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注 沖縄タイムスから

今晩の話題 (2007年7月3日 夕刊 1面)
「まなざし」

 通院中の病院の待合室で、聞こえてきた。「あったことをなくすってひどいねー」「本当にもう大変さ。わじわじするね」

 どうやら、歴史教科書の検定問題の話題のようだ。会話の主は七十代か八十代と思われるおばあちゃんたち三人。人生の歴史を刻んだしわたっぷりの顔の中で、まなざしはしっかりと怒っていた。

 文部科学省の検定で高校日本史教科書の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の記述から日本軍の関与が削除された問題は、県内でさまざまな波紋を広げている。

 県議会は全会一致で検定の撤回と軍関与を教科書に明記するよう意見書を可決した。県内四十一市町村のすべての議会も続いた。県議会で仲里全輝副知事は「広い意味での日本軍の関与があったと思う」と「軍命」に言及した。

 一方で、文科省側。沖縄からの繰り返しの抗議の声に「教科用図書検定調査審議会が審議するもので、文科省は口を挟めない」などとにべもない。当然、検定撤回は困難との姿勢だ。

 「過ちを認めない」というのは官僚の特性の一つと言われている。このため、自らが決めた事柄を他からの意見で変更するのはもってのほかというのがあの世界では常識だ。

 しかし、さまざまな証言や研究から「集団自決」の存在は、沖縄では常識だ。「あったことをなくす」行政や政治が横行していいはずがない。「過ち」を認める度量を示し記述の復活をすれば、あのまなざしはしわのように柔和になるだろうに。(金城雅貴)

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注 「人生の最期をどう迎えるか」

JMM [Japan Mail Media]                 No.497 Extra-Edition2 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━                         http://ryumurakami.jmm.co.jp/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼INDEX▼ ■ 『平らな国デンマーク/子育ての現場から』 第68回   「人生の最期をどう迎えるか」  ■ 高田ケラー有子 :造形作家 デンマーク北シェーランド在住 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ 『平らな国デンマーク/子育ての現場から』            第68回 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「人生の最期をどう迎えるか」  しばらくご無沙汰しておりました。今年の夏の帰国は、50歳になった私に大きな 試練をくれました。一人暮らしをしていた父(84歳)が、7月の帰国時、猛暑から 食欲を無くし激痩せしており、あまりにつらそうなので、病院に連れて行って、その まま入院。8月中旬に息子の学校が既に始まっていることもあり、一度デンマークに 戻ったのも束の間。ここ2〜3日が山、と言う知らせを受けて、再び日本へ。8月2 9日に静かに息を引き取りました。  今から思えば、なぜこんなことになったのか、後悔することばかりで、この日本で の経験を人がその人生の最期をどう迎えるのか、どう迎えたいのか、デンマークでの 経験や実情なども含めて、誰にでも訪れる日の備えとして、書いてみたいと思います。

 父の場合、栄養失調と衰弱のため入院したわけですが、入院時には自分で歩けてい たはずが、次第に歩けなくなり、検査検査と続けて行くうちにあれよあれよと衰弱が 激しくなり、その状態から誤嚥(ごえん)性肺炎になったため、そのまま点滴のみで 命をつなぎ、最後は水さえも飲めないまま、誤嚥性肺炎を引き起こしてから9日目に 亡くなりました。入院から36日目のことでした。

 入院当初は、私と息子が父の住んでいたマンションから毎日お見舞いに行くという 形で、姉も毎日車で40分の距離を通っていたのですが、早く退院したいという父の 希望と(退院したら姉と同居することをようやく決めてくれたところでした)、機械 的な医師の対応になんともいえない不安を抱き、検査はもういいから退院させようと 思ったのですが、肺に影があり肺癌の可能性が高い、といわれたため、そのまま言わ れるままに更なる検査をしたのでした。

 その癌の精密検査の結果を待たずに、後ろ髪を引かれつつ私は一度デンマークに戻 るのですが、結果が出る前に誤嚥性肺炎となり、検査の結果としては癌ではなく、 あったはずの影もすっかり消えていたのですが、その時点で血小板の数が激減し、い つどうなってもおかしくない状況、ということでトンボ帰りしたのでした。

 医師不足の中、過酷な労働条件で日夜働いていらっしゃるお医者様を批判するつも りではなく、医療の一現場を実際にこの1ヶ月(たった1ヶ月でもありますが)父と ともに見て来た家族の立場から書くと、素人考えではありますが、病院も私たちもそ れぞれの立場でできるだけのことをしてきたと思いたいのですが、もっと早い段階 で、全ての検査を断って、体力の回復のみにまずは集中してもらった方がよかったの ではないか、という後悔が残っています。

 病院もできるだけのことはしている、というのは理解しつつも、していただいてい るのは、弱り切っている年寄りの顔色を見ながら元気にすることではなく、検査と言 う方法論でデータ重視でとことん悪い箇所を調べてから対処したいという、どこかシ ステム先行型の対応であったことに、違和感が残っています。もっと体を触って本人 の意思を丁寧に聞いてもらうなど(私たちももっと父と話すべきだったのですが)、 患者本人と医師との対話がなかったことが、「人を看る」という観点から何か一番大 切なものが欠如していたように思えてならないのです。

 与えられる食事は、心臓食とかいう塩気のないもので、食欲が増すどころか「まず い」と言ってほとんど食べず、ますます体力がなくなって行く。それに対する医者の 処置は、本人がおいしいと思えるものを食べさせてくれるわけではなく、点滴での栄 養補充。そして次第に自分の口でものを食べられなくなってしまう。それならば、減 塩食など無視して、せめて最期の数週間でも父が食べたいと思えるおいしいものを食 べさせてあげたかったと思うのは、家族の心情としては拭えないものがあります。

「お歳ですからねえ」という医師。そこには「もうどうしようもないですねえ、寿命 です」と言われているようなもので、最初から元気にしてあげようと言う意気込みは 医師からは感じられず、「とりあえず、2〜3週間入院してもらいましょう」と言わ れたその時点で、他の病院に行くなり、父の意思をはっきり確かめるなり、私たちが できたことは他にもあったかもしれません。ただ、その時点に戻って別の道を選択で きたとしても、実際やはり寿命で、検査を繰り返さなくとも同じ結果が待っていたか もしれず、何をしていてもまた別の後悔が残る、というのが身内を亡くす、というこ となのだろうと思います。でも最期の最期、もう何も言えなくなった時に、せめて父 の意思がわかるものがあったならなあ、と思うのでした。

 私が再びデンマークから戻った時には、一般病室から重症患者の病室へと移されて いましたが、ここでされていたことは、看護師による医師の指示通りの処置と1週間 に4日の主治医の診察(土日と、平日の内1日は主治医の診察はありませんでした) のみでした。看護師の目はできるだけ行き届くように配慮されてはいましたが、それ でも看護師もやはり手が足りていない様子で、この病室だけに集中できない現状も垣 間見ました。平日は毎日血液検査をしてくれていましたが、主治医はその数字だけを 見て、父の顔色や全身の様子などは、看護師さんのほうがよく看てくれていたくらい で、この段階ではすでに医師としてはできるだけのことはしているしこれ以上できる ことはない、というだけでした。

 ただ、このとき思ったことは、ひと昔前なら、もう既にこうなった時点で死んでい るだろうなあ、ということで、医学の進歩を良しとするべきなのか、ただ点滴だけで 命をつながれ、また、点滴などを外さないようにと手袋をはめられ、ベッドに両手を 括りつけられている父が哀れでならず、こんなふうにただ命をつなげておく処置の意 味を深く考えさせられました。

 そして、父と同じ病室の他のお年寄りも、同じように数々のチューブで命をつなが れ、このチューブがなければ死ぬのであろうことを、それぞれが理解しながらも、外 してしまう現状も見てきました。父も、実際手袋を必死で外して点滴を外したことも あり、「なんでこうなったのかわからん」と言い残した(実際には声にはならず、口 の形を読みました)無念さが、他に何もできなかったかもしれないけれど、心に引っ かかりを残しています。

 ただ、もちろんむりやり退院していたとしても、自宅で誤飲して呼吸困難に陥って いたかもしれず、そうなっていれば、そばにいて何もできずにうろたえていただけか もしれないし、なにをどうすべきであったと言い切れないことも十分理解していま す。実際、同じ病室に数日前までいたお年寄りは、自宅で誤飲したことが原因で誤嚥 性肺炎となって、救急車でたらい回しになったそうで、65歳以上のお年寄りの死亡 原因のトップにもなっている肺炎がいかに怖いか、ということも改めて知ったような 次第でした。

 ちょうど、私が再度帰国した期間中、朝日新聞の生活面で「人生のエンディング」 というテーマで週一の連載記事が掲載されており、その中でも同じように父親を病院 で亡くした方の似たような体験談も載っていました。

 その記事の中にも出ていましたが、今、日本ではこうして病院で亡くなるケースが 80%を超え、自宅で亡くなる人は20%以下。1951年の時点では、この数は ちょうど逆で、自宅で亡くなる人が80%だったのが1975年には半々となり、そ のまま数値が逆転してしまったようです。

 この数字が意味するものは、病院と言う器に頼りすぎる現代人と、人が人らしい最 期を迎えられたかどうかの数字でもあるような気がして、人の命の尊さや親を大切に 思う気持ちなど、失われつつある大切なものが、データやシステムなど機械的なもの に埋もれ、自宅と言う一番自分がしっくりくる場所から大切な最期の時間を遠ざけて いることを示しているように思います。思えば私自身も産婆さんに取り上げてもらっ た命で、昔は自宅で生まれ、自宅で息を引き取るのが当たり前だったようにも思いま す。

 幼い頃、祖母が「ポックリ死ねるようにポックリ寺にお参りに行く」などと言って いた意味が、ようやくわかったような気もしました。少なくとも、最期にどんな医療 や介護を受けたいのか、延命処置を望むのか、検査などはしなくていいのか、その意 思を家族に知らせておくことは大切なことだと痛感しました。

 お葬式も、昔は自宅や集合住宅の集会所などで行われることが多かったのが、立派 な葬儀場が次々にでき、そこでするのが一般的、というか、楽と言うか、形式化して 来ているようにも思えます。病院に来てくれる寝台車が、そもそも葬儀屋の寝台車で それが葬儀場に直結していることもあり、自宅での葬儀ではなく葬儀場での葬儀の方 が遺族の負担も少ないということで利用者が多くなっているのでしょう(もちろん、 自宅にも運んでくれますが)。

