでインターネットでそのあたりの参考になりそうなことを検索してみました。文字をそのまま真実と受け取るのは危険ですが、歴史的な事実だけは把握できたように思います。参考にしたのはウイキペヂディア南オセチアです。この2つを読むと、この地帯では古くからグルジアと南オセチアの間では独立をめぐって対立があり、南オセチアが一方的にロシアへの帰属を宣言したがロシアから承認を取り付けられなかったということもありました。1989年には南オセチアの公用語をグルジア語に決定したのを契機に紛争が起こり、グルジアは南オセチア自治州の廃止を強行したこともありました。また南オセチア側はロシア・北オセチア共和国への統合を求めて武装闘争を起こし、1992年にロシア・グルジア・南オセチア・北オセチアの間で協定が結ばれて停戦したこともありました。今回の紛争はどうやら親米路線でイラクへも派兵しているサーカシビリ大統領がアメリカの力をバックにして、この協定を無視して支配の強化を図り、その行くつくところグルジア軍が停戦ラインを超えて南オセチアに侵攻したことから始まったようです。米露の代理戦争なのかも知れません。

どうも一方的なロシアの攻撃とばかり受け取るのは真実ではないようです。この場合、ニュースの背景になる民族紛争を見ないで新聞記事を読むと、間違った印象を持ってしまう例かもしれません。

ブライザ米国務副次官補が2008年8月19日明らかにしたところでは、今月に入ってグルジアからの分離独立を求める南オセチアの部隊が砲撃を繰り返していたため、グルジア政府が「村や人々を守るために停戦を解除せざるを得ない」と米側に通告してきた。
これに対してロシア軍の介入をおそれていた米政府は「ロシアとの対決は避けるべきだ。ロシアは戦車を即座に動員できる。戦車を阻止できたとしても空爆を受ける。勝ち目はない」と説得したが、グルジア側は進軍させ、ロシアの軍事介入が始まったという。ブライザ副次官補は「想定していた事態が起きてしまった」と語った。(毎日新聞夕刊2008年8月20日ワシントン小松健一)

(2008年8月26日追記)バランス・オブ・パワーの危機(冷泉彰彦)も御覧になりませんか?

(2008年8月27日追記)
ロシアが南オセチア自治州、アブハジア自治共和国の独立を承認したことにアメリカをはじめ西欧諸国は猛反対ですが、民族自決という立場で見ますと、両自治体では民衆は独立を歓喜して祝賀しているようです。

愚見を述べますと、アメリカの力をバックにして権力の拡大を企てたサーカシビリ大統領がロシアの介入を受けて敗北し、結果として両自治体の民衆の願っていた独立に進展したということではないでしょうか。結果を招いたのはサーカシビリの野望が原因であったのではないでしょうか。

(2008年9月03日追記)グルジア紛争を巡る露・米・欧の立場 経営コンサルタント 大前 研一氏(2008年9月3日)も参考にしてください。

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いま考えていること 330(2008年08月;2009年6月)
−−地球温暖化と原子力発電−−

世界のエネルギー問題を考えるとき、できるだけエネルギーの消費を押さえるいわゆる「省エネ」がまず第一歩ですが、やはり生きて行くにはエネルギーの消費がついて回ります。どうしても人間生活に必要なエネルギー消費とそれをカバーするエネルギー供給源の量的収支がバランスしているかが十分検討されていない議論ではお話にならないと思います。太陽エネルギー、水力エネルギー、風力エネルギーいずれも理想的なものですが、そこから得られるエネルギーの総量が人間の必要とするエネルギーを賄えるのかの検討が先ず必要です。

今日の毎日新聞『発言席』は東大大学院荒川教授の“風車の事故防止”についての発言でした。教授の主張は「自然エネルギーの中でも発電コストが低い風車の果たすべき役割はきわめて大きい」が現状では大型風車の回転翼の折損やタワー倒壊などの事故が報告されており、このトラブル情報を共有してトラブルを乗り越えていこうということでした。現在の日本の風車設備容量は1.7ギガワット(GW)、政府目標の2010年でも3GWで総電力の1%にも満たないとのことです。これは台風や雷の発生などに日本独自の気象条件があるからのようです。

