青 春

Alabama大学出版局からでているM.E.Armbrester著Samuel Ullman and "Youth" (1993)の序文は、Toppan Moore Companyの Jiro M. Miyazawa氏が書いておられます。それによると、日本に多くの愛好者が見られるこの詩は、1945年12月号のリーダーズ・ダイジェストにこの詩が掲載され、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥がいつも机の側に置いていると報じたことがきっかけになって廣く愛好されるようになりました。
MacArther元帥が愛好していたのは元の詩そのものではなくて、John W. LewisがSamuel Ullman の詩を少し改めて、元帥に贈ったもの。岡田英明氏からのご教示及びその後の私の調査で明らかになったのは、マッカーサーがオーストラリアのメルボルンにいた1942年4月11日にマッカーサーの賛美者ジョン・W・ルイスという人から元帥及び夫人に送られた「How to stay Youth」という詩でありました。1944年に従軍記者Frederick Palmerがマニラの司令部にMacArther将軍を訪ねたときに、ワシントンとリンカーンの写真にはさまれて飾ってあったこの詩と由来を知りました。1945年9月30日にPalmerはこのことを“This Week”紙上に掲載しました。マッカーサーは東京の司令部にも同じように飾っていましたが、経済復興の相談のために呼ばれた後の電力王松永安左衛門氏の目に留まり、この詩に感動されて写し取られ、日本語に翻訳して友人や仕事仲間に配られたのが日本で広まるきっかけになりました。
このような経緯でこれまで日本で一般に広まっているのはUllmanの元の詩ではなく、このルイスによっていわば原曲から編曲された詩なのです。多くの人を魅了している岡田義夫氏(1968年没;市民有志による「青春の碑」が、平成5年(1993)出身地、埼玉県蕨市に建てられました)の訳詩も、Samuel Ullman の“Youth”の訳ではなくこのLewisによる“How to stay Youth”の訳です。格調も高い名訳ですが、現在の眼で見ると少し難しい語句が使われていますので、下に若い人向きの試訳を示してみました。


青春とは人生のある時期のことではなく、
心の状態をいうのだ。
青春のあの高邁な意志、
想像力はすぐれ、
物事に激しく感動し、
臆病さよりも勇気が、
安易さに慣れ親しむよりも
冒険を好む心が、勝る



Youth is not a time of life;
it is a state of mind.
It is a temper of the will,
a quality of the imagination,
a vigor of the emotions,
a predominance of courage over timidity, of the appetite for adventure over love of ease.


長い年月生きてきたというだけで
誰も老いはしない。
理想を捨てるときにはじめて老いる。
歳月は皮膚の皺を増すが、
物事に感動しなくなると魂が皺む。
心労、疑い深さ、自己不信、
恐怖、失望、こういうものが
長い長い年月と化して、
人の頭をうなだれさせ、
よりすぐれたものを追い求めようとした
精神を塵芥に変えてしまう。



Nobody grows old by merely living a number of years;
people grow old only by deserting their ideals.
Years wrinkle the skin, but
to give up enthusiasm wrinkles the soul. Worry, doubt, self-distrust, fear and despair--these are the long, long years that bow the head and turn the growing spirit back to dust.


年は七十であろうと、十六であろうと、
すべての人間の心には、
不思議なものを愛する心、
星や、星のようにきらめく
すばらしいものや考えへの
心地よい驚き、
物事への恐れを知らぬ挑戦、
子供のような次に起こることへの
限りのない好奇心、人生のよろこびや
人生を競技のように楽しむ心が潜んでいる。



Whether seventy or sixteen, there is in every being's heart love of wonder, the sweet amazement at the stars and the starlike things and thoughts, the undaunted challenge of events, the unfailing childlike appetite for what's next, and the joy and the game of life.


信念を抱きつづける限り若く、
信念に疑いが兆すとき老いる。
自信を持っている内は若く、
恐怖を抱くようになると老いる。
希望を抱く限りは若く、失望と共に老いる。



You are as young as your faith, as old as your doubt;
as young as your self-confidence, as old as your fear, as young as your hope, as old as your despair.


あなたの心が、
美、快活さ、勇気、壮大さ、力を、
大地からの、人からの、造物主からの
メッセージとして感じ
受け取れる内は青年だ。



So long as your heart receives message of beauty, cheer, courage, grandeur and power from the earth, from men and from the Infinite so long as you are young..


もはやこういう感受性が失われ、
あなたの心の髄が
雪にもたとえられる厭世観や
氷にもたとえられる皮肉で
閉ざされるようになったとき、
あなたはいよいよ本当に
年老いたのであり、神の慈愛が
魂を救ってくださるだろう。



When the wires are all down and all the central place of your heart is covered with the snows of pessimism and the ice of cynicism, then you are grown old indeed and may God have mercy on your soul.

Palmerによる“This Week”紙上掲載の後、原詩の作者が自分達の祖先であるとみとめられることを願ったUllmanの家族はUllman80歳記念に出版された詩文選“From the Summit of Years, Four score”1922年版に収載されていた元の“Youth”を“This Week”紙に送付したのです。 その3ヶ月後“Reader's Digest”がこの原詩を掲載し、初めて広くアメリカで"Youth"と作者Ullmanが認められたのでした。日本語版“リーダース ダイジェスト”に掲載されたのは1946年1月のことです。
1998年3月23日、群馬県前橋市前橋文学館前に『青春の碑』ができました。立派な黒御影石の左側には英語の原文が、右側には作山宗久氏(「“青春”という名の詩 幻の詩人サムエル・ウルマン」(1993(三笠書房))の共著者の一人)の訳文が彫られています。この碑に彫られたのは、John W. Lewisの詩ではなくて元の詩、つまりSamuel Ullman の詩です。前橋市はウルマンの住んだアラバマ州バーミンガム市と友好都市だそうです。注にこのオリジナルのUllmanの詩“Youth"を記しておきます。較べてごらんになればわかるように、当然のことながら本質的には同じことがうたわれています。

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