 かく言う私たちも、夜間に死亡の知らせを受けてから病院に駆けつけ(その日の検 査結果ではデータ上は上向きで、長期戦を覚悟して帰宅したあとにひとりで逝ってし まいました)悲しんでいる間もなく、「寝台車はどこか予定していらっしゃいますか ? うちは○○社なら来てくれます」という病院に、予定などしているわけもなく、 他を頼むこともできず、またそのあてもなく、自動的に○○社という葬儀屋を使って そこが持つ葬儀場で葬儀をすることになる、という半ばシステムに組み込まれた展開 になったのでした。

 こうしたことも、もし人生の最期をどう迎えたいか、父と話す機会があったなら ば、誰を呼んで欲しくて、どこでどんな葬儀にして欲しいか、聞いておけたものを、 そんな話、もちろんしたこともなく、父がどうしたかったのか、さっぱりわからない ままだったことも、一つの残念です。

 葬儀にかかる費用がバカにならないことも、日本事情に疎い私には驚きでした。日 本では死ねないな、とマジで思いました。僧侶へのお布施の金額にも驚いてしまいま したが、こんな言い方をするとありがたいお経を上げていただくお坊さんには大変申 し訳ないのですが「坊主丸儲け」という言葉がよぎったのは、事実でした。若い人の 1ヶ月のお給料を遥かに上回るお布施。父のことを全く知らない雇われ僧侶が葬儀屋 の手配でアルバイトしていくような薄っぺらな感じがして、日頃かかわっているお寺 さんがないこと、というのはこういうことなのか、と実感した次第でした。

 ただ、家族がきちんと供養する、と言う意味では、父も母が逝ったあとそうしてい たように、私たちが父と母の供養を日々していくことで、宗派や法要のあり方などに こだわらずできればいいと思っています。

 父の住んでいたマンションの後片付けもかなり大変なものがありました。ものを捨 てられない世代の、自分で買ったものではなく使えないまま置いている頂き物の数 々。そのほとんどがそれこそお香典返しの毛布にタオルや洗剤のセットなどなど。 まっさらな箱に入ったままのタオルがどれだけでてきたことか。無駄な消費(流通) がどれだけあるか、家の押し入れをみればどこの家庭にもこうした使わないまま置い ているだけの産物があるのでしょう。

 こうしたものをあと片付けしてくれる業者もあり、業者の見積もりと請求額が大き く違う問題なども、取沙汰されているようです。

 独居老人の数がますます増えて来る中で、その孤独死の数も比例して増えて来るこ とでしょう。そんな中でも、身内がいないわけではなく、父がそうであったように、 いくら同居を促しても「一人が気楽である」という高齢者も多いように思います。た だ、振り返れば、母が亡くなってから9年間、ずっとひとりでご飯を食べていたかと 思うと、やはり胸が詰まります。実際、一人でいると気づかないうちに鬱状態になっ ていることも多いらしく、そのために食欲が激減し、体調を崩す高齢者も多いようで す。自分の親の頑固さにどこで釘を刺すのか、というのも課題であるように思います。

 さて、デンマークではどうなのか。

 まず、日本と一番違う点は二世帯で暮らしている家族は皆無に近く(個人主義の国 で親は子供の世話になることなど全く考えていない)、高齢になっても自宅で暮らし ている夫婦もあれば、夫婦でプライイェムと呼ばれるホームで暮らしているケースも あります。連れ合いを亡くした場合でも、同じようにひとりで自宅に暮らしているケ ースや、ホームや高齢者専用のアパートなどに暮らしているなど、子供の手を借りず に暮らしていることが前提となります。

 ただし、自宅での一人暮らしでも必ず公的なサポートを受けて、身体的介護ではな くても家の掃除や買い物をしてもらったり、食事サービスや個々の必要度に応じた他 者との対話を含む交流型のサポートがありますし、近所の目や家族の訪問が定期的に あることが基本です。たまに、都会のアパートで孤独死、というようなケースもない わけではありませんが、それは高齢者が自らそうしたサービスを拒否していたケース や、近くに身寄りがいないケースなどで、基本的には公的な目と家族や友人近隣者の 目があるところで、暮らしています。

 プライイェムと呼ばれるホームにもいろいろな形式があり、郊外ではコテージのよ うな小さな家で自宅同然に暮らしながら、食事やリクリエーションを他の入居者とと もにするホームもあれば、ひとつのフロアーに入居者の個室が並んでいるようなホー ムもあります。また10人程度でユニットをつくって、ユニット毎にまあ言えば大き な家のような形が形成されているところもあります。こうしたところでは、真ん中に リビングがあって、回りを入居者の個室が取り囲むような形で、そうしたユニットが いくつかあるのですが、どのホームでも個人のプライバシーを守りながら、自分の好 きな家具や好きなものを自宅と同じように使いながら生活しているのが特徴的だと思 います。中には2人部屋や4人部屋があるホームもあるらしいですが、基本的に入居 者の介護の必要度などに応じたホームを選んで入居しているようです。

 ほかにも高齢者専用のアパートもあり、ナースは常駐していませんが、ナースコー ルがいつでもできる環境下で、公的なサポートも受けながら、自分でできることはで きるだけしながら暮らしています。

 また、目の不自由な高齢者専門のホームなどもあり、庭に出ても例えばセンターと なる場所には噴水があるなど、音で誘導できるシステムなども取り入れて、入居者が 快適に暮らせるように配慮したホームもあります。

 こうしたところに、夫婦で入居しているケースもありますが、多くは連れ合いを亡 くしてから、ホームに入居していることが多いようです。

 どのホームにも共通していることは、ナースが常駐していることで、専門の医師が 定期的に訪れる所もありますが、医師が常駐していなくてもすぐに呼べる体制をとっ ているようで、病気になればすぐにそのまま病院に送られる、ということは必ずしも ないようです。もちろん必要に応じてホームから病院に送られることもありますが、 基本的にはホームが自宅で、そこで最期を迎える人も少なくありません。

 9年前に亡くなった私の母は特別養護老人ホームに入っていましたが、ちょっと熱 を出しただけでも近所の空きのある病院に移されていて、違和感を感じたこともあり ました。病院では特別養護ではなく、熱のある一患者になってしまい、若くしてアル ツハイマーになっていることなどよくわかっていない看護のありかたに、疑問を持ち ました。

 話がそれましたが、自分でできることはデンマークではできるだけ自分ですること も大きく違う点だと思います。ひとりでトイレに行けるうちは、歩行器を使ってでも 介助者に頼まずひとりで行く。危ないからとりあえず介助するのではなく、できるこ とは自分でするという意識が、介助する側にもされる側にもあることも基本的に違う ことでしょう。また、寝たきりにならないように、周囲の人間が毎日起こすので、以 前にも書いたことがありますが、「寝たきり老人」ということばそのものが存在しま せん。

 おおざっぱな説明ではありますが、高齢者の暮らしを見ていても、生き生きと生活 を楽しんでいらっしゃる感じがします。柔らかな金髪によく似合う、赤いセーターを お洒落に着こなすおばあちゃんや、マニキュアで爪の手入れをしている方もよく見か けます。かわいい蝶ネクタイをしめてパイプをふかしているおじいちゃんもなかなか カッコよく、自分を元気にする方法論を知っている、とも言えるかもしれません。ま た、ホームにいても、自分のお誕生日には家族や友人を呼んで、パーティーをするス ペースなどもあり、楽しく暮らすことが老いても実践されています。

 ただ、デンマークでも鬱病がない訳ではなく、寒くて暗い時期にこもりがちなって 鬱になる人ももちろんいます。高齢者の自殺率が高いことはよく騒がれていることで もありますが、近年、少しづつその数は減少方向にあります。また福祉国家になる以 前から自殺率が高い国であったことを思うと、福祉と自殺率とは関係ないと語る専門 家もあるようです。

 日本の自殺率が世界でもトップクラスであることもよく知られているところです が、2004年の数字で10万人中20人というのが日本の数字で世界第3位。デン マークは2001年の数字しか見つけられず申し訳ないのですが、10万人中13 人。ただし、それが65歳以上の高齢者になると、10万人中22人に跳ね上がりま す。そうならないためにも、ホームでも昼間はできるだけ外へでて、社会との関わり を持つなどの取り組みもしているようです。ずっとホームに入り浸りではないので す。それが例えば社会貢献できるボランティア活動であることも多く、そうしてお年 寄りの生き甲斐をみつけ、生き生き生活できる工夫と努力をしているようです。

 ちなみに高齢者の自殺者の3分の2が男性で、自殺理由が分かっているもののなか で多いのが、病気の痛みなど身体的苦痛と、回復の見込を見いだせないあきらめから 自殺に至るケースが多く、その多くが自宅での一人暮らしの高齢者であり(自殺者の 76%)、この数字だけを見ていると、やはり他者とのコミュニケーションがいかに 大切であるか、ということも伺えます。

 実際に先ほどの自宅で亡くなるケースと病院で亡くなるケースの数字がデンマーク ではどうなっているのかいうと、病院で亡くなるケースが約50%、自宅が約25 %、プライイェムなどの施設で亡くなるケースが約25%ということで、この数字は 1995年以来、ずっと変わっていないそうです。

 私がこちらに来てから身内のお葬式に出たのは2回。夫の母方の祖母と祖父のお葬 式でしたが、どちらも自宅で家族に看取られての穏やかな最期でした。夫の父方の祖 父もプライイェムで亡くなっていますが、お葬式には参列できませんでした。母方の 祖母の場合、85歳でしたが、胃癌を患い、でも死に対する考え方も違うのでしょ う。召されるのを待っているかのような最期で、特に治療もせず、病院にもいかない まま、自宅でナースの訪問を受けながら、家族に見守られて住み慣れたアパートで息 を引き取りました。

 母方の祖父の場合、肺炎を患って入院していたのですが、ちゃんと治療してもら い、退院して自宅療養に。その段階でいつどうなってもおかしくない状況ではありま したが、訪ねて行くと、大きな一人用のゆったりとしたソファーに腰かけ、優雅に音 楽を聞きながらいっしょにランチも楽しむほどで、ほんとにそんなに危ない状況なの かと、疑うほどでした。94歳でしたが、85歳くらいまで、毎日腕立て伏せを30 回もしていた元気満開のおじいちゃんで、ずっと体を動かしていたほうが、しゃきっ とあの世に逝けるというお手本のような最期でした。

 葬式は、それぞれ教会で行われましたが、親族や親しい友人などが、お花を添える ことはあっても、日本のようなお香典などはもちろんありませんし、お花をしても らったからといって、そのお返しの必要ももちろんありません。自宅に不必要なタオ ルがたまることもないのです。