太陽光発電には、本質的に太陽から来ているエネルギーは毎分1平方センチあたり約2calという制約があります。しかも技術的に2calをすべて電力エネルギーに転換はできないのです。現在最高でも20%程度です。地球全体海の上も砂漠の上もパネルを敷き詰めて、完全に自然エネルギーで必要なエネルギーをまかなうような話がありますが、そのようなことは絶対に不可能ですから、やはり補助的な発電手段だと思って間違いないでしょう。

スエーデンではバイオ燃料が炭素税の免税対象になっており、バイオ燃料の普及が進んでいるようですが、バイオエタノール生産には食糧であるトウモロコシが利用され、バイオディーゼルには食用油脂が利用されて、食糧危機を招き、さらにバイオ燃料の作物を作るために森林を伐採開拓するようでは森林の二酸化炭素吸収を阻害してしまいます。07年に「食糧と競合しない日本型バイオ燃料開発」を日本政府は掲げましたが非食糧系原料の栽培から収穫、輸送、製造までの過程での二酸化炭素排出量など未解決の問題をかかえNPO法人バイオマス産業社会ネットワークの泊みゆき理事長は「二酸化炭素削減と低コスト化には大規模生産が必要で日本では困難。十分な実現性の検証が必要だ」と指摘しています。(毎日新聞朝刊2008年8月22日)

一昨日の毎日新聞には日本はじめアフリカを含む世界各国で大幅に原子力発電の導入が計画されているという記事が見られました。地球温暖化による北極氷やヒマラヤの氷河の融解がすでに現実のものとなる様相を示し、温暖化防止の動きは今や即刻の着手が要請されています。このいわば地球崩壊の危険は現実の切実さを持っており、私は原子力発電に伴う放射物質生成とその処理が未開発だという危険よりも差し迫って緊急なものだと思っています。石油が遠からず地球から枯渇してしまう現実も遠い将来のことでなくなっており、投機資金の流入による以上に原油価格の高騰は必然性を持っています。原油への投機は山場を超えたようで当面少し原油価格は下がるでしょうが、世界的に原油の使用は無限に可能ではないという認識が必要です。また、プラスチックスは石油か回収したプラスチックの再生しか当面原料として利用できませんから、限りある石油を燃料として使うことは由々しい問題です。このような現実の中でやはり未来のエネルギー源はアインシュタインが明らかにした質量とエネルギーの同一性を利用した質量をエネルギーに転換する方法でしょう。我々は唯一の被爆国ですから、核分裂によるエネルギー利用には本能的に忌避したい感覚があります。人間にとって“感覚”は重要で何をするにしても無視することはできませんが、正面から現実の課題の解決に乗り出すときはもう一方で“理性”に問う必要があります。

一時ヨーロッパでも原子力発電廃止の動きが盛んでしたが、理性は原子力発電の利用が地球温暖化防止にはどうしても必要だと迫っています。原子力発電再開の声が大きくなってきました。

(2009年6月追記:Bloombergから) 欧州原子核委員会(NuPECC)スペイン代表や政府の原子力政策アドバイザーを歴任したセビリア大学のマヌエル・ロサーノ・レイバ原子物理学主任教授によると、現サパテロ政権は原子力発電からの撤退という選挙公約を撤回し、同国北部エブロ川沿いにある築38年のサンタ・マリア・デ・ガローナ原子力発電所(46万6000キロワット時)について今後10年の稼働許可を出す可能性がある。

 政府は同原発の運転許可が失効する7月5日までに閉鎖するか、新たに10年の稼働許可を与えるか決定を下す予定だ。原子力安全委員会(CSN)は8日、安全要件を含む15件の条件を満たすことでガローナ原発に対し10年の運転延長を認める提言を産業省に提出した。

 ロサーノ教授は「大統領がガローナ原発閉鎖に踏み切るとは思えない。1000キロワット時当たり36ユーロ(約4900円)で発電を行う産業の停止は不当だからだ」といい、同量の電力を石炭や天然ガス火力発電で生成すると60ユーロ、風力発電は85ユーロ、太陽光発電では450ユーロかかると説明した。

