山姥の舞で名声を得た百万山姥(ひゃくまやまんば)という都の遊女が善光寺にお参りします。旅路の情景が美しく謡われ、旅行記を辿るように「有乳の山」、「玉江の橋」、「汐越」と近くの名所が出てきます。やがて越後越中の境界にある境川に着き、輿を下りて徒歩で「上げ路」の山に差し掛かりますと、急に日が暮れてきます。そこへ一人の女が現れ、宿をしようと申し出ます。女の庵に泊まりますと、女は山姥の歌を聴きたいから泊めたのだといいます。驚く旅人に、女はあなたは山姥クセ舞で有名になったのに、本当の山姥の事を考え、心に掛けたことがないだろう、その恨みを言いに来たのだと言うのです。遊女は恐れ直ぐにも歌おうとしますが、山姥は月の出るのを待てといい、その時には自分も舞うと言って消え失せます。
やがて月が出、松風の音が笛の代わりに流れ出すと、山姥は哲理を述べ、自然の巧みの見事さを讃歎しつつ姿を現し、遊女にも舞を勧めます。クリ、サシ、クセと山姥と地謡が謡い、山とは、海とは、谷とは、と自分の考えを述べ、自分の住む自然の情景を描写し、やがては山姥自身が舞い始めます。この自然そのものが色即是空と仏の教えを表現しているのだよ、自分は人の目には見えなくても人の重荷に肩を貸し、機織りを手助けして人間と深く関わっているのだよ、どうか都に帰ったらこのことを人々に話してくれと言うのです。いったんくつろいだ山姥はふたたび立って、別れの舞を披露し、山姥の本性の山巡りの有様を見せ、いずくともなく消えていきます。 |