 教会では神父の説教の合間に、参列者が賛美歌を数曲歌って、家族の代表が挨拶を して別れを惜しんだあと、出棺を見送ります。そのあと、祖母の時は住んでいたアパ ートに親族が集合し、サンドイッチなどの軽食をとりながら故人を偲ぶ感じで、親族 の中から誰とは決めていなくても、誰かれなく故人のために思い出話を披露し、故人 の好きな歌を歌って送る、という感じ。祖父の時は、いわゆる集会所のようなところ を借りて同じように故人の思い出をスピーチする人が、自分から手を挙げてしてく れ、またピアノが上手で作曲も手がけていた祖父の作った曲を、娘の一人が演奏す る、というような、いずれも形式的でない心温まる会でした。

 父方の祖父は、97歳の大往生でしたが、祖母とふたりでプライイェムで暮らして いて、肺炎になってホームにて医師の診察を受けましたが、病院にはいかず、祖母と 家族に見守られて逝きました。こうした夫の祖父母のケースは、デンマークの平均寿 命である女性80歳、男性76歳(2008年の数字)をはるかに上回っているだけ でなく、家族に最期を看取られると言う、とてもありがたいケースであったと思いま す。デンマークのこれが普通、と言う訳では決してありませんが、少なくとも、祖父 母の意思(病院には行かずに自宅で最期を迎えたい)を尊重できた例だと思います。 父方の祖父はプライイェムではありましたが、自宅同然に祖母と暮らしていたホーム ですし、病院で逝くよりは心地よかったであろうと思います。

 海外在住を決めた時から、親の死に目には会えないかもしれないという親不孝な覚 悟はしていたものの、実際そうなるとやはり悔いの残るものです。親の死に目に会え ることはありがたいことで、むしろ訃報を聞いてから帰国するケースのほうが多いよ うにも思います。母の時も実際そうでしたし、父のもとで数日間でも最後の夏を過ご せたことは、感謝すべきことなのだと思います。

 今回の経験から、私は一体どこに骨を埋めたいのか、ということを具体的に考えて おかねば、そして、伝えておかねば、と思っています。50歳でまだまだ早すぎると 思う方もいらっしゃるでしょうが、50歳になったからこそ考えておくのもいいよう に思います。永住の地としてデンマークに来たものの、骨もこの地に埋めたいのか。 親兄弟のいる日本で一緒に眠りたい思いもあるし、複雑です。

 私の体は100%日本人だけど、ある意味、自分のアイデンティティーがどこにあ るのか、探るような思いもあります。どちらの国も好きだし、日本に帰る、というよ うにデンマークにも帰る、という表現をしてしまいます。どちらの家に帰っても「た だいま〜」というように。でも、どちらの国もHomeでありながら、両親とも亡くなっ てしまった今、どちらの国にもHomeと呼べる根幹がないようにも思えてしまうのです。

 普通に考えれば、きっとデンマークで死ぬのでしょうが、クリスチャンでもないの に教会でお葬式をして、そして教会の墓地で他の多くのデンマーク人と眠るのは違う ような気もして、でも骨よりも、作品が両方の国に残れば他はどうでもいいか、など なといろいろ考えております。父から大きな宿題をもらった気分です。

 ちなみに、デンマークの教会でのお葬式にかかる費用は、高いケースでも60万円 程度らしく、日本の葬儀場で最低限のことをしてもその倍はかかることを思うと(お 布施は別)、葬儀は身内だけでひっそりとできるのがどこであっても一番いいように 思えるのでした。

 朝日新聞のコラムではエンディングノートなるものが紹介されていましたが、年老 いてからではなく、まだ元気なうちから、もしもの場合には、どこでどんな風に最期 を迎えたいか、医療や介護はどこでどうしてほしいか、延命処置は、臓器提供は、財 産は、借金は、葬式はどうしたいか、誰に知らせて欲しいか、墓はどうするか、など など書きとめておくエンディングノート。誕生日毎に更新するなどして家族に伝える 方法論を作っておくことは、最期を自分らしく迎えるためにも必要なことだとつくづ く思いました。

 遺言書のように法的効力は無くても、少なくとも自分の意思が伝えられるというこ とは、残されたものにとってどれほどありがたいことか、父の死を通して痛感しまし た。まだまだ元気な自分の親に、「エンディングノート、書いておいてよ」とは言え ないかもしれませんが、元気なうちにこそ書いておいてもらえれば、と思うのでし た。書かなくても、意思を聞いておければ少しでも助かることは事実だと思います。 そんな話、年老いた親とはできないかもしれませんが、そうなる前に親子でそんな時 間を作ることがあってもいいような気がします。

 でも死後の世界なんて誰にもわからないように、どこに骨を埋めようが、どこにで もワープできるかもしれないし、場所ではないような気もしますが、お参りしてくれ る人がいる以上、骨を埋める場所については遺族の意思にゆだねる、というのも一つ の選択肢かもしれません。

 息子には「かあちゃんは150歳まで生きてね」と、魔女になるしかないお願いを されているので、こんな話をするにはまだ早く、夫とビールでも飲みながらしておく ことにしますが、まだ10歳の息子のためにも元気に長生きすることと、最期を自分 らしく迎えられるように、父が考える機会を作ってくれたことに感謝しています。

---------------------------------------------------------------------------- 高田ケラー有子/Yuko Takada Keller:造形作家
京都市立芸術大学大学院修了。日本在住時よりヨーロッパ、アメリカなどで作品を発 表。1997年よりデンマーク在住。近年はデンマークを中心にヨーロッパ、日本で 作家活動。キューレータとしても、日本のアーティストをデンマークに紹介している。
コミッションワークとして、東京都水道局「水の科学館」、岡山県早島町町民総合会 館「ゆるびの舎」に作品を手がけている。個人サイト: http://www.yukotakada.com/ 著書に『平らな国デンマーク〜「幸福度」世界一の社会から〜』NHK出版生活人新書
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                No.497 Extra-Edition2
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】  

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(注)オバマ施政演説(英語)