 また、天然ガス火力発電が増えるとエネルギー費用上昇につながる上、安定供給面で問題があるとして、「ガローナ原発を閉鎖すればガス火力発電に5〜10億ユーロを投じる必要があろう。火力発電は大気を汚染する上、ガスの供給をアルジェリアに頼ることになる」と語った。

(2009年6月追記:毎日JPから) 新たに原子力発電の導入を目指す途上国に日本の技術を売り込むため、産学官一体の「国際原子力協力協議会」が18日設立された。フランスやロシアでは大統領が「トップセールス」を展開しており、日本も総力を結集して戦略を練っていく。設立総会で、二階俊博経済産業相は「エネルギー確保と温暖化対策から原発が再評価されている。核不拡散と安全面で日本の果たす役割は大きい」と語った。

   協議会には、原子力の推進・規制行政を担う4府省や電力やメーカーの業界団体、国際協力機構、学会など12団体が参加。「考えられる限りを集めた初のオールジャパン体制」(事務局の経産省)で、途上国の要望を分析し役割分担などを話し合う。

 当面、17年に原発導入を計画するアラブ首長国連邦や20年予定のベトナムを軸に、未整備な法制度づくりや原発管理技術、人材育成などを多面的に支援する。また、関係を深めることで原発受注をめざす。 (2009年6月追記)日本でも温暖化対策の一環として原子力発電所の建設と稼働率の引き上げが課題となっています。2018年までに原発9基の新設、稼働率81%への引き上げです。OECDは1930年以降世界で年間23〜54基ずつ増えると試算しています。しかし日本の場合新規立地点の目途も立っていないようです。

現在の日本での計画は平成21年度電力供給計画における原子力発電の開発計画のうち4.今後の電源開発計画(1)原子力発電の開発計画をご覧ください。

ここで私たちは原子力について最低限の基礎知識をわきまえていないと大変なことになることを認識せねばなりません。以前、ウラニウム資料をバケツで取り扱って臨界状態を招き、致命的な事故を引き起こした事実が日本で見られました。この事故は「臨界質量」の概念の未教育があったのでしょう。またロシアのチェルノブイリ原子力発電所で大きな放射能事故が発生し広い地域に放射能被害を及ぼしたことは記憶から拭い去ることができないものです。原子力の利用にはこれまでの常識を一段越えた取り扱いの常識が不可欠です。これからの新しい時代を生きていくために世界のすべての人が、原子力取り扱いにはこれまでと異なる基礎知識を備えていないと大変なことが起こりかねません。政治家はもちろんのことですが、理科系でない普通の人にも原子力教育が不可欠な時代が来ようとしているのではないでしょうか。まして通常のウラン235の核分裂で派生する中性子をウラン238に吸収させて変換生成されたプルトニウムを新しい核分裂原料とし、これを再利用しようという壮大な試みを高速増殖炉「もんじゅ」で手がけているこの日本では他の国以上に知識の上でも技術の上でも高いレベルが要求されるのです。現実化する以前に慎重な実験的な取り組みとデータの積み重ねが必要なのですが、高速増殖炉「もんじゅ」の事故にも、また最近の六ヶ所村での放射性廃棄物の硝子化処理の失敗にもこの一歩一歩という慎重さが欠けているのが見られ、当然といえる失敗を重ねているのが日本の現状です。

(2011年3月追記)東北関東大地震に伴って現在福島原発の非常な危機が世界的にも大きな問題になっています。私は原子力発電が必要だと考えてはいますが、多くの東北の人たちの生存を脅かし、域外への転出まで迫っている現状はこれまでの国および電力会社の安全への取り組みの甘さを認識させるもので、ことに今回の福島原発建設に当たっても貞観三陸地震 の例もあり厳しい耐震設計を唱えていた学者もあったにも拘わらずその意見を無視して現在の福島原発設計を強行した電力会社と政府の甘さの徹底的な追求が必要でしょう。これは当事者の責任を問うばかりでなく今後の原発建設への布石としても絶対に必要なことだと思います。今回のような大事故を引き起こす可能性を持つ原子力発電所の建設は認めるわけには行きません。今後日本ではこの問題が解決するまで何十年にわたって新規原発の建設は出来ないものと考えます。

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