ADDRESS BY THE PRESIDENT TO THE JOINT SESSION OF CONGRESS
United States Capitol
THE PRESIDENT: Madam Speaker, Mr. Vice President, members of Congress, the First Lady of the United States -- (applause) -- she's around here somewhere.
I have come here tonight not only to address the distinguished men and women in this great chamber, but to speak frankly and directly to the men and women who sent us here.
I know that for many Americans watching right now, the state of our economy is a concern that rises above all others. And rightly so. If you haven't been personally affected by this recession, you probably know someone who has -- a friend; a neighbor; a member of your family. You don't need to hear another list of statistics to know that our economy is in crisis, because you live it every day. It's the worry you wake up with and the source of sleepless nights. It's the job you thought you'd retire from but now have lost; the business you built your dreams upon that's now hanging by a thread; the college acceptance letter your child had to put back in the envelope. The impact of this recession is real, and it is everywhere.
But while our economy may be weakened and our confidence shaken, though we are living through difficult and uncertain times, tonight I want every American to know this: We will rebuild, we will recover, and the United States of America will emerge stronger than before. (Applause.)
The weight of this crisis will not determine the destiny of this nation. The answers to our problems don't lie beyond our reach. They exist in our laboratories and our universities; in our fields and our factories; in the imaginations of our entrepreneurs and the pride of the hardest-working people on Earth. Those qualities that have made America the greatest force of progress and prosperity in human history we still possess in ample measure. What is required now is for this country to pull together, confront boldly the challenges we face, and take responsibility for our future once more. (Applause.)
Now, if we're honest with ourselves, we'll admit that for too long, we have not always met these responsibilities -- as a government or as a people. I say this not to lay blame or to look backwards, but because it is only by understanding how we arrived at this moment that we'll be able to lift ourselves out of this predicament.
The fact is our economy did not fall into decline overnight. Nor did all of our problems begin when the housing market collapsed or the stock market sank. We have known for decades that our survival depends on finding new sources of energy. Yet we import more oil today than ever before. The cost of health care eats up more and more of our savings each year, yet we keep delaying reform. Our children will compete for jobs in a global economy that too many of our schools do not prepare them for. And though all these challenges went unsolved, we still managed to spend more money and pile up more debt, both as individuals and through our government, than ever before.
In other words, we have lived through an era where too often short-term gains were prized over long-term prosperity; where we failed to look beyond the next payment, the next quarter, or the next election. A surplus became an excuse to transfer wealth to the wealthy instead of an opportunity to invest in our future. (Applause.) Regulations were gutted for the sake of a quick profit at the expense of a healthy market. People bought homes they knew they couldn't afford from banks and lenders who pushed those bad loans anyway. And all the while, critical debates and difficult decisions were put off for some other time on some other day.
Well that day of reckoning has arrived, and the time to take charge of our future is here.
Now is the time to act boldly and wisely -- to not only revive this economy, but to build a new foundation for lasting prosperity. Now is the time to jumpstart job creation, re-start lending, and invest in areas like energy, health care, and education that will grow our economy, even as we make hard choices to bring our deficit down. That is what my economic agenda is designed to do, and that is what I'd like to talk to you about tonight.
It's an agenda that begins with jobs. (Applause.)
As soon as I took office, I asked this Congress to send me a recovery plan by President's Day that would put people back to work and put money in their pockets. Not because I believe in bigger government -- I don't. Not because I'm not mindful of the massive debt we've inherited -- I am. I called for action because the failure to do so would have cost more jobs and caused more hardship. In fact, a failure to act would have worsened our long-term deficit by assuring weak economic growth for years. And that's why I pushed for quick action. And tonight, I am grateful that this Congress delivered, and pleased to say that the American Recovery and Reinvestment Act is now law. (Applause.)
Over the next two years, this plan will save or create 3.5 million jobs. More than 90 percent of these jobs will be in the private sector -- jobs rebuilding our roads and bridges; constructing wind turbines and solar panels; laying broadband and expanding mass transit.
Because of this plan, there are teachers who can now keep their jobs and educate our kids. Health care professionals can continue caring for our sick. There are 57 police officers who are still on the streets of Minneapolis tonight because this plan prevented the layoffs their department was about to make. (Applause.)
Because of this plan, 95 percent of working households in America will receive a tax cut -- a tax cut that you will see in your paychecks beginning on April 1st. (Applause.)
Because of this plan, families who are struggling to pay tuition costs will receive a $2,500 tax credit for all four years of college. And Americans -- (applause) -- and Americans who have lost their jobs in this recession will be able to receive extended unemployment benefits and continued health care coverage to help them weather this storm. (Applause.)
Now, I know there are some in this chamber and watching at home who are skeptical of whether this plan will work. And I understand that skepticism. Here in Washington, we've all seen how quickly good intentions can turn into broken promises and wasteful spending. And with a plan of this scale comes enormous responsibility to get it right.
And that's why I've asked Vice President Biden to lead a tough, unprecedented oversight effort -- because nobody messes with Joe. (Applause.) I -- isn't that right? They don't mess with you. I have told each of my Cabinet, as well as mayors and governors across the country, that they will be held accountable by me and the American people for every dollar they spend. I've appointed a proven and aggressive Inspector General to ferret out any and all cases of waste and fraud. And we have created a new website called recovery.gov so that every American can find out how and where their money is being spent.
So the recovery plan we passed is the first step in getting our economy back on track. But it is just the first step. Because even if we manage this plan flawlessly, there will be no real recovery unless we clean up the credit crisis that has severely weakened our financial system.
I want to speak plainly and candidly about this issue tonight, because every American should know that it directly affects you and your family's well-being. You should also know that the money you've deposited in banks across the country is safe; your insurance is secure; you can rely on the continued operation of our financial system. That's not the source of concern.
The concern is that if we do not restart lending in this country, our recovery will be choked off before it even begins.
You see -- (applause) -- you see, the flow of credit is the lifeblood of our economy. The ability to get a loan is how you finance the purchase of everything from a home to a car to a college education, how stores stock their shelves, farms buy equipment, and businesses make payroll.
But credit has stopped flowing the way it should. Too many bad loans from the housing crisis have made their way onto the books of too many banks. And with so much debt and so little confidence, these banks are now fearful of lending out any more money to households, to businesses, or even to each other. And when there is no lending, families can't afford to buy homes or cars. So businesses are forced to make layoffs. Our economy suffers even more, and credit dries up even further.
That is why this administration is moving swiftly and aggressively to break this destructive cycle, to restore confidence, and restart lending. And we will do so in several ways. First, we are creating a new lending fund that represents the largest effort ever to help provide auto loans, college loans, and small business loans to the consumers and entrepreneurs who keep this economy running. (Applause.)
Second -- second, we have launched a housing plan that will help responsible families facing the threat of foreclosure lower their monthly payments and refinance their mortgages. It's a plan that won't help speculators or that neighbor down the street who bought a house he could never hope to afford, but it will help millions of Americans who are struggling with declining home values -- Americans who will now be able to take advantage of the lower interest rates that this plan has already helped to bring about. In fact, the average family who refinances today can save nearly $2,000 per year on their mortgage. (Applause.)
Third, we will act with the full force of the federal government to ensure that the major banks that Americans depend on have enough confidence and enough money to lend even in more difficult times. And when we learn that a major bank has serious problems, we will hold accountable those responsible, force the necessary adjustments, provide the support to clean up their balance sheets, and assure the continuity of a strong, viable institution that can serve our people and our economy.
I understand that on any given day, Wall Street may be more comforted by an approach that gives bank bailouts with no strings attached, and that holds nobody accountable for their reckless decisions. But such an approach won't solve the problem. And our goal is to quicken the day when we restart lending to the American people and American business, and end this crisis once and for all.
And I intend to hold these banks fully accountable for the assistance they receive, and this time, they will have to clearly demonstrate how taxpayer dollars result in more lending for the American taxpayer. (Applause.)
This time -- this time, CEOs won't be able to use taxpayer money to pad their paychecks, or buy fancy drapes, or disappear on a private jet. Those days are over. (Applause.)
Still, this plan will require significant resources from the federal government -- and, yes, probably more than we've already set aside. But while the cost of action will be great, I can assure you that the cost of inaction will be far greater, for it could result in an economy that sputters along for not months or years, but perhaps a decade. That would be worse for our deficit, worse for business, worse for you, and worse for the next generation. And I refuse to let that happen. (Applause.)
Now, I understand that when the last administration asked this Congress to provide assistance for struggling banks, Democrats and Republicans alike were infuriated by the mismanagement and the results that followed. So were the American taxpayers. So was I. So I know how unpopular it is to be seen as helping banks right now, especially when everyone is suffering in part from their bad decisions. I promise you -- I get it.
But I also know that in a time of crisis, we cannot afford to govern out of anger, or yield to the politics of the moment. (Applause.) My job -- our job -- is to solve the problem. Our job is to govern with a sense of responsibility. I will not send -- I will not spend a single penny for the purpose of rewarding a single Wall Street executive, but I will do whatever it takes to help the small business that can't pay its workers, or the family that has saved and still can't get a mortgage. (Applause.)
That's what this is about. It's not about helping banks -- it's about helping people. (Applause.)
It's not about helping banks; it's about helping people. Because when credit is available again, that young family can finally buy a new home. And then some company will hire workers to build it. And then those workers will have money to spend. And if they can get a loan, too, maybe they'll finally buy that car, or open their own business. Investors will return to the market, and American families will see their retirement secured once more. Slowly, but surely, confidence will return, and our economy will recover. (Applause.)
So I ask this Congress to join me in doing whatever proves necessary.
Because we cannot consign our nation to an open-ended recession. And to ensure that a crisis of this magnitude never happens again, I ask Congress to move quickly on legislation that will finally reform our outdated regulatory system. (Applause.) It is time -- it is time to put in place tough, new common-sense rules of the road so that our financial market rewards drive and innovation, and punishes short-cuts and abuse.
The recovery plan and the financial stability plan are the immediate steps we're taking to revive our economy in the short term. But the only way to fully restore America's economic strength is to make the long-term investments that will lead to new jobs, new industries, and a renewed ability to compete with the rest of the world. The only way this century will be another American century is if we confront at last the price of our dependence on oil and the high cost of health care; the schools that aren't preparing our children and the mountain of debt they stand to inherit. That is our responsibility.
In the next few days, I will submit a budget to Congress. So often, we've come to view these documents as simply numbers on a page or a laundry list of programs. I see this document differently. I see it as a vision for America -- as a blueprint for our future.
My budget does not attempt to solve every problem or address every issue. It reflects the stark reality of what we've inherited -- a trillion-dollar deficit, a financial crisis, and a costly recession.
Given these realities, everyone in this chamber -- Democrats and Republicans -- will have to sacrifice some worthy priorities for which there are no dollars. And that includes me.
But that does not mean we can afford to ignore our long-term challenges. I reject the view that says our problems will simply take care of themselves; that says government has no role in laying the foundation for our common prosperity.
For history tells a different story. History reminds us that at every moment of economic upheaval and transformation, this nation has responded with bold action and big ideas. In the midst of civil war, we laid railroad tracks from one coast to another that spurred commerce and industry. From the turmoil of the Industrial Revolution came a system of public high schools that prepared our citizens for a new age. In the wake of war and depression, the GI Bill sent a generation to college and created the largest middle class in history. (Applause.)
And a twilight struggle for freedom led to a nation of highways, an American on the moon, and an explosion of technology that still shapes our world.
In each case, government didn't supplant private enterprise; it catalyzed private enterprise. It created the conditions for thousands of entrepreneurs and new businesses to adapt and to thrive.
We are a nation that has seen promise amid peril, and claimed opportunity from ordeal. Now we must be that nation again. That is why, even as it cuts back on programs we don't need, the budget I submit will invest in the three areas that are absolutely critical to our economic future: energy, health care, and education. (Applause.)
It begins with energy.
We know the country that harnesses the power of clean, renewable energy will lead the 21st century. And yet, it is China that has launched the largest effort in history to make their economy energy-efficient. We invented solar technology, but we've fallen behind countries like Germany and Japan in producing it. New plug-in hybrids roll off our assembly lines, but they will run on batteries made in Korea.
Well, I do not accept a future where the jobs and industries of tomorrow take root beyond our borders -- and I know you don't, either. It is time for America to lead again. (Applause.)
Thanks to our recovery plan, we will double this nation's supply of renewable energy in the next three years. We've also made the largest investment in basic research funding in American history -- an investment that will spur not only new discoveries in energy, but breakthroughs in medicine and science and technology.
We will soon lay down thousands of miles of power lines that can carry new energy to cities and towns across this country. And we will put Americans to work making our homes and buildings more efficient so that we can save billions of dollars on our energy bills.
But to truly transform our economy, to protect our security, and save our planet from the ravages of climate change, we need to ultimately make clean, renewable energy the profitable kind of energy. So I ask this Congress to send me legislation that places a market-based cap on carbon pollution and drives the production of more renewable energy in America. That's what we need. (Applause.)
And to support -- to support that innovation, we will invest $15 billion a year to develop technologies like wind power and solar power, advanced biofuels, clean coal, and more efficient cars and trucks built right here in America. (Applause.)
Speaking of our auto industry, everyone recognizes that years of bad decision-making and a global recession have pushed our automakers to the brink. We should not, and will not, protect them from their own bad practices. But we are committed to the goal of a retooled, reimagined auto industry that can compete and win. Millions of jobs depend on it. Scores of communities depend on it. And I believe the nation that invented the automobile cannot walk away from it. (Applause.)
None of this will come without cost, nor will it be easy. But this is America. We don't do what's easy. We do what's necessary to move this country forward.
And for that same reason, we must also address the crushing cost of health care.
This is a cost that now causes a bankruptcy in America every 30 seconds. By the end of the year, it could cause 1.5 million Americans to lose their homes. In the last eight years, premiums have grown four times faster than wages. And in each of these years, 1 million more Americans have lost their health insurance. It is one of the major reasons why small businesses close their doors and corporations ship jobs overseas. And it's one of the largest and fastest-growing parts of our budget.
Given these facts, we can no longer afford to put health care reform on hold. We can't afford to do it. It's time. (Applause.)
Already, we've done more to advance the cause of health care reform in the last 30 days than we've done in the last decade. When it was days old, this Congress passed a law to provide and protect health insurance for 11 million American children whose parents work full-time. (Applause.)
Our recovery plan will invest in electronic health records and new technology that will reduce errors, bring down costs, ensure privacy, and save lives. It will launch a new effort to conquer a disease that has touched the life of nearly every American, including me, by seeking a cure for cancer in our time. (Applause.) And -- and it makes the largest investment ever in preventive care, because that's one of the best ways to keep our people healthy and our costs under control.
This budget builds on these reforms. It includes a historic commitment to comprehensive health care reform -- a down payment on the principle that we must have quality, affordable health care for every American. (Applause.)
It's a commitment -- it's a commitment that's paid for in part by efficiencies in our system that are long overdue. And it's a step we must take if we hope to bring down our deficit in the years to come. Now, there will be many different opinions and ideas about how to achieve reform, and that's why I'm bringing together businesses and workers, doctors and health care providers, Democrats and Republicans to begin work on this issue next week.
I suffer no illusions that this will be an easy process. Once again, it will be hard. But I also know that nearly a century after Teddy Roosevelt first called for reform, the cost of our health care has weighed down our economy and our conscience long enough. So let there be no doubt: Health care reform cannot wait, it must not wait, and it will not wait another year. (Applause.)
The third challenge we must address is the urgent need to expand the promise of education in America.
In a global economy where the most valuable skill you can sell is your knowledge, a good education is no longer just a pathway to opportunity -- it is a prerequisite.
Right now, three-quarters of the fastest-growing occupations require more than a high school diploma. And yet, just over half of our citizens have that level of education. We have one of the highest high school dropout rates of any industrialized nation. And half of the students who begin college never finish.
This is a prescription for economic decline, because we know the countries that out-teach us today will out-compete us tomorrow. That is why it will be the goal of this administration to ensure that every child has access to a complete and competitive education -- from the day they are born to the day they begin a career. (Applause.)
That is a promise we have to make to the children of America. (Applause.)
Already, we've made an historic investment in education through the economic recovery plan. We've dramatically expanded early childhood education and will continue to improve its quality, because we know that the most formative learning comes in those first years of life. We've made college affordable for nearly seven million more students -- seven million. (Applause.) And we have provided the resources necessary to prevent painful cuts and teacher layoffs that would set back our children's progress.
But we know that our schools don't just need more resources. They need more reform. (Applause.) That is why this budget creates new teachers -- new incentives for teacher performance; pathways for advancement, and rewards for success. We'll invest in innovative programs that are already helping schools meet high standards and close achievement gaps. And we will expand our commitment to charter schools. (Applause.)
It is our responsibility as lawmakers and as educators to make this system work. But it is the responsibility of every citizen to participate in it. So tonight, I ask every American to commit to at least one year or more of higher education or career training. This can be community college or a four-year school; vocational training or an apprenticeship. But whatever the training may be, every American will need to get more than a high school diploma. And dropping out of high school is no longer an option. It's not just quitting on yourself, it's quitting on your country -- and this country needs and values the talents of every American. (Applause.)
That's why we will support -- we will provide the support necessary for all young Americans to complete college and meet a new goal: By 2020, America will once again have the highest proportion of college graduates in the world. That's is a goal we can meet. (Applause.)
That's a goal we can meet.
Now, I know that the price of tuition is higher than ever, which is why if you are willing to volunteer in your neighborhood or give back to your community or serve your country, we will make sure that you can afford a higher education. (Applause.)
And to encourage a renewed spirit of national service for this and future generations, I ask Congress to send me the bipartisan legislation that bears the name of Senator Orrin Hatch, as well as an American who has never stopped asking what he can do for his country -- Senator Edward Kennedy. (Applause.)
These education policies will open the doors of opportunity for our children. But it is up to us to ensure they walk through them. In the end, there is no program or policy that can substitute for a parent -- for a mother or father who will attend those parent/teacher conferences, or help with homework, or turn off the TV, put away the video games, read to their child. (Applause.) I speak to you not just as a President, but as a father, when I say that responsibility for our children's education must begin at home. That is not a Democratic issue or a Republican issue. That's an American issue. (Applause.)
There is, of course, another responsibility we have to our children. And that's the responsibility to ensure that we do not pass on to them a debt they cannot pay. (Applause.) That is critical. I agree, absolutely. See, I know we can get some consensus in here. (Laughter.) With the deficit we inherited, the cost -- (applause) -- the cost of the crisis we face, and the long-term challenges we must meet, it has never been more important to ensure that as our economy recovers, we do what it takes to bring this deficit down. That is critical. (Applause.)
Now, I'm proud that we passed a recovery plan free of earmarks -- (applause) -- and I want to pass a budget next year that ensures that each dollar we spend reflects only our most important national priorities. And yesterday, I held a fiscal summit where I pledged to cut the deficit in half by the end of my first term in office. My administration has also begun to go line by line through the federal budget in order to eliminate wasteful and ineffective programs. As you can imagine, this is a process that will take some time. But we have already identified $2 trillion in savings over the next decade. (Applause.)
In this budget -- in this budget, we will end education programs that don't work and end direct payments to large agribusiness that don't need them. (Applause.)
We'll eliminate -- we'll eliminate the no-bid contracts that have wasted billions in Iraq -- (applause) -- and reform -- and -- and reform our defense budget so that we're not paying for Cold War-era weapons systems we don't use. (Applause.)
We will -- we will root out -- we will root out the waste and fraud and abuse in our Medicare program that doesn't make our seniors any healthier. We will restore a sense of fairness and balance to our tax code by finally ending the tax breaks for corporations that ship our jobs overseas. (Applause.)
In order to save our children from a future of debt, we will also end the tax breaks for the wealthiest 2 percent of Americans. (Applause.)
Now, let me be clear -- let me be absolutely clear, because I know you'll end up hearing some of the same claims that rolling back these tax breaks means a massive tax increase on the American people: If your family earns less than $250,000 a year -- a quarter million dollars a year -- you will not see your taxes increased a single dime. I repeat: Not one single dime. (Applause.)
Not a dime. In fact, the recovery plan provides a tax cut -- that's right, a tax cut -- for 95 percent of working families. And by the way, these checks are on the way. (Applause.)
Now, to preserve our long-term fiscal health, we must also address the growing costs in Medicare and Social Security. Comprehensive health care reform is the best way to strengthen Medicare for years to come. And we must also begin a conversation on how to do the same for Social Security, while creating tax-free universal savings accounts for all Americans. (Applause.)
Finally, because we're also suffering from a deficit of trust, I am committed to restoring a sense of honesty and accountability to our budget. That is why this budget looks ahead 10 years and accounts for spending that was left out under the old rules -- and for the first time, that includes the full cost of fighting in Iraq and Afghanistan. (Applause.) For seven years, we have been a nation at war. No longer will we hide its price. (Applause.)
Along with our outstanding national security team, I'm now carefully reviewing our policies in both wars, and I will soon announce a way forward in Iraq that leaves Iraq to its people and responsibly ends this war. (Applause.)
And with our friends and allies, we will forge a new and comprehensive strategy for Afghanistan and Pakistan to defeat al Qaeda and combat extremism. Because I will not allow terrorists to plot against the American people from safe havens halfway around the world. We will not allow it. (Applause.)
As we meet here tonight, our men and women in uniform stand watch abroad and more are readying to deploy. To each and every one of them, and to the families who bear the quiet burden of their absence, Americans are united in sending one message: We honor your service, we are inspired by your sacrifice, and you have our unyielding support. (Applause.)
To relieve the strain on our forces, my budget increases the number of our soldiers and Marines. And to keep our sacred trust with those who serve, we will raise their pay, and give our veterans the expanded health care and benefits that they have earned. (Applause.)
To overcome extremism, we must also be vigilant in upholding the values our troops defend -- because there is no force in the world more powerful than the example of America. And that is why I have ordered the closing of the detention center at Guantanamo Bay, and will seek swift and certain justice for captured terrorists. (Applause.) Because living our values doesn't make us weaker, it makes us safer and it makes us stronger. (Applause.) And that is why I can stand here tonight and say without exception or equivocation that the United States of America does not torture. We can make that commitment here tonight. (Applause.)
In words and deeds, we are showing the world that a new era of engagement has begun. For we know that America cannot meet the threats of this century alone, but the world cannot meet them without America. We cannot shun the negotiating table, nor ignore the foes or forces that could do us harm. We are instead called to move forward with the sense of confidence and candor that serious times demand.
To seek progress towards a secure and lasting peace between Israel and her neighbors, we have appointed an envoy to sustain our effort. To meet the challenges of the 21st century -- from terrorism to nuclear proliferation; from pandemic disease to cyber threats to crushing poverty -- we will strengthen old alliances, forge new ones, and use all elements of our national power.
And to respond to an economic crisis that is global in scope, we are working with the nations of the G20 to restore confidence in our financial system, avoid the possibility of escalating protectionism, and spur demand for American goods in markets across the globe. For the world depends on us having a strong economy, just as our economy depends on the strength of the world's.
As we stand at this crossroads of history, the eyes of all people in all nations are once again upon us -- watching to see what we do with this moment; waiting for us to lead.
Those of us gathered here tonight have been called to govern in extraordinary times. It is a tremendous burden, but also a great privilege -- one that has been entrusted to few generations of Americans.
For in our hands lies the ability to shape our world for good or for ill. I know that it's easy to lose sight of this truth -- to become cynical and doubtful; consumed with the petty and the trivial. But in my life, I have also learned that hope is found in unlikely places; that inspiration often comes not from those with the most power or celebrity, but from the dreams and aspirations of Americans who are anything but ordinary.
I think of Leonard Abess, a bank president from Miami who reportedly cashed out of his company, took a $60 million bonus, and gave it out to all 399 people who worked for him, plus another 72 who used to work for him. He didn't tell anyone, but when the local newspaper found out, he simply said, "I knew some of these people since I was seven years old. It didn't feel right getting the money myself." (Applause.)
I think about -- I think about Greensburg -- Greensburg, Kansas, a town that was completely destroyed by a tornado, but is being rebuilt by its residents as a global example of how clean energy can power an entire community -- how it can bring jobs and businesses to a place where piles of bricks and rubble once lay. "The tragedy was terrible," said one of the men who helped them rebuild. "But the folks here know that it also provided an incredible opportunity."
I think about Ty'Sheoma Bethea, the young girl from that school I visited in Dillon, South Carolina -- a place where the ceilings leak, the paint peels off the walls, and they have to stop teaching six times a day because the train barrels by their classroom. She had been told that her school is hopeless, but the other day after class she went to the public library and typed up a letter to the people sitting in this chamber. She even asked her principal for the money to buy a stamp. The letter asks us for help, and says, "We are just students trying to become lawyers, doctors, congressmen like yourself and one day president, so we can make a change to not just the state of South Carolina but also the world. We are not quitters." That's what she said. We are not quitters. Applause.)
These words -- these words and these stories tell us something about the spirit of the people who sent us here. They tell us that even in the most trying times, amid the most difficult circumstances, there is a generosity, a resilience, a decency, and a determination that perseveres; a willingness to take responsibility for our future and for posterity. Their resolve must be our inspiration. Their concerns must be our cause. And we must show them and all our people that we are equal to the task before us. (Applause.)
I know -- look, I know that we haven't agreed on every issue thus far -- (laughter.) There are surely times in the future where we will part ways. But I also know that every American who is sitting here tonight loves this country and wants it to succeed. I know that. (Applause.) That must be the starting point for every debate we have in the coming months, and where we return after those debates are done. That is the foundation on which the American people expect us to build common ground.
And if we do -- if we come together and lift this nation from the depths of this crisis; if we put our people back to work and restart the engine of our prosperity; if we confront without fear the challenges of our time and summon that enduring spirit of an America that does not quit, then someday years from now our children can tell their children that this was the time when we performed, in the words that are carved into this very chamber, "something worthy to be remembered."
Thank you. God bless you, and may God bless the United States of America. Thank you. (Applause.)

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grenz

注オバマ施政演説(訳) 

全文オバマ米大統領が24日行った施政方針演説の全文は次の通り。

 議長、副大統領、議員の方々、そして米国の大統領夫人(ファーストレディー)。

 わたしが今夜、ここに来たのは、偉大な議場にいる選ばれた議員の前で演説を行うためだけではなく、われわれをこの場所に送ってくれた人々に率直に、直接語りかけるためだ。

 今(演説を)見ている多くの米国民、そしてすべての人々にとって、米国の経済状況は懸念としてのしかかっていることだろう。まさにそうなのだ。もし、あなたがこの景気後退の影響を受けていないとしても、友人や隣人、家族の一員、あなたの周囲の誰かが影響を受けていることだろう。

 われわれの経済が危機にあることは、もう統計を聞かなくても分かっているはずだ。なぜなら、あなたが日々直面していることだからだ。眠れぬ夜の原因であり、覚めても気になる心配事だ。定年まで勤め上げようと思っていたのに、失ってしまった職。夢を懸けた事業は今、か細い糸につり下がっている。あなたの子どもは、大学の合格通知を封筒の中に戻さざるを得なかった。この景気後退の衝撃は本物であり、そこかしこにあるのだ。

 経済は衰退し、われわれの自信が揺らいだかもしれない。われわれは困難で不確かな時代に生きている。だが今夜、すべての国民に知っていてほしいことがある。

 われわれは国を再建し、回復させる。米国はより強い国家としてよみがえる。

 この危機の深刻さが、この国の運命を決めるわけではない。われわれの問題に対する答えは、われわれの手の届くところにある。研究所や大学、農場や工場、事業主の創意や世界で最も勤勉な国民の誇りの中にこそ、答えは存在する。

 米国を人類史上最も強力な進歩と繁栄の力にしたこれらの資質を、われわれはまだ十分持っている。力を合わせ、直面する難題に大胆に立ち向かい、未来に対する責任を再び引き受けることが今、米国に求められている。

 もしわれわれが、われわれ自身に対して正直であるなら、政府として、そして国民として、あまりにも長期間にわたって、これらの責任を果たしてこなかったことを認めるだろう。誰かを非難したり、後ろを振り返るためにこんなことを言うわけではない。現在の状況にどのように立ち至ったかを理解することでしか、苦境を脱することはできないのだ。

 われわれの経済は一夜にして衰退に向かったわけではない。問題のすべてが住宅市場の崩壊や株式市場の落ち込みとともに始まったわけでもない。

 われわれは、生き残りの鍵は新たなエネルギー源を見いだすことができるかどうかにかかっているということを何十年も前から知っていた。にもかかわらず、われわれは以前にも増して多量の石油を輸入している。医療費は毎年、ますます多額の貯蓄を食いつぶしている。それでも、われわれは改革を先送りし続けている。

 われわれの子どもたちはグローバル化する経済の中で、職を求めて競争することになるだろう。そのための備えができていない学校があまりにも多い。そして、これらすべての問題が解決されていないのに、われわれはかつてない規模で、個人として、そして政府を通じて支出を重ね、債務を増やしているのだ。

 言い換えれば、これまでは長期的な繁栄よりも目先の利益が優先されすぎた。われわれは次の支払い、次の四半期、あるいは次の選挙のことばかりを考え、その先のことを考えなかった。黒字は富裕層にさらに富を与える口実となり、将来に向けた投資はしなかった。

 手っ取り早く利益を手にするために規制は骨抜きにされ、健全な市場は失われた。銀行や金融会社は悪質なローンを押し通し、人々は買えるはずがないと分かっていながら住宅を購入した。重大な議論や難しい決定は先送りされてきた。

 その総決算の日が来た。未来への責任を引き受ける時が来たのだ。

 経済再生だけではなく、永続的な繁栄の新たな礎を築くために、今こそ大胆かつ賢明に行動する時だ。われわれは、財政赤字削減という厳しい選択をする。それでも早期に雇用を創出し、融資を再開させ、経済を成長させるエネルギーや医療、教育などの分野に投資する時だ。それがわたしの経済政策であり、今夜、皆さんにお話ししたい。

 雇用から始める。

 わたしは就任して直ちに議会に対してプレジデンツデー(2月16日の祝日)までに、人々が仕事に戻り収入を得られるための大型景気対策法案を送るよう要請した。「大きな政府」を信じているからではない。われわれが受け継いだ巨大な負債を忘れてしまったからでもない。

 わたしが行動を求めたのは、そうしなければさらに多くの職が失われ、より多くの試練を生み出したかもしれないからだ。事実、行動しなければ今後何年にもわたる経済成長の鈍化を確実にし、長期の赤字を悪化させていたかもしれない。わたしが素早い行動を推し進めたのは、そのためだ。そして今夜、わたしは議会が結果を出したことに感謝し、大型景気対策法が成立したことを喜んでいる。

 今後2年間、この計画は350万の雇用を守り、あるいは創出する。その90%以上は民間部門となる。道路や橋の再建、風力タービンやソーラーパネルの生産、ブロードバンド敷設や大量輸送機関を拡充する仕事だ。

 この計画によって、教師は職を失わずに子どもたちを教育することができる。介護従事者らは病気の人たちの世話を続けることができる。ミネアポリスの街角には今夜も57人の警察官が働いている。なぜならこの計画が、警察署が実施しようとしていた解雇を食い止めたからだ。

 この計画によって、米国の95%の勤労世帯が減税を受ける。この減税は4月1日以降の給料で確認できるだろう。

 この計画によって、授業料支払いに苦しむ家庭は大学4年間で2500ドルの減税を受ける。そして、この景気後退で職を失った米国人は拡充された失業保険や継続した医療保険を受け、嵐をしのげるだろう。

 わたしは、この議場にいる人や自宅で見ている人の中に、この計画がうまくいくかどうか懐疑的な人がいるのを知っている。わたしはそれを理解する。ここワシントンで、善意がいかに早く公約破りや無駄遣いに変わるかをわれわれは見てきた。これほどの規模の計画には、正しく遂行するための巨大な責任が伴う。

 だからこそ、バイデン副大統領に、困難で前例のない監督役を担うよう依頼したのだ。ジョー(バイデン副大統領)に口出しすることは誰もできないのだから。

 全閣僚と同様に、全国の市長、知事に対し、1ドルごとの支出についてわたしと米国民に説明する責任があると伝えてある。あらゆる浪費や不正を見つけ出すことができる有能で積極的な監督官を指名した。われわれは、「政府再生」と名付けた新たなウェブサイトを作った。そこでは、全国民が自分の税金がどのように、どこで使われているか確認することができる。

 われわれが取り組む再生計画(大型景気対策法)は米経済を軌道に戻すための最初の一歩だ。しかし、それは最初の一歩にすぎない。たとえこの計画を順調に実行できたとしても、金融システムを弱体化させてきた信用危機の解消なくして真の再生はありえないのだ。

 今夜、この問題についてわたしは平易かつ正直に話をしたい。全国民とその家族の暮らしに直接影響することだと知ってもらいたい。全土の銀行に貯蓄した資金が安全で、保険は保証されていると知ってほしい。金融システムは依然として信頼のおけるものだと分かってほしい。それは懸念材料ではないのだ。

 懸念すべきは、融資を再開しなければ、再生は始まる前から頓挫するということだ。

 ご存じの通り、資金の流れは経済の活力源である。融資を受ける能力はすなわち、住宅から車、大学教育に至るまで、あらゆるものを購入する際に、いかに資金を都合するかということを意味する。いかに商店が陳列棚に商品を仕入れ、農場が機材を購入し、企業が人件費をつくり出すかを意味する。

 しかし、あるべき資金の流れが止まってしまった。住宅ローン問題に端を発した不良債権が多くの銀行の帳簿上に流れ込んだ。負債が膨らみ、信用を失っていったことで、こうした銀行は現在、家庭や企業に融資をしたり、銀行間で資金を融通し合うことに消極的になっている。融資が途絶えると、家や車を買うことができなくなる。企業は人員削減の実行を強いられる。経済はさらに苦しみ、資金はさらに枯渇してしまう。

 こうした破滅的なサイクルを打破し、自信を取り戻し、融資を再開するために、われわれの政権は迅速かつ攻撃的に行動しているのだ。

 われわれはさまざまな方法で行動する。第1に、融資のための新しい基金をつくっている。この基金は、経済を動かしている消費者や事業主に対する自動車や教育融資のほか、中小企業を対象とした融資を支援するための最大の努力を象徴するものだ。

 次に、住宅対策にも着手した。持ち家を失う危機に直面する家庭の月々の住宅ローン返済額を軽減し、ローンの借り換えが可能になった。この計画は投機筋や、身の丈に合わない家を購入した隣人を助けるのではない。住宅の価値の減少にもがく多くの米国人を助けるのだ。彼らはこの計画によってもたらされた低金利を利用できる。ローンの借り換えで平均的な家庭が年間2000ドル近くを節約することが可能だ。

 第3に、米国人が頼みとする大手銀行がさらに厳しい状況に直面する事態となっても、融資のための十分な信頼と資金を得られるよう、われわれは連邦政府の全精力を傾ける。大手銀行が深刻な問題を抱えていることが分かったときは、銀行の責任を明らかにし、必要な修正を求め、バランスシートの適正化を支援し、力強く存続可能で、国民と経済に仕える強い組織の継続性を確保することができるだろう。

 銀行を無条件で救済し、無謀な決定について説明責任を問わない手法を取れば、ウォールストリート(金融機関)は安心だろう。しかし、それでは問題の解決にならない。われわれの目的は、国民と企業への融資を再開し、危機が終わる日を早めることにあるのだ。

 わたしはこれらの銀行に、受け取る支援についての説明責任を完全に果たさせるつもりだ。銀行は今回、税金が米国の納税者への融資により多く充てられることを明確に実証せねばならない。CEO(最高経営責任者)たちは今回、自分の給料を水増ししたり、ぜいたくな服を買ったり、自家用ジェット機に身を隠したりするために納税者の金を使うことはできないのだ。そんな時代は終わった。

 ただ、この計画には連邦政府からの多額の財源が必要で、それは恐らくわれわれが既に割り当てた額よりも多くなるだろう。だが、行動のための費用がかさむ一方で、何もしないことの代償はさらに甚大になると確信を持って言える。何もしなければ経済は数カ月や数年でなく、恐らく10年間にわたって停滞することになる。それは財政赤字や企業、あなた方や次世代に、より悪い結果をもたらすだろう。わたしはそんなことをさせはしない。

 前政権が議会に対して、苦境にある銀行への支援を求めた際、前政権の不手際とその結果に、民主党員も共和党員も同じように激怒したことは分かっている。米国の納税者も同じだったし、わたしも同じだった。

 だから、誰もがある程度は銀行の間違った判断のため苦しんでいる時に、今すぐ銀行を助けることがいかに嫌われるかは、分かっている。約束しよう、わたしはよく分かっている。

 しかし、危機に際して怒りに任せた政権運営をしたり、時の政治に屈したりできないことも知っている。わたしの職務、われわれの職務は、問題を解決することだ。責務を負っていることを認識し、国を治めることだ。ウォールストリートの重役に報いるためには一銭も使うつもりはない。だが社員に給与を払えなくなった中小企業、貯金をしてきたのに住宅ローンを組めない家庭は何としてでも支援する。

 肝心なのは、この点だ。銀行を救済することではなく、人々を救済することだ。融資を再び受けられるようになれば、若者の家庭が新居を買えるようになる。どこかの会社がその家を建てるために労働者を雇う。労働者は現金を得て、ローンを組めれば、車を買ったり、事業を始めることもできるだろう。

 投資家は市場に戻り、米国の家庭は退職後も安心して余生を迎えられるようになるだろう。ゆっくりとだが確実に、信用は戻り経済は再生する。

 従って、議会には、わたしとともに必要な政策を実行してほしい。終わりのない不況に国民を追いやってはならないからだ。そして、これほどの危機が二度と起こらないようにするため、時代遅れとなった規制を刷新するための立法を速やかに進めてほしい。金融市場で、やる気と革新性が報いられ、近道や不正が罰せられるようにするため、強力で、常識に基づいたルールを導入すべき時だ。

 再生計画、金融安定化策は、経済を短期的に立て直すために進めている当面の措置だ。だが、米国経済の強さを完全に取り戻すための唯一の道は、雇用、新しい産業、世界との新たな競争力につながる長期的な投資を行うことだ。今世紀を、再び米国の世紀にする唯一の道は、石油依存と高額の医療保険の代償に向き合えるかどうかだ。子どもたちは山のような負債を引き継ぐことになり、学校は子どもたちを教育できていない。これが、わたしたちの責務だ。

 近くわたしは議会に予算教書を提示する。われわれはしばしば、この教書を単なる紙の上の数字や長々とした計画リストと見なしてきた。わたしはこの教書を違う見方でとらえる。米国の展望であり、われわれの未来の青写真だ。

 わたしの予算案はすべての問題の解決を目指していないし、すべての問題を扱うわけでもない。1兆ドルの財政赤字や金融危機、犠牲の大きな景気後退など、われわれが(前政権から)引き継いだ厳しい現実を反映している。

 こうした現状では、民主党員であれ共和党員であれこの議場の誰しもが、予算が足りずに優先事項を犠牲にしなければならないことがあるだろう。わたしも同じだ。

 だからといって、われわれの長期的な課題を無視してもいいという意味ではない。わたしは、問題が自然に解決するという見方を認めない。われわれ共通の繁栄のための基盤を築くのに、政府の役割は一切ないという見方を認めない。

 なぜなら歴史の教訓は異なるからだ。経済が激変したり転換した時はいつも、わが国は大胆な行動と大きな思想を持って立ち向かってきたことを歴史はわれわれに想起させる。南北戦争の最中、われわれは一方の海岸から他方の海岸に向かう鉄道を敷き、商業と産業を活性化させた。産業革命の混迷の中から公立高校のシステムが生まれ、市民は新時代に向けて準備することができた。戦争と不況の後、復員兵援護法による大学教育で、歴史上最大の中産階級が生まれた。そして自由への苦闘が高速道路網につながり、米国人を月に送り、今日の世界を形作る技術の爆発的進歩を生んだ。

 どんな時でも政府が民間企業に取って代わることはなかった。政府は民間企業を刺激する触媒の役割を果たしてきたのだ。何千もの起業家や新興企業が順応し、繁栄するための条件を政府はつくり出してきた。

 われわれは危機の中に希望を見いだし、苦難の中から好機を引き出してきた国民だ。われわれは再びそのような国民であらねばならない。だからこそ不必要な計画を刈り込みながらも、わたしが提案する予算は、将来の経済に死活的に重要な3つの分野に投資するのだ。その3つとはエネルギーと医療、そして教育だ。

 まずエネルギーから始めよう。

 クリーンで再生可能なエネルギーの力を活用する国こそが、21世紀をけん引する。エネルギー効率が高い経済をつくるため、史上最大の取り組みを表明したのは中国だ。われわれは太陽光発電を発明したが、製品化ではドイツや日本に後れを取っている。われわれの工場では新型の(家庭用電源で充電できる)プラグイン・ハイブリッド車が生産されるが、動力のバッテリーは韓国製だ。

 雇用が創出され新しい産業が根付いていくのがわが国の外だという未来は、わたしには受け入れられない。皆さんもそうだろう。今こそ米国が再び先頭に立つ時だ。

 再生計画の導入により、この国の再生可能なエネルギーの供給量は今後3年間で倍増する。また、われわれは基礎研究に米国史上最大の投資をしてきた。エネルギー分野で新たな発見が増えるだけでなく、医学や科学、工学分野でも飛躍的な前進があるだろう。

 近く、国中の都市や町に新エネルギーをもたらす何千マイルもの配電網を敷く。住宅やビルのエネルギー効率を高め、何十億ドルもの節約ができるようにする。

 しかしわれわれの経済を真に変革し、安全を保障し、気候変動による破壊から地球を救うためには、究極的にはクリーンで再生可能なエネルギーを利潤性のあるものにしなければならない。

 このためわたしは議会に対し、温室効果ガスの排出量取引市場を導入し、国内でのさらなる再生可能エネルギーの生産につながる法案を求める。そしてその新機軸を支えるため、風力発電や太陽光発電、次世代バイオ燃料やクリーンな石炭、米国産の燃費効率の良い車やトラックの開発などのために年間150億ドルを投資する。

 われわれの自動車産業が、長年にわたる誤った経営判断や世界的な不況でがけっぷちに立たされていることは皆が承知している。誤りを犯した業界を保護すべきでないし、そのつもりもない。しかし、競争力がある、改善された自動車産業という目標を達成すると明言する。数100万人の雇用がそこに懸かっている。多くの地域社会の頼みの綱でもある。そして、わたしは自動車を発明した国家が、そこから立ち去ることはできないと信じている。

 いずれも犠牲を伴わないわけではなく、簡単でもない。しかし、ここは米国だ。われわれは簡単なことはやらない。この国を前進させるために必要なことを行うのだ。

 同じ理由で、われわれは医療分野の破壊的なコストの問題にも力を注がなければならない。これは米国で30秒ごとに破産を生み出す原因となっている。年末までに、150万人の米国民が家を失うかもしれない。過去8年間に保険料は賃金の4倍の速さで高騰してきた。その間、毎年100万人以上の米国民が医療保険を失った。これは小さな会社が営業をやめ、企業が海外に雇用を求める大きな原因の一つとなってきた。そして、われわれの予算の最大かつ最速に膨れ上がっている部分でもある。

 こうした事実を考慮すると、もはや医療保険改革は待ったなしの状態だ。

 既にこの30日間で、医療保険改革の推進のため、過去10年よりも多くのことを成し遂げた。親がフルタイムで働く子ども1100万人に医療保険を与える法律が議会を通過したのは、新議会発足から間もなくのことだった。われわれの再生計画は、診療記録を電子化するとともに、間違いを減らし、費用を削減し、プライバシーを確保し、生命を救うための新技術導入に投資する。

 われわれの時代にがんの治療法を探求することで、ほぼすべての米国人の生命に影響を与えてきた病を克服するための新たな取り組みを始める。それは予防治療に向けた過去最大の投資となる。国民を健康に保ち費用を抑制するための最も良い方法の一つだからだ。

 この予算はこうした改革を積み重ねたものだ。包括的医療保険改革に向けた歴史的な約束が含まれる。すべての国民のため質が高く、手ごろな医療保険を与えるという原則の第一歩だ。長年の懸案だった制度の効率化によって、約束の一部は実現できる。今後の財政赤字を減らすために、われわれが取らなければならない手段だ。

 改革達成の方法についてはさまざまな意見や考えがあるだろう。このため、わたしは来週、企業人と労働者、医師と公的医療保険関係者、民主党員と共和党員を集め、この問題に取り組み始める。

 容易な道のりだという幻想は抱いていない。困難ではある。セオドア・ルーズベルト大統領が初めて改革を呼び掛けてから1世紀近くがたって、医療保険のコストが米経済や米国の良心を圧迫してきた。医療保険改革はもう待てないし、待ってはならない。1年の猶予もないのだ。

 力を注ぐべき第3の課題は、米国の教育の将来性を早急に広げる必要があるということだ。

 もっとも有用な技能は知識であるという世界経済においては、優れた教育はもはや単にチャンスをつかむための手段ではない。それは必須条件だ。

 現在、急成長を遂げている職種の4分の3について言えば、高校卒業証書以上のものが必要とされる。しかし、半数を超える市民が得てきた教育はその(高校卒業)程度のものだ。あらゆる産業国家の中でも、われわれの高校中退率は最も高い部類に入る。そして学生の半数が大学に入っても、最後まで終えることができない。

 これは、衰退した経済を克服するための処方せんだ。今日われわれを模範としている国家が、明日にはわれわれを打ち負かすだろう。だからこそ、すべての子どもたちが生まれた日から仕事を始めるその日まで、完全で競争に耐え得る教育を受けることができるようにすることがこの政権の目標なのだ。それが米国の子どもたちに対する約束なのだ。

 既にわれわれは景気対策法を通して教育分野への歴史的な投資を行った。われわれは幼児期教育を劇的に拡充させた。今後も教育の質を改善していく。なぜなら、最も発達に寄与する知識はこうした人生の初期に生まれることをわれわれは知っているからだ。

 われわれは大学の受け入れ人数を700万人近く増やした。そして、子どもたちの進歩を遅らせるような痛みを伴う予算の削減や教師の人員削減を避けるため、必要な財源を供給した。

 しかし、われわれは、学校が単にさらなる財源を求めているだけではないことを知っている。さらなる改革を必要としているのだ。このため、今回の予算教書は教師を増やし、教師の実績に対する奨励金を創設した。前進への道であり、成功への報酬だ。

 われわれは学校が高い水準を満たし、学力の差をなくすために既に貢献している革新的プログラムに投資する。そして(公設民営の)チャータースクールへの関与を広げていく。

 こうしたシステムを機能させるのは、政治家や教育者としてのわれわれの責任だ。しかし、システムに参加するすべての市民の責任でもある。そして今夜、わたしはすべての米国民に対し、高等教育や職業訓練のために1年か1年強の時間をささげるよう求める。(生涯教育などを行う)コミュニティーカレッジでもいいし、4年制大学や職業訓練、見習い実習でもいい。

 しかし、訓練がどのようなものであろうとも、すべての米国民が高校の卒業証書以上のものを得る必要があるだろう。高校を中退するという選択肢はもはやなくなる。それはあなたたち自身を見捨てるだけでなく、あなたの国を見捨てることにもなる。この国はすべての米国民の能力を必要とし、評価している。

 若い米国民が大学を卒業し、新しい目標を見つけるために必要な支援をわれわれが提供しているのは、このためなのだ。2020年までに米国は再び、大学卒業者の割合が世界で最も高くなるだろう。それがわれわれの目標だ。

 授業料はこれまでになく上昇している。もし隣近所のボランティアや地域への還元、国への奉仕をしようと考えるなら、あなたがより高い教育を受けられるようにしよう。現在と、未来の世代に向けた国家奉仕の精神を取り戻すために、オリン・ハッチ上院議員(共和党)や、国のために何ができるのかを考え続けてきた米国人、エドワード・ケネディ上院議員(民主党)の名を冠した超党派の法律をわたしに送付するよう、議会に要請する。

 こうした教育政策は子どもたちに機会の扉を開く。しかし、子どもたちが確実に歩んでいけるかどうかは、わたしたちにかかっている。結局、母親や父親の代わりができる政策はないのだ。保護者と教職員の会議に出席したり、夕食後やテレビを消した後、ビデオゲームを終えた後に宿題を手伝ったり、子どもに読み聞かせたりするのだから。

 単に大統領としてだけではなく、1人の父親として、子どもたちの教育に対する責任は家庭から始まるべきだと主張する。それは共和党の問題でも民主党の問題でもない。米国の問題だ。

 もちろん、子どもたちに対するほかの責任もある。それは、子どもたちが払うことのできない借金をかぶせることはないと確約する責任である。それが重要だ。われわれは赤字を引き継ぎ、危機に直面し、長い時間をかけた取り組みをしなければならない。経済が回復すれば赤字を減らすように取り組むと確約することが、これまでになく重要なことである。

 わたしは特定の条件なしに再生計画が通過したことを誇りに思う。来年は最も重要な国の優先課題にのみドルが費やされることを保証する予算案を通過させたい。

 (議会指導部らと超党派で財政再建を話し合う)昨日の「財政サミット」で、わたしは1期目(の4年間)が終わるまでに財政赤字を半減させると約束した。わたしの政権は、無駄で効果のない施策を削るため連邦予算の詳細な見直しを始めた。ご想像の通り、時間がかかる作業だ。だが既に今後10年間で2兆ドルを節減できる見通しだ。

 今回の予算では効果のない教育プログラムをやめ、大規模農業への不必要な直接支払いをやめる。イラクで何10億ドルも無駄にした随意契約をやめ、もはや使わない冷戦時代の兵器システムに支出しないよう国防予算を見直す。高齢者の健康増進に寄与しない医療保険の無駄や不正、乱用を根絶し、海外に雇用を流出させる企業への税優遇策を最終的に廃止し、税制の公平さとバランス感覚を取り戻す。

 将来の借金から子どもたちを守るため、米国民の2%に当たる最裕福層への税優遇策もやめる。こうした政策は米国民への大規模増税を意味するというおなじみの主張を繰り返し聞くことになるかもしれないが、ここで明確にしておきたい。

 もし家族の年収が25万ドル以下なら一文たりとも税金は上がらない。繰り返す、一文たりともだ。事実、再生計画では減税が実施される。そう、95%の勤労者世帯にとって減税になる。(こうした減税策は)目の前にある。

 財政の長期的健全性を維持するためには、増大する医療保険と社会保障の費用にも焦点を当てなければならない。包括的な改革が、医療保険強化の最善の方策だ。無税の貯蓄口座制度を創設する一方で、公的年金にもどのようにして同様の措置をとれるのか話し合いを始めなければならない。

 最後に、わたしたちは信頼の欠如にも苦しんでいるので、予算には誠実さと説明責任を持たせるようにした。だからこそ、この予算は10年先を考慮に入れ、古いルールの下にあった歳出にも説明を付けた。初めてイラクとアフガニスタンでの戦費を明らかにした。戦時体制は7年間に及んでいる。その費用はもはや隠さない。

 わたしは卓越した国家安全保障チームとともに両戦争の政策を注意深く再検討している。イラクをイラク人の手に委ね、責任ある形で戦争を終わらせる方策を近く発表する。

 国際テロ組織アルカイダを打ち負かし過激主義と戦うため、友好国、同盟国とともにアフガン、パキスタンにおける包括的な新戦略を練り上げる。地球の反対側にある隠れ家から米国民へのテロを計画させない。

 今夜、われわれがここに集まっている時、わが軍の兵士らは海外で見張りに立っており、派遣される準備をしている者もいる。彼らと彼らの不在にじっと耐えている家族に対し、米国民は団結して一つのメッセージを送ろう。われわれはあなた方の奉仕を誇りに思い、あなた方の犠牲に鼓舞され、あなた方には揺るぎない支援があるのだというメッセージを。

 軍の負担を軽減するため、予算教書では兵士や海兵隊員の増員を盛り込んだ。奉仕する者への神聖な信頼を維持するため、兵士の給料を上げ、退役軍人への医療制度や給付金を増額するつもりだ。

 過激主義を克服するには、われわれの部隊が守っている価値を維持することに用心深くならなければならない。世界で米国が示す模範よりも強力なものはないのだ。だからわたしは(キューバの)グアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容施設の閉鎖を命じた。捕まっているテロリストたちに迅速で信頼できる法の裁きを受けさせるつもりだ。われわれは価値観を体現することで弱くなることはない。より安全に、より強くなるのだ。だからわたしは本日、ここに立ち、例外やあいまいな表現なしに、米国は拷問をしないと公言する。今夜この場で約束する。

 言葉と行いによって、われわれは世界に対し、新たな積極関与の時代が始まったのだということを示している。米国は今世紀の脅威に単独で対応することはできず、また世界も米国なしで脅威に立ち向かえない。われわれは交渉のテーブルを避けることはできないし、われわれを傷つけ得る敵や武装勢力を無視することもできない。その代わり自信と公正さをもって前進することが求められている。深刻な時代がそれを要求しているのだ。

 イスラエルとその周辺国の安全と永続的な平和に向けた進展を求め努力を続けるため特使を任命した。テロや核拡散、流行病、サイバースペースの脅威、深刻な貧困など21世紀の難題に対応するため、われわれは旧来の同盟関係を強化し、新たな同盟関係を築き、国力のすべてを使うだろう。

 世界的規模の経済危機に対処するため、世界の20カ国・地域(G20)と協力する。金融システムへの信頼を回復し、保護主義拡大を防ぎ、世界市場で米国製品への需要を喚起するためだ。力強い経済のために世界は米国に依存しているし、米経済も世界経済の強さに依存しているからだ。

 歴史の岐路に立つ今、全世界のあらゆる人々がいま一度われわれを注視している。米国がこの瞬間に何をするかを注視し、われわれが先導するのを待っているのだ。

 今夜集まったわたしたちには、特別な事態を取り仕切ることが求められている。大変な重責ではあるが、素晴らしい特権でもある。米国でこうした重責と特権を委ねられた世代は一握りだけだ。よかれあしかれ、世界を形作る力はわれわれの手の内にある。

 こうした真理を見失い、世をすねて疑いを抱き、ささいな事にこだわるのは簡単だ。

 しかし、希望は思わぬところで見つかるということも、わたしは人生の中で学んできた。大きな権力や名声がある人ではなく、ごく普通の米国人が抱く夢や大志から、アイデアの源が見つかるのだ。

 フロリダの銀行の頭取、レナード・アベスさんのことを思う。彼は銀行から受け取った6000万ドルのボーナスを、399人の全行員と72人の元行員に分け与えたという。自ら公表はしなかったが、地元紙が取り上げた際、彼は「自分が7歳の時から知っている人たちもいる。自分だけがお金を手にするのはいい気分がしなかった」とだけ語った。

 竜巻で完全に破壊され、住民の手で再建が進むカンザス州グリーンズバーグのことを思う。クリーンなエネルギーは地域全体に力を与え、一度はがれきに覆われてしまった場所にも雇用やビジネスの機会をもたらす。グリーンズバーグはそれを世界に示した。「大変な悲劇だった」。住民の再建を手助けしている男性は語った。「しかし、ここの住民たちは、思わぬ好機にも恵まれたことを理解している」

 そして、わたしが訪れたサウスカロライナ州ディロンの学校の少女、ティシェーマ・ベシアさんのことを思う。彼女の学校では天井から雨漏りし、壁のペンキははげ落ち、教室のすぐ脇を列車が走るために授業を1日に6回も中断しなければならない。学校はあきらめていると聞かされたが、ある日の放課後、彼女は図書館に行き、ここにいる皆さんにあてて手紙を書き上げた。校長先生に切手代をもらい、手紙で助けを求めた。

 「わたしたち学生は法律家や医師、皆さんのような議員に、そしていつの日か大統領になろうと努力しています。わたしたちはサウスカロライナ州だけではなく、世界に変化をもたらすことができるのです。簡単にあきらめたりしません」

 彼女はそう言った。

 われわれはあきらめない。

 これらの言葉や逸話は、われわれをこの場所に送り出した人々の精神を物語っている。彼らは最も苦しいときであっても、最も困難な状況にあっても、寛容の精神や回復力、良識、そして忍耐する決意があることを教えている。将来と繁栄に対する責任を担う意欲である。

 彼らの決意をわれわれは刺激とすべきだ。彼らの懸念はわれわれの大義である。そしてわれわれは彼らと国民すべてに、目の前にある課題に対して皆が平等であることを示さなければならない。

 われわれが今のところすべての点で意見が一致しているわけではないことは承知している。将来道を分かつときも確実にあるだろう。だが今晩ここに座っている米国人の一人一人が国を愛し、国の成功を願っていることも知っている。

 それが今後数カ月におけるすべての議論の出発点であり、議論が終わった後で立ち戻る場所であるべきだ。それこそが国民がわれわれに合意点を見いだすことを求めている礎である。

 われわれが協力し、この国を危機の深みから引きあげるならば、また人々を仕事に復帰させ繁栄の原動力を再始動させるなら、恐れずにこの時代の挑戦に立ち向かい、あきらめることのない米国の永続する精神を奮い起こすなら、いまから何年も後の将来、子どもたちがその子どもたちに、あの時にわれわれが行動したと伝えることができるだろう。

 まさにこの議場に刻まれている言葉の通りである。「価値のあることは記憶される」。ありがとう。皆さんに神のご加護を。そして米国に神のご加護を。ありがとう。

 (共同